2019年9月に書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか?』を出版した、音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦。同書では、自身でもアーティスト活動・マネージメント経験のある手島が、ミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスの基本を語り、アーティストや周りのスタッフが活動しやすい環境を作るためのヒントを記している。
そんな手島が、日本に限らず世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている ~アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス~」をスタート。第10回はLD(学習障害)をテーマに、産業カウンセラーの視点から考察する。

発達障害の分類には、これまで紹介してきた自閉スペクトラム症、ADHDと、もうひとつLD(学習障害)と呼ばれるものがあります。これは、全般的な知的発達に遅れがないのに、「読む」「書く」「計算する」などの特定の分野の学習に於いてのみ極端な困難を抱えているケースで、自閉スペクトラム症やADHDと同じく、育てられ方などによってそうなっているのではなく、生まれつきの脳の機能の特性によるものです。

俳優のトム・クルーズや映画監督のスティーブン・スピルバーグがLDのディスレクシア(読み書き障害)であることが知られています。ミュージシャンでは、オアシスのノエル・ギャラガーがディスレクシアであると言われています。彼は6文字以上だと難しく感じてしまうそうで、そのため「学校時代は最悪だった」と語っています。また、イギリスで絶大な人気を誇る彼らの名曲『Dont Look Back in Anger』の作詞中、弟のリアムが「”….dont back in anger ! not today…」と歌うので「dont look back in anger ! だ」と言うと「だってそんなふうに書いてないぞ」と言われた、というエピソードをイギリスの音楽誌『Q』でのインタビューで紹介しています。歌詞をリアムに渡す時、よく言葉や文章が抜けてしまうのだそうです。

自閉スペクトラム症、ADHD、LD(学習障害)は、それぞれは重複することもあり、人によっては複数の特性をあわせ持つ場合もあります。また、発達障害者支援法では、この3つ以外に「その他の障害」も対象になっており、「吃音」や「トゥレット症候群」といった障害も対象に含まれています。

こうした発達障害の特徴が周囲に理解してもらえず、誤解によってむやみな否定的評価や叱責などが積み重なると、否定的な自己イメージや自己肯定感の低下に繋がってしまい、その結果、抑うつ状態や情緒の不安定、深刻な不適応など、様々な精神的な症状を生じてしまうことがあります。
これを「二次障害」と言います。そうした事態を避けるためにも、より一層社会の理解が進んでいくことが必要です。

何らかの特性が、社会や環境によっては問題ではなくなるのであれば、問題が生じてしまうのはその人個人のせいではなく、周囲の社会や環境のせい、とも言えます。誰かが生活上何かに困っているときに、その人個人の心身の機能障害にその原因がある、と考えるのが「障害の個人モデル」です。そうではなく、社会が多数派の都合で作られているために少数派が困っている、だから、そうした社会的障壁を取り除くことが社会の責務である、と考える「障害の社会モデル」への転換が大切なのです。

また、「なにかの特性を持っていて、それによって日常生活上に支障がないのなら、それは障害ではない」という考え方があります。なんらかの支障がないのであれば、それは「個性」です。逆に言えば、なんらかの支障が生じれば、それは「障害」になってしまいます。 しかし、ここで気をつけておきたいのは、「個性」と「障害」の境界線はあいまいで、環境や状況、社会や時代が変われば、それはどちらにもなり得るということです。個性も障害も、ついどちらかひとつだけに目を向けてしまいがちですが、どちらも存在するのです。そしてそれは、当事者の思いを抜きに、他人が「個性だ」「障害だ」と決めるものでもありません。

イアン・デューリーは7歳のときに小児まひにかかり、左半身が不自由になってしまいます。
その後様々な苦難を超えて美術教師になるのですが、自分が本当にやりたい音楽の道を選び、29歳から本格的にバンド活動開始。34歳の1977年にシングル『Sex & Drugs & Rock & Roll』が全英チャート2位に、1st.アルバム『New Boots and Panties!!』が全英チャート5位となる大ヒットを飛ばしました。

そんな彼に、1981年、世界障害者年のためにユニセフは歌を依頼します。彼は当初「障害があっても頑張ろう」というような前向きな歌を書かねばと思ったそうですが「やはり本当の気持ちを歌おう」と決め、「Spasticus Autisticus(スパスティカス・オースティスカス)」という曲を作ります。 スパスティカスとはスパシ(痙攣)とローマ帝国に反乱した奴隷スパルタカスの合成語で、オースティスカスはオーティズム(自閉症)をローマ風にした言葉です。つまり「障害を持った反逆者」というような意味を持つタイトルです。その歌詞は「俺たちは障害者だけど、お前らの言いなりにはならない、お前ら健常者には俺たちの気持ちはわからない!」というような内容でした。そのため、ユニセフは「これは困る」と却下。さらにBBCでは放送禁止となってしまいました。彼にとってはビッグチャンスだったはずですが、それを自ら棒に振っても、自分の意思を貫いたのです。

 なんらかの障害に対してだけでなく、他人や他の文化を理解することは難しいことです。カウンセリングでは「共感」が重要ですが、それは相手とまったく同じ気持ちになれるということではありません。
どんなに自分の準拠枠(判断の枠組)を脱するように心がけて、共感的に理解しても、それは相手の感情そのものではありません。そのことを自覚した上で、当事者の声をしっかりと傾聴し、理解しようとする姿勢が大切なのだと思います。

【参照】
David Morgan Education  
Famous Dyslexics : Noel Gallagher https://dm-ed.com/news/famous-dyslexics-noel-gallagher/

Oasis Interviews Archive
Noel Gallagher - Q - February 1996
http://oasisinterviews.blogspot.com/1996/02/noel-gallagher-q-february-1996.html


<書籍情報>
LD(学習障害)とは? 「障害の個人モデル」から「障害の社会モデル」への転換へ


手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/
編集部おすすめ