海外の音楽業界において、アーティストとメンタルの関係は切っても切り離せないトピックとなっている。メンタルヘルスの問題を抱えるミュージシャンとその周辺にいる人々(ローディー、サウンドエンジニア、エージェント、そして家族など)に必要なサポートを提供する団体を紹介することを目的としたBacklineという組織や、24時間電話またはオンラインでセラピストの診断を受けられるサービスを提供する非営利団体Tour SupportをLive Nationが支援する旨を正式に発表するなど、実際にアクションが起こっている。


日本では2019年、音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』を上梓。洋邦問わず、様々なミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスに関しての基本を語り、どうしたらアーティストや、その周りのスタッフが活動しやすい環境を作ることができるか音楽業界を1冊を通して考察し示した。

また、1989年に日本武道館単独公演を行うなど日本を代表するロックバンドZIGGYのドラマーであった大山正篤が、一般財団法人JADP(日本能力開発推進協会)認定のメンタル心理カウンセラー、上級心理カウンセラー資格を昨年取得し、24時間対応のウェブ対面式のカウンセリングを始めた。ミュージシャン自らがカウンセリングを行うことで、アーティストが抱える悩みをより親身に受け止めてくれることが期待される。こうした近年の日本での動きを受け、手島と大山にミュージシャンとメンタルについて語ってもらった。

─お二人とも音楽に関する講師をしつつ、カウンセラーの資格も取得、ミュージシャンを中心にカウンセリングを行っています。手島さんが産業カウンセラーの資格をとろうと思った動機は、精神科医の本田先生との対談でお話いただいたので、大山さんがカウンセリングに興味を持った動機から訊かせてください。

大山:音楽講師とドラム講師を始めるようになって17年経つんですけど、楽器を習得するのって、本当はマンツーマンが最短距離なんです。最初の2年間は某音楽学校にいたので1対多数の授業をやっていたんですけど、誰か1人に合わせた授業を組んでいかねばならず、結果的に授業が嫌になって学校に来なくなってしまう子も出て来てしまって。その子の家に訪問して熱血教師みたいなことをしていた時に「どうして来ないの?」ってところを掘り下げていったら、彼独特の理屈があるということがわかって。そうやって、いろいろな悩みを持った子の話を訊くことを繰り返すようになっていったんです。

─そこから、1人1人としっかり向かい合う時間を作っていったんですね。


大山:その後、個人レッスンに切り替えたんですけど、長いときで100分くらいの間、同じ生徒さんと向かい合って何回も見ていると、「あれ、今日なんか気もそぞろだな」とか「集中できてないな」っていうのがわかってきて。楽器を習得するのに邪魔な要因を取り除くために、悩み相談というか「俺でよかったら話聞くよ」って感じで話を訊くようになっていったんです。

─共通する悩みのようなものはあるんでしょうか。

大山:悩みも千差万別ですよ。「え! そこ!?」みたいなところでハードルを越えられなかったりする。まずはそれを見つけて取ってあげる、もしくは飛び方を教えてあげると、音楽に集中してくれる。音楽に集中してほしいというところから始まった行為が、だんだん悩みを話したいとか、心が楽になりたいと言われるような相談が増えて、授業の時間配分が変わっていったんですよね。ほとんど楽器に触らず、お話だけで終わっちゃうみたいな。

─実技的な講義から、カウンセリング的な部分へ比重が変わっていったと。

大山:その噂を聞いた友だちのギタリストとかベーシストが、僕のレッスンに来たりするようになって。だったら、わざわざ音楽スタジオでやる必要もないし、分けちゃった方がいいなと。今は便利な時代ですから、ネットを通して全国どこからでもリアルに近い感じで話をできますし。
例えば、水商売兼ミュージシャンの人だと、お店が終わって家に帰って一息ついたら、朝の4、5時になっていることもあると思うんです。音楽をやっている人は生活の糧を得るためにいろいろなことをやっているじゃないですか。そういう人たちにも対応できるようにしたいなと思って、24時間体制のサポートにしようと思ったんです。

─手島さんも音楽学校でいろいろな生徒さんを見てらっしゃるので、今の話に共感する部分も多いんじゃないですか?

手島:すごく分かりますね。僕の場合は演奏を教える方ではなくて、音楽ビジネスを教えているんですけど、専門学校って本当にいろいろな人が来るんですよ。基礎的な知識とか教養もバラバラ。だから、たしかにマンツーマンが1番楽なんです。一方で、他の人がいるからこそ刺激があるのが学校のいいところだと思っていて。ぶっちゃけて言えば、音楽全般において独学で学ぶのが不可能なものってあまりないんですよ。学校にわざわざ来てもらっている理由、価値ってなんだろうと考えると、意外と音楽じゃないところだったりもするんですよ。

大山:はいはいはい。

手島:「そんなこと音楽学校で働いている人が言っていいんですか?」と思われるかもしれないですけど、いい音楽を作るためには、そういうところが大事で。
学校というのは、大きく社会みたいなものと捉えることもできますよね。

大山:すごく分かります。僕は横浜のスタジオで生徒にレッスンをつけているんですけど、そこのスタジオにはギター、ベース、ヴォーカルの先生が揃っていて。各々が別個で自分の生徒に個人レッスンをしているんですけど、結局、ドラムだけ叩いてもおもしろくない、ギターだけ弾いててもおもしろくないとなるんです。アンサンブルの楽器なので、ちょっとできるようになってくるとセッションがしたくなる。そうなった時に「お互いの先生同士で声をかけて、合同発表会みたいなのってできないかな?」って。そこで「結局これって学校じゃね?」と思って(笑)。学校のシステムに疑問を感じてパーソナル・レッスンにしたのが、パーソナル・レッスンの集合体って結局学校だね、と。でも生徒もすごく楽しそうにしているのを見ていると、すごく気持ちがいいというか。ほっといてもコミュニケーション取り合って、1つの音楽を作るというのはある意味正しい姿だよなって。

手島:たぶん今、大山さんがおっしゃったことって、本来の学校のあり方なんだと思うんですよね。特に日本だと、学校の枠に個人が合わせるスタイルじゃないですか。
本当は、みんな違うよね、がスタートだったりする。世の中もそうで、それぞれに合わせたやり方が本来あるはず。そういった人たちがいい形で集まれる場があると、みんなハッピーなわけじゃないですか。

─実際に現場にいるお二人がそう感じているということは、他にも同じようなことを感じている人もいるわけですよね? なぜ音楽業界の中に、カウンセリングを受けるための場所があまりないんでしょう。

大山:うーん。企業カウンセラーであったり、スクールカウンセラーであったりが増えてきたのって、本当に最近ですよね。

手島:単純に最近まで世の中全体がそういうのに関心が薄かったのかなと思いますね。

大山:あとは、抵抗がある人が多いですよね。「カウンセラー、え?」みたいな。本当はハードルをもっと下げるべきなんです。精神科に通うことは、そこまで大きなことじゃないよって。アメリカのドラマとかを観ていても、ちょっと事件があったらすぐカウンセリング受けなさいとか、パキシル(抗うつ剤)を飲みなさいとかってシーンがあるんです。
風邪もひきはじめで治すのが1番なので、それと同じで気分が優れなくて3、4日したら早めに話を聞いてもらおうとか。それぐらいまで敷居が下がってくれればいいなとは思います。

─ミュージシャンにおいては、多少悩んでいる方がバンドマンらしいみたいなイメージもあるんじゃないかなと思います。

大山:あくまでも古くはですが、才能と狂気って比例するイメージが強い。たしかにこれは、ちょっと否定できない事実ではあるんですよね。カリスマと言われるような人は、それと同じだけ壊れている。ただ、そこに憧れてしまうと、狂気の形から入ってしまう。自分の好きなアーティストがツアー先のホテルからテレビをぶん投げるって聞いて真似してしまうみたいな(笑)。音楽とか演劇をやっている人たちは、いい歳になっても悪さ自慢というというか中二病を引きずったまま大人になってしまったという人が多い印象がある。

手島:書籍のタイトルを『なぜアーティストは壊れやすいのか』で出したとき、「俺はもともと壊れている」ってリプが一定数飛んできたんですけど、変な話、そういう人は実は壊れてなかったりするんですよね(笑)。

大山:そうですね(笑)。

手島:「世界の方が狂っている ~アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス~」というタイトルでRolling Stone Japanで連載しているんですけど、狂っていると思われている人は、世の中に合わせた人から見て狂っているだけかもしれない。
実は、真実を突いた「狂い方」をしている人もいると思うんですよ。特にアートみたいな分野だと。それで良くないのが、無理をした結果、本来必要のないであろうドラッグにはしってしまうとか、無理を重ねることで依存症になっちゃうとか。

大山:自称キ○ガイと自称天才って、偽物なんですよ。本当に気が狂っている人に「気狂っているよ」と言っても、「俺のどこか気狂ってるんだよ!!」ってキレるじゃないですか(笑)。ミュージシャンに限らず、アート系の人って不器用な人が多いんですよね。マルチタスクができないというか。その分、ミュージシャン1本で食べていかないといけない。音楽業界って独特のルールがあって、ぶっちゃけ仕事ができなくてもなんとかなるところもあるじゃないですか。そこに慣れて大人になると、こんなことも俺はできないのかっていう負のスパイラルに陥ってしまう。

─僕はミュージシャンに取材することが多いんですけど、特にアイドルの世界では、学校に行けなかったって子がすごく多くて。でもこの世界に入って、楽しいこととか、居場所を見つけたって子がすごく多い。一般社会で合わなかった人が自分を発揮できるならすごくいい場所だと思うんですよ。

手島:最近は、アーティスト本人も戦略的なことをマルチにやって売り出す人が多いという流れもあって。それもいいとは思うんですけど、みんながそれを求められちゃうと、ちょっときついじゃないですか。さっきマルチタスクとおっしゃっていましたが、それができないからここにいるんだよねって。逆に苦しくなるんじゃないかなって気もします。

大山:以前は、音楽業界も完璧な分業体制だったんです。ミュージシャンがいて、プロダクションがいて、レコード会社がいて、この3者が一体になって作品を作り、世の中に出す、お金を分配するというシステムだった。その垣根がどんどん低くなっちゃってて、ミュージシャンも、お利口になってプロダクション業務も、リリース配信も発表も自分たちでできちゃう。今なんてCDすら作らなくてもいい。それくらい、音楽を始めようってなった時にできちゃうんですよね。でも、こいつら匂いが違うよねというやつらも何組かはいて。どうしても心情的にはそういうクレバーじゃないタイプの人たちが作る音楽の方にシンパシーを感じてしまうところもあるんです。

─とはいえ、お二人のような音楽業界の内情を知っている方がいると知るだけでも、ミュージシャンにとって、かなり安心感はあるのかなと思います。

大山:僕も一応いろいろ経験はしていますので。特にミュージシャンを目指す人であったり、ミュージシャンを続けている人たちの負担かに関してはお話が訊けるのかなと思います。

手島:僕はミュージシャンをやった後すぐに裏方にいって、薄く広くこの業界を漂ってきたみたいな感じなんですけど、『なぜアーティストは壊れやすいのか』を出して思ったのが、ミュージシャンとか音楽関係者からの反応が意外と薄いんですよ。でも、全く反応してないわけではなさそうだという感じで。

大山:興味は絶対も引かれていると思いますよ。

手島:みんな薄々勘付いているし、やばいなと思っているんですけど、声をあげられないというか。中にははっきりと声をあげてくれている方もいらっしゃったんですけど、業界の人が沈黙しているのも、なんか分かる気がするんですよ。ある意味、不都合な部分もあるから。今までだったら「そんなの悩んでなんぼだよ」とか「苦しんでなんぼだよ」と根性論で押せていたところが、それでは済まなくなったのかもしれないわけなので。

大山:今、業界のみなさんは横目で見ながら、みんながどういう反応をするのか探っているんじゃないですかね。

手島:1番の地雷が”働き方改革的”で、音楽業界には絶対無理だよと言われている。正直難しいというのは分かるんですけど、メンタルの部分に触れると厄介だと思っているスタッフ側の人も、多いんじゃないかなと思うんですよね。

大山:芸能音楽界はメンタルヘルス的な部分が、いまだにタブーとされていますよね。でも、特にうつなんて簡単になってしまうし、なったらなったでなかなか治らないですからね。それこそ、高島忠夫さんがうつを告白したぐらいからじゃないかな。そういう話がされるようになってきたのは。

手島:そうですね。最近は芸能の方とかも、お休みしますと言うようになってきていますよね。

大山:そういう人たちが調子悪くなった時に、「ごめんなさい僕、うつになって調子悪いんで、しばらく休みます」ってどんどん発言してくれた方が、ハードルが下がっていくと思うんですよね。

─アメリカではビリー・アイリッシュのようなトップアーティストもそういうことを発言しているのが象徴的だなと思います。日本では、どうしたらもっとそうした環境が整備されていくんでしょう?

手島:ミュージシャンも、政治の話よりはメンタルの話の方がしやすいと思うんです。そういう意味では、ダイレクトなことじゃなくても、もっと積極的に言ってもいいんじゃないかなと。実際に悩んできて、自分なりになんとか克服してきた人っていっぱいいると思うので。

大山:昔は、政治と野球の話は絶対他人とするなって鉄則があってんですけど(笑)、最近はそれがちょっとだけ崩されてきて堂々とSNSで現政権への批判をしたり、いろいろな意見があるということが表に出るのはいいと思う。それに付随してメンタルのこともちょっとずつ認知されていくというか。芸能界、著名な方が発信していくというのはすごく効果的だと思います。

─まさにミュージシャンの大山さんが自ら発信されて、カウンセリングもされているというのは、すごく大きなことだと思います。実際、カウンセリングの申し込みというのは増えているんでしょうか?

大山:東スポでの記事が出てから、問い合わせの数は爆発的に増えました。初対面の時にどの人も言うのが「メールフォームを最初ポチッとするのにすごく躊躇しました」と。予約をした後も「前日までキャンセルしようかずっと悩んでいて、ドキドキしてました」って。そりゃそうだよね、初対面だもんねみたいなことは思うんです。と同時にそこの垣根をもっと下げたい。気楽に大山に話でも聞いてもらおうみたいになるのが、今の課題ではあります。

手島:今大山さんがおっしゃっていることと共通するんですけど、そもそも助けてって言えないから悩んでいるんですよね。そこをどうするかっていうのは、時間がかかるけど世の中がそのハードルを下げることだと思うんです。助けてくださいとか、つらいんですって言える雰囲気の世の中にする。遠回りだけどそれしかないなと思います。もちろん個人的な信頼感とか適切なメッセージは絶対必要なんですけど、今の世の中は、どのフィールドでもそれを言わせない雰囲気があると思うんですよ。今回のように、僕らみたいな人が発信することで、そのハードルがちょっとでも下がったとしたらすごくいいなと思います。

─真面目な人ほど抱え込んでしまいがちというか、弱音を吐いたら負けみたいな風潮がありますよね。

手島:弱音もそうですし、世の中全体が謝ったら負けみたいな雰囲気があるじゃないですか。でも、謝ればいいじゃんと。謝らないからおかしなことになっていく。国のトップもそうかもしれないけど(苦笑)。

大山:悪いことをしたら謝るって子どもの頃に習ってなかったんですかね(苦笑)。

手島:謝れない世の中だから、というのもあるんですよね。謝ったら許してやればいいものを、みんなで袋叩きするから謝れない。相談したらしたで屈辱的な思いをする場合もある。助けてって言ったら、たるんでると言われて説教をされてしまうとか。

大山:ダメですよね。「甘えてるんじゃねー」とか言われたらもうね。

手島:言われるだろうなという雰囲気すら漂っていると思うんですよね。つらいんですって言ったら頑張れって言われるんだろうなと。そういうことじゃなくてさ…… って話なんですけどね。

大山:僕のところに来てくださる方に、「本当によく勇気を出して、コンタクトを取って来てくれましたね」と言うと、泣いちゃうんですよ。つらかったんだなと。本当簡単にカウンセリングの予約ボタンを押しちゃっていいんだよと言っているんですけど、本人の中ではそれが大変なことだったと思うと、もらい泣きしそうになります。それじゃ立場的にまずいので、ポーカーフェイスで頑張っているんですけど(笑)。カウンセリングとは銘打っていますけど、僕と単純にお話しをしてみたいな気持ちでいいと思うんですよ。そうしてくれないと、僕も助けてほしいという声に気がつけないので。

─大山さんは現在もバンド活動をされているので、ミュージシャンの方と接する機会も多いと思うんですけど、身の回りの方でも悩んでいるなと思う人はいらっしゃいますか。

大山:僕の周りのミュージシャンたちや、そのご家族もそうなんですけど、年齢的に、発想的な部分でもだんだん衰えていくみたいなところにストレスを抱えている人もいれば、家庭の問題や生活の問題であったり、何歳までこれできるんだろうというような、いろいろな種類の悩みがある。ただ、プライドがあるのか、そういうミュージシャンは今のところ1人も相談に来ていないですね。明らかに悲鳴が上がっているのが見えるわけですから、話してくれたほうが楽になるとは思うんですけどね。

─大山さん自ら声をかけるというのは、また違うんですよね。

大山:この仕事は、ある意味灯台になってないといけないと思っていて。僕はここにいるから、いつでもここに来ていいよというスタンスを守らないといけない。そのへんで、ちょっとモヤモヤすることはあるんですけどね。周りの後輩ミュージシャンとか、結構歳の離れた後輩ミュージシャンが何人か問い合わせをくれたんですけど、同世代のやつらは意地でも来ないです。意地を捨ててしまえばすごく楽になるのに。ここでも声を大にして言っておきます、おっさんミュージシャン、おばさんミュージシャン、そしてそのご家族のみなさま、あなたたちが率先してカウンセリングを受けに来ましょう、と。

─大山さん自身、ZIGGY時代は売れていく規模や速度が桁違いだったと思うんですけど、その中でのストレスや苦悩というのは相当だったんじゃないでしょうか。

大山:その時って、走りっぱなしだから分からないんですよ。僕の場合は、脱退して、ふーっと息ついて振り返ってみたときに、「あれ、きつかったな」と気づいて。曲を作って、アルバムを作って、ツアーをして。ツアーの合間にも曲を作って、ツアーが終わったら、また曲を作ってレコーディングをして、ツアーして。ずっとそのルーティンでした。自分がどこにいるのか分からなくなってくるんですよ。今でも覚えているのは、ツアー初日に森重(樹一)くんが、「行くぜ! 京都ー! 京都カモーン!」って言ったんですけど、名古屋だったんですよ(笑)。それ以降、足元のモニターに「本日は広島」とか大きく書かれるようになって(笑)。

手島:ツアーの話で言うと、最近CDが売れないからということで、ライブの時代だよねと言われるけど、ミュージシャンみんながそういうタイプではなくて。楽曲を作るのが好きという人もいるし、ライブはいいんだけどツアーはやらないとか、いろいろなケースがあると思うんですよね。

─何か悩みがある時、すぐにカウンセリングに足を運べないけど、ちょっと考え方を変えるなどするにはどうしたらいいんでしょう?

大山:自動思考的に、こう言ったらこう言われるに決まっているだろうという決めつけがたぶん自分の中であると思うんですよね。そこをまずはほぐすところからですね。

手島:「自動思考」はカウンセリングのキーワードですね。自動思考という言葉を知るだけでも、何か解決したりと思うんですよ。なんでそうなっているのか分かるだけでも、全部解決しなくてもくっと乗り越えられたりもするので。

大山:ネガティブな発想に至るメカニズムを知っていることが重要で。ここでちょっと考え方を変えれば、そこまで気持ちが落ちないよねとか、ここで頭を切り替えることができるねって気づけるんです。そうするとセルフコントロールもしやすい。僕も、もともとすごいネガティブなんですよ。歩いている時に隕石が落ちてきたらどうしようみたいな(笑)。慎重と言えば言葉はいいですけど、そこに石があるよって言われたら寄っていってしまうみたいなところもある。躓いて、やっぱりねって。そうならないようにまずセルフコントロールするところから。手島さんはセルフコントロールの達人と、お見受けしていますが。

手島:いやー、わりとそうでもないと思いますけどね。できるだけ苦労しないようにしようというのは、昔から考えているので(笑)。

大山:それ、大事ですよね。若いうちの苦労は買ってでもしろというのは嘘だと思いますもん。若いうちの苦労は、売れるものなら売れですよ(笑)。

<書籍情報>

元ZIGGY大山正篤と手島将彦が音楽業界のメンタルヘルスを語る


手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/

大山正篤
1987年ZIGGYにてデビュー。その後LAV、Shammon、を経てthe 8-eitに加入。2019年活動休止。2003年より講師活動も展開中。2019年に一般財団法人JADP(日本能力開発推進協会)認定のメンタル心理カウンセラー、上級心理カウンセラー資格を取得し、完全予約制のウェブ対面式カウンセリングをおこなっている。

Twitter
https://twitter.com/masanoriohyama
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