新型コロナウイルスの感染拡大とともに、今週ラテンアメリカ中で次の3曲の注目度が一気に上がった。
なんとも奇妙な状況だ。どうしてわざわざ、世界を脅かす恐ろしいパンデミック(世界的大流行)にわざわざ目を向けさせようとするんだ? だがその一方、この状況は現代のリスニング習慣を的確に象徴している。ほぼすべてのものが簡単にアクセスできる現代社会では、音楽的な興味はどんなものからも生まれるのだ。想像力の乏しい音楽ファンがカレンダーとにらめっこしながら毎年秋になるとアース・ウインド & ファイアーの「セプテンバー」とグリーン・デイの「ウェイク・ミー・アップ・ホウェン・セプテンバー・エンズ」を聴くおかげで、この時期はこうした楽曲の再生回数がかなり伸びる。なぜって? どちらも「9月」を連想させるから。毎年12月にマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」が音楽チャートで人気ナンバー1になるのと同じように。
アーティストは、こうした傾向を十分理解した上で作曲プロセスに取り組んでいる。話題の時事ネタにまつわる曲を作っては、再生回数を伸ばそうと必死なのだ。「『どうすれば自分の曲にクリックしてもらえるか?』という思考が作曲プロセスに強く影響します」とプロデューサーの”オーク”ことウォーレン・フェルダー氏は昨年語っていた。当時、米ファーストフードチェーンのポパイズ・ルイジアナ・キッチンとチックフィレイが自社で提供するメニューの品質をめぐってメディアでバトルを繰り広げた例を取り上げながら、フェルダー氏は次のように続ける。「誰かが『ポパイズ・チキンサンドイッチ』という曲を書いたとしても、驚きませんね」。
新型コロナウイルス以外のことを話題にするのがほぼ不可能になったいま、複数の楽曲に注目が集まっている。その代表例が1月26日リリースの「La Cumbia Del Coronavirus」、続く2月7日リリースの「Corona Virus」と2月13日リリースの「Coronavirus」だ(米現地時間3月13日にリリースされたカーディ・Bをサンプリングした楽曲をはじめ、まだSpotifyバイラルチャートにランクインしていない似たタイトルの楽曲がいくつもある)。
手洗いと消毒液の使用をリスナーに呼びかけるMister Cumbiaのシングル「La Cumbia Del Coronavirus」は、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、コスタリカ、グアテマラ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、スペインの今週のSpotifyバイラル50チャートでトップの座に輝いた。さらに同楽曲はエクアドル、ホンジュラス、メキシコでは2位だ。スペインとチリのバイラル50チャートのトップ3は、いずれも新型コロナに関するタイトルの楽曲が占めている。
この手の人気は、自ずと増殖するものだ。ラテンアメリカ中で「La Cumbia Del Coronavirus」が注目された結果、同楽曲は今週Spotifyグローバル バイラル50チャートに初登場した。それにより、いままで以上に幅広いリスナーにプッシュされる可能性が出てきたのだ。というのも、このプレイリストには160万人以上のフォロワーがいるのだから。「La Cumbia Del Coronavirus」はMister CumbiaのSpotify最大のヒット曲となり、YouTubeでは400万回以上再生されている。同様に、Kaseenoの「Coronavirus」が現時点でもっとも人気の楽曲となる一方、Yofrangel & Fragaの「Corona Virus」は世界各地のスペイン語圏を離れ、イタリアでも急速に広まっている。それだけでなく、YouTubeではYofrangelのどの楽曲よりも多く再生されているのだ(1曲を除く)。
新型コロナウイルスは、リリースのタイミングにも影響を与えている。ドミニカのシンガーChimbalaは自身のヒット曲「Rueda」のリミックスを米現地時間3月19日にリリースし、「新型コロナ関連のいくつものミーム」で援護するつもりだとMediaNet Partnersの音楽オペレーションを統括しているペドロ・グズマン氏は言う。MediaNet Partnersは、大手レコードレーベルに依存せずドミニカ発の地元レーベルが発展できるよう、投資を行っている。
「実際、自分が曲をリリースする時はみんなが確実に家にいる、という状況は今回が初めてです」とグズマン氏は語る。「『Rueda』はクラブ向けのシングルですし、こうした楽曲はたいていDJが対象で、外出を促すものです。だからこそ、人々が外出できないという前代未聞の状況下では、いつもと違う方法を試しています——レーベルの人々と協力してユーモラスな要素を取り入れながら」。
来月には、より多くのアーティストが新型コロナの話題性にあやかろうとすることが予測される。