リトル・ドラゴンの6枚目のアルバムは、『New Me, Same Us』と題されている。
―新作『New Me, Same Us』はニンジャ・チューンへの移籍第一弾アルバムになります。ジョーダン・ラカイなどが所属する今のニンジャ・チューンとリトル・ドラゴンはすごく相性が良さそうに見えますけど、契約までの経緯を教えて下さい。
ユキミ・ナガノ:前のレーベルとの契約が切れて、次を探していた時に声をかけてくれたんだけど、レーベルが持っているストーリーがすごく気に入ったの。それに、人としてフィットしたのよね。ほら、新しい会社に入ったら、一緒に仕事をするのがどんな人たちなのかが一番大事だったりするでしょう? それと同じ。そういう意味でも実際に会ってみてピッタリきたから、契約することにしたの。
リトル・ドラゴンが参加したフライング・ロータス『FLAMAGRA』収録曲「Spontaneous」
―前作『Season High』を2016年に発表してからは、フレキシブルにシングルやEPを発表してきましたよね。
ユキミ:やっぱり、バンドにとってその時期が新しい時代だったからっていうことがある。で、その時々の自分たちを表すものだったし、単体の曲やEPとしてリリースするのが相応しいと思えたの。まあ、今だとみんな曲単体でリリースしたり、プレイリストの中の1曲っていう感覚のほうが普通だし、私たちがちょっと古臭いのかもしれないけど。アルバムとしてのアルバムっていうのは私たちにとって大事だから、そこには合わない曲だったのね。今回のアルバムは、また別のチャプターとして新しく作っていったわ。
―中でも2018年のEP『Lover Chanting』は、『Season High』と『New Me, Same Us』の中継地点だったようにも聴こえます。
ユキミ:確かに中継地点ね! 今まで自分ではそう思わなかったけど、その表現がぴったりなんじゃないかな。サウンド的には特に中継地点になっていると思う。私たちとしては、その時に作りたいもの、試してみたいこととして作ったんだけど、実際2枚のアルバムの中間にあるわね。
―『New Me, Same Us』に着手した当時、どんなアルバムを作りたいと考えていたんですか?
ユキミ:クリアなアイデアはなかったわ。こう言うと全く方向性がなかったみたいに聞こえるかもしれないけど、私たちはアルバムを作る時は、全くの白紙状態が好きだったりする。それで、曲を作り始めてみて、体で本能的に感じることが重要なの。
―過去2枚のアルバムは外部プロデューサーを交えて制作しましたが、今回は再び、以前のようにほぼ4人だけで作っていますね。外部プロデューサーと組んで学んだことはありますか?
ユキミ:もちろん色んなことを学んだわ。でも、これだけ長く音楽ビジネスの中で仕事をしていると、プロデューサーだけじゃなくて私たちの音楽をプロモートしようとする人、言ってしまえば商品として売ろうとする人たちも大勢いる。で、「成功するためにはこうしたほうがいい」とか「こっちのほうがうまくいく」とか周りに言われて、知らず知らずのうちに左右されちゃうことも多くて。別に悪いことばかりじゃないし、中には有益なこと、学べることだってある。でもそのせいで、自分たちが元々やろうとしていたことが見えなくなったり、ぼやけてしまったら意味がないでしょう? だからこそ、今回はそういうものに影響されずに自分たちだけでやろうとした。音楽として作りたいもの、やりたいことに忠実にね。バンドとしてこれまでになく一致団結しなきゃいけなかったし、現実にそうなったと思うわ。
―「今までになくコラボレーティヴ」なアルバムだとコメントしていましたね。
ユキミ:そうなの。これまではコラボレーションじゃない部分も多かったのよ。みんな別の部屋で曲を作っていた部分があった。例えば、エリックがビートを作ってきて私がそこにヴォーカルを乗せて、それぞれがディテールを詰めて完成―だとか。その場合は、最初に曲のアイデアを出した人がイニシアチブを持って、「これは誰々の曲」みたいな感じになる。その結果、バンド内にちょっとしたヒエラルキーが生まれたりもしたのね。でも今回はそういうアプローチをやめた。アイデアを出すのは誰かひとりでも、そこに私が加わることで曲全体を変えたり、全員で見直したりする方法を採ったの。そうすると、もちろんうまくいかないこともあるし、効率が悪く思えるんだけど、新しい要素やアイデアを加えることで曲がどんどん変わって、広がりが出ると同時にオーガニックにまとまっていく。で、最終的には4人で作った曲だという感覚が得られるの。だから、これまでとは作業のやり方からして違っていたのよ。
―今回は、ポップソングのフォーマットにこだわらずに非常にアブストラクトな表現もしています。
ユキミ:自分たちがこれまで聴いてきた音楽の集積、みたいな感じね。ミュージック・ラバーとして、いろんな要素を取り込んでいこうとしたし。あと、さっき言った曲の作り方そのものが私たちにとっては実験的だったから、それが表れた部分もあると思う。曲が変わっていくことを恐れずに、全員が関わって作ることで、結果的にフォーマットからはみ出すことにもなったんでしょうね。
―非常に内省的な歌詞のインスピレーションについて話してもらえますか? 人生において大きな変化の渦中にあったことを匂わせます。
ユキミ:色んなことがインスピレーションになるけど、やっぱり自分の人生で起きたことが大きいと思う。難しい時期を通過して、悩みを抱えたりしながら、それが自分を振り返る結果にもなったし、そこから新しく開けていくこともある。その気持ち自体がインスピレーションになったの。私だけじゃなくて、4人それぞれが人生で新しい局面を迎えたりもしていたから。
―『New Me, Same Us』というアルバム・タイトルに込めた想いを教えて下さい。
ユキミ:タイトルには様々な側面があるわ。例えば今言ったような、私自身のパーソナルな想いでもある。
―そんなリトル・ドラゴンは四半世紀近く同じメンバーで活動しています。以前あなたは、「私たちはみんな変人なんだけど、仲間を見つけて、一緒にひとつのバブルの中に居場所を見つけたの」と4人の関係性を説明したことがありますが、それは今も変わらない?
ユキミ:私たちは家族みたいなものだから、いつでも仲がいいわけでもないのよ(笑)。もちろん今でも”変人”なんだけど、同時に年をとって、それぞれほかにも責任ができて、昔とは違う部分もある。

Photo by Mous Lamrabat
―ジャケットを手掛けたヨハネス・ナイフォルムは同じヨーテボリ出身のアーティストで、彼も長年の仲間ですよね。
ユキミ:ヨハネスは昔からの友だちで、今回のアルバムで私たちが表現したいコンセプトを十分理解していたから、それを彼なりに解釈してもらったのよ。私たちの最初の2本のPVを監督してくれて、映画監督としても活躍しているんだけど、アートに対してすごくシリアスなところが好きなのよね。「これをこうしたら受け入れられるんじゃないか」みたいなことは一切考えずに、自分が表現することに対して厳しいし、真剣なのね。そこを信頼している。多分このジャケットの絵は、ひとつの宇宙を表しているんじゃないかな。ひとつの世界を。で、アナログ盤を見てもらうと分かるんだけど、中を開くとその世界がさらに広がっていて、続きがあるのよ。
―最後に、2014年のサマーソニック以来、来日が実現していませんよね。ぜひまた帰って来て下さい!
ユキミ:私も日本に行きたい! ライヴで行くのがすごく好きな場所のひとつなの。日本にリトル・ドラゴンの厚いファン層があるってわけじゃないと思うんだけど、熱心な音楽好きが大勢いて、どんなに小さい会場でも耳を傾けてくれる。真剣に私たちの音楽に向き合ってくれる感じがするのよね。だから、また近々日本に行きたいわ。

リトル・ドラゴン
『New Me, Same Us』
発売中
〈収録曲〉
01. Hold On
02. Rush
03. Another Lover
04. Kids
05. Every Rain
06. New Fiction
07. Sadness
08. Are You Feeling Sad?
09. Where You Belong
10. Stay Right Here
11. Water
12. Let Me Know *Bonus Track for Japan
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