杏さんが、加川良さん原曲の「教訓1」を歌う動画をアップし話題になりました。その歌詞には「命はひとつ 人生は1回 だから 命を すてないようにネ」と歌われています。この連載の第1回は「もし『死にたい』と打ち明けられたらー最も悲劇的な"自殺"について考える」と、自殺をテーマにしたものでした。自殺の増減は景気の動向とも密接な関係があります。
自殺者が急増した最初のピークは 1957年の「なべ底不況」と重なります。そして岩戸景気の到来とともに減少していきます。1973年のオイルショック以降10年を超える不況が続き、自殺者増の2回目のピークがこの不況の後半に発生しています。その後、1987年から1991年のバブル景気の時代に自殺者は減少しますが、バブル崩壊後、1998年には金融危機も重なり自殺者が急増して3万人を超え、2007年にはリーマンショックも起き、2011年まで14年連続で3万人を超え続けてしまいます。現在では、自殺者の総数は減少したものの、10代前半の自殺率は100年振りの高水準になってしまっています。
COVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大による景気への悪影響は確実に起きると思われます。それは、確実に私たちのメンタルにも影響を与え、最悪の場合は自殺者を増やしてしまうかもしれません。なんとしてもそれは防がなければなりません。
ゲートキーパー(Gatekeeper)とは「門番」という意味ですが、自殺対策においては「地域や職場、教育、その他様々な分野において、身近な人の自殺のサインに気づき、その人の話を受け止め、必要に応じて専門相談機関につなぐなどの役割が期待される人」のことです。キーワードは「気づき、受け止め、つなぐ」です。東京都福祉保健局のホームページでは、以下のような自殺のサインについて紹介しています。
・感情が不安定になる。突然、涙ぐんだり、落ち着かなくなり、不機嫌で、怒りやイライラを爆発させる。
・これまでの抑うつ的な態度とはうって変わって、不自然なほど明るく振る舞う。
・性格が急に変わったように見える。
・投げやりな態度が目立つ。
・身なりに構わなくなる。
・仕事の業績が急に落ちる。職場を休みがちになる。
これらのサインに気がついたら、その人に声をかけてください。やっとの思いで相談しようと決意した方もいますので、丁寧に傾聴してください。そして専門の相談機関に繋ぎ、継続的に支援していきます。
ちょっと古いデータになりますが、2005年のOECD(経済開発協力機構)の調査によると、「ほとんど、もしくはまったく友人や同僚もしくはほかの人々と時間を過ごさない人」の割合は、日本の男性では約17%(女性は14%)で、21カ国平均の3倍近くになり、調査21カ国の中ではダントツのトップでした。つまり、それほど社会的に孤立している、孤立させられている人たちがいるということです。「絆」や「一致団結」という言葉がよく使われますが、実態として社会はそうではない側面があるのです。社会的な孤立は自殺の要因にもなります。これには「助けて」とか「つらい」と言いにくい社会も影響していると思います。(連載第2回参照)
「助けて」「つらい」と言わずに頑張りすぎて苦しくなってしまい、メンタルにも問題を生じてしまう「過剰適応」にも気を付けなければなりません。80年代の伝説的バンドで、2020年に「Jagatara2020」として再始動したJAGATARAに「もうがまんできない」という曲があります。この曲では、この曲名とは裏腹に「ちょっとのひずみならがまん次第でなんとかやれる」「心の持ちようさ」と歌われていて、過剰適応してなんとかやっているけれど、本当は「もうがまんできない」状態の人間をとても良く表されています。これから私たちは、もっとそれぞれが自分の思考や感情を大切にして、社会全体を誰しもが「助けて」「つらい」と言えるようにしていくべきなのだと思います。
こころの健康相談統一ダイヤル
0570-064-556
厚生労働省:電話相談窓口
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_tel.html
【参照】
ゲートキーパーについて
東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/tokyokaigi/gatekeeper.html
OECD Social isolation
http://www.oecd.org/sdd/37964677.pdf
<書籍情報>
手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
Official HP
https://teshimamasahiko.com/
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