※本インタビューには、筆者がレビューを担当した『マンダロリアン』第3話「罪」に関するネタバレが含まれています。
シリーズ初の女性監督であり、ベビーヨーダを手がけたデボラ・チョウは、スター・ウォーズ史にその名を刻まれるべき人物である。
米ディズニーの動画配信サービス「ディズニーデラックス」の最新ドラマシリーズ『マンダロリアン』の第3話「罪」のメガホンを取ったデボラ・チョウは、スター・ウォーズの実写シリーズを手がけた初の女性監督となった。チョウ本人は、第3話の制作がいよいよ始まる、という時までこの快挙に気づいていなかった。それに加え、我らが主人公であるマンドーをライバルのバウンティハンター(賞金稼ぎ)たちから救うため、ジェットパック(バックパック型の飛行装置)を背負った仲間のマンダロリアンたちが降りてくる興奮のクライマックスを描いたことで、チョウはすべてのスター・ウォーズファンの夢を叶えてくれたのだ。マンダロリアンたちは、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』でジェットパックを使用していたボバ・フェットよりもはるかに上手にジェットパックを使いこなしていたのだ。(*)
(*)実際、ジャンゴ・フェットもスター・ウォーズ プリクエルでジェットパックを使用しているが、「プリクエルで」がここでのキーワードであることに注目。
それだけでなく、チョウは「ザ・チャイルド」こと、ベビーヨーダ(スター・ウォーズ史における重要性はそれほど高くないが、可愛さのあまり話題にせずにはいられないキャラ)のチャプターを手がけるチャンスにも恵まれた。同作のチャプターをいくつか手がけた彼女は、今後ディズニーデラックスで放映予定のユアン・マクレガー主演のオビ=ワン・ケノービのシリーズ(タイトル未定)のリードディレクターにも抜擢された。今回、新プロジェクトから少し手が離れたタイミングで、自身が手がけた革新的な作品『マンダロリアン』について語ってくれた。
ー監督として、マンダロリアンたちが飛行しながらマンドーを救う壮大なアクションシーンですが、撮影は大変でしたか?
計画に多くの時間を割きましたね。ご覧の通り、重要なシーンですから、とてもやりがいがありました。
ーご自身は、スター・ウォーズファンとしてボバ・フェット風のジェットパックが大活躍する冒険を待ち望んでいたタイプですか?
ファンのレベルを考慮すると、私自身はとてもコアなファンとは言えないと思います。でも、ファンであることは間違いないですし、ジャンルとしては大好きです。スター・ウォーズは、こうしたジャンルにおける母艦のような存在ですからね。マンダロリアンの大群が空から降りてくるシーンは、間違いなく、私の監督人生において忘れられない瞬間でした。
ーベビーヨーダと仕事するのはどのような気分でしたか? 技術面・感情面について聞かせてください。
とっても特別なことでした。
ー各チャプターにおけるベビーヨーダの見せ方は、ほとんど断片的ですね。たとえば、丸い形の乗り物からのぞく目だったり、コックピットの操縦レバーを握る手だったり……ベビーヨーダの全身がワンショットで写っているシーンはあまりないような気がするのですが、それは技術面での問題、それとも監督の意図的な選択だったのでしょうか?
どちらかと言えば、私の選択ですね。実務的なことでもなければ、技術的なことでもありません。その多くは、レス・イズ・モア(少ないことは良いこと)という感覚にもとづいてシリーズを作ってきたジョン(・ファヴロー)とデイヴ(・フィローニ)のディレクションのおかげです。過剰に使いたくないんです。
ーベビーヨーダにさせたい動きについて、パペティア(人形使い)にどれくらい指示できるものなのでしょうか? あるいは、最終的にはデジタルエフェクトに頼らなければならない点などはあるのでしょうか?
何がすごいって、私たちは作業の大半をセットでこなしたんです。パペティアは最高の仕事をしてくれました。私たちは、俳優に演技指導するようにパペティアに指示を出しました。ベビーヨーダがその瞬間に感じていることに努めて意識を集中させ、技術面は気にしないようにしました。たとえば、「扉が開いて、(ベビーヨーダは)いま恐怖を感じている。だから、マンドーのほうを見て安心しようとする」のようなことを言いました。俳優を相手にしているのと同じように言葉で伝えて、ベビーヨーダの感情をストレートに表現しようとしました。

デボラ・チョウ監督
ー感情の演出について質問させてください。ペドロ・パスカルの顔がマスクで隠れているなか、監督としてマンドーの感情を視聴者にどうのように伝えようとしましたか?
当初は、これが最大の難関であることは確かでした。演技する上で助けとなる表情や目という手段がありませんから。そこで、複数の要素を組み合わせました。
ースター・ウォーズの実写シリーズを手がけた初の女性監督という快挙を実感していますか? それとも、やるべき仕事をしたひとりの監督として評価されたいですか?
不思議な感覚であることは確かです。幼少期を過ごしたカナダでは、こうなるなんて思ってもいませんでしたから。正直なところ、初めて今回の仕事をいただいた時は、そんなこと考えもしませんでした。自分でも不思議ですが、(いつかはチャプターを任される)可能性に気づくのにも時間がかかりました。まさかこんなことになるなんてね。ジョンとデイヴも同じ気持ちだったのではないでしょうか。でも、私が監督することが焦点ではなかったんです。私自身が注目されなかったのは良いことでした。
ー実感がわいた瞬間を覚えていますか?
撮影の初日、あるいはそのあたりの時期だったと思います。人伝に聞きました。私自身はよく覚えていないのですが、ブライス(・ダラス・ハワード)が次のチャプターを、ヴィク(ヴィクトリア・マホーニー)が『スカイウォーカーの夜明け』のセカンドユニットを担当することになっていました。だから、私が正式に就任するなんて思ってもいませんでした。ただ「えーっと、そうね、面白そう」と思ったくらいです。監督をしているあいだは、明るい出口だけを見ようとするトンネル・ビジョンのような状態であまり余裕がありませんから。
『マンダロリアン』の制作中、あるいはシーズンがひと段落した後でオビ=ワン・ケノービのシリーズに抜擢されそうだ、という予兆はありましたか?
かなり後になってからですね。何が素晴らしいって、ファミリーの一員として残れるのがほんとうに嬉しいんです。オビ=ワンシリーズがなければ、間違いなく『マンダロリアン』に残留していたと思います。とても親しみのある感覚でした。
ー子供の頃に観た最初のスター・ウォーズ作品は?
オリジナルの三部作を観ました。観るにはまだ子供すぎたと思うのですが、父と兄がすごくハマっていて、巻き込まれた感じですね。このジャンルが大好きです。幼い頃からSFファンタジー好きだったんです。
ースター・ウォーズでのご活躍に対する家族の反応は?
ある意味ショックを受けたと思います。正直なところ、ほんとうに実感できているとは思っていません。特に母はーー。私の仕事に関して母はいまだに理解できていないと思うんです。『傲慢と偏見』を観るのに忙しいのかも。
ー最後の質問です。この数週間、『マンダロリアン』の視聴者の反応はチェックしましたか?
少しだけチェックしました。本当のことを白状するなら、あまりたくさんはチェックしていません。というのも、どちらかと言うといまは別のプロジェクトにかかりきりですから。でも、とても嬉しいですね。この作品には多くを注ぎました。生のうちの丸一年近くを捧げましたね。すべてのディテールにこだわったんです。だから、楽しんでもらい、真価を認めてもらえて最高の気分です。
※本インタビューは、米国で先行で公開を開始していた2019年11月に米ローリングストーンWEBにて掲載されました。
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