音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている ~アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス~」。第23回は同調圧力をテーマに、産業カウンセラーの視点から考察する。


人は社会生活の中で「同調圧力」を感じることがありますが、その圧力の苦しさや、それから逃れることを歌った曲もあります。例えばSKY-HIさんの「何様 feat. ぼくのりりっくのぼうよみ」では「膨張する同調圧力」と歌われていて、SKY-HIさんは「こうあるべきだ、こうするべきだ、皆そうなんだから、という呪いを壊して、自由に楽しく生きれる人が増えるといいなぁと思っていました」「この時代に必要な曲が出来た気がしてます」とコメントしています。また、イースタンユースは「同調回路」という曲で「俺は同調しない!」と同調圧力を拒絶しています。一方でamazarashiの「メーデーメーデー」では、電車に投身自殺した男が、「同調圧力の下で鎖に繋がれた飼い犬だと気付いた」のではなかったかと、痛烈かつ痛ましい想像をしています。

この同調圧力に関しては心理学者のソロモン・アッシュ博士の有名な実験があります。

まず、被験者1名と複数のサクラで集団をつくります。そして1本の棒の画像を見てもらい、それと並んで提示された画像に描かれた3つの棒の中から、その1本と同じ長さの物を選んでもらいます。その長さの違いは誰が見ても明らかにわかるようになっているのですが、サクラ全員に間違った回答をさせると、12回やって1回もサクラの誤答に同調しなかった被験者はたったの25%でした。正解が明確に分かる問題であっても、周囲の回答次第では自身の回答を変化させてしまうのです。このように、人は強制されなくても「同調」してしまいます。

この実験からわかるように、同調圧力は非常に強い影響力を持っています。現在のように、社会に不安が増大、拡散すればするほど、この圧力が強くなってしまうこともあります。
どんなことにも視点を変えると良い面や悪い面があるように、同調するということ自体は、人間が生きていく上で有効に働くことも多く、必ずしも悪いことではありません。しかし、何事も過剰になってしまったり、真実を歪めてしまったりすることになっては危険です。

この同調圧力も含めて、人は自分が思うほどには自分の意思を貫くことができません。もう一つ、スタンレー・ミルグラム博士の有名な実験を紹介します。

実験の参加者を生徒役と教師役に分けます。実際には生徒役の方はサクラで、被験者は教師役の方のみです。そして、生徒が回答を間違えるたびに教師役の方は電気ショックを与えるスイッチを押して電流を流すよう命令されます。実際には電流は流しておらず、生徒役は演技で悲鳴を上げるのですが、それは教師役には伏せられています。するとその状況下で、なんと65%の人が命令に従い続けて、最大電圧までスイッチを押し続けたのです。これは命令などの強い社会的圧力に、人がとても弱いということを実証しました。この実験はナチスの戦犯の名前にちなんで「アイヒマン実験」とも呼ばれます。

この連載の第20回では、個の責任が増大することによって人が自由を自ら放棄してしまう危険性について、第21回では、二重拘束によって思考停止や感情が麻痺してしまう危険性について書きました。
それらと同様に、私たちは皆それほど強くないということ、強い意志を保つことが困難であるということを自覚しておく方が良いと思います。社会が不安定な時には、人々が協力し同調することが必要な場合がありますが、それと同時に、それが過剰な同調になってはいないか、何かの真実や誰かの尊厳を犠牲にしてはいないか、ということを気にかける気持ちをどこかに持っておくべきだと思います。

参照
SKY-HI × ぼくりり新曲MVで最上もが男子学生誘惑
ナタリー2018年3月16日:https://natalie.mu/music/news/273790

<書籍情報>
強い意志を持つことは決して簡単ではない 誰かを犠牲にし得る同調圧力


手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/
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