米現地時間5月7日、AP通信が報じたところによると「Guidance for Implementing the Opening Up America Again Framework(アメリカ再開フレームワーク実行のためのアドバイス)」と命名された米疾病対策センター(CDC)に勤務する「アメリカ屈指の感染症調査員たち」が作成した新たな指針書は、8日に公布される予定だった。だが、トランプ政権から同センターの指針書が「二度と日の目は見ないであろう」と言い渡されたことをCDCの職員が明らかにした。
全部で17ページにわたるCDCの指針書には、アメリカ中で活動を再開し始めている「信仰指導者、事業主、教育関係者、州ならびに自治体関係者」のためのステップごとのアドバイスが含まれていた。CDC職員がAP通信に語ったところによると、破棄されてしまった指針書は、CDCが後に「詳細なアドバイス」を作成するための「設計図」となるはずだった。そこには、「学校、飲食店、サマーキャンプ、教会、デイケアセンター等の施設を再開する」上での助けとなるフローチャートや「さまざまなシナリオ」も含まれる予定だった。
しかしながら、トランプ政権はここしばらくの間、最前線に立って公共機関と自治体にしかるべき衛生・科学情報を与えてきたCDCに沈黙を強いている。そしていま、アメリカが1世紀以上経験したことのない最悪のパンデミックに襲われているにもかかわらず、「CDCがパンデミック関連の定期的なニュース・ブリーフィングを実施しなくなってから2カ月近くが経つ」とAP通信は指摘する。米連邦政府機関であるCDCの公衆衛生当局者に科学的な専門知識を授けてもらう代わり、危うくもアメリカは情報操作のことしか考えていないような大統領と取り残されてしまったのだ。
今週のはじめにピューリッツァー賞受賞者・科学ジャーナリスト、さらには早い段階から新型コロナウイルスの脅威について警鐘を鳴らした人物のひとりであるローリー・ギャレットは、CDCを亡き者のように扱うトランプ政権の危険な態度についてニューヨーク・タイムズ紙に語った。
「ヨーロッパのCDC、アフリカのCDC、中国のCDC……世界中の全CDCからこんなことを聞きました。『通常であれば、まずはアトランタ(米CDC本部の所在地)に連絡をするのですが、返事が来ないんです』。あそこでは何も行われていません。
5月6日、ギャレットは米ニュース専門チャンネルMSNBCのコメンテーター、クリス・ヘイズにCDCに対する口封じを「悲劇」と呼び、その危険性を訴え続けた。
「これは悲劇です。私が知る限り、アメリカがいままで経験した重大な疫病は、すべてCDCが指揮をとっていました」とギャレットは続ける。「2014年にエボラ出血熱が西アフリカを襲った時も、CDCはアメリカだけでなく、各国に対応方法をアドバイスするという極めて重要な役割を果たしました」。
「そしていま、私たちは現代最大のパンデミックに直面しているというのに、CDCは沈黙しています。エボラ出血熱が西アフリカで大流行した時、私たちにお馴染みとなった毎日のニュース・ブリーフィングの代わりにCDCはひたすら黙っているのです」とギャレットは言った。
「CDCに電話をすると、どうも違和感があります」とギャレットは続けた。
こうしてアメリカは、おそらく世界最悪のパンデミックであるにもかかわらず、今回の新型コロナウイルス感染拡大に対応するための専門知識を備えた機関を失った。私たちに残されたのは、その機関を何がなんでも黙らせようとする大統領ただひとりだ。
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