米ローリングストーン誌のレビュー
「間違いなく近年の最高傑作」
思い切って漂白剤を体内に注入さえすれば安心だ、とドナルド・トランプ大統領が語った翌日、ささやかな反トランプ批評が現れた。これぞ間違いなく、今の我々に必要なものだ。ルーツロックを象徴するアーティスト、ルシンダ・ウィリアムスによるニューアルバム『Good Souls Better Angels』は、彼女にとって間違いなく1998年の代表作『Car Wheels on a Gravel Road』以降の最高傑作だ。綿密に研ぎ澄まされ、文学的な要素も多分に含みつつ、カタルシス的なブルースの叫びでもあるようだ。苦労の絶えない友人に始まって、疫病神の元恋人、そして「Man Without a Soul」にも歌われているホワイトハウスの現住人まで、彼女が悪とみなすものへの煮えたぎる怒りにあふれている。
湿っぽくも辛辣なこのブルースは、苦痛をもよおさせるほどスローなペースで進む。ウィリアムスは棘のある言葉を一語一語、確固たる冷酷さと執念をこめて歌い上げる。たとえ曲のメッセージ("Hey, asshole, you suck”/ヘイ、そこのクソ野郎、あんた最低)が明確な社会批判として響かなくとも、胸の奥に眠るリアルな怒りがそこはかとなく伝わるように。「世界中の金を全部集めても/この穴は決して埋まらない」と彼女は歌う。歌詞がトランプ大統領の最終的な結末にさしかかると(「この物語はどう終わるのか/問題はどう終わるかじゃなく/いつ終わらせるかだ」)、彼女が歌う運命はいまよりもずっと陰鬱で、暗澹としつつも、11月の大統領選挙の結果よりはマシなようだ。
物憂げなウィリアムスの歌い方は年を重ねるにつれさらに磨きがかかり、それぞれの母音はたっぷりうねる川面のよう。楽曲にも、官能的な渇きがふんだんに盛り込まれている。
ルシンダ・ウィリアムスが語る最新作の背景
「このアルバムには悪魔がかなり登場する」
「何もかも一巡して戻ってきた」とルシンダ・ウィリアムスは、パワフルなニューアルバム『Good Souls Better Angels』について語る。40年以上にわたる曲作りの日々を経て、先駆者でもあるルイジアナ生まれのこのアーティストは、ブルースのざらざらとした土台に戻ってきた。それは70年代の終わりに、駆け出しのシンガーソングライターとして刺激を受けた場所だ。
「Car Wheels on a Gravel Road」を演奏する1998年のライブ映像
彼女はソールドアウトした昨年の20周年記念ツアー『Car Wheels on a Gravel Road』のあと、大ブレイクを果たした1998年の『Car Wheels on a Gravel Road』で共同プロデューサー兼エンジニアを務めたRay Kennedyと再会し、いつものツアーバンドとナッシュビルのスタジオでこの新作『Good Souls Better Angels』をレコーディングした。ウィリアムスのマネージャーであるTom Overbyも共同プロデューサーとして名前を連ねているが、彼は10年前にウィリアムスと結婚したパートナーでもあり、今回彼女の曲にリリックを提供している。「パートナーと一緒に作品作りをすることは、ずっと夢見ていたことよ」ウィリアムスは興奮気味にそう語っている。
こうして誕生した『Good Souls Better Angels』は、ウィリアムスのキャリアにおいて最も時事的なアルバムとなった。
『Good Souls Better Angels』は、我々の周りに存在する暗い現実を反映しながらも、忍耐力、復活する力、究極的な希望といったテーマとも結びついている。作品で取り上げた話題についてウィリアムスは言う。「いろんな出来事が起こっていて、人々の心を悩ませている。みんな言っているわ、世界は崩壊しかかっているって。まるで黙示録ね。そうやって旧約聖書は誕生したのよ。今回のアルバムはこれまでの作品と違って、自分の子供時代のことを歌っているわけじゃない。なんだかワクワクするわ」
オープニングを飾る、駆り立てるようなブルース「You Cant Rule Me」から、不気味なゴシック「Pray the Devil Back to Hell」、またパンク・ブルース「Bone of Contention」から、情熱的な「Drop by Drop(Big Rotator)」まで、ウィリアムスがこれほど自分らしく直接的だったことはない。そこにはギンズバーグのビートの詩と聖書が交差する、印象的な言葉遊びがある。
ウィリアムスは、長い付き合いである彼女のバンドメンバー(ギタリストのStuart Mathis、ベーシストのDavid Sutton、ドラマーのButch Norton)と、ヴィンテージを装備したRay Kennedyのスタジオを使ってライブレコーディングし、ほとんどの曲を2、3回のテイクでカットした。リズム・セクションの盤石なパルスとMathisの多彩な音のぶつかりが、ウィリアムスの際立って情熱的なヴォーカルを支えている。
Mathisのチェーンソーのようなギターが合いの手を入れた荒々しい「Wakin Up」は、家庭内暴力からの脱出を感情的に語り、哀愁を漂わせた「Shadows & Doubts」は、ソーシャルメディアに左右される社会で誰かに愛されても、次の瞬間には完全に忘れられるのだと伝えている。また、彼女はグレッグ・ガーリングのホンキートンク・シャッフル「Down Past the Bottom」をハードロックの魂の暗闇へと引き摺り込み、からかうようなアイロニーで「Bad News Blues」のスウィングをリードし、”嘘つきと奇人/愚か者と泥棒/道化師と偽善者”ばかりだと嘆くウィリアムスのリリックの間を、Mathisのギターワークが蛇のようにするすると滑っている。そしてほろ苦い「When the Way Gets Dark」は美しいメロディと心に響くギターで我々に希望を与え、ウィリアムスは優しいヴォーカルで”あきらめないで/私の手を取って/あなたは独りじゃない”と訴えている。
ウィリアムスは1979年のデビュー作『Ramblin on My Mind』から長い道のりを旅してきた。続く『Happy Woman Blues』が彼女のオリジナルのファースト・アルバムであり、40年前の1980年にリリースされている(彼女は 「私はあの頃と同じ」だけれど「今はもっとファンも増えているし、もっと素敵なホテルに泊まれる」と語っている)。これまでに14枚のアルバムをリリースし、グラミー賞に3度輝き、数えきれないほどの栄冠を勝ち取ってきた。ウィリアムスは最も尊敬を集めるアーティストの一人であり、途方もないヴォーカルと優れた曲の数々で人々に愛されている。最近リリースしたダブルアルバム『Down Where the Spirit Meets the Bone』(2014年)と、『Ghosts of Highway 20』(2016年)は、彼女自身のレーベルからリリースされ、これまでのキャリアで最も素晴らしい評価を受けた。
自身の体験を歌で表現するウィリアムスは、このアルバムのために書いた最後の曲の一つ「Good Souls」で、『Good Souls Better Angels』を締めくくっている。この曲は深く心を動かす祈りの言葉だ。
「どうか側にいさせてください/強さを見つける手助けをしてくれる人と/絶望を感じたとき/私を導いてくれる人と/私が強く勇敢なままでいられるよう手を貸してくれる人と」
米ローリングストーン誌の映像シリーズ「In My Room」で公開された自宅ライブ映像