全身タトゥーだらけの女の子が、パンセクシャル(全性愛者)と宣言して女性と付き合っていたかと思えば、その次には男性と交際して出産。

髪の色やファッション、雰囲気も常にコロコロ変化。
共演してきたアーティストにはジャスティン・ビーバーからチャーリー・プースにG・イージー、エミネム、チャンス・ザ・ラッパー、ゼッドにカルヴィン・ハリス、ヘイリー・キヨコまで縦横無尽にジャンルを超越する。その掴みどころの無さはホールジー級? とも言えるケラーニが2ndアルバム『It Was Good Until It Wasnt』を全米アルバムチャートの2位に送り込み、存在感を見せつけている。

カリフォルニア州オークランド出身の25歳は、10代にポップロックバンドのシンガーとして頭角を現し、まずまずの成功を収めた後、ソロへと転向。発表した数々のミックステープが注目を浴び、グラミー賞にもノミネート。2016年の1stアルバム『SweetSexySavage』で全米3位を獲得して、ゴールドディスクにも認定された。

その前作ではややポップ寄りな志向も窺えたが、3年ぶりの新作ではグッと成熟味を増したR&Bサウンドへと遷移。「いろんな意味で大人になったから」と彼女は説明する。
「そうね、メロウなったわ。私の生活がそういう感じだったし、あえてそうありたいと努めていたの。子どもが出来て、より女性らしくなったこともあるわ。レコーディング中は、ずっと娘がスタジオにいてくれたし、最高のパートナーだった。このアルバムが大人っぽく聴こえるとすれば、それはきっと娘のおかげよ」

コンテンポラリーR&B、ネオソウルなどとジャンル分けされることが多いケラーニだが、彼女自身は「これはストレートなR&Bアルバムよ」と語る。
ブランディの大ファンを公言する彼女だけに素直なメロディが特徴だが、現代っ子らしくエクスプリシット(過激)で刺激的なフレーズがポンポン飛び出す。ムーディでアトモスフェリックなサウンドは、巷で人気のヒップホップ系との親和性も抜群だ。ジェネイ・アイコやサマー・ウォーカー、SZA(シザ)、H.E.R.といった新世代のR&Bシンガーらと共にヒット・チャートの上位を闊歩する。

同ジャンルの先輩でもあるジェネイ・アイコとは頻繁に比較が為され、ジェネイの背中を追うライバルと見なされてきた。が、最近になって両者は急速に親しくなっていたそうで、本作の完成間近になって、ジェネイの方から申し出があり、両者によるコラボ「Change Your Life」(feat.ジェネイ・アイコ)が誕生。「彼女の方からアプローチしてくれたの。このアルバムで一緒にコラボできる曲がないかしら?って。そこでこの曲なら私達がコラボするのにピッタリだと思ったの。彼女は完璧よね。バッチリ決めてくれた」

「Everybody Business」ではSNSによる誹謗中傷をテーマに

ビヨンセとコラボした「Savage」で全米1位を獲得し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのミーガン・ジー・スタリオンも「Real Hot Girl Skit」にトークで参加した。彼女の最新EP『Suga』にはケラーニも歌で参加(「Hit My Phone」)。そのお返しだろうか。
一緒に共演したり、仲間意識が高いのも、この新世代のR&Bシンガーたちの特徴だ。全員で一緒にジャンルの底上げを行い、皆が大きな成功を手にしている。

「Grieving」にはジェイムス・ブレイクも参加。エレクトロニック界からヒップホップ界まで多数のアーティストから愛される彼だが、ケラーニもその1人。「とても楽しい共演だったわ。彼の大ファンだから。すごく尊敬しているわ」と賞賛を惜しまない。

アルバムに先駆けて公表された「Everybody Business」では、SNSによる誹謗中傷などをテーマに取り上げる。冒頭でも触れたセクシュアリティに関して揶揄されたり、恋人を取っ替え引っ換えしてると批判されたり、常に好奇の目で見られてきた。「この曲のテーマはインターネットよ。ネット文化について歌ってる」と彼女。会ったこともなく勝手にケラーニ像を作り上げていたり、嫌われたりといった実体験に基づいている。


本来なら今頃は「Get Me」(feat.ケラーニ)で共演したジャスティン・ビーバーの「Change Tour」に参加している予定だったが、新型コロナの影響でキャンセルに。そのツアーでは同曲のデュエットなども披露するつもりだったという。「そう、デュエットも計画していたし、私自身のステージ構想もほぼ出来上がっていたけど……。ジャスティンとはレコーディングでは別々のスタジオだったから、なおさらステージで一緒に歌いたかったのよね。あの曲って、すごくドープでしょ。最高よね」

新型コロナの影響はツアー中止のみならず、じつは本作のリリース自体も危ぶまれていたという。が、彼女はプロモーション活動やビデオ制作などを、全て自宅のガレージ内から行うことで解決。ロックダウン下でのビデオ制作は「リソースが限られていたから大変ではあったわ。撮影から編集まで全てをフォトグラファーのブリ・アリッサと2人きりで手がけたの」と語っている。

アルバムのジャケットには「隣の芝生はもっと青いのかしら?」と覗き込む彼女の後ろ姿が映し出されている。だが、じつのところは、とことんマイペース。自身にフォーカスが当てられ、彼女の体験と人生観が本作には詰まっている。
「収録曲は全て私の実体験よ。これまでの人間関係を振り返っているの」と彼女。アルバムのタイトル『It Was Good Until It Wasnt』が言わんとするのは”地獄になるまでは最高だった”ということ。何とも意味深長だ。

全米2位のケラーニ、多様なバックグラウンドから生まれる「自分を救済する」R&B

『イット・ワズ・グッド・アンティル・イット・ワズント』
ケラーニ
ワーナーミュージック・ジャパン
https://Japan.lnk.to/Kehlani_IWGUIWMe
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