ローリングストーン誌による1985年の秘蔵インタビュー。マイケル・J・フォックスが過去、現在、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を語る。


NBCの高視聴率ドラマ『ファミリー・タイズ』と、この夏の大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のスター俳優、マイケル・J・フォックスは、黒いストレッチ・リムジンに乗ってケネディ空港へ向かっていた。少しばかり外の空気を吸おうと、彼はサンルーフから顔を出した。隣のレーンを走っていた大柄な赤ら顔のトラック運転手が、怪訝そうな視線を送る。「さぞ気持ちいいだろうな」と男は叫んだ。フォックスははにかんで、トラックの中身は何かと尋ねた。「牛乳だよ」と言うと、男は走り去った。

フォックスはリムジンの反対側、海老茶色のフォードを運転していた中流家庭の一家に向きを変えた。次から次へと、家族の顔がまるで月の光に照らされたかのようにパッと輝く。一番末の男の子が興奮気味に後部座席で飛び跳ね始めた。フォックスはサンルーフから降り、ノートから1枚紙をやぶってサインすると、窓越しに伸ばされた手に渡してやった。リムジンがフォックスを送り届けた後、筆者は4日間運転手兼ボディガードを務めた男に向かってこう言った。「本当にいい子だね」「いい子じゃありませんよ」と運転手が答えた。
「役柄のせいでみなさん誤解していますけどね。彼はいい人なんです」

マイケル・J・フォックスが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を語った、1985年の秘蔵インタビュー

『ファミリー・タイズ』のキャラクター、アレックス・P・キートン役を演じるマイケル・J・フォックス。彼はこのシリーズでエミー賞のコメディー部門主演男優賞を1986年から3年連続受賞。(Photo by NBC/NBCU Photo Bank/Getty)

現在24歳のマイケル・J・フォックスは、この3年間NBCのTVドラマ『ファミリー・タイズ』で、フラワーチルドレンの両親とは正反対の古風でコミカルな息子アレックス・キートン役で一躍有名になった。そして今、わんぱくとも如才ないともとれる快活な笑顔と端正な顔立ちの小柄なカナダ人(164cm)は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で銀幕スターの座に押し上げられた――彼が演じるマーティ・マクフライ少年が時間をさかのぼり、高校時代の両親と遭遇し、とんでもない結果に巻き込まれる、というウィットの聞いた楽しい作品だ。

軍人の家庭で5人兄弟の4番目として生まれたフォックスは、実際の年齢よりも若く見える。事実、初めて役者の仕事に就いたのは15歳の時。TVシリーズの中の役柄だったが、設定は10歳だった。その番組――カナダ公共放送局で放映されていた『Leo and Me』――に2年間出演した後、高校を中退してバンクーバーで働き、1年後ハリウッドへ向かった。

ほどなくディズニーの長編映画『Midnight Madness』に抜擢され、その後数年間は『Trapper John, MD』『事件記者ルー・グラント』といったTVシリーズにゲスト出演する。彼がマーティ・マクフライ役に抜擢されたのは、エリック・ストルツが降板した後で、撮影からすでに6週間が経っていた(エグゼクティヴ・プロデューサーのスティーヴン・スピルバーグと監督兼共同脚本家のロバート・ゼメキス監督は、はじめからフォックスの起用を望んでいたが、『ファミリー・タイズ』の製作が丸々1シーズン控えていたため、プロデューサーが彼を手放さそうとしなかった)。今も7話分の収録を抱えており、いつもの2倍のスピードで働いている。


●【動画】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』あらすじ

1日かけてTVドラマの収録を終えた後、彼はすぐにユニバーサルの撮影所に向かい、明け方まで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を撮影する。最近も、ジョン・ヒューズ監督の最新作『プリティ・イン・ピンク』の出演オファーを断ったところだ。やはりTV局側が『ファミリー・タイズ』の収録スケジュールを空けてくれなかったからだ。

フォックスはこうしたことに動じることなく、すべてを可能にしてくれた番組に感謝し、今シーズンも張り切ってアレックスを演じている。「去年は頭をたくさん使ったからね」と本人。「今年は肩の力を抜いていくつもりだ。『ファミリー・タイズ』をやって、それからひょっとしたら来年映画を1本やる。いつも胸に刻んでいる、スペンサー・トレイシー[訳注:1930~60年代に活躍した名優]の言葉があるんだ。『とにかく自分のセリフを覚えること。それから舞台セットに突っ込まないこと』」

ーどこでも好きな時代にタイムトラベルできるとしたら、どこに行きたいですか?

マイケル:前に一度、北米インディアンについて可能な限り読み漁ったことがある。インディアン文化のど真ん中――果てのない世界――に放り込まれたらどんな感じだろう、とよく思いを巡らせたよ。それから、(今シーズンの『ファミリー・タイズ』第1話の撮影で)イングランドに行ったとき、エリザベス1世の時代から続くパブで過ごした。
ここでのんびり座って、当時の常連だった追いはぎ連中と語りあうのを想像した。でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティと同じように、行き当たりばったりなのがいいな。

ー長年ずっと魅了されている史実などはありますか?

マイケル:僕は歴史ファンだけど、歴史の専門家じゃないよ。僕が歴史を読むのは、エンターテインメントのためなんだ。キリスト生誕とか、読んでみると超クールだよ。火の発見にしてもさ。ある日誰かが石を落としたら火花が散った。「ああ、なんてきれいなんだ」 それでもう1度石を落としたら、今度は火花が落ち葉に燃え移った。そこへ僕が登場して、近づいてこう言うのさ。「こんなの燃えるうちに入らない」 そしてマッチを擦る。

ー常にエンターテイナーですね。

マイケル:そうさ、紀元前1万年前の大道芸人だよ。
僕はみんなを笑わせるのが大好きだ。そういえばすごく小さかった時、お客が来る予定だったので母が「2階にいって、違うパンツを履いてらっしゃい」って言った。それで僕は2階にあがって、下着姿で降りてきた。「パンツはこれしか見つからなかったんだもん」って言ってね。本当バカバカしいだろ! だけどみんな大爆笑だった。あれが僕にとって、ささやかなきっかけになったんだと思う。

ー高校を中退して大学に行かなかったことを、この先後悔すると思いますか?

マイケル:卒業しなかったことは気にしてない。学校は束縛する以外、何も教えてくれなかったしね。悔しいのは、演劇のクラスで不可だったことだ。僕はバンクーバーで大ヒットした舞台にも出ていたし(『遠い追憶の日々』)、TVシリーズもやってた(『Leo and Me』)のに、演劇のクラスを落としたんだ。それもある日授業をさぼって、袋を頭にかぶって鼻歌を歌いながら、後ろ向きによたよた這いつくばらなかったという理由でね。本当だよ。
でも、いつか大学には行きたいと思っている。僕は作家向きじゃないかという気がするんだ。ただ、脳みそと手を連動させる道すじがまだはっきり定まっていない。学校に通って、その道すじを作ることができたらいいな。

ーマーティ・マクフライは期せずして両親の人生の流れに干渉しました。あなたもチャンスがあれば、両親を変えたいですか?

マイケル:僕は今のままの両親が好きだ。2人がどう考えているか分からないけど、すごく幸せそうだ。両親ともすごく力になってくれた。父は時々おっかなくなることもあるけどね。25年間陸軍にいて、それから15年警察官をやってるから、つい大声になっちゃうんだよ。

母はカナダの田舎町で育った。両親がもっとチャンスに恵まれていたら、どんな人生だったんだろうとたまに考える。
子ども時代にもう少しいろんな可能性があっただろうに、とかね。でも、僕が勝手に推測するのはフェアじゃない。2人もすごくいい人なんだ。

ー自分の幼少時代を変えてみたいとは?

マイケル:いいや。最高の子供時代だったよ。僕のコメディ論を知りたいかい? 演劇のもっとも古い形式は夕食の席なんだよ。5~6人で集まって、毎晩同じ役者が、毎晩違う脚本で毎晩新しいショウを繰り広げる。長年ずっと一緒に仕事している、息の合った仲間たちさ。うちでは、食事の席で一番面白い人間は兄だった。僕もアレックス(『ファミリー・タイズ』でフォックスが演じる役柄)を、食卓で一番面白いやつにしたいんだ。

ー『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、少年とイカれた発明家の友情も描かれています。マーティ・マクフライにとってのドク・ブラウンのように、あなたにも師と仰ぐ人物はいますか?

マイケル:何人かいるよ。ゲイリー・ゴールドバーグ(『ファミリー・タイズ』のプロデューサー)はその1人だね。僕にとってのヒーロー的な存在は彼だ。しかも僕のボスっていうのが最高だろ。でも、ドク・ブラウンのような存在はロバート(・ゼメキス監督)だろうね。マーティ・マクフライがドクに感じたのと同じような気分になった。彼は僕を励ましてくれて、いつも傍にいてくれたんだ。

ー青春映画というジャンルについてどう思いますか?

マイケル:素晴らしいと思うよ。ようやく来たという感じだ。今までもいわゆる青春映画というのはたくさんあったけど、どれも現実の若者の姿を描いていなかった。ほら、アンディ・ハーディ[1930~40年代の映画シリーズの主人公]は現実的じゃなかっただろ。ようやく若者の存在が認められるようになってきたんだ。彼らの物語は胸にグッとくるし、人を惹きつけ、はっと気づかされる部分もある。だから爆発的にヒットしたんだよ。最近は「若造連中ども」なんていうふうに悪く呼ばれるのは、なんだか悔しいね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は『ブレックファスト・クラブ』とは違って、社会問題を扱ってはいないけれど、僕自身は――僕が「愛のメッセージ」なんて言葉を口にするのは気の抜けたペプシみたいな感じだけど、重要なメッセージを伝えていると思う。僕は気に入ってるよ。

ーご自身も昔ギターを弾いていましたが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の高校のダンスパーティのシーンは、夢がかなったんじゃないですか?

マイケル:ああ、弾きこなすまでに相当練習したよ。最初の編集カットを見た後、ロバート(・ゼメキス)が僕に感想を訊いてきたから、「僕の顔のカットばかりじゃないか!僕の手を見せてくれよ!」って言った。「自分の顔を映すな」なんて言う役者、想像できるかい? だけど、観客には僕が本当に演奏しているってことを知ってほしかったんだ(実際にサウンドトラックの音楽は、スタジオミュージシャンが演奏している)。僕にギターを教えてくれたポール・ハンソンという人は、昔はふつうの話し方だったのに、LAの大勢の若者にギターを教えているうちに、「おい野郎、今のめちゃヤバかったな。くそっ、あのリフをすっかりマスターしちまいやがって」みたいな話し方をするようになった。ボブもそういう話し方になったんだ。僕が「今のヤバかったね、ボブ!」というと、彼も(真面目な声で)「ああ、とびきりヤバかったね、マイケル」ってね。

●誰もが弾きたくなった「ジョニー・B・グッド」、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』名シーンを回想

ー映画の中でも特に愉快なシーンのひとつが、50年代にやってきたマーティが1985年の大統領は誰かと尋ねられる場面です――ちょうど道路沿いには、町の映画館にロナルド・レーガン主演の『バッファロウ平原』の看板がかかっていました。俳優が大統領になることについてどう思いますか?

マイケル:僕はカナダ人だから、アメリカの政治についてどうこう言うつもりはないよ。レーガン氏について世間がどう思っているかはさておき、彼に対する批判の中で唯一無意味なのは、彼は元俳優だから、というものだ。ばかげてるよ。「彼は緑色の靴を履いている」っていうのと変わらない。僕がこんなことを言うのも、いつかカナダの首相になろうと思っているからなんだけどね。

ー本当ですか?

マイケル:いや、まさか。僕が政界に入ったら、カナッペばかり食べてる外交官になるだろうよ。

ー家に一人きりでいるときは、どんなふうに過ごしたいですか?

マイケル:些細なこと、たとえばスポーツ番組を見ながら、冷蔵庫を開けて、中を見たら何も食べるものがなくて、パタンと閉める、とか。何しろ、ここのところゆっくりする暇もないんだよ。

ー恋人のナンシー・マッケオンとは?

マイケル:お互い相手のことについて口外しないって約束したんだよね。彼女がこの記事を読んだら殺されちゃうな。でも面白い話があってね。『High School USA』というTVムービーで共演したとき、僕らはよく一緒にいて、親しくしていた。決して――撮影中はちゃんと付き合っていたわけじゃないけど、なんとなくそういう風になるだろうなという予感はしていた。のろけてるみたいだけど、映画の後彼女がニューヨークに行くことになって、お土産に欲しいものはあるかと訊いてきた。僕は「シェーファービールの6缶パックをひとつ」と答えた。ニューヨーク・アイランダーズ[訳注:NYを拠点にするアイスホッケーのチーム]の試合に流れる「シェーファーの街で、みんな仲良く」っていうCMが好きでね。「他には?」と彼女が言うから、「ああ、そうだな、ジェーン・ポーリーかな[訳注:TV番組の司会者]」 後から彼女に聞いた話では、その時にキュンとしたんだって。おかしな話だろ。

ー本当に意地悪ですね。

マイケル:さあ、どうだろうね。暴露しちゃってごめんよ。ばらしちゃった。

※編注:マイケル・J・フォックスはその後、1988年に女優のトレイシー・ポランと結婚している。

ーでは今からあなたを未来にお連れして、ピンチから救ってあげましょう。タイムトラベルのお供には誰を連れて行きますか?

マイケル:分かりやすい人がいいな。予期せぬ出来事に遭遇したときに、どんなリアクションをするのか見てみたい。

ーつまり、ある種の実験をしたいと?

マイケル:そう、さらに上のエンターテインメントを目指すのさ!
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