SKY-HIによる無観客ライブ「We Still In The LAB」が17日に開催され、Abema独占中継で配信された。今回はこの模様を、ライターの坂井彩花がレポート。
物語は8年前にさかのぼる。

「着地点をはるか雲の上まで定められるように」。そう願いをこめた『FLOATIN LAB』が発売されたのは、2012年5月30日のことだった。SKY-HIの25年間を詰めこんだ1枚は、「オリコンチャートで50位以内に入りたい」という彼の思いを大いに上回りデイリーチャート最高16位を獲得。「自らがメディアとなり、ヒップホップへの門戸を開く」という野望が実現可能であることを示した。また、同年の6月17日には「SKY-HI presents FLOATIN LAB Release party Welcome to the ”LAB”」を開催。シンガーやダンサーが一人も欠けることなく集結し、奇跡の始まりを予期させたのだ。

そして、来る2020年6月17日、SKY-HIは8年前と同じステージに立っていた。本来であれば、FLYER(SKY-HIのファン)で溢れるはずだった新宿BLAZEには、コロナの影響によりオーディエンスの姿はない。しかし、その現実に彼が屈することはなかった。状況を逆手にとり、無観客だからこそ、ライブ配信だからこそできるパフォーマンスを堂々とやりきったのだ。

 「8年前から、俺は何も変わらない」という思いのもと、『We Still In The LAB』と名付けられたライブは、彼の意志を強く反映させた濃密な2時間だった。
もともとはベストアルバム『SKY-HIs THE BEST』のリリースパーティーとして行われるはずだった当イベント。駆け抜けてきた自分のために、お気に入りの曲を端から並べることもできただろう。しかし、彼はそうすることを選ばなかった。それどころか、ホールツアー並にヘビーなセットリストを組んだのである。

『We Still In The LAB』は、ゲストを招いてのインターバルを挟み、前半後半が各3部構成で展開された。20時ぴったりになると、楽屋からステージに向かうSKY-HIの姿が映し出される。白いタンクトップに、白いシャツ、白いパンツ。フィンガースナップの音に合わせてフリースタイルをする様は、すでにギアがフルスロットルであることをうかがわせた。

「Lets Go!」と勢いよく声をかけると、メジャーデビュー曲の「愛ブルーム」がスタート。出だしからフロアに繰り出すと自由に会場を動き回り、新宿BLAZE全体を使ってパフォーマンスすることをアピールする。至るところから降り注ぐライトや、美味しいところを漏らさず拾い上げていくカメラワークは視聴者の胸を高鳴らせ、ライブを観ているのにワンカットのMVを観ているような不思議な感覚をオーディエンスに与えた。流れるように「スマイルドロップ」「Chit-Chit-Chat」と披露しポップスターの側面を魅せつけると、オープニングを煌びやかに彩る。
さあ、パーティーの始まりだ。

【画像】全身を真っ白な衣装に包み、髪を金色にして臨んだSKY-HIの『We Still In The LAB』(写真8点)

SKY-HIのバックグランドが何なのかを改めて示したステージ

一呼吸置きステージへ舞い戻ると、「Doppelgänger」に繋がれる。”確かなこと一つあるとしたら まだ変わらず俺は俺のままだ”と高らかに宣言し、過去へ敬意を払いすべてのヘイトを蹴散らしていくターンに突入。「Persona」では”髪を染めても変わりゃしねえ”とリリックを変え、初心に戻り金髪に染めてきた自身をフックにした。言葉の矢が襲撃する「何様」、自身を奮い立たせる「As A Sugar」とここまでの道のりを語るようなナンバーが続く。「フリージア」に入ると、映像はモノクロに一転。黒い世界のなかでSKY-HIの姿は浮かび上がり、暗い時代に刺す一筋の光のように映る。「見せつけてやるよ」と不敵な笑みを浮かべると、画面はパァッと色づいた。「Name Tag」で鋭いリリックと眼光をリスナーに向け、「Walking Water」では立ち上がる様を描いて見せる。「”水の上を歩くように簡単さ”、だから8年経って戻ってこれたんだぜ?」と、その表情は物語っていた。

間髪明けずに繋がれたのは、国交を物語に例えて歌った「Story Of ”J”」だ。歌が入る前には「Whats happen, J?」と投げかけ、いろいろな困難が一気に押し寄せてきた日本に対して「それでいいのか?」と問いかける。
続く「F-3」により、思考は世界へ。この2曲を続けることで、日本や世界の現状に対して楽曲を通して疑問を投げかけた。締めの「Young Gifted And Yellow」では、「ECDのロンリーガール」をマッシュアップ。渋谷やレジェンドプレイヤーに思いを馳せると共に黒人差別にも切りこみ、「今が考えるときなんだ」と音楽で伝えきった。

しかし、その場で考える暇を与えるほど、生易しくないのがSKY-HI。休む間もなくビートは繋がれ、ゲストステージへなだれこんだ。「俺たちが、どこから来たか教えよう」という言葉によりKEN THE 390が現れると、「Whats Generation」が誘われた。ふたりが手掛けた曲は数多くあるにも関わらず、SKY-HIが初めてキチンとした音源に収録されたこの曲を、客演の頭に持ってくるのはなんとも粋な演出だ。勢いとどまることなく「PONR」に引き継がれ、TARO SOULが安心感あるフロウをかます。『FLOATIN LAB』収録曲である「Critical Point」でホンキの遊びを魅せつけると、MCを挟み「Lego!!」へ。曲が始まるかと思われたが、ビートが途切れKEN THE 390の誕生日祝いに転じた。8年前と同じ展開に、思わずKENは膝から崩れ落ち、和やかな空気が流れる。
それぞれが進み続けていても、関係が変わることはないのだと、息のあったステージで証明してみせた。

ここから一気に、終幕へ向けて加速していく。「死んじゃった友達の歌を歌います」と告げ「Luce」が導かれると、場内はしっとりした雰囲気へ。身近な人がいつ亡くなってもおかしくない今だからこそ、より一層染みるナンバーは季節違いの雪のように心にしんしんと降り積もる。祈りをこめるように「そこにいた」を歌い上げると、ベストに収録される「アイリスライト2020」が奏でられた。以前の「アイリスライト」は「”生きる意味”であれたらいいな」という望みが強く滲んでいるように感じたが、いま歌われる「アイリスライト」は一味違う。「”生きる意味”でいるよ」という、ぶれることのない意志がSKY-HIの表現に存在しているのだ。宣誓のように言葉を届けると、ハッピーチューンの「Dont Worry Baby Be Happy」でガラッと空気を変え、自粛期間中に生まれた「#Homesession」をロングバージョンで歌いきる。いま隣にいる人を愛そう、楽しむことは罪じゃないと伝えきり、本編をやりきったのだ。

「愛と感謝とリスペクトを持って次の戦いに向かう」

アンコールを「カミツレベルベット2020」の新MVで封切ると、2番では新作のLOVE/HATEを着て登場。いつもであればLOVEがフロントで、HATEがバックであるデザインなのだが、今回は”NO HATE”がフロントで”MORE LOVE”が背中。その姿だけで、より多くの愛を背負い憎しみに立ち向かっていこうと訴えているようだった。


MCを挟み、怒涛のキラーチューンゾーンへ。「Double Down」で飛んで跳ねて歌い踊り、「Snatchaway」「Seaside Bound」と盛り上がるナンバーが休むことなく繰り広げられていく。視聴者による楽曲投票では「Blue Monday」が選ばれ、青い照明が会場を包みこんだ。フロアに寝転がったり、投票結果をカメラに見せたり、自由な雰囲気でファンと一緒にステージを作りあげた。

「愛と感謝とリスペクトを持って次の戦いに向かうべきかな、と思うんだよね」と語ると、「Thanks To You」が紡がれた。一つひとつの言葉に愛を落とし、関わっているすべての人に真っ直ぐな気持ちを届けていく。「I Think, I Sing, I Say」「Marble」と真摯な思いを編みあげ、信念のある音楽は画面越しでも伝わるのだと実証してみせた。

全身を真っ白な衣装に包み、髪も金にして臨んだ『We Still In The LAB』。世の中の変容や目を背けたくなるニュースの連続により、企画時の彼が想像していたステージではなかったかもしれない。しかし、時代を汲んで柔軟に対応していく姿勢すら、SKY-HIらしいと思うのだ。8年ぶりに初めてワンマンライブをやったステージに立つという大切な日ですら、彼はいろんなことを考えていた。政治も差別も社会も、もちろんSKY-HIに関わる全ての人のことも。
様々なことに興味を持ち、世界が少しでもよくなるよう音楽をとして発信していた。心に冷たく突き刺さるできごとすら全部ひっくるめて、愛や気づきに昇華してくれるアーティストこそSKY-HIなのではないだろうか。悲しきかな、先行きの見えない日々は続いている。だからこそ彼が時代の光として、再びヒップホップへの門戸を広げ、新たな”前例のない未来へ連れて”いってくれることを願わんばかりだ。

SKY-HIライブレポ「原点から見た夢の現在地、前例のない未来へ」

Photo by Satoshi Hata

<INFORMATION>

7月19日(日)有料配信ライブ
「Round A Ground 2020 -RESTART-」開催決定
詳細:後日発表
Round A GroundのRound64.5として、初の試みとなる有料配信ライブが開催決定。
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