レディオヘッドやフランク・オーシャン、カニエ・ウェスト、テーム・インパラらの名曲が全編にわたって流れることで、すでに音楽ファンの間では大きな話題となっているトレイ・エドワード・シュルツ監督による最新作『WAVES/ウェイブス』が、7月10日より全国公開される。
構想に10年を費やしたという本作は、ウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』にインスパイアされた2部構成の作品。
第2部では、タイラーの妹エミリーを中心に、第1部で起きた”ある事件”のその後を追う。人を傷つけることも、救うこともある「愛」を描く普遍的なストーリーだが、「プレイリスト・ムービー」と評されている通り、物語と密接にリンクしたサントラや、主人公の心理状態に合わせて変化していくアスペクト比、ミュージック・ビデオさながらの大胆なカメラワークなどが渾然一体となって、圧倒的な「映画体験」を観客にもたらす大作だ。
1988年生まれの監督が、自分や恋人らの体験をもとに作り上げたという『WAVES/ウェイブス』。その制作秘話や起用されている音楽への思い入れについて、たっぷりと語ってくれた。
【動画】『WAVES/ウェイブス』予告編
─監督は、『WAVES/ウェイブス』の構想を10年前から温めていたと聞きました。最初はどのようなプロットだったのでしょうか。
まず前半のタイラーのシークエンスは、ちょっと自伝的な要素もあるというか。僕が10代の頃に経験したことや、周りの友人たちから聞いた経験談をベースにしています。そこから自分自身が成長していくにつれ、その視点も徐々に加えていきました。ただ、最初から映画にしようと決めていたわけではなくて、高校時代にハマった『バッド・チューニング』『ブギーナイツ』『グッドフェローズ』『アメリカン・グラフィティ』などの映画から、「ティーンと音楽」をテーマに何か作品を作りたいと思ったのがそもそもの原点ですね。
─2部構成というスタイルはウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』にインスパイアされたそうですが、観客にどのような効果をもたらすと考えていますか?
2部構成にすることで、作品全体のテーマというか核心部分を表せていると思います。
─様々な「愛」の形、人生の破滅と再生をテーマにした『WAVES/ウェイブス』のストーリーそのものは、とてもシンプルで普遍的だと感じました。最初に挙げてくださった作品や、『恋する惑星』以外で何か参考にした映画はありますか?
10年かけて作ってきた作品なので、新しいものはどんどん取り入れていったのですが、実際に作り始めてからはテレンス・マリック『ツリー・オブ・ライフ』や、ポール・トーマス・アンダーソンの一連の作品、スタンリー・キューブリック、ロバート・アルトマン、ジョン・カサヴェテスなどの作品を、映画手法という意味では参考にしています。
─確かに、テレンス・マリックとスタンリー・キューブリックの影響は確かに強く感じました。
ありがとうございます。傾向としては「挑戦的なヒューマンドラマ」ですね。あとは音楽。高校時代の僕にとって音楽は欠かせないもので、常にいい曲を探していました。ラジオから流れてくる最新の音楽はもちろん、過去の音楽も幅広く聴き漁っているのは今でも変わらないですね。そして、その頃からいつか映画で使おうと思った曲をピックアップして、プレイリストを作っていたんです。
─特にフランク・オーシャンの一連の楽曲とレディオヘッドの「True Love Waits」の使い方がとても印象的でした。彼らに対する思い入れを聞かせてもらえますか?
フランク・オーシャンの『Blonde』は僕が最も好きなアルバムの一つで、僕の前作『イット・カムズ・アット・ナイト』をニューヨークで撮影していた時には、ずっと聴いていました。もちろん繰り返し聴いていて、先日もポッドキャストで『Blonde』を研究している番組を聴いていました(笑)。彼の音楽はとてもパーソナルで、聴いていると彼自身の人生を体験しているような気持ちになります。しかも、様々なレイヤーがあって誰しもが感情移入できる。一人ひとりの魂に訴えかけるところに惹かれます。
レディオヘッドは高校生の頃から夢中でした。最初は彼らの有名なシングルだけを聴いていただけで、何となく認識している程度だったのですが、地元のCDショップで『Kid A』をジャケ買いして一気にのめり込み、アルバムを遡って聴いていきました。実験的でありつつも美しく、それでいてポップな要素もあり、聴くたびに新たな発見がある歌詞の世界にも魅了され、アルバムのリリースを心待ちにする日々が続きましたね。ポール・トーマス・アンダーソンの新作を待っている気分に近いものがありました(笑)。
フランク・オーシャンの楽曲使用の説得には何カ月もかかった
─音楽の使い方で、特に思い入れのあるシーンは?
ロードトリップのシーンでは「Seigfried」(『Blonde』収録)を起用しているのだけど、恋人と旅に出た主人公が自由を肌身で感じている様子と見事にシンクロしています。納得がいくまで何度も編集していたら、最後は僕自身も泣き崩れてしまいました。
【画像】撮影中のトレイ・エドワード・シュルツ監督(写真)
フランク・オーシャンはこれまでに5曲も使用を許可したことがなく、彼を説得するのに何カ月もかかりました。最初の段階では彼のチームから「彼は今、創作活動に没頭しているから交渉は難しい」と言われ、のちに「1曲に減らせないか?」と言われた時にはパニックに陥りましたね。でも、フランク本人に手紙とラフカットを送ったら、時間を割いて見てくれて、全曲使用していいと言ってくれたんです。しかも減額で。彼とレディオヘッドの曲を使えたことは本当に夢のようで、いくら感謝しても足りないくらいです。
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
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─カニエ・ウェストへの想いも並々ならぬものがあるとか。
彼はとてつもない魅力があると思います。天才だし、どの作品も大好きですね。彼の精神はこの作品にあらゆる形で映し出されています。例えばタイラーのシーンで「I Am God」を用いたのは、まさに彼の気持ちを表していると思ったから。自分を「神」のような存在だと思っているし、その思いが周囲にまで浸透した状態になっています。また、タイラーの部屋にカニエのアルバム『The Life of Pablo』(2016年)のポスターを貼ったのは、このアルバム自体が自分と闘っている男を表しているから。
僕には、カニエの映画を作るという夢があります。彼は本当に研究のしがいがある人物ですし、その脳みその中を覗かせてもらって、これまでになかったような伝記映画を一緒に作りたい。『WAVES/ウェイブス』を観たらきっと気に入ってくれると思いますし、カニエとリラックスして最高の作品を作れたらうれしいですね。
─『WAVES/ウェイブス』は監督にとってパーソナルな内容ということですが、今の若者たちのライフスタイルもリアルに描いています。リサーチはどのように行ったのでしょうか。
基本的には僕の高校時代、僕の恋人の高校時代、ケルヴィン・ハリソン・Jrの高校時代の経験を参考にしています。エピソードはもちろん、周囲からのプレッシャーや悩みなど10代特有の感情もそう。また、今の10代を理解するために、SNSやウェブサイトなどを徹底的に調べました。実際に若者と会って話し、脚本を読んでもらって、率直なフィードバックを基に修正を加えています。今の10代も、僕たちの頃とさほど変わらないことが分かりましたね。違うのはInstagramなど、使うツールだけです。
「再生」を描く中で監督が伝えたかったこととは?
─主人公のタイラーは、周囲の期待による重圧と「自分らしく生きること」の間で葛藤し、取り返しのつかない結果を招いてしまいます。こうしたエピソードを描きたかったのはどうしてでしょうか。
これは僕自身の経験と、タイラーを演じたケルヴィン・ハリソン・Jrの経験をもとにしています。ケルヴィンとは前作『イット・カムズ・アット・ナイト』で出会い、驚くほど意気投合したから、絶対にまた彼と仕事をしたいと思っていました。本作のアイデアを彼に送ったところ、タイラーにすぐ共感してくれて。それからはテキストメッセージを送ったり、電話をしたりして、互いの過去のこと、両親や恋人との関係のこと、当時感じていたプレッシャーなどについて語り合いました。そのやりとりを僕たちは「セラピーセッション」と呼んでいました。
実際、僕らはすごく共通するものがあって、僕はテキサス、彼はニューオリンズで生まれ、共にミドルクラスで僕はレスリング、彼は音楽をやっていました。周囲のプレッシャーも大きく、親からは常に常に見張られているような感覚がありましたね。しかも僕はタイラーのように、レスリングで肩を痛めてしまったことがあるんです。当時は両親の仕事を手伝い、勉強も決して手を抜かず、周囲からは大人として扱われていたので一杯いっぱい。身動きが取れず、かわす方法も知らないから、全てをストレートに受け止めてしまっていました。
─そうだったんですね。
10代は大人でも子供でもなく、自分のアイデンティティを探していて、何かしら窮屈に感じているところがある。それがいきなり崩壊し始めたら一体どうなるのか。咀嚼する間もなく、話し相手もいないまま目の前でそれが起きたときに、一体どのような態度を取るのかを、この作品なりに追求したかったんです。
─第2部では、崩壊寸前までいった人々の、それぞれの「再生」を描いています。ここで監督が訴えたかったことを最後に聞かせてもらえますか?
前半で負のスパイラルを描き、最終的に悲劇が待ち受けているのですが、そこから立ち上がることができるのか?を後半で描きました。ルークも、エミリーの家族も僕や僕の恋人の経験がもとになっています。ルークが父親に会いに行くシーンはまさしく僕自身が経験したことで、ずっと疎遠だった父が癌になり、死ぬ前に会いにいかなければと思って恋人と会いに行ったんです。そこで彼を「赦す」ことができたのは、僕にとってとても大きかったと思います。
一方、恋人も同じようなパーソナルな経験をしていて。それらをもとに作っていきました。なので、愛する2人がお互いを助けながら悲劇を乗り越え、成長していく様をいかにリアルに描けるかにこだわりました。人生は山あり谷ありで、人は誰しも谷にいるときに「人生終わりだ」と感じがちですが、そこを越えれば必ず光が待っている。歳を重ねて、その光の部分がいかに大切か次第にわかってくる。そのことを皆さんに感じ取ってもらえたらうれしいです。
<INFORMATION>
『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー(配給:ファントム・フィルム)
構想に10年を費やしたという本作は、ウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』にインスパイアされた2部構成の作品。
第1部は、成績優秀かつレスリング部のエリート選手でもある高校生タイラーに焦点を当て、恵まれた家庭に育ち、何一つ不自由のない生活を送っていた彼が、厳格な父親ロナルドの重圧や美しい恋人アレクシスの妊娠発覚などにより次第に追い詰められていくまでを描く。
第2部では、タイラーの妹エミリーを中心に、第1部で起きた”ある事件”のその後を追う。人を傷つけることも、救うこともある「愛」を描く普遍的なストーリーだが、「プレイリスト・ムービー」と評されている通り、物語と密接にリンクしたサントラや、主人公の心理状態に合わせて変化していくアスペクト比、ミュージック・ビデオさながらの大胆なカメラワークなどが渾然一体となって、圧倒的な「映画体験」を観客にもたらす大作だ。
1988年生まれの監督が、自分や恋人らの体験をもとに作り上げたという『WAVES/ウェイブス』。その制作秘話や起用されている音楽への思い入れについて、たっぷりと語ってくれた。
【動画】『WAVES/ウェイブス』予告編
─監督は、『WAVES/ウェイブス』の構想を10年前から温めていたと聞きました。最初はどのようなプロットだったのでしょうか。
まず前半のタイラーのシークエンスは、ちょっと自伝的な要素もあるというか。僕が10代の頃に経験したことや、周りの友人たちから聞いた経験談をベースにしています。そこから自分自身が成長していくにつれ、その視点も徐々に加えていきました。ただ、最初から映画にしようと決めていたわけではなくて、高校時代にハマった『バッド・チューニング』『ブギーナイツ』『グッドフェローズ』『アメリカン・グラフィティ』などの映画から、「ティーンと音楽」をテーマに何か作品を作りたいと思ったのがそもそもの原点ですね。
─2部構成というスタイルはウォン・カーウァイ監督作『恋する惑星』にインスパイアされたそうですが、観客にどのような効果をもたらすと考えていますか?
2部構成にすることで、作品全体のテーマというか核心部分を表せていると思います。
陰と陽があってこそ全ては一体になるわけで、人生も同じことが言えます。愛があるから憎しみがある。常に表裏一体であることを作品で描きたかったし、かつキャラクターが経験すること、感じていることを表せたのではないかと思っています。
─様々な「愛」の形、人生の破滅と再生をテーマにした『WAVES/ウェイブス』のストーリーそのものは、とてもシンプルで普遍的だと感じました。最初に挙げてくださった作品や、『恋する惑星』以外で何か参考にした映画はありますか?
10年かけて作ってきた作品なので、新しいものはどんどん取り入れていったのですが、実際に作り始めてからはテレンス・マリック『ツリー・オブ・ライフ』や、ポール・トーマス・アンダーソンの一連の作品、スタンリー・キューブリック、ロバート・アルトマン、ジョン・カサヴェテスなどの作品を、映画手法という意味では参考にしています。
─確かに、テレンス・マリックとスタンリー・キューブリックの影響は確かに強く感じました。
ありがとうございます。傾向としては「挑戦的なヒューマンドラマ」ですね。あとは音楽。高校時代の僕にとって音楽は欠かせないもので、常にいい曲を探していました。ラジオから流れてくる最新の音楽はもちろん、過去の音楽も幅広く聴き漁っているのは今でも変わらないですね。そして、その頃からいつか映画で使おうと思った曲をピックアップして、プレイリストを作っていたんです。
─特にフランク・オーシャンの一連の楽曲とレディオヘッドの「True Love Waits」の使い方がとても印象的でした。彼らに対する思い入れを聞かせてもらえますか?
フランク・オーシャンの『Blonde』は僕が最も好きなアルバムの一つで、僕の前作『イット・カムズ・アット・ナイト』をニューヨークで撮影していた時には、ずっと聴いていました。もちろん繰り返し聴いていて、先日もポッドキャストで『Blonde』を研究している番組を聴いていました(笑)。彼の音楽はとてもパーソナルで、聴いていると彼自身の人生を体験しているような気持ちになります。しかも、様々なレイヤーがあって誰しもが感情移入できる。一人ひとりの魂に訴えかけるところに惹かれます。
レディオヘッドは高校生の頃から夢中でした。最初は彼らの有名なシングルだけを聴いていただけで、何となく認識している程度だったのですが、地元のCDショップで『Kid A』をジャケ買いして一気にのめり込み、アルバムを遡って聴いていきました。実験的でありつつも美しく、それでいてポップな要素もあり、聴くたびに新たな発見がある歌詞の世界にも魅了され、アルバムのリリースを心待ちにする日々が続きましたね。ポール・トーマス・アンダーソンの新作を待っている気分に近いものがありました(笑)。
フランク・オーシャンの楽曲使用の説得には何カ月もかかった
─音楽の使い方で、特に思い入れのあるシーンは?
ロードトリップのシーンでは「Seigfried」(『Blonde』収録)を起用しているのだけど、恋人と旅に出た主人公が自由を肌身で感じている様子と見事にシンクロしています。納得がいくまで何度も編集していたら、最後は僕自身も泣き崩れてしまいました。
【画像】撮影中のトレイ・エドワード・シュルツ監督(写真)
フランク・オーシャンはこれまでに5曲も使用を許可したことがなく、彼を説得するのに何カ月もかかりました。最初の段階では彼のチームから「彼は今、創作活動に没頭しているから交渉は難しい」と言われ、のちに「1曲に減らせないか?」と言われた時にはパニックに陥りましたね。でも、フランク本人に手紙とラフカットを送ったら、時間を割いて見てくれて、全曲使用していいと言ってくれたんです。しかも減額で。彼とレディオヘッドの曲を使えたことは本当に夢のようで、いくら感謝しても足りないくらいです。

©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
─カニエ・ウェストへの想いも並々ならぬものがあるとか。
彼はとてつもない魅力があると思います。天才だし、どの作品も大好きですね。彼の精神はこの作品にあらゆる形で映し出されています。例えばタイラーのシーンで「I Am God」を用いたのは、まさに彼の気持ちを表していると思ったから。自分を「神」のような存在だと思っているし、その思いが周囲にまで浸透した状態になっています。また、タイラーの部屋にカニエのアルバム『The Life of Pablo』(2016年)のポスターを貼ったのは、このアルバム自体が自分と闘っている男を表しているから。
おそらく『The Life of Pablo』のリリースは、タイラーや友人たちにとってビッグな出来事だったはずだと想像したわけです。
僕には、カニエの映画を作るという夢があります。彼は本当に研究のしがいがある人物ですし、その脳みその中を覗かせてもらって、これまでになかったような伝記映画を一緒に作りたい。『WAVES/ウェイブス』を観たらきっと気に入ってくれると思いますし、カニエとリラックスして最高の作品を作れたらうれしいですね。
─『WAVES/ウェイブス』は監督にとってパーソナルな内容ということですが、今の若者たちのライフスタイルもリアルに描いています。リサーチはどのように行ったのでしょうか。
基本的には僕の高校時代、僕の恋人の高校時代、ケルヴィン・ハリソン・Jrの高校時代の経験を参考にしています。エピソードはもちろん、周囲からのプレッシャーや悩みなど10代特有の感情もそう。また、今の10代を理解するために、SNSやウェブサイトなどを徹底的に調べました。実際に若者と会って話し、脚本を読んでもらって、率直なフィードバックを基に修正を加えています。今の10代も、僕たちの頃とさほど変わらないことが分かりましたね。違うのはInstagramなど、使うツールだけです。
「再生」を描く中で監督が伝えたかったこととは?
─主人公のタイラーは、周囲の期待による重圧と「自分らしく生きること」の間で葛藤し、取り返しのつかない結果を招いてしまいます。こうしたエピソードを描きたかったのはどうしてでしょうか。
これは僕自身の経験と、タイラーを演じたケルヴィン・ハリソン・Jrの経験をもとにしています。ケルヴィンとは前作『イット・カムズ・アット・ナイト』で出会い、驚くほど意気投合したから、絶対にまた彼と仕事をしたいと思っていました。本作のアイデアを彼に送ったところ、タイラーにすぐ共感してくれて。それからはテキストメッセージを送ったり、電話をしたりして、互いの過去のこと、両親や恋人との関係のこと、当時感じていたプレッシャーなどについて語り合いました。そのやりとりを僕たちは「セラピーセッション」と呼んでいました。
実際、僕らはすごく共通するものがあって、僕はテキサス、彼はニューオリンズで生まれ、共にミドルクラスで僕はレスリング、彼は音楽をやっていました。周囲のプレッシャーも大きく、親からは常に常に見張られているような感覚がありましたね。しかも僕はタイラーのように、レスリングで肩を痛めてしまったことがあるんです。当時は両親の仕事を手伝い、勉強も決して手を抜かず、周囲からは大人として扱われていたので一杯いっぱい。身動きが取れず、かわす方法も知らないから、全てをストレートに受け止めてしまっていました。
失敗は許されないと、常にストレスを抱えていたのを覚えていますね。
─そうだったんですね。
10代は大人でも子供でもなく、自分のアイデンティティを探していて、何かしら窮屈に感じているところがある。それがいきなり崩壊し始めたら一体どうなるのか。咀嚼する間もなく、話し相手もいないまま目の前でそれが起きたときに、一体どのような態度を取るのかを、この作品なりに追求したかったんです。
─第2部では、崩壊寸前までいった人々の、それぞれの「再生」を描いています。ここで監督が訴えたかったことを最後に聞かせてもらえますか?
前半で負のスパイラルを描き、最終的に悲劇が待ち受けているのですが、そこから立ち上がることができるのか?を後半で描きました。ルークも、エミリーの家族も僕や僕の恋人の経験がもとになっています。ルークが父親に会いに行くシーンはまさしく僕自身が経験したことで、ずっと疎遠だった父が癌になり、死ぬ前に会いにいかなければと思って恋人と会いに行ったんです。そこで彼を「赦す」ことができたのは、僕にとってとても大きかったと思います。
一方、恋人も同じようなパーソナルな経験をしていて。それらをもとに作っていきました。なので、愛する2人がお互いを助けながら悲劇を乗り越え、成長していく様をいかにリアルに描けるかにこだわりました。人生は山あり谷ありで、人は誰しも谷にいるときに「人生終わりだ」と感じがちですが、そこを越えれば必ず光が待っている。歳を重ねて、その光の部分がいかに大切か次第にわかってくる。そのことを皆さんに感じ取ってもらえたらうれしいです。
<INFORMATION>

『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー(配給:ファントム・フィルム)
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