サカナクションの「アイデンティティ」のように、アイデンティティ(自我同一性・自己同一性)は、アーティストたちにもテーマとして取り上げられることが多い言葉です。これは、「自己を確認すること」であり、「他の人に対して自分を証明し、そして自分に対しても自分を証明すること」(*1)です。あるいは「自分が自分であるという一貫性、時間的連続性を持っている感覚」(*2)、という説明もあります。サカナクションでは「アイデンティティがない」とサビで歌われていますが、「アイデンティティの喪失」という場合、簡単に言えばそれは「自分が何者か分からなくなってしまう」ということです。そうなってしまうと、メンタルにも悪い影響が出てしまいます。
アイデンティティは青年期に一度確立されると、後はそれが一貫して続く、あるいはそうあるべき、というようなイメージを持たれることがありますが、実際は必ずしもそうではありません。人は成長するにしたがって、職業やパートナーの選択、加齢や社会状況の変化など、多くの選択を突きつけられ、様々な変化に対応することになり、その都度「自分とは何者であるか」を問い直すことになります。アイデンティティの感覚は「一貫していくこと」と「絶えず変化し続けていくこと」とのジレンマに常にさらされているのです。
また、現代社会では、人は「多元的なアイデンティティ」を持つようにもなっています。相手との関わりや、活動場所での役割の違いに合わせて自分のアイデンティティを変えているのです。例えば「会社での自分」、「家庭での自分」、「遊び仲間・サークルの中での自分」などです。アイデンティティは他の人々との関わりの中で作られていく、社会的なものですので、社会が変わればその在り方も変わっていきます。
しかし、プロテウス的人間はアイデンティティの拡散・喪失に陥入りやすかったり、様々な役割や社会の要求に過剰適応してしまったりして、結果としてメンタルに不調を来す危険性も高くなります。そもそも、すべての人が変化できるわけではありませんし、変化できたとしてもそれがうまくいく保証はどこにもありません。また、複数の役割を担うことは「役割コンフリクト」という状況になってしまう場合もあります。役割コンフリクトとは、中間管理職の板挟み、家庭と仕事、組織と個人など、相異なる役割の間で、両立不可能な期待に直面して悩み、苦しむことです。アイデンティティが社会との関わりの中で生まれる以上、こうした摩擦はある程度避けられませんが、現代社会においてはプロテウス的人間として「変化していかなければ」「多元的でなければ」ならないために、よりこの役割コンフリクトは増大しています。
また、昨今では生涯学習のように、自己実現のために学び続けることが推奨されています。学び続けること自体はとても素晴らしいことですし、大切なことですが、それが「企業や社会から必要とされる人材」という「材」になることを目的として、変化することを強制され続けている結果としての生涯学習であるならば、そこには外部への過剰適応による自分のアイデンティティの喪失の危険も生じますので、注意が必要となってきます。
適切なカウンセリングを受けることは、変化の激しい社会の中で自分のバランスを調整していくためにも有効ですので、カウンセリングがより身近なものになっていくことを期待します。
参照
(*1)「自分とは何かー『自我の社会学』入門」 舩津衛 恒星社厚生閣
(*2)「青年期における同一性の感覚の構造―多次元自我同一性尺度(MEIS)の作成」谷冬彦 教育心理学研究 2001.49.P265-P273
「モラトリアム人間の時代」小此木啓吾 中公文庫
「自我のゆくえ」 舩津衛 社会学評論 1998.48.4 P407-P418
「カウンセリングを語るー自己肯定感を育てる作法」高垣忠一郎 かもがわ出版
<書籍情報>
手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
Official HP
https://teshimamasahiko.com/
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