「みのミュージックの令和ロック談義」第6回。今回は民謡にフォーカスを当て、邦楽に与えた影響を探ってみた。


民謡クルセイダーズからふと浮かび上がった疑問

民謡クルセイダーズをご存知だろうか。ラテンやレゲエのリズムで、日本古来のフォークミュージックとしての民謡を再構築する、という試みで傑作を連発しているバンドだ。

・Minyo Crusaders - Mamurogawa Ondo / Aizu Bandaisan - live at Le Guess Who? 2019

この開放的な、包み込むような土着的優しさを持つ音楽が、暗いニュースばかりが続く昨今、我が家の定番サウンドトラックとなりつつある。民謡の心地よいメロディにより親しみを感じるようになってきた頃、ふと一つの疑問が浮かんだ。この豊かな、民謡文化は邦楽にどれ程の影響を及ぼしているのだろうか。

日本語ロックははっぴいえんどが確立した? 民謡が邦楽に及ぼす影響とは

洋楽史のストーリーは単純明快である。エルヴィスがブルースを大衆化させて、ビートルズが曲を自作するようになって、複雑化しすぎたロックをパンクが打倒して、みたいな具合に大筋を思い描くのは容易い。もちろんこれらは一元的な見解であって、いくらでも反論が可能なのだが、実際広く受け入れられている。しかし、邦楽だとどうだろうか。

日本語ロックをはっぴいえんどが確立した、という神話はある程度のポピュラリティを確立しているが(これも最近だと、はっぴいえんど中心史観だとして物言いがつくことが多い)それ以外の明確なストーリーラインが欠けている感もある。そして、日本のフォークミュージックが民謡であるのならば、邦楽の縦軸ストーリーの中でどのような役割を果たしていたのだろうか。

・はっぴいえんど入門!いまさら聞けない疑問に答えます

セックス・ピストルズのし掛け人であったマルコム・マクラーレンはありとあらゆる手を用いて、セックス・ピストルズこそがロックンロールの正史を塗り替える、正当性のある作品を発表したように「でっちあげた」が、この類の貪欲さを持ち合わせた人物が邦楽にはこと欠けていたのだろうか。


みのが出会った邦楽をたどる書籍。『さよならアメリカ、さよならニッポン』

最近、邦楽を通史で論じる2冊の本に出会った。まず1冊目がマイケル・ボーダッシュ著の『さよならアメリカ、さよならニッポン ~戦後、日本人はどのようにして独自のポピュラー音楽を成立させたか~』。

タイトルからも見ても明らかなように、はっぴいえんどとそのメンバーの活躍を中心軸に置きつつも、所謂「はっぴいえんど中心史観」に陥ることなく、戦前のジャズシーンからCHAGE AND ASUKAまで縦横無尽にまとめあげている。特筆すべきは戦前戦後のジャズシーンに関する記述だ。この辺りのムーブメントが戦後歌謡曲の成立に果たした影響は大きく”東京ブギウギ”や”銀座カンカン娘”を世に送り出した作曲家・服部良一も、もともとはジャズマンであった。

驚いたのがジャズ民謡という混成ジャンルが一時人気を博していたという記述である。江利チエミ等の大物歌手がジャズのアンサンブルをバックに、”おてもやん”を歌う、といった光景が日常的であったわけだ。そしてその後、民謡的なメロディ感覚は、ポップスとしての戦後歌謡に受け継がれていくわけである。これは個人的に目から鱗が落ちるような発見だったが、同時に己の不学を実感せざるを得なかった。

裏・邦楽史の趣を見せる1冊『ジャップ・ロック・サンプラー』

もう1冊が、ジュリアン・コープ著の、少々眉をひそめたくなるタイトルを冠した『JAPROCKSAMPLER ジャップ・ロック・サンプラー -戦後、日本人がどのようにして独自の音楽を模索してきたか-』である。

非常に事実誤認が多く、勢いに任せて書かれたような印象を覚えざるを得ないのだが、試みとしては面白く『さよならアメリカ、さよならニッポン』とは異なり、意図的かと思える程にはっぴいえんど人脈を無視し、アウトサイダー的なアティテュードをもって、よりアヴァンギャルドな活動をしたアーティストにフォーカスしている。
こっちは言わば裏・邦楽史といった趣だ(ここでも逆説的にはっぴいえんどの磁力の強さ感じざるを得ないのだが)。

邦楽の縦軸批評の不在が招くものとは

皮肉にも両方とも外国人による著書であって、国内のこういった試みが如実に少ない事実を痛感せざるを得ない。縦軸の批評が不在だと、戦前、あるいはそれ以前から存在する豊かな邦楽の数々のエピソードは、統合されることなく徐々に朧げなものとなっていってしまうのではないか。例えばJ-POPの語が登場し、不必要なアイデンティティの挿げ替えが発生して、それ以前の邦楽とは別人格の如く振る舞いはじめたように。

※みのミュージック連載「みのミュージックの令和ロック談義」は今回で最終回となります。ご覧いただきありがとうございました。

Edited by Aiko Iijima
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