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ジョン・ボン・ジョヴィはマンハッタンの自宅のオフィスに腰かけていた。彼の肩越しに、背後の窓からニューヨークの摩天楼が見える。手榴弾からポップアート風のフォントで「POWER」の文字がスプレーされているシェパード・フェアリーのシルクスクリーンが、額装されて壁に飾ってある。窓ガラスには1ワールド・トレード・センターが映り込んでいた。
この日は9月11日。58歳の彼はいつものようにフリーダムタワーまで走ってきたところだった。そう遠くない場所では、9.11同時多発テロ事件の19回忌式典にマイク・ペンス副大統領とジョー・バイデン候補が現れるのを待つ人々が国旗を振っていた。あえて白髪を隠さないジョンは、色あせた黒いTシャツ姿で、左手首には時計とスマートウォッチをはめていた。Zoom取材――2020年の常識――のためにコンピュータの画面に身を乗り出し、これまでリリースしたアルバムとは一味違う15作目について語り始めた。
『2020』と題したアルバムは、銃乱射事件(「ロウワー・ザ・フラッグ」)から偽情報(「ブラッド・イン・ザ・ウォーター」)、警察による暴力(「アメリカン・レコニング」)、今も進行中のパンデミック(「ドゥ・ホワット・ユー・キャン」)にいたるまで、世の中の出来事を真正面からとらえている。一部のファンにとってはすんなり受け入れにくいだろう。
この投稿をInstagramで見るJon Bon Jovi(@jonbonjovi)がシェアした投稿 - 2020年 3月月19日午前7時41分PDT慈善活動で知られるジョンは、外出規制が始まってから最初の数週間、妻ドロシアと共に、自身の財団が運営する米ニュージャージー州レッドバンクの「JBJソウル・キッチン」で、困窮している人々に食事を提供。夫妻はその後、食料を必要とする地元の人々の需要に応えるべく、ロングアイランドのイーストエンド地区にフード・バンクを開設した。
「2020年の3月から9月にどんな生活を送っていたのか、きっと誰も忘れられないだろう」。ソーシャルディスタンスやPPE、ワクチンをずばり表現したCOVID-19の曲を書こうと決めた理由について、ジョンはローリングストーン誌にこう語った。「スペイン風邪の再来さ。だが誰一人、君も俺も、親世代も100年前にはまだ生まれてなかった。あの時の状況が今起きている。これは肩パッドやヘアスタイルの曲じゃない。いまの時代をとらえた曲なんだ」
数あるバンドの中でも労働者階級色の強いジョンは、荒涼とした「アメリカン・レコニング」で警察の暴力や人種間の不平等にあえて深く踏み込んだ。当初は「I cant breathe」(息ができない=ブラック・ライヴズ・マター運動と関連付けられるスローガン)というタイトルだったが、31年間連れ添った妻のドロシアに聞かせたところ、レコーディングするには物足りないと忠告された。
ジョンは白人の特権(White Privilege)、間違って解釈されたコリン・キャパニックのメッセージ、社会問題に鋭いメスを入れる彼にいら立つファンについて、包み隠さず語ってくれた。「奴は口うるさいから、あいつらのレコードは焼いてしまえ、なんて心無いことをいう人は……結局、最初から俺たちのことを好きじゃなかったのさ」
黒人コミュニティに対する自分なりの謝罪
―『2020』がすっかり完成したところで、アルバムを手直ししたいと思わせる2つの重要事件が起きました。COVID-19パンデミックと、人種間の不平等に対する全米抗議活動です。
ジョン:作業を終えて、あとは待つだけだった。レコーディングはほとんどナッシュビルで収録して、『Bon Jovi 2020』っていうタイトルを思いついた。あのタイトルにはちょっとした狙いがあってね。大統領選挙の年だろう。バンパーステッカーにしたらいけるんじゃないか、Tシャツも売れるだろう、と思ったんだ。でもレコーディング作業が進むにつれて、他と一線を画するにはもっと時事的な曲じゃないと、と気づいたのさ。
―「ドゥ・ホワット・ユー・キャン」(カントリーバージョンでシングルカットもされている)と「アメリカン・レコニング」の2曲を追加したのはなぜですか?
ジョン:年が明けて、俺たちはアルバムリリースとツアーの準備に取りかかっていた。そこでCOVID-19が深刻化した。
―とても重々しい曲ですよね。”息ができない”とか”いつから判事と陪審員は警察バッヂと膝になったのか”というような歌詞も出てきます。白人として、どういうアプローチで人種間の不平等をとらえたのでしょう?
ジョン:(しばし無言で)世界がストップして、みんながテレビを見たり、期待を込めて新聞を読んだり、今起きている出来事について意見をまとめていた時に、突然1人のアフリカ系アメリカ人の死を目の当たりにした。世界がストップしてしまったからか? 音声付きの画像があまりにも鮮明だったからか? 理由はどうあれ、世間の胸に刺さった。もちろん俺の胸にも。彼の友人がTVに出て、朝の番組の司会者に向かって「息を引き取る前に、彼は母親に呼びかけていました」と言うのを見て、目頭が熱くなった。俺にとって、この時の気持ちを表現する唯一の方法は妻と話し合うこと、そしてじっくり腰を据えて曲を書くことだったんだ。
この曲はかなり苦労したよ。いつものように(妻に)相談したら、「メロディはすごくいいけど、コーラスの部分はいまいち」だと言われた。それであらためて作り直した。そのあと共同プロデューサー/ギタリストのジョン・シャンクスに曲を送る作業に入った。彼はしばらく返事を保留して、かなり厳しいことを言ってきた。そしたら今度はまた(ドラマーのティコ・トーレスから)厳しいことを言われたよ。
―具体的になんと言われたんです?
ジョン:ティコはジョンと同じことを言った。「なんか落ち着かないな。歌詞をひとつひとつ説明してくれないか」ってね。2人に「どこが問題なんだい?」と聞いたら、「『息ができない』っていうフレーズがしっくりこない」って言われた……それでバンドのみんなで話し合って、「アメリカン・レコニング」というタイトルのほうが格段にいいという話になって、レコーディングし直した。それを家に持ち帰って、アフリカ系アメリカ人も含め、貴重な意見をくれそうなあらゆる立場の人々に聞いてもらった。細かいところまで話し合ったよ。
あの曲を書いたのは、コミュニティに対する自分なりの謝罪だった。周りと同じように、自分もあらためて学んでいるよ、と伝えたかった。俺が白人の象徴(poster boy)じゃないとしたら、他に誰がいる? 金持ちの白人成人男性。たまたま警察に車を停められても、おそらくパトカーでスタジアムまでお送りしましょう、と言われるような人間だ。わかるだろ? 黒人の立場で、1マイルも歩かされる経験は俺には到底わかりっこない。俺が知っているアフリカ系アメリカ人はソウル・キッチンで会う人々か、レコード会社の重役、スポーツ選手、あるいは金持ちだけ。もし(この曲をめぐって)キャンセルカルチャーが起きるなら、俺は喜んでキャリアを棒に振るつもりだった。この作品には誇りを持っていたし、(フロイド)事件は本当にすまないと思った。あんな事態になって申し訳ないと思ったんだ。
社会問題と向き合う理由
―キャリア初期のころ、社会問題を題材にした曲を書きたいと思ったことはありましたか? あるいは、ファンからなにかしらの要望があったんでしょうか?
ジョン:実際のところ、俺はいつも社会問題には敏感だったんだぜ。冷静に見てもらえば、「夜明けのランナウェイ」も社会的な曲なんだ。マンハッタン行きのバスに乗っていたとき、ふとバスを降りてアップタウンのスタジオまで歩いて行こう、という思いがよぎったんだ。
―『2020』の楽曲は一部の保守的なファンの意に沿わないかも、と思うことはありますか?
ジョン:批判されるだろうね、政治的だと思われるだろうから。それは避けられない。でも他にどうしろっていうんだ? 自分をごまかして、適当に曲を売ってろって? 今、人生のこの時期にやらないでどうする? 今は36年ぶりに「禁じられた愛」をリメイクするよりも、主張のある曲を作るほうが自分にとってずっとずっと大事だった。そういう曲に全く興味がない時期もあるだろう。でもどういうわけか、あの時は書きたかったんだ。

―あなたは熱心なアメフトファンですよね。「ブラザーズ・イン・アームズ」という曲には”膝をつく奴の存在を勝手に解釈したり、定義するな”という歌詞が出てきます。明らかにコリン・キャパニックのことですよね。彼の抗議についてどう思いますか? スタジアムに必要だと思いますか?
ジョン:ああ、世間に俺の意見をぶちまけられたらいいんだがな。(間をおいて)俺の意見は、コリン・キャパニックは星条旗にたてついて跪いたわけじゃない――彼は人種格差や警察の改革に対抗してああいう行動をとった。NFLは筋を取り違えて、それを修正しようともしなかった。だからあれは国旗への侮辱ということにされた。もし国旗への侮辱なら、俺も騒ぐ連中を完全に理解できただろう。そういうのはスタジアムにはいらない。コリン・キャパニックはそうした運動の代弁者で、その結果、生活を失ってしまった。国旗にたてつくような奴がいれば、俺も喜んで相手になってやる。俺はこの国が重きを置く価値観を愛しているが、NFLは筋を取り違えたと思っている。彼が跪いた理由はそこじゃない。
―彼の行為の理由は間違って解釈された、あるいはほかの理由にすり替えられたと?
ジョン:そうだ。いいか、すべては小さなバンパーステッカーに集約されている。「愛せよ、さもなくば去れ」。この国が好きじゃないなら、出ていけ。俺も完全に分かるし、はっきり言って賛成だ。祖国に反抗するなら、出ていけばいい。でも、彼がやろうとしていたことはそうじゃないと思う。
2020年に「スーパーマンのタトゥー」が意味するもの
―「これは政治的アルバムではない」と熱弁していますが、あなたが政治的にどちら寄りかは明白でしょう。あなたの人生やキャリアをたどれば、あなたの政治観はわかりますよ。
ジョン:(2016年の当選演説で)ドナルド・トランプの発言でひとつだけ正しかったことがある。彼は、すべてのアメリカ国民の大統領になる、と言った。あれは本音だったと思うよ。アルバムを政治利用するつもりはないが、そういう話はウェルカムだ。共和党の政策を悪く言うつもりはない。実際、悪いとは思ってないしね。彼らのゆるぎない信念には俺も素直に耳を傾けるし、友人の中には共和党支持者もいる。政策に関してはなんの問題もない。民主党の信念にどっぷりつかっているというわけでもないしね。俺はふさわしい人間に投票する。ただ正直に言わせてもらえば、「私はアメリカ合衆国大統領だ」と言ったら、それはすべてのアメリカ人の大統領であるべきだ。
俺にとって一番ショックなのは大統領が「青い州、民主党の知事や民主党の市長がいる青い州など知るもんか」と言った時だ。神に誓って言うが、(青い州にも)自分に投票してくれる共和党支持者はいる。ニューヨークに背を向けるのはやめてくれ。今日ジョギングした時も、フリーダムタワーの前で有権者たちが旗を掲げて噴水のそばに並んでいた。それなのに、彼らに背を向けて「ニューヨークなど知るか、ニュージャージーなどくそくらえ」なんて言うのはやめてほしい。
―80年代ロックの同期、セバスチャン・バックはTwitter上で熱心に政治的発言をしています。あなたと彼が、この国の理性の政治的代弁者だと感じたことはありますか?
ジョン:いや、俺は(Twitterで)彼をフォローしてないんだ。でも彼には頑張ってほしい。彼はカナダ人なのに、この国にやって来て、俺たちの国旗を誇りをもって掲げている。熱いやつだ。
―検疫中、どんな音楽を聴いていましたか?
ジョン:ついつい知っているアーティストばかりになるんだが、時々他のアーティストをふと耳にすると、音楽ビジネスの未来は素晴らしい連中の手にゆだねられている、と感じるね。今どきの連中でいえば、ハリー・スタイルズは本物だ。彼は本当にすごい。テイラー・スウィフトも本人が望む限りずっと活躍するだろう。彼女は人間としても、アーティストとしても成長している。ザ・ナショナルのメンバーとやったあれ、ああいう冒険をした点はすごいと思う。それと(ディクシー・)チックス! 彼女たちが復活して本当にうれしいよ。彼女たちはどん底を経験して、最高のアルバムをつくった。ロックバンドで言えば、今もずっとキラーズのファンだ。新旧問わずいろんな音楽があって、どれも気に入っているよ。
―上腕二頭筋にスーパーマンのタトゥーをしていましたよね。58歳になって、どんな意味合いを持っていますか?
ジョン:もうすっかり色あせたけど、ああ、いまも肩にある。1986年か87年にあれを入れたときは、スーパーマンのつもりだった。でも本当は『Slippery When Wet』のために入れたものさ――俺自身、スーパーヒーローの時期はもう過ぎ去った。ひととおり経験して、てっぺんまで上り詰めた。今では「S」はサバイバーのS。色あせてボロボロだけど、彩色しなおすとかそういうことはしたくない。でも確かにその通り、俺たちはサバイバーだ。
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ボン・ジョヴィ
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リミットレス(ミュージック・ビデオ)
アンブロークン(ミュージック・ビデオ)
ドゥ・ホワット・ユー・キャン(ミュージック・ビデオ)
この投稿をInstagramで見るJon Bon Jovi(@jonbonjovi)がシェアした投稿 - 2020年 5月月9日午前8時59分PDT