米人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ(以下、SATC)』の続編・リブート版として米HBO Maxにて配信予定の『And Just Like That(原題)』が、最悪のアイデアであることを裏付ける理由はたくさんある。
だがリブート版SATCが、最悪であるという一番大きな理由は、主要キャスト4人が3人に減っている点だ。そう、私たちがこよなく愛するシリーズ全体のムードメイカー的存在であり、大のセックス好きのPR会社の社長サマンサ・ジョーンズ(演:キム・キャトラル)がいないのだ。
かねてからサマンサ役のキャトラルは、意地悪な女子グループから事あるごとに仲間外れにされてきたと他のキャスト3人との確執を公言してきた。SATC事情に詳しくない人のために、ここで主要キャストをおさらいしておこう。他の3人とは、悩み多きライターのキャリー・ブラッドショー役のサラ・ジェシカ・パーカー、辛口の弁護士ミランダ・ホッブス役のシンシア・ニクソン、”白人・アングロ=サクソン・プロテスタント”の象徴のようなアートディーラーのシャーロット・ヨーク役のクリスティン・デイヴィスだ(ニューヨーク州郊外のリゾート地ハンプトンズでの撮影中、別荘に招待された・されないをめぐるトラブルがキャストのあいだで勃発)。インタビューでキャトラルは、SATCシリーズは卒業したと繰り返し語ってきた。キャトラルの肩を持つかどうかは、あなたが弱者(キャトラル)の味方である、あるいは知名度を利用した400ドル代のシューズブランド(パーカーが2014年に立ち上げたシューズブランドSJP)のファンであるかなど、立場次第といったところだろう。だが、リブート版SATCの実現を切実に願っていたファンは、心のどこかでサマンサの不在を覚悟していたに違いない。
写真左から:ミランダ・ホッブス役シンシア・ニクソン, キャリー・ブラッドショー役サラ・ジェシカ・パーカー、シャーロット・ヨーク役クリスティン・デイヴィス、映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』のワンシーン(©Warner Bros/Courtesy Everett Collection)
しかしながら、サマンサ不在のリブート版SATCは本当の意味でのSATCではない。それは金目当てのコピーであり、いまだに根強い人気を誇るオリジナルシリーズの要素を切り取った、つまらないスクリーンショットに過ぎないのだ。SATC通の批評家たちも知ってのとおり、SATCのテーマはセックスでもなければ大都市ニューヨークでもない。高級な靴、ミスター・ビッグ役のクリス・ノーツの割れあご、とりあえずウエストの高い位置にベルトを巻くファッションでもないことは言うまでもないだろう。SATCは女同士の友情の強さを描いた作品なのだ。女友達のグループの中心的存在がひとり欠けているという事実は、女同士の友情という概念そのものに対する裏切り行為に等しい。
もし、パラレルワールドでキャトラル以外の女優がサマンサを演じていたら、サマンサというキャラクターは風刺の域を出なかっただろう。彼女は笑えるくらいセックスが大好きで、その度合いは熟女ものポルノくらいでしか見かけないほど強烈なのだ。セックスシンボルと目された女優メイ・ウェストばりの気の利いた性癖に関する名言は有名で(「ダーティ・マティーニはあんたよ!」と浮気した恋人の顔にマティーニを引っ掛けるシーンなど)、シラフでよくそこまでといえるくらい自信満々のサマンサは、同性愛恐怖症の人がイメージする40代のドラァグクイーンのような存在だ。実際、多くの人がサマンサを”女装したゲイ男性”と的確に表現してきたが、この表現はキャトラル本人による人物描写よりも同性愛者の男性のセクシュアリティについて多くを語っている。
サマンサというキャラクターの漫画のような側面と、遡及的に批判されてきたいくつかの不適切な過ち(サマンサが有色人種の男性とデートした際に相手のことを「大きくて黒いあそこ」と言ったエピソードを参照)にも関わらず、サマンサには優れた点が数え切れないほどある。
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SATCシリーズを通してキャトラルの演技がいかに重要であるかは、どれだけ強調してもし過ぎることはない。下手な女優がサマンサを演じれば、サイモンとガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」にアニメ『ロジャー・ラビット』に出てくるセクシー美女ジェシカとドラァグクイーンのルポールを少々加えたような、肉食系クーガー女程度のキャラクターで終わってしまうだろう。「ミスター・ビッグとデートしてるの? 私の相手はミスター・トゥー・ビッグよ!」のような下ネタめいたセリフが印象的なキャトラルの演技がパロディの域を出ない一方(以前クリスティーナ・アギレラは人気深夜番組『サタデー・ナイト・ライブ』で完璧なモノマネを披露した)、彼女は脚本家から与えられたよりもはるかに優れた繊細さを常に加えながらサマンサを演じてきた。サマンサのいかつい外見と唯一肩を並べられるホテル王リチャード(演:ジェームズ・レマー)に裏切られるエピソードは、まさにその好例だ。
批評家は、人種とセクシュアリティをめぐるSATCの無数の欠点(サマンサが”レズビアンになった”エピソードを覚えているだろうか?)だけでなく、適度なアメコミふうのギャグにも注目してきた。オオカミのように恐ろしくなりかねないキャラクターに温もりと快活さをもたらしたキャトラルの名演(シリーズ撮影中に彼女が経験した惨めな出来事を考えるとなおさら胸を打つ。というのも、とりわけパーカーによるひどい仕打ちに苦しんでいたとキャトラルは主張しているのだ。それに対して公の場でパーカーが腹立たしいほど終始優しく寛大に振る舞った結果、キャトラルのほうが小さな人間として世間から見られるようになってしまった。これを理由に、筆者はキャトラルの言葉が真実であると思っている)。2004年にエミー賞に輝いたシンシア・ニクソンの抑えた演技こそが本物の”アクティング”だと多くの人は言うが、あるシーンで「息があってひざまずける限りは、好きな人にシテあげるわ!」とキャリーに堂々と宣言するサマンサほど可笑しく、観る人を楽しい気分にしてくれるものは存在しない。
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リブート版SATCがサマンサの不在をどのように処理するかについては、さまざまな議論がなされてきた。キャトラル本人は、たとえば有色人種の女性やジェンダーにこだわらない役者によって4人のキャラクターが新たにキャスティングされるのを見てみたいと話している。これは特権だらけの白人女性というキャラクターをきれいに覆い隠すようだとは言わないまでも、立派な目標だ。
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