バンド結成をして8年目を迎えた今年、彼らがついにメジャー1stデジタルEP『ONE-EP』でメジャーデビューを果たす。なぜ、このタイミングでメジャーの世界で勝負をしようと思ったのか。これから彼らが目指すべき道はどこなのか? バンドの現在地について話を聞いた。
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―先日、渋谷クアトロのワンマンライブ(「SPiCYSOL QUATTRO TOUR 2021」)を拝見しました。最後にサプライズで皆さんと交流のある著名人から、メジャーデビューのお祝いメッセージ動画が流れましたね。
KENNY:本当に何も聞かされてなかったんですよ。本来なら俺が合図を出したらステージ脇にスクリーンが出てきて、皆さんに公開前のMVを観ていただく段取りだったんですね。ところが、まだ合図を出していないにも関わらずスクリーンが出てきて。「あ、スタッフさんが間違えて出しちゃった」と思ったら、見たことのない映像が流れ始めた。しかも最初に画面に映ったのが大黒摩季さんっていう!
AKUN:俺は突然のこと過ぎて、摩季さんが袖から登場したのかと思ったんですよ! 「あ、摩季さんが来た!」と思って袖を見たら姿がなくて。
KENNY:スクリーンに気付いてなかった?
AKUN:全然気付いてない! それで横を見たらスクリーンに摩季さんが映ってて。
KENNY:摩季姉の「早くここまで上がってきなさい」という言葉に、結構ウルっときちゃって。
KAZUMA:摩季さんに続いてベリーグッドマン、槙野(智章)くん、結木滉星さんがコメントをくれて、すごく嬉しいハッピーな気持ちが込み上げましたね。
AKUN:コメントをくださった皆さんは、ただ交流があるだけじゃなくて、これまでのバンド活動で大きなポイントになっているんですよ。例えば、SPiCYSOLを始めて少しずつフェスにも呼んでいただけるようになった時、『WILD BUNCH FEST.』というフェスでOPアクトを務めることになって。俺らの後がベリーグッドマンだった。彼らはUK.PROJECTに入って、初めて仲良くなれた同世代のアーティストだったんですよ。それと槙野くんはSNSで「Coral」の動画上げてくれたのを機に交流が始まって、結婚式にも呼んでくれた上に俺らに「演奏して欲しい」とまで言ってくれた。今となれば本当に大事な友人です。
KENNY:そうだね。千葉のBayFMというラジオ局で『ソル!ソル!ソ~ル!』というレギュラー番組をやらせていただいてたんですけど、その翌年に千葉でサーフィンの大会が行われるということで「ちょっとDJ陣で集まりませんか?」とBayFMの呼びかけによって、各DJが集まったんですね。そこに大黒摩季さんがいらっしゃって。初めて挨拶をさせていただいた時から「あんたら良いよね!」と言ってくれて。
KAZUMA:摩季さんとのライブは本当に忘れられない。俺らはバックでサポートをさせてもらったんです。SPiCYSOLが取り囲んでいる真ん中に大黒摩季がいる、という昔なら想像もしない状況ですし、摩季さん越しにみるお客さんの顔や、「ラララ」を演奏しているのも目に焼き付いてるしターニングポイントになってます。
AKUN:うん。摩季さん、ベリーグッドマン、槙野くんとそれぞれとの歴史があっての今、という感じがありましたね。
―その歴史を紐解いていきたいんですけど、改めてSPiCYSOLの道程をどのように感じてますか。
KENNY:正直、ここまで来れたのは出会った方々との繋がりでしかないです。もちろん頑張ってきたし、実力をつけるためにめちゃめちゃ練習とか、「どうしたら売れるのか」をずっとみんなで考えて試行錯誤してきたんですけど…… やっぱり人との繋がりでここまで来れたとしか思えなくて。それは俺らのことを良いと言ってくれた事務所の人たちがいて、今回はレーベルの人が良いと言ってくれたおかげでメジャーデビューまで来たし…… 最初に遡ると俺とAKUNが飲み友達じゃなかったら、そもそもSPiCYSOLは生まれてないし、ここまで至ってない。
―そうですね。
KENNY:きっと他のバンドさんもそうで、バンドってアーティストの中でも奇跡的な要素が詰まって初めてできるものなんじゃないかなって思っています。
ー振り返ると2014年にロッキング・オン主催のバンドオーディション『RO69JACK 2014』で入賞したのが、世間から評価された第一歩ですよね。
KENNY:うん。あれはUK.PROJECTに入る前でしたね。
―あの時点で集客力はどうでした?
AKUN:いや、全然ですよ。東京だとお客さんを100人呼べるかどうかでしたね。
KENNY:規模は小さかったですけど、とにかく地道にやっていくしかないと思ってました。あとは作っている作品に対しての自信はあったので、何かしらのコンテストで箔をつければ広がっていくのかなと思って、それで出たのが『RO69JACK 2014』だった。で、その後にUK.PROJECTに入ることになりまして。
―当時のUK.PROJECTって「下北系のバンドを抱えている事務所」のイメージが強かったじゃないですか。
KENNY:うんうん。
―SPiCYSOLはUK.PROJECTっぽくないのに、どうして所属することになったのかなって。
KENNY:ありがたいことに何社かお声をいただいていた中で、一番熱心だったのがUK.PROJECTのスタッフさんでした。その頃はKAZUMAもPETEもサポートだったから、俺とAKUNで大人のレコード会社の人たちとやりとりしていたんです。どこぞの大きい会社は「じゃあ上に話してみます」と言うものの「その上のものがロスに行ってて……」とか言うんですけど、そんなの知らねえよ! と。そういう曖昧な返答の会社が多かった中、UK.PROJECTの方はちゃんと俺らと向き合ってくれて即決で判断してくれた。そういう意味で、俺らの精神は下北だったのかもしれないですね。で、そのスタッフさんと下北の「よい天」という居酒屋で朝方くらいまで飲んで、くだらない話もしたんですけど、人間性的に素敵だなと思って。だから人で選ぶのが間違いないよね、とAKUNと話し合って決めましたね。
AKUN:懐かしいな。年齢的にも立場的にも人生の先輩なのに俺らと同い年? って思わせてくれるくらいの距離感で飲ませてもらった。しかも最後に行ったお店では、たまたまUK.PROJECTの社長がいて一緒に飲ませてもらったんですよ。
―皆さんの距離が近いのは良いですよね。
AKUN:ついこの間UK .PROJECTのラジオ番組(『UKPラジオ』)があったんですけど、社長に「あの日、居合わせたのは狙ったんですか? それともたまたまですか?」と聞いたんですよ。
―UK.PROJECTという事務所の音楽性は知ってたんですか。
KENNY:正直、音楽業界のことを全く知らなくて。UK.PROJECTがどんな会社なのか知らなかったので「UK.PROJECT=この音楽」という認識がなかったです。いざ入ってから「アレ? 俺たち異質なのかな?」と(笑)。関係者の方たちからも「SPiCYSOLってUKっぽくないよね」と良くも悪くも言われて、「もしかして、俺たちはみにくいアヒルの子なのかな」って。
PETE:アハハハ!
AKUN:鏡を見て、みんなと違うぞ! と。
KENNY:そこで初めて気づいたんですけど、ただ会社の方針や人がすごい良くて。辛いというか苦労はしたけど、いまだにあの時の判断は間違ってなかったと思いますね。
―2015年にデビューをすると、その年に「SUMMER SONIC」や「TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIAL」など大型フェスに出て、多くの人の目に触れる機会を得ましたね。
AKUN:シンプルに嬉しかったですけど、そのぶん力の無さを感じたというか。
KENNY:うん。その年のSUMMER SONICはファレル・ウィリアムスとかアリアナ・グランデが出演してて、言ったら同じイベントに出演しているわけですよ。それで「全然実力不足だわ」と思って悔しくなったのを覚えてますね。
KAZUMA:実力が同等じゃないのは当たり前なんですけど、如実に自分たちの力が足りないことを突きつけられましたね。
―とはいえ、その後もどんどん大きなフェスやステージで歌うようになって。おそらくもっと前からメジャーデビューの話は来ていたと思うんですけど、それでもインディーズで活動をしているということは、そこにSPiCYSOLなりのアイデンティティあるのかなと思ってました。
AKUN:いやぁ、より良くなるならそっちを選ぼうというシンプルな感じかな。メジャーに行きたかったからワーナーと一緒にやっているわけじゃなくて、ワーナーのチームが良かったから一緒に上がっていきましょう、と。なので人とタイミングがハマってメジャーデビューに至ったんですよ。確かに「なんで今さらメジャーデビューなんだ?」と思うかもしれないですけど、言ってしまえば仲間が加わっただけですね。
―そうなんですか? 2019年、KENNYさんが大黒摩季さんのツアーに呼ばれて、NHKホールのステージに立ちましたね。終演後、大黒さんに「摩季姉、俺もここでやりたい。お客さんが満タンの中で歌いたい」と言ったとか。もしかしたら、そのタイミングで「メジャーの世界で勝負したい」と心に火がついたのかと思ってました。
KENNY:もちろん武道館とかドームとか大きなステージ出られたら嬉しいなって、漠然とは考えてましたよ。ただ、どういうステップで上がっていけば良いのかは全く知らなくて。ライブハウスだったらどこでも良いでしょ? と思っていたんです。だけど、摩季姉の「伝えることへの力強さ」をお客さんよりも近い距離で感じてしまうと、「こんなに素晴らしいものがあるのか」と痛感して、「俺もここでやりたいです」と言いたくなったし、気持ちのスケールが大きくなった気がしますね。昔はドームへライブを観に行っても、ただただ楽しむだけで、自分がやるビジョンが全然見えてなかったんですけど。今は数万人規模のステージに立てるようなバンドになりたいと思うし、それがメジャーへ行ったきっかけでもありますね。
―満を辞してリリースされるメジャー1stデジタルEP『ONE-EP』は、いつから制作をスタートしたんですか。
PETE:去年末からですね。
KENNY:1曲目「ONLY ONE」は「TELASAオリジナルドラマ『主夫メゾン』の主題歌を書いて欲しい」というオファーをいただいたのがきっかけで作ったんですよ。ドラマっぽいデモ曲というのを、そんなにイメージして作ったことがなかったけど、とにかく急ピッチで仕上げましたね。
―一番意識したのは何ですか?
KENNY:俺らも番組スタッフもサビ始まりの曲が良いなと思って。なので、俺がサビを何パターンを作ってPETEと揉んでいきましたね。
―曲の構成がいつものSPiCYSOLと違う印象を受けました。
KENNY:ドラマチックにしたかったんですよ。ドラマってすごいハッピーなシーンが流れたと思いきや、ラストで急に暗くなって「え! どうなっちゃうの?」みたいなシーンごとのテンポ感が良いじゃないですか。なのでサビから始まってキラキラした世界観かと思ったら、バンドインをして違う雰囲気になりつつも、主人公の爽快かつ平和な日常シーンがあって、オチでは泣きのシーンも入るような構成を1曲の中で表現できたらと思って作りましたね。あとはサウンドプロデューサーにShin Sakiuraさんを迎えたことも大きかったです。彼の音感と音選びの今っぽさも相まって生まれた構成ですね。
―アレンジはどのように考えていかれたんですか。
AKUN:ギターのフレーズ的に、もうちょっとテンポが遅い方がやりやすいと思っていたんですよ。だけど、あえてこのBPMでこのノリだからこそ、甘ったるくならずに軽快に進む感じが、ドラマの内容ともリンクしてる。あとはリフですかね。Shinくんと話し合ってお互いの力を融合させた上で、ギターのサウンドが出来上がりましたね。
―PETEさんはいかがですか?
PETE: Shinさんの音感がすごく新鮮でした。全体的な音感というのは今までの僕たちにない軽さというか、軽快さがあって今っぽいなと思って勉強になりましたね。
―「Shinsさんの音感」と言いましたけど、言語化するとどういうことですか。
PETE:J-POPって楽曲にパンチを与えるために、音をどんどん重ねていくじゃないですか。逆に、洋楽はすごく音がスッキリしてる曲が多い。そういう意味でパンチがありつつもスッキリしたサウンドを目指すのって、実はすごく難しいんですよね。だけどShinさんがちゃんとトレンドを押さえている人なので、シンセでも低音域をそこまで重ねているわけじゃなくて、スッキリしつつもバンドの音感になっている。ダンスミュージック的な良い軽さとバンドミュージックの重さが絶妙なバランスで構築できたなと思いますね。
―KAZUMAさんはどのように取り組みました?
KAZUMA:ドラムマシーンの音をベースに、裏で生ドラムを入れてます。バンドのドラマーって生ドラムじゃないと嫌だ、というこだわりがある方も多いと思うんですけど、俺はそこに固執していなくて。そもそも打ち込みの格好良さも理解しているし、曲が良くなれば1曲通してドラムを叩かないのも全然アリだと思っています。今回は打ち込みと生ドラムを良いバランスでレコーディング出来たんじゃないかな。
KENNY:このドラムパターンは俺が考えたんですけど、UKのハウスをイメージしているんですよ。
KAZUMA:分かりやすく言えば、宇多田ヒカルさんとか平井堅さんの曲によく多用されている2ステップなんですけど。それによって楽曲の軽やかさを演出できてますね。
―2曲目「From the C」ですけど、この「~the C」は過去にもありますよね。
KENNY:そうっすね。「To the C」でデビューしているので「ここから再始動だ」という意味もあるし、メンバー4人中3人が茅ヶ崎に住んでいることも合って「From the C」を作りました。
AKUN:去年茅ヶ崎に引っ越したんですけど、コロナ禍で周りの皆さんが「SPiCYSOLを聴いてるよ」と言っていただけたことが、俺的にはすごい支えになってました。茅ヶ崎に住んでいたから、コロナの辛い気持ちを乗り越えることができた。だからこそ、茅ヶ崎で何か音楽をやりたいなと考えてて。友達に「ライブができるところないですか?」と聞いたら、「茅ヶ崎会館があるよ」って。そこは発表会とか演説に使っている会場らしいんですけど、やるならこのタイミングだなと思って、会場を押さえました。「せっかくライブをやるなら新曲を披露しようよ」とメンバー間で話し合って「From the C」を作ったんです。だからライブスタートで生まれた曲でしたね。
―茅ヶ崎に移住したから生まれた曲だったと。
AKUN:自然もあるし、人も温かいし、街にはアートも音楽も盛んだし、色んなインプットができる街なんですよ。都内にいたら同じスーパーを行き来するだけだったと思うんですけど、茅ヶ崎だから外へ出れば海があるし、良い空気が吸えて気持ちも晴れやかになる。そんな環境だからこそ「From the C」が作れましたね。
KAZUMA:あんまりドラムドラムしてないというか。タムが3つに、フロアが2つなので点数は多いんですけど、それを感じさせないような軽さというか。なのでタムの鳴りとかも余韻の深い感じではなく、ちょっとジャズチックな音色で16分の音符を意識したドラムになりましたね。
PETE:ドラムのミックスは、めっちゃこだわってたよね。
KAZUMA:そうだね。ドラム以外の楽器の混ざりが良くなるのを一番意識してて。「NAISYO」とか「ONLY ONE」はかなりドラムが主張しているんですけど、「From the C」は奥の方で点数の多いパーカスが鳴ってるくらいのイメージで叩いてます。
―3曲目「NAISYO」はどのように作られましたか?
AKUN:先日、千葉にある一軒家のスタジオで作曲合宿をしまして。ずっとスタジオにこもるよりかは、時間を決めて「こういう曲を作りましょう! じゃあ解散!」と言ってみんな各々の部屋に戻って、またみんなで集まって音源を確認しながら作りました。都会の喧騒から離れた場所で、無理をせずに集中して作れたのがすごく良かったですね。
―今作の中で一番「NAISYO」好きでした。こういうブラックミュージックのノリに、歌と楽器の隙間感を与えることで大人な雰囲気を増長してますよね。
AKUN:今回は3曲とも世界観がバラバラだけど、「ONLY ONE」のリフと「NAISYO」の最初のイントロとかはちょっと似ているというか、それが俺のマイブームなのかもしれない。ギターなんだけど、ギターっぽい音をしてないのがマイブームで。その辺が実は統一されているというか。ただ「NAISYO」は一番雰囲気がありますよね。軽快な感じと、爽やかな感じと、大人な感じをちゃんと表現できているなと思います。
KAZUMA:各々のマイブームを詰め込んで完成させたよね。今作の位置付けとしては、一番自由にやったのが「NAISYO」なのかもしれない。
PETE:先ほど言ってくださった隙間感はこだわった部分ではあります。昨日まではもっと音を入れていたんですよ。だけど世界観が違うなという話になって、そこから削いで削いでシンプルにしていきました。
AKUN:ちなみに音源は昨日聴かれました?
―そうですけど…… え? 昨日ミックスしてたんですか? そんな出来立て?
AKUN:そうなんですよ。ちなみに今日マスタリングなので、このインタビュー後に音源が完成します(笑)!
KENNY:出来上がりを楽しみにしててください!
<リリース情報>
SPiCYSOL
メジャー1stデジタルEP『ONE-EP』
2021年4月7日(水)配信リリース
=収録曲=
ONLY ONE
From the C
タイトル未定
計3曲収録