【画像を見る】レディオヘッド、写真で振り返る「革新的ロックバンド」の軌跡
時代の波を越えられない見解がある。人類は何世紀もの間、太陽が地球の周りを回っているのだと信じた。その時代は終わった。トマトを食べると死に至り、ヒルは最上の治療方法であり、リー・ハーヴェイ・オズワルドは単独犯だと思われていた。70年代に発表されたコカインに関する書物にはどれも「非常用性」と言う言葉が書かれていた。2001年夏、レディオヘッドが『Amnesiac』をリリースした時も、(アメリカでは)大勢のファンが『Kid A』をしのぐ傑作だと考えた。前作よりハードだし、楽曲のキレもいいし、感情の幅も広い。究極のワンツーパンチだ。レディオヘッドは1回の収録でスペースロックの傑作を2作も生み出し、秀逸な作品を2作目に取っておいたのだ、と。
月日が経ち、『Kid A』の伝説は増大し続けた。そして、レディオヘッドを代表する最高傑作となった。だが熱烈なファンにとっては残念なことに、『Amnesiac』は不思議なほど過小評価され、有名になった片割れの陰に隠れてしまった。
事の始まりは単純だった。大成功を収めたロックスターがまっさらな状態からやり直そうと決意し、なじみのギターから使い方もよくわからないシンセサイザーに持ち替えた。『Kid Amnesiae』からもわかる通り、彼らはアイデアと「このボタンを押すとどうなるだろう?」という精神に満ちあふれていた。そして典型的なレディオヘッド・スタイルでお互いをぎりぎりまで追い込み、あらゆる細部をとことんまで突き詰めた。トム・ヨークもローリングストーン誌にこう打ち明けている。「俺はみんなの人生を台無しにしかけた」
新たな音源の聴きどころのひとつ「If You Say the Word」は、お蔵入りになっていた初公開の秀作だ(ジョニー・グリーンウッドは「品が良すぎる」といって却下した)。と同時に、不気味なシンセの上に変化を加えてオーディエンスを裏切ろうと試案するトム・ヨークの姿は、絶頂期のレディオヘッドを彷彿とさせる。カルトな人気を誇る「Follow Me Around」は、スタジオ作品として正式にリリースされたことはないが、ライブでは何度か演奏された曲だ。
「Pulk/Pull (True Love Waits Version)」は、長年注目されてきた楽曲(もっとも愛されてきた曲のひとつでもある)の完全エレクトロ・バージョン。スタジオアルバムには長らく収録されてこなかったが、2016年の『A Moon Shaped Pool』で日の目を見た。これこそあの当時にリリースされてしかるべきだった。「Everything In Its Right Place」さながらに、不吉なシンセとフェンダーローズのピアノがうなる。「The Morning Bell」は、当時の音源の中では唯一両方のアルバムに収録された作品。3度目の正直となる『Kid Amnesiae』のバージョンは、愁いを帯びた祭りのオルガンが響くインストゥルメンタルだ。
冷酷な時代に燃えさかる創造性の炎
『Kid A』と『Amnesiac』は、Napster時代に初めて世間を賑わせたロックアルバムだった。
今こそ『Amnesiac』再考の時がきた。昨年ローリングストーン誌が「歴代最高のベストアルバム500選」の投票を行った際、『Kid A』は20位圏内にランクインしたが、「Amnesiac」は500位までに入らなかった(他に『OK Computer』『The Bends』『In Rainbow』がランクイン)。皮肉にも、『Kid A』のひとつ上にランクインしたケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』は、『Amnesiac』に収録された「Pyramid Song」をサンプリングしている。双子の片割れは単に『Kid A』の物語の添え物に追いやられてしまった――さながら”花嫁の付添人A”のように。だが、このアルバムもまた金字塔的作品だ。
あの当時、『Kid A Mnesia』プロジェクトは商業的災難を招くだろうと思われていた。
【関連記事】レディオヘッド『キッドA』20周年 絶望を描いた問題作が今の時代にも響く理由
From Rolling Stone US.

レディオヘッド
『Kid A Mnesia』
2021年11月5日(金)世界同時発売
[収録内容]
●Disc 1 - Kid A
●Disc 2 - Amnesiac
●Disc 3 - Kid Amnesiae + b-sides
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12083