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「またPornhubについての取材依頼か」。
このドキュメンタリーは爆発的人気を得たPornhubが、悪質で違法な児童ポルノやレイプ動画を掲載していたとして、ニューヨークタイムズ紙のニコラス・クリストフ記者や人身売買の被害者支援団体から非難されるまでを振り返る作品だ。右派キリスト教信者が人身売買疑惑をトロイの木馬として使い、合法的なアダルト業界をつぶそうとする姿を描く予定だ、とヒリンガー監督は約束した。
私はインタビューを受けるのをためらった。洗濯室を舞台にした熟女ものを除けば、私は人前で汚れものをさらすようなタイプではない。ヒリンガー監督を悪く言うつもりはないが、私はドキュメンタリー監督というものを信用していない。ポルノ界を描いたドキュメンタリーはどれも『ホット・ガールズ・ウォンテッド』と同じで、私たちをオツムの弱い、洗脳と虐待を受けた被害者の集団として描くからだ。
だが何よりも、Pornhubについて話すことに嫌気がさしていた。クリストフ記者の記事が出てからと言うもの、ヴァニティフェア誌から(皮肉なことに)ニューヨークタイムズ紙にいたるまで、誰もが私に騒動について話をさせたがった。気持ちはわかる。私はアメリカで名の知れたポルノ女優で、ニュース系サイトでセックスワーカーの問題についての記事も書いている。
問題は、Pornhubをめぐる争いは、合法的な風俗業界全体をつぶすための代理戦争だという点だ。キリスト教信者が下卑た児童ポルノを本気で気にかけているなら、Facebookを標的にするべきだ。児童性的虐待の投稿素材でいえば、PornhubやMindGeekが運営した歴代サイトよりも、Facebookのほうがはるかに多い――Facebookの2030万件に対し、Pornhubは1万3229件と言われている。だが、彼らの本当の狙いはポルノ業界をつぶすことなのだ。

『Money Shot: The Pornhub Story』のシリ・ダール/NETFLIX
人身売買反対運動が実はポルノ反対運動だ、と暴露することには私も興味がある。ニュース媒体でこうした問題を書くようになったのもそうした理由からだ。抗議活動をする理由もそこにある。
安全上の理由から、Jigsaw側にはインタビュー用の家を用意させた。製作側はロサンゼルス郊外の丘に立つコテージを借りてくれた。上品な家だったが、私はコンテンツクリエイターなので、カメラではいろいろごまかしがきくことを知っている。バカ女とかビッチとして描かれる可能性も考慮して、意図的に露出を押さえた。かませ犬に見られるのも嫌だったので、証言ビデオ風にならないよう、色合いをソフトにしてもらいった。親近感を出したかったのだ。
4時間強にわたるインタビューでは、私のポルノ現役時代について、キリスト教福音主義者が合法的なポルノ業界の撲滅を図っていることについて、私が記事を書くようになった理由など、様々な話題を取り上げた。私がノートパソコンでセックスワークについての記事を執筆する様子も撮影された。
こうした場面は『Money Shot』には出てこない。
だが私の意見では、第2部に入るとうさん臭くなる。右派宗教団体のExodus CryやNational Center on Sexual Exploitation(全米性的搾取告発センター:NCOSE)の活動家が、Pornhubでレイプや児童ポルノの違法動画が掲載されていることを知った経緯が紹介される。NCOSEの弁護士ダニ・ピンター氏は顔出しで出演しているが、Exodus Cryの旗頭的存在のライラ・ミッケルウェイト氏はインタビューに応じなかった。ピンター氏は会社のオフィスにスーツ姿で現れ、正面からのショットで撮影されている。合間に大手NPO団体「全米行方不明・被搾取児童センター」の専門家のカットが差し込まれ、まるでピンタ―氏が団体と関係があるかのように見える。だが実際の雇い主は過激なキリスト教一派だ。
ピンター氏と「全米行方不明・被搾取児童センター」の広報担当者が、Pornhubのおぞましいコンテンツについて語る。コンテンツの存在を知ったクリストフ記者がニューヨークタイムズ紙に暴露記事を掲載し、それがきっかけで政府の捜査が始まる。インタビューを受けたMindGeek関係者はほぼゼロで、内部告発者と思われる2人の話だけだ。1人は匿名のコンテンツモデレーターで、もう1人はまるで関係のない人事部の社員。モデレーターはMindGeekが違法コンテンツを削除しなかったと強く非難しているが、匿名なので視聴者の信用を得るのは難しい。人事部の女性についていえば、MindGeekについてどれほど詳しく知っているのか怪しいものだ。
製作側は内部告発者を勇気ある市民として描く一方、私やエイサ・アキラなどポルノスターは上からのアングルで撮影した。アダルト映画の被害者であるかのように、カメラがゆっくりと遠ざかっていく。私たちそれぞれの経歴はほとんど語られない。たとえばアキラはMindGeekの広報で、私はフリーのポルノ俳優兼ライターだが、2人とも同じ境遇の人間かのように描かれている。画面に映る女性たちと知り合いでなかったら、私でも1人1人を区別できなかっただろう。被害者風のアングルといい――Pornhubはその他多くのプラットフォームでしかないのに、私たちが経済的理由でPornhubを利用せざるを得なかったかのような物言いといい――まるでPornhubを擁護するよう強要されているようにも感じただろう。
ドキュメンタリーの終盤で、右派勢力にメスが入る。ミッケルウェイト氏とExodus Cryが、ホモセクシャルを嫌悪する教会と関係していることが語られる。MindGeekの破綻を望む弁護士が、MindGeekを『ザ・ソプラノズ』に例える様子も出てくる。極めつけは、NCOSEがもともと「不道徳な」コンテンツの撲滅を目的としたMorality in Mediaというキリスト教系団体だったことが暴露される場面だ。団体はNCOSEに名称変更し、ポルノ撲滅のために「人身売買」を利用したのだ。事実を突きつけられると、ピンター氏もカメラの前で折れた。彼女が詐欺師だということを暴露した、実にすかっとする場面だ。

『Money Shot: The Pornhub Story』のシェリー・デヴィル/Netflix
だが暴露が遅すぎたため、混乱する視聴者もいるだろう。ドキュメンタリーで人身売買が定義されていなかったのが主な原因だ。出演者は人身売買という言葉を連呼し、MindGeekが人身売買をしていると非難するが、きちんと定義されていないため、まるでMindGeekの重役が文字通り子どもを誘拐し、性行為をフィルムに収めたとニューヨークタイムズ紙から告発されたかのようだ。だが、そうした理由でMindGeekを非難している人は1人もいない。
製作側はポルノ俳優に味方したかったのだろうが、人身売買の中傷があまりにも強すぎて、右派が世論を操作していると真正面から非難できなくなっている。人身売買を擁護しているかのように見られたくないがために、ドキュメンタリーは「けんか両成敗」に陥ってしまった。中立の立場を取ったがゆえ、本来のメッセージがぼやけてしまった。ドキュメンタリーを見ている間、「どちらの側にも、非常に素晴らしい人物がいる」という、シャーロッツヴィルの暴動に関するドナルド・トランプ前大統領の発言が頭から離れなかった。
違った風に編集すれば、この問題は解決できたはずだ。Pornhubではなく、キリスト教福音からスタートするとか。最初からキリスト教徒の動機を示していれば、Exodus Cryの起源やNCOSEの名称変更から入っていれば、曖昧さは回避できただろう。確かにPornhubが悪質な動画を掲載したが、それはインターネット全般に言える問題で、右派が「人身売買」を口実にポルノをつぶそうとしていることがはっきりしただろう。
『Money Shot』は嫌ではないが、気に入ったわけでもない。私ではなく他のセックスワーカーが出演していたら、もっと最悪になっていただろう。ナレーター不在のため、ドキュメンタリーではどうしてもカメラの前で語る証言者に頼らざるを得なかった。メディアに出るポルノ俳優が増えれば、自称「人身売買反対活動家」が捏造した主張ではなく、私たちの実体験に共感してくれるジャーナリストや監督の数も増えるだろう。
今回のドキュメンタリーについてツイートしなかった活動家が2人いる。ダニ・ピンター氏とライラ・ミッケルウェイト氏だ。アメリカいちの正統派を自称し、顕示欲の強いTwitter中毒の2人が『Money Shot』についてツィートしていないということは、2人ともドキュメンタリーのせいで大義が邪魔されたと感じているということだ。ミッケルウェイト氏にとっては、セックスワーカーの権利を求める運動がしぶとく続いているのが問題なのだ。『Money Shot』は完璧なドキュメンタリーではなかったが、大手プラットフォームでストリーミングされることで、ポルノ業界に関する誤った言説を打ち砕くことになるだろう。そうした理由から、私も最終的には『Money Shot』に出演してよかったと思っている。私はこれからも主張を止めるつもりはない。
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