日常に寄り添う音楽で若者を中心に人気を集める4ピースバンド、the shes gone。2023年2月15日にリリースしたミニアルバム『HEART』では、物理的な距離を超えて聴く人の心の近くにあるような音楽が鳴っている。
今回のインタビューでは、「長い時間を超えて愛されるような作品になってほしい」とバンドが語る今作の制作スタンスについて、そしてthe shes goneが紡ぐ詩世界ついてヴォーカル/ギターの兼丸に話を訊いた。

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―今までのアルバムでもローマ字のタイトルを一貫して付けられてきたと思うんですけど、今作『HEART』のタイトルはどういった意味が込められているのでしょうか?

アルバム単位の場合に英単語をタイトルに選んでいるんですけど、それは日本語にしてしまうと意味が限定されるからなんですよね。なので、今回のタイトルも全曲揃ってから付けたんですけど、HEARTという単語の意味を日本語に訳すと「心」や「心臓」、それこそ皆さんが思い浮かぶ「絵文字のハート」など色んなものがあって、新曲に対して1つ1つ別の意味が当てはまってくれたんです。コロナ禍でライブをやってきた中で、やっぱりお客さんと僕らのステージの間に距離を感じていたから、今回のアルバムが聴いてくれる人にとって1番心の近くにある作品になったらいいなという意味を含めて「HEART」というタイトルにしました。

―これまでthe shes goneが掲げてきた「日常に寄り添う音楽」というテーマを今回の制作に関しても意識されたんですか?

今回ミニアルバムとしては4枚目なんですけど、2枚目あたりでその感覚はなくなってきていて。というのも改めて口にすべきようなことではなく自分たちが常に言ってきたことだし、お客さんにとっても浸透してきているので、そこは深く考えずにやっていました。


―コロナ禍で、特にSNSやサブスクを介して物理的に遠くの距離の人たちにthe shes goneの楽曲が聴かれている現象が起きていると思うんですけど、俯瞰して自分たちの楽曲を見た時になぜこれほどまでに聴かれていると思われますか?

僕たちはライブハウスで育ちましたけど、ライブだけがバンドのやるべきことではないと思いながら曲を作っているので、僕たちの思いが少しでも届いていることが聴かれていることに繋がっているのであれば嬉しいですね。

―the shes goneの楽曲には日常の様々な場面で聴きたくなるような楽曲が多くあると思います。

1番嬉しいのは、シズゴの曲が人々の生活に水みたいに溶け込んでくれることですね。毎日1曲は何か聴いてくれたり、新曲を出す度やっぱり好きだなって思ってくれたり。時代の流れや傾向を掴んで、TikTokにハマるように何秒以内にサビを収めるようにするとかは無理なことではないと思うんですよね。でもそれ以上に「このバンド好きかも」って思ってもらえる曲を1曲でも増やしたいですね。


―若い時期って、人との距離が取りづらかったり、自分のことを知って欲しいけど知られたくないみたいな天邪鬼な気持ちを持つ人も多いと思うんです。兼丸さんは若いうちから心の距離をテーマに描き続けていますが、そこには何か理由はあるんですか?

それは1つ明確にあります。僕がバックボーンとして影響受けてきたバンドが、FUNKISTとback numberSEKAI NO OWARIなんですけど、どの方も音楽をやる以前に種類の違う傷の負い方をされているんですね。それが自分にも当てはまる部分があって。僕は音楽が好きだからやっているというより、自分が抱えるフレストレーションなどを曲にしないとやっていられないという思いからバンドを始めたので、そこが根本にあって常に人間同士のことを考えているんだと思います。

―今作に収録された8曲の中で「春よ、恋」が先行配信されましたが、こちらの楽曲はとりわけ「君が好きだ」というストレートな思いが込められているなと思いました。


この曲は歌い出しとサビの歌詞がメロディとともに出てきていたんですけど、ストーリーの背景が自分の中で分かってなかったので、2年前にスタジオセッションして曲自体は完成して、ずっと温めていたんです。この曲は絶対的に春の風が吹いているような音だなと思っていて。the shes goneは春っぽいねって言われることがあるんです。たしかに「春の中に」や「栞をはずして」みたいな楽曲もあるので春のイメージがあるのは分かるんですけど、それとは別にアコギがあることで春っぽい爽やかな印象があると思って。そういう部分を考えた時に、「春よ、恋」ではアコギではなくバンドサウンドで春の爽やかさを伝えたいと思って、それに結構時間がかかってしまいました。

―なるほど。


歌詞でも苦労しましたね。他の曲の中には、絶対1パーセントはマイナス思考な自分がいるんです。でもこの曲では、それを出したくなかったんですよね。根暗な自分を出さないように歌詞を書くことに時間がかかって、1年ぐらい待ってもらいました。この曲は、歌詞では登場人物がどういう状況かってストーリー性は書かずに色んな人に当てはまるように書きました。あとは好きっていう言葉をなるべく使いたくなかったんです。
でも、この悶々としているけど1番楽しい時の気持ちを言葉にするとしたら何なんだろうって考えたら、最後の最後に「好きって言う言葉以上に君を好きで居たいんだ」っていう主人公の気持ちを表すのにぴったりな言葉が出てきたのでそのまま使いましたね。

―歌詞を書く上で最後にバチっとハマる言葉が出てくることは多いんですか?

僕の場合は曲によりますね。共感できるって言葉はよく頂けるんですけど、あまりそこは意識していなくて。なるべくみんなと同じような表現は使いたくないなってモードで分かりやすい言葉や単語を使わないようにする時もあります。でも最終的に色々組み立てていったらストレートな言葉がすっとはまる時があるんですよね。この曲の場合は、他の言葉が最初に浮かんで「これは何を言いたいんだろう。
この人はどういう気持ちなんだろう」って考えた時にまとめる言葉がすっと出てきました。逆に前に出した「ラベンダー」って曲では、なるべく好きっていう単語を避けていたんですけど、それ以外に思いつかなかったので「好きになっていく」という言葉を使いました。

―曲によってシンプルな言葉に辿り着く過程が色々と違ったりするんですね。

ぱっとメロディと言葉が出てきて、それが頭で考えるまでもなくハマっていると感じた時は無理に変えても絶対に違和感が出てくる。だからシンプルな言葉が出てきた時は自分でも納得しているし、いい意味でリスナーの方が頭を使わずに理解してくれるだろうなと思ってそのまま使うことにしています。

―今回の「春よ、恋」に関しては、長い時間考えた上で出てきた言葉だったんですよね。

他のワードや追いメロを考えてなかったんですよね。アウトロでロックバンドとしてメンバー全員が好きなことをやっている中で、最後にハマる言葉が欲しいなと思って、2年ぐらい悶々と考えている期間があったんですよね。それを常に考えていたからこそ、やっと言いたい言葉が出てきました。

―今作の1曲目「栞をはずして」は、失恋に苦しむ人々を救うメッセージが強く込められたバラードになっていますよね。

結論を言うとこの曲は過去の自分を救いたくて作ったんです。去年、先行配信を出すタイミングで他の曲が候補にあったんですけど、中々納得する歌詞やメロディが出てこなくて。そんな中、家で制作していたら、この曲が出てきたんです。イントロはそのまま僕が持ってきたものを使っていて。この曲ができて、今はこういうメロディと歌を自分が欲しているんだってことを見つけましたね。こういう哀愁と明るさをどっちも感じさせるメロディが珍しかったので、明るい曲にするか失恋曲にするかで迷ったんですけど。辛い時に前に進むきっかけになる曲をいつかは作らなきゃいけないなとは思っていたので、それをやる時期なんだなと納得しました。自分が初めての彼女に振られてしまった時に必要だった曲というのを念頭に置いて作りました。全てがノンフィクションではないですけど、過去の自分も救うつもりで作りました。

―2番のサビの歌詞では主人公の切ない感情が強く描かれていますよね。

2番に関しては、時系列として別れて少し経った後、主人公がまだ引きずっている状況だと思うんですよね。聴いている側にとっても主人公にとっても辛いことを受け入れる作業が必要だと思ったんです。皆さんの中で思い浮かぶ自分にとって大切な人に、目の前で「さよなら」って言われたら1番しんどい。でもそれってもう受け入れるしかないことかなって思って。それをどうやったらメロディに合う文字数に収められるか考えて、2番の歌詞を書きました。恋が終わったことを一緒に認識しつつ、頭の中で好きな人の声を再生できるくらい人を好きになれたことに自信を持っていこうよ、そんなに人を思える自分がいるなんて素敵じゃないかっていう風に少しでも前向きに持っていきたいと思い作りました。

―今回のミニアルバム制作において音楽的な部分のブラッシュアップ、またバンドとして今までになかった挑戦などありましたか?

個人的には、アコギの使い方やベースの立たせ方を今まで以上にブラッシュアップしましたね。

―7曲目の「どの瞬間も」は、アルバムの中でもロックサウンドが前面に押し出されている楽曲ですよね。

この曲は、シンプルにロックバンドとしての提示。短くてパワーのある曲をここで出しました。

―歌詞の世界観がサウンドにも影響していくんですか?

歌詞は最後の最後まで悩むことが多いので、最初になるべく曲のイメージをメンバーに伝えて、みんなの噛み砕き方でサウンドが変わっていきますね。ファーストアルバムに3分台でテンポが早くてギターロックなサウンドの曲はあったんですけど、「どの瞬間も」はそれと全く同じにはしたくなかったんですよね。一つのジャンルに括られるのが嫌だったので、コーラスをめちゃめちゃ攻めた動きにしていたり、アウトロではギターのアルペジオの音を入れることで、「きっと報われるはず」っていう最後の言葉が恨みじゃなく、ちゃんと音で昇華してあげようとしたんです。言葉数が少ないからこそ、アウトロのギターで前向きな提示を挑戦的に入れました。あとは、なるべくシーケンスを使わず、自分たちの楽器で音を鳴らすことを意識していて。「どの瞬間も」では、最後のサビで4本ぐらいのギターが後ろで小さく、お客さんが聞こえないぐらいの音で鳴っているんです。ブラッシュアップの面では、アコースティックギターの使い方を意識しています。僕たちが思うバンドの中のアコースティックギターの音を考えて入れました。アコースティックギターが参加している曲が他のアルバムより多くなっていると思います。「アポストロフィ」では、イントロからAメロであえて僕はアコギを弾かないようしました。

―「アポストロフィー」は、歌詞に関して「文明を頼って」「親指の言葉」のような独特な言い回しが多いですよね。

時代によって使うツールが変わっていく中で、のちのち懐かしいって思われるような生々しい単語を使いたくなかったんですよね。言葉を濁すことで、その動作であったり、背景にあるドラマが見えるなと思って。僕はコロナ禍で人間味っていうのを考えるタームに入って、人間としての熱、人間味を感じられるワードを探していたんだと思います。

―この楽曲では、最終的に2人が離れている距離を乗り越えていくストーリーがあるのかなと思いました。

そうですね。離れている2人っていうのが、ライブに行きたくても行けない方のことを思って、ダブルミーニングになっているんです。自分で作った縛りのせいで、1年ぐらい書けなくて勝手に苦しみました。僕にはまだ「大丈夫」って言い切れる度量がなくて、でも「大丈夫なはずだよね」ってお互いを励ますことはできると思って、この曲のゴールに辿り着きました。未来に対する不安も期待も、一緒に背負うことができたら頑張れる気がしたんです。

―6曲目の「スクールボーイ」では、青春時代の初々しい恋心について歌われていますよね。この楽曲のストーリーは実体験からきている部分もあるんですか?

全てじゃないですけど、自分の経験を入れている部分もあります。咲坂伊緒先生の漫画作品『サクラ、サク。』に「陽だまり」という曲を書き下ろした時に、1番だけ「スクールボーイ」っていうテーマも一緒に作っていたんです。自分がもっと大人になった時に、学生時代のことが思い出として残っていたとしても、感覚や空気感は忘れてしまうと思ったので、今のうちにこの曲を書こうと思ったんです。この曲は作るのに全然時間かからなくて。主人公の気持ちをただ片思いっていうより、複雑な内面を表現したかったんです。気になる子から相談を受けていて、自分は結ばれるはずないって分かっていたとしても、話しちゃうみたいな。サウンド面でもドラムのピッチをちょっと下げたり、曲のキーも他の曲よりちょっと低めだったりして、リスナーの方も落ち着きながら聴けると思います。あとギターソロが入っていたりするので、曲の変化が分かりやすい曲にはなったかなと思います。

―そういったストーリーはすぐ思いつくこともあれば、熟考していく中でストーリーが変わっていくこともあるんですか?

皆さんが作文や論文を授業で書いているのと近い感覚だと思います。書き始めたはいいけどゴールが分からない、でもテーマはもう決まっているみたいな。歌詞がストーリーになっているのは、僕が単純に覚えられないからなんです。コピバンやった時とか人の曲を覚えるのが苦手で。自分で0→1を作る場合、ストーリー性がある方が書かれてない細かい背景まで自分で理解しながら表現出来ますしね。「春よ、恋」に関しては、ストーリーがあまりないからこそ、書くのが難しかったです。

―『HEART』を聴くリスナーの方たちに何か伝えたいことはありますか?

音楽を作る人はみんなそうだと思うんですけど、過去のものが評価されることも嬉しいんですけど、やっぱり今1番いいと思って頑張ってやってきたものを評価して欲しい。これまでの過程を経て、今の曲を作れていると思うので。聴いてくれる人には全曲好きになって欲しいなんて押し付けがましい思いはなく、1曲でも好きになってくれたらなと思います。あと毎回作品を作るたび思うのは、決して時代の流れに寄せた曲をやっているとは思っていないので、今評価されなくても時間が経って皆さんの中に残る曲であって欲しいですね。

―長い時間を越えて愛されるような音楽になって欲しいですね。

5年、10年経っても古くならない言葉を選んでいるので、懐かしいとかではなく、いつ聴いても「この曲はこの曲だよね」って思ってもらえるアルバムになってくれたら嬉しいです。

―それと共に今のthe shes goneもここに込められているんですね。

ちょうどここ最近、サポートだったドラムの熊谷亮也が正規メンバーになってバンド体制が変わったんです。それを通して今のメンバーでやってきた音が確実に前回のアルバムよりもいい音で、同じ方向を向いて作れた自負があります。リスナーの方にはそれを感じていただきたいですね。

―仲の良いバンド、影響受けた先輩のバンドなどありますか?

同い年ですごいなと思うのはMrs. GREEN APPLE、FOMARE、koboreですね。ジャンルはそれぞれみんな違いますけど、先にもう色んなものを経験していて、スーパースターの域に入っていると思っています。一緒にイベントをやったreGretGirlやThis is LASTも意識はしますね。

―3月から「HEART」を引っ提げたワンマンツアー、4月に国際フォーラムでのワンマンライブなど控えていますが、今回のアルバムの中でライブでのイメージが膨らむ楽曲はありますか?

想像しやすいのは「スクールボーイ」ですね。リハーサルの段階で、曲が持つ空気感を作れている気はします。でも手拍子をする曲じゃなかったとしても、どの曲もライブでちゃんと引き込める曲にはなっていると思います。僕らも新曲が多いツアーが久々なので、新曲を聴いてお客さんがどういう反応をするかワクワクしています。正直コロナ禍のライブでは、声も出せない客席からお客さんの目だけがポツンと見えていて、それがステージとの間に距離があるように感じていました。だから人間味、心の温かさ、繋がり、心の距離みたいなものを見つけようとずっと考えていたんです。最近そこにようやく慣れてきたので、ライブでは皆さんの緊張を僕らが全部吸い取るつもりで、お客さんと一緒に我慢してきたものをようやく解放していきたいですね。ここまでコロナで会えなかった時間は無駄じゃなかったってことを証明できるツアーにしたいです。

―近い目標にはライブがあると思うんですけど、長いスパンで見た時に、これからのthe shes goneが掲げる目標は何かありますか?

常に向上心は忘れずにやっていきたいです。まだ出たことないフェスに出たり、街中でもっと自分たちの曲に出会う機会が増えたり、もっと自分たちに気づいていただける機会を作れたらいいなと思いますね。あと、チャンスが来た時は自分たちでそのチャンスをしっかり掴めるような度量、力をつけていきたいです。去年、事務所の先輩である[Alexandros]のライブに弾き語りで呼んでいただいたんですけど、本当に1、2週間前に決まったんですよ。何千人を前に1人でやる機会なんてないので、これはもう馬鹿になるしかないと思ってやりました(笑)。これからもそういうチャンスを掴んでいきたいですね。

<リリース情報>

the shes goneが語る、心の距離をテーマに人間の内面を描く理由


the shes gone 
ミニアルバム『HEART』
発売中
=収録曲=
1. 栞をはずして
2. 春よ、恋
3. ムスクの香り
4. 陽だまり
5. アポストロフィ
6. スクールボーイ
7. どの瞬間も
8. これから
https://theshesgone.lnk.to/HEART

<ライブ情報>

ワンマンツアー「PART OF YOUR HEART TOUR 2023」
2023年3月17日(金)東京 恵比寿LIQUIDROOM
2023年3月23日(木)石川 金沢AZ
2023年3月29日(水)札幌 PENNY LANE 24
2023年3月31日(金)仙台 Rensa
2023年4月6日(木)名古屋 DIAMOND HALL
2023年4月13日(木)大阪 なんばHatch
2023年4月15日(土)福岡 Drum LOGOS
2023年4月20日(木)高松 DIME
2023年4月21日(金)広島 CLUB QUATTRO

前売 4000円/当日 4500円(Drink代別)

ワンマンライブ「シズゴの日」
2023年4月25日(火)東京 国際フォーラム ホールC
open 18:30 / start 19:00
前売 4900円/当日 5400円

the shes gone ホームページ https://theshesgone.com/