TVアニメ『【推しの子】』のエンディング主題歌として、女王蜂史上最大のストリーミングヒットを記録している最新シングル「メフィスト」。既にROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023をはじめとする夏フェスでも披露され、その唯一無二の世界観を拡張させている。


「メフィスト」はまずゆったりとした物憂げなオーケストレーションからスタートし、バンドサウンドがインしたタイミングでテンポが速くなる。Aメロのアヴちゃんのヴォーカリゼーションは言葉を大切に噛みしめ、語り部のようなムードを放ちながら、早速《星は宝石の憧れ》というラインが登場する等、芸能界という華やかな世界の裏にある闇をビビッドに描いた【推しの子】の世界観が初っ端からふんだんに注入される。

Bメロやサビでは、「嘘はとびきりの愛だ」と口にした【推しの子】の象徴でもあるトップアイドル=アイの存在を匂わせつつ、一度死んだ身ながら、自らの”推しの子”であるアイの子供として転生し、まさに”推しの子”となった主人公の星野アクアの宿命が描かれる。挟み込まれる英語詞のラインはデジタルな加工がなされ、ドラマ性を高める機能を十分に果たしている。アヴちゃんはハイトーンのファルセットとすごみの効いた地声を巧みにミックスさせ、アクアの宿命をより切なくエモーショナルなものにする。

2番ではテンポがぐっと落ち、英語詞のセリフが随所に入ることで、サスペンス色が強まる。《誰を生きたか忘れちゃた!》と伸びやかに歌うラインは、不敵さも混じったダイナミックな迫力が宿る。

そして、混沌が表出したようなギターソロを経て、アヴちゃんはボーカリストとしての恐るべき音域の広さを発揮しながら、選ばれし星のもとに生まれた完璧で究極の存在=アイへの思いを狂おしく歌い放つ。最後はまるで上空から地上を見下ろしているかのような達観を宿した声色で、星の子たち=アイの子供たちへのメッセージを送る。

1曲の中で、【推しの子】が持つ光と闇を同時に照射してみせる構成力の見事さもさることながら、その多層性を複数の声色と表情で、さらに多面的な物語として表現してしまうアヴちゃんの表現力の高さに改めておののいてしまう楽曲だ。

そんな「メフィスト」が、「CDTVライブ!ライブ!!☆真夏の4時間半スペシャル」でTV初のフルサイズで披露された。

アイドルさながらのキュートでラブリーな衣装に身を包んだアヴちゃんは最初画面に背を向けているが、すぐさま両手を開いてくるりと回転し、天を見つめる。
アイドルを思わせるキュートなポーズを決め、笑顔を浮かべるアヴちゃん。さながら、【推しの子】に登場する綺羅星のようなアイドルたちを憑依させたようだ。

終始、アイドルが宿す光と闇、その裏に潜む血と汗と涙をも滲ませるような迫真のパフォーマンスを展開。《生まれつきだってば底なし》のラインはたった1行の中で、猛々しさと可憐さを混在させる恐るべきコントラストを見せた。極めつきはその後の《誰を生きたか忘れちゃった!》のライン。目をかっと見開き、天高く長い腕を突き上げるアヴちゃんからはただならぬ全能感が漂う。そのテンションのまま間奏に突入し、シャープなギターソロが轟く中、落ちていたケルベロスの髪飾りを背後に思い切り投げつけた。そして、つんざくような絶叫を上げて、体をダイナミックに後ろに反らす。

終盤、悲劇の死を遂げたアイのことを心から慈しむような表情で《あなたに命が戻るなら》と歌い、想いの純度を高めていく。最後は母性すら溢れさせ、すべてを司る存在のような佇まいで楽曲を締め括った。

タイトルのメフィストはキリスト教の悪魔のひとりで、魂をメフィストに渡すことで欲望が叶えられる誘惑する者として描かれる。女王蜂自身がメフィストにも見えたし、メフィストにより陥ってしまった運命と対峙する側にも見えたし、【推しの子】に登場する過酷な運命に巻き込まれながらも、自らの美学と信念のもと突き進む登場人物たちの想いを体現させたようにも見えた。
やはり、女王蜂の抜群の表現力と求心力をもってこそ、「メフィスト」は高みに上り詰める楽曲なのだ。

<INFORMATION>

女王蜂が地上波で見せた迫真のパフォーマンス、シングル「メフィスト」の闇と光

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