カナダ出身のロックンロール・トリオ、ダンコ・ジョーンズ(Danko Jones)の最新アルバム『Electric Sounds』が注目を集めている。2004年の2ndアルバム『We Sweat Blood』(邦題:断固ダンコ主義)日本盤ライナーノーツを執筆するなど、バンドの動向を追い続けてきた音楽ライター・山口智男に、彼らの最新モードを解説してもらった。


一番デカいGREEN STAGEで流血パフォーマンスを繰り広げた2003年のフジロックから20年。カナダのパワー・トリオ、ダンコ・ジョーンズは今日も世界のどこかでロックンロールを演奏しつづけている。そして、バンドのフロントマンであるダンコ・ジョーンズ(Vo, Gt)はフジロックのステージでやったように自らの顔面に往復ビンタを食らわせ、鼻血を流しているに違いない。いや、往復ビンタと鼻血云々は、筆者の想像と言うか、そうあってほしいという願望ではあるけれど、世界のどこかでロックンロールを演奏しつづけているというのはレトリックでも何でもなく、事実、彼らは現在、元気に300~700人規模のクラブを回るヨーロッパ・ツアーの真っ最中。行く先々で爆音のライブを繰り広げ、オーディエンスを沸かせているはずだ。

フロントマンのフルネームをバンド名に冠したダンコ・ジョーンズのことを忘れてしまった人もいるかもしれないから、改めて言っておきたい。
ホワイト・ストライプスが火を点けたガレージ・ロック・リバイバルのブームとともにロック・シーンで頭角を現してきてから20年。いや、1996年の結成から数えれば27年、彼らは一度たりともその歩みを止めたことはない、と。

フジロックでも披露された初期の人気曲「Lovercall」(2002年の1srアルバム『Born a Lion』収録)

新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックでさえダンコ・ジョーンズを止めることはできなかった。もちろん、これもレトリックなどではない。事実、彼らはパンデミックの最中、これまでツアーに費やしていた時間を使って、アルバムを2枚も完成させ、そのうちの1枚、『Power Trio』を2021年8月にリリースしているのだから、彼らの歩みが止まったとは誰にも言えやしないだろう。

「本当に牧草地に追いやられたような気分だった」という言葉にパンデミック中、自分達の生き甲斐であると同時に存在理由でもあるライブができなかった悔しさ、惨めさ、虚しさを滲ませる一方で、ジョーンズはパンデミックに対する自分達のカウンター・アクションを振り返って、「でも、だからこそもっと挑戦しようと思えたんだ。
俺たちの歩みが止められたとは思わない」と胸を張る。

今年9月、パンデミック中に完成させたもう1枚のアルバムが『Electric Sounds』というタイトルを付けられ、リリースされた。2002年6月にリリースした正式な1stアルバム『Born A Lion』から数えて11枚目のフルアルバムだ。21年間でアルバム11枚というのは、かなりのペースだと思うが、そんなところからもダンコ・ジョーンズがノンストップで活動を続けてきたことがわかってもらえるだろう。

それはさておき、AC/DCを思わせるリフ・ロックこそがダンコ・ジョーンズのシグネイチャーだと宣言するように1曲目に置いた「Guess Whos Back」以下、『Electric Sounds』にはタイトル通りビリビリとシビれるロック・ナンバーが全11曲収録されている。その全11曲は前作『Power Trio』と同様に、もはや懐かしい響きさえあるソーシャル・ディスタンスをキープするため、ジョーンズ、JCことジョン・カラブレーゼ(Ba)、オフスプリング他のバンドを渡り歩いてきたアトム・ウィラードからスティックを受け取った7代目ドラマーのリッチ・ノックスの3人が音声ファイルをやりとりしながらというこれまでやったことがない曲作りの方法を試しながら作って、ベルリンで3人揃ってレコーディングしたそうだ。


「俺達は発展や進化の為にレコードを作ることはしないんだ。それは気取った連中がやることだ。俺達はずいぶん昔にラモーンズ、モーターヘッド、スレイヤー、AC/DCが辿った道を進むことにした。そのやり方がまだ使えるんだから、改める必要はないだろう」

『electric Sounds』もまた、『Power Trio』をリリースした際、ジョーンズがカナダの音楽ブログ「CRUCIAL RHYTHM」に語った、この言葉通りのアルバムだと言ってもいい。

「サプライズ」というべき新境地

しかし、同時にその延長上で新境地とも言える変化が感じられるものにもなっている。

たとえば、前述した「Guess Who's Back」に加え、「Electric Sounds」「Stiff Competition」「I Like It」といった極太のコードリフで聴かせる曲がリスナーの脳天にガツンと一撃を食らわせる一方で、痛快な気分を味わわせる「She's My Baby」「Eye For An Eye」「What Goes Around」といったスピーディーなパンク・ロック・ナンバーはもう1つの聴きどころになっている。
中でも「Eye For An Eye」はダンコ・ジョーズのラモーン・パンクなんて言ってみたい。

それはジョーンズも認めるところ。

「ここ数年で苦労の末に作り上げたサウンドがあって、俺達はその音にこだわっている。でも、もう少し細かい観点で他のアルバムと比較するなら、これまでのアルバムより少しテンポが速いと思う。俺達の曲に『Cadillac』(2001年のシングル)というのがあって、最初はこのアルバムの曲も全部そんな感じにしたいと思っていた。一定のリズムで、ミドルテンポで、重厚感があって、核心を突くような。
でも、曲作りを始めてから、そのアイデアは割とすぐになくなった」

ライブができなかったパンデミックの反動なのか。ダンコ・ジョーンズの持ち味の1つだったファンキーなグルーヴよりもスピードを求めていることは、アルバムをリフ・ロックはリフ・ロックでもスピーディーな「Shake Your City」で締めくくっているところからも明らかだ。

さらにもう1つ。メンバー自身は無自覚なのか、敢えて言わないだけなのか、そこかしこで閃かせるダンコ・ジョーンズらしからぬポップ・フィーリングもまた、『Electric Sounds』の聴きどころになっていると言えそうだ。

たとえば、80年代のU2が奏でそうなキャッチーなギターのリード・リフと日本の歌謡曲を思わせる泣きのメロディが印象的な「Good Time」は、変化球というか、異色曲に挑んだ成果と考えることもできるが、得意のリフを鳴らしながら、80年代のアメリカン(ハード)・ロックを換骨奪胎したみたいな「Get High?」の明るさはどうだ⁉ それを言ったら、「Guess Who's Back」もAC/DC系のリフ・ロックと思わせ、昔からのファンは曲が持つおおらかさに「おや!?」と思うかもしれない。

そして、その「おや!?」という感覚はアルバムを聴き進むにつれ、徐々に大きくなっていくのだが、無自覚なんてとんでもない。
『Electric Sounds』のリリースに先駆け、「Guess Who's Back」「Good Time」「Get High?」を順々にシングルとしてリリースしていったことを考えると、新境地とも言える変化が感じられるその3曲がアルバムのキモという自覚は、やはりあるのだろう。

発展や進化の為にアルバムを作ることはしないが、発展や進化が自然と曲に表れることはある、と。そうでなきゃ、30年近くも(しかもノンストップで)バンドを続けることはできないだろう。

「俺達の曲は大体、ロックがしたいとか、ロックと一緒に人生を楽しんでるとか、そんなのばかりで、時々、女のことを歌にするって感じだから、サプライズなんて何もないよ!」とジョーンズは笑うが、それは謙遜というものだろう。

少なくとも筆者は、『Electric Sounds』を聴き、ダンコ・ジョーンズらしさの中にサプライズを感じ取ったが、それはさておき、まずは『Electric Sounds』を手に取っていただき、パンデミックでも鳴りやまなかったダンコ・ジョーンズのロックンロールをより多くのロック・ファンに存分に味わっていただきたいと思う。

フジロックでの怪演から20年、ダンコ・ジョーンズが鳴らすロックンロールの現在地

ダンコ・ジョーンズ
『Electric Sounds』
発売中
再生・購入:https://bfan.link/electric-sounds