【動画を見る】26人の子どもたちが誘拐された当時の映像
物語は世間が驚愕した事件で幕を開ける。
70年代のカリフォルニアはゾディアック殺人事件に始まり、パトリシア・ハースト誘拐事件、ジム・ジョーンズ集団自殺など不吉な事件が相次いだ。こうした狂気一直線の物語と比べると、効果的かつ洗練された手法で語られるCNN/Maxの共同制作ドキュメンタリー『Chowchilla』の物語は、そこまで大ごとではなかった。だが共感度と奥深さという点では決して引けを取らない。幼少期のトラウマがもたらす影響や罪と罰が如実に語られる一方、数人の逞しい子どもの姿に胸を打たれる。そのうち14歳の少年は仲間を暗闇から救い出したが、しかるべき評価を与えられることはなかった。
白のカウボーイハットを被ったマイク・マーシャルさんはロデオ愛について、そして47年前に起きた恐怖の36時間を淡々と語った。自画自賛するタイプではないが、彼こそが土をかき分け、地中に沈んでいく27フィートのワゴン車から這い出した人物だ。当時は誰にも功績を認められなかった。バスの運転手で、現場にいた唯一の成人エド・レイ氏がほとんど世間の称賛を独り占めした。
その後マーシャルさんは辛い経験が頭から離れず、アルコールと薬物に溺れた。バスに乗っていた他の子どもたちも同様だった。なかなか消えない悪夢。猜疑心。無感情。薬と酒。当時チャウチラ事件の子どもたちを診察したトラウマ専門の精神科医レノール・C・テール氏は、ある意味彼らは初めてのケースだったとインタビューで語っている。当時、幼少期のトラウマの犠牲者についての研究は今ほど成熟していなかった。現在なら、たとえば銃乱射事件が発生すれば、カウンセラーがすぐに飛んでくる。だが当時は、地球上で一番ハッピーな場所に連れて行けば治るだろうとの考えから、子どもたちはライオンズクラブの計らいでディズニーランドに連れていかれた。
3人の犯行グループの捜索はほどなく終了した。
ポール・ソレット監督はアーカイブ映像、とりわけ事件を報道した当時のTVニュースを巧みに使い、時代感や空気感、子どもたちを乗せたスクールバスが忽然と行方をくらました当初の困惑や、生還後の晴れやかな歓喜を見事にとらえた。また迫真に迫る再現ドラマも盛り込んでいる。子役のセリフは一切ないが、その必要はない――表情がすべてを物語っている。ドキュメンタリーの中に登場するインタビューも衝撃的だ。ラリー・パークさんは事件当時やその後の出来事を回想しながら、あたかも追体験しているかのように、うつむいて身を縮こませる。一言でいえば、これがトラウマだ。
繊細かつ確固たるドキュメンタリー手法で制作された『Chowchilla』には、派手さやニュース性や話題性はまったくない。その後の人生を形成する事件に見舞われた子どもたちにとって、この作品はひとつの節目であり、また辛く奇妙な時期をまざまざと思い出させるタイムカプセルだ。
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from Rolling Stone US