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リオ・コーエンと言えば、ヒップホップ・シーンでは有名な人物。1980年代にラッシュ・プロダクションズでランDMCのマネジャーとしてキャリアをスタートさせ、デフ・ジャム・レコーディングスに参加。後にワーナー・ミュージック・グループのCEOとなり、2010年代にはレーベル、300 Entertainmentをスタート。2016年秋から現在の職に就いている。この日も、最初の来日時はランDMCとビースティ・ボーイズのロードマネージャーであったことを語り、当時の通訳がソニー前CEOの平井一夫氏であったことに言及。この日の通訳に対しても「あなたの未来は明るい」とジョークを飛ばしている。
音楽生成AIにはどのようなメリットがあるのか。リオ・コーエンはこう語る。
「生成AIには本当にいろいろなメリットがあって、キリがないと思います。一つはアーティスト、ソングライター、いろいろなクリエイターの方々に対しての道具として、仕事をよりやりやすくするものとして使っていただくというもの。
では実際に、音楽生成AIを使って何ができるのか。YouTubeはどこに焦点を当てようとしているのか。
「大胆に、しかし責任ある仕事をしていきたいと思っています。具体的には、様々なプロダクトを作ることによって、クリエイティビティを持っている方々を支えていきたい。ソングライターの方は作曲をする上で詰まることもあります。そういう時に生成AIが助けを提供できるかもしれない。今「大胆に」と言いましたが、変化が起こっていることに対して、見て見ないふりはしないということです。もう一つの「責任ある」というのは、ソングライター、アーティスト、音楽業界のエグゼクティブ、プロデューサー、その他クリエイターの方々との協力ということです。
また、GoogleによるAI開発組織である、Google DeepMindを使うことによって、生成AIの実験を二つ行っているという。
「最も優れたプロダクトというのは非常に複雑なものになります。これまで多くのアーティスト、ソングライターの方々と協力をしつつ、プロダクトをいろいろ試していただき、使っていただき、その様子を観察し、あるいは動画に撮って、どのように使っているのかということを研究してきました。また実際、このような活動において、ユニバーサル ミュージック グループは最初の段階から協力していただいているパーナーの一人になっています。そしてこれからユニバーサル ミュージックジャパンの方々とも深く協力を続けていきたいと思っています」。
この日は、YouTube Music AI インキュベーターの第1弾として、クリプトン・フューチャー・メディアが協力することも発表され、クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏も記者会見に参加した。
「私は大学の研究室にいた時にAIのことをやっており、AIに関する可能性は昔から感じておりました。また、当社は初音ミクをやっていますが、音楽を作るソフトウエアを取り扱う日本のディストリビューターをやっており、50万人ぐらいのクリエイターが当社の顧客です。そういった顧客に対して音楽を作るためのツールを常に取り扱ってきまして、初音ミクもその一つです。
「当社はDTMのソフトウエアを25年以上やってる会社です。その中で、一般の方々はあまり音楽を作ることに関心を持たれないんだなという風に感じました。理由としては、音楽を作るということは、パソコンの機材、ソフトウエアの最新バージョンなど多くのことを知っていないと、コンピューターで音楽を作るのはなかなか難しいという側面があります。しかもたいてい男性なんですね。女性でコンピューターで音楽を作る方は本当に少ないのです。ただ、女性が音楽を作るのが苦手というのはなくて。機材を使うということがハードルが高い。そこが課題だと感じています。今回のプログラムに参加させていただきまして、非常に大きな可能性を感じました。テクノロジーを活用することによって、多くのクリエイター、クリエイターでない方でもクリエイターになっていく可能性があります」。
伊藤博之氏が語りるように、テクノロジーの提供によって、多くの人が音楽制作を楽しめる機会が増えていきそうだ。

左から、リオ・コーエン、クリプトン・フューチャー・メディアの代表取締役、伊藤博之氏
鼻歌のメロディが、サックスのソロのメロディに
YouTube Music AI インキュベーターの参加者には、GoogleのAIの研究部門であるGoogle DeepMindが開発した音楽生成モデル「Lyria」の早期アクセスを提供する。Lyriaの活用については、GoogleのYouTube日本音楽パートナーシップ ディレクターの鬼頭武也氏がこう語る。
「楽器とボーカルを備えた質の高い調和のとれた音楽の生成、生成された音楽のアレンジ、また出力された音楽、楽曲のスタイルや演奏方法、ニュアンス、そういったものを設定しながら様々な音楽が生成できるモデルとなっております。さらにアーティスト、ソングライター、音楽プロデューサーのみなさまが、これまでにない方法で新しく音楽を創作することを支援するために、一連の音楽AIツール、音楽AIクリエイティブ・ツールの開発実験も合わせて行っています。例えば、たった数プロンプトで様々なジャンルを融合させた音楽を作ったり、ビートから新しいメロディを作っていったり、またサウンドトラック、BGMだけを用意して、そこに一番フィットするボーカルを入れるようなことが可能であったり。まさに音楽を制作する方にとっての壁打ち相手として、様々なインスピレーションを得るためのツールとしての音楽生成AIツールの実験の開始をしております」。
そこで紹介されたYouTubeの公式チャンネルのビデオには、ユーザーが口ずさんだ鼻歌のメロディから、AIがサックスのソロのメロディを作り出す「Music AI Tools」というAI機能が紹介されていた。これを見ると、生成AIによって音楽制作のハードルが下がっていくのがよくわかる。
現在様々な会社が音楽生成AIを発表する中、YouTubeの強みはどこにあるのだろう? リオ・コーエンはこう語る。
「Google DeepMindが抱えているエンジニアほど優秀なエンジニアは世の中にいないと断言できると思います。この優秀なエンジニアたちが今どうやってこのモデルが使えるのか、その力をどうやってもたらしていいのかということに取り組んでいるわけですが、それと同時に私たちは、ユーザー、クリエイター、アーティストの方々にとってのメリットは一体どこにあるのかを明確にしていきたいと思っています。
音楽生成AIが持つ力をどのように上手く活用できるのか、それによって人間のクリエイティビティがどのように強化されるのか。なお、YouTube Music AIインキュベーターのYouTubeでの実装については、この時点では未定となっている。