1. 「Out Of Time」(feat. Bea Miller)
オープニングを飾るのは、本作からの1stシングルとなったこの曲だ。歌っているのはビー・ミラー。今年6月に先行リリースされた。アメリカはニュージャージー出身のシンガーは、「Feel Something」やNOTDとの「I Wanna Know」などのヒットでもお馴染み。多彩な楽曲が繰り出される本作中においては、比較的これまでのゼッド寄りスタイルと言えそう。リスナーに違和感のないスムーズなトランジションを促してくれる。ゼッドの初期楽曲に多い、時計を思わせるチクタク音が打ち鳴らされ、タイトルにもある”Time”がテーマに取られている。そのあたりのインスピレーションについても、一度本人に尋ねてみたいものだ。
2.「Tangerine Rays」(feat. Bea Miller, ellis)
続く2曲目も、1曲目と同じくビー・ミラーがボーカルを担当。前曲からオーケストラ演奏で、ほぼノンストップで繋がれる。
3.「Shanti」 (feat. Grey)
以前からインド音楽への興味を窺わせていたゼッドだが、ここで思いっきりインド愛が炸裂する。インド的な音階、楽器、メロディが導入され、インド人シンガーやコーラス隊を率いたエキゾチックな世界が展開される。プロダクションの制作にはアメリカ人プロデューサーデュオ、グレイが参加。ゼッド&マレン・モリスの「The Middle」などでもコラボしていた2人とは、久方ぶりの顔合わせだ。
4.「No Gravity」(feat. Bava)
メロウでチルなのに、小気味良さが光っている。”無重力”というタイトル通り、フワフワと宇宙空間を遊泳しているかのような錯覚に陥らせてくれる。
5.「Sona」(feat. The Olllam)
おそらく本作で最大のサプライズと言えそうなのがこのチューン。共演しているジ・オラムは、北アイルランドのベルファスト出身のケルト奏者の3人組。もしくは彼らを中心としたケルト楽団として活動する。「以前はバグパイプやホイッスルなどがすごく苦手だった」というゼッドだが、コロナ禍に彼らにハマったと明かしている。アイルランドとロサンゼルスの間で、遠隔で制作されている。ファンにとっては驚きだが、ゼッド自身もこんな形でケルト音楽とエレクトロニックミュージックが手を取り合うとは、想像していなかったに違いない。
6. 「Lucky」(feat. Remi Wolf)
8月に2ndシングルとして先行リリースされていたナンバー。
7.「Dream Brother」(feat. Jeff Buckley)
前アルバム『True Colors』のリリース後も、シングルヒットは途絶えなかったゼッド。だが、アルバム制作に臨むまでのインスピレーションは得られずにいたそうだ。結果、9年ものインターバルが空いてしまったが、その突破口となったのがこの曲だ。エレクトロニックミュージック以前には、ロックバンドに参加していたこともある彼は、もともとジェフ・バックリィ(1966-1997)の大ファン。いつかジェフのこの曲をダンスミュージック風にアレンジしてみたい、と密かに思っていたそうだ。ジェフとバンドのオリジナルの歌や演奏をそのまま活かしつつ再構築。祈りを捧げるかのような呪術的な原曲のムードも、継承されている。故人の楽曲のリメイクで、しかもオルタナティブロック系というので驚かされるが、そもそもこのアルバムの制作のきっかけは、全てこの曲から始まったそうだ。
8.「Descensus」(with Mesto feat. Dora Jar)
ベッドルームポップ系アーティストとして頭角を表してきた、アメリカ人シンガーのドラ・ジャーがボーカルを担当。ゼッドのDJセットにもいち早く組み込まれ、人気を博していたナンバーだ。ドラは、ビリー・アイリッシュやThe 1975のオープニングアクトを務めたり、9月にはアルバムデビューの予定。オーケストラとエレクトロニックサウンドが融合されたゴージャスなサウンドが展開される。前述のエリスや、オランダの若手DJ/プロデューサー、メストも制作に関与。更に後述するミューズのマシュー・ベラミーもギターで参加する。
9.「Automatic Yes」(feat. John Mayer)
以前から交流のあるジョン・メイヤーが歌とギターで参加。ソフトロックな曲調が初期ジョンの作風を思わせるが、今ならシティポップに通じるバブリーな雰囲気とでも形容したいところだろうか。ジャストなタイミングで差し挟まれる、細やかなアレンジの妙が随所で光る。ビヨンセやタイラの共作者のアイソロギーこと、アリオワ・ベンスミスが曲作りで参加。シングルカットされれば大ヒットしそうな気がする。ちなみにジョンは、アレッシア・カーラとステージ共演したことがあり、その時にはゼッド&アレッシアの「Stay」のカバーを披露していた。
10.「1685」(feat. Muse)
ラストを締め括るのは、ミューズとのコラボナンバー。以前からミューズの大ファンを公言し、実際、一緒にスタジオ入りしたこともあるゼッド。今回この曲を制作するにあたっては、ミューズとの共演が叶わなければ、インスト曲になっていたとも明かしている。彼もミューズも共にクラシック音楽の背景をもっており、ここではバッハとグノーの「アヴェ・マリア」のメロディが用いられている。タイトルはバッハの誕生年ではないかと言われてる。一旦曲が終わり、少し間を置いてからオーケストラ演奏が再開するのは、かつてCDによくあった”ヒドゥントラック”を再現したかったそうだ。
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以上、全10曲を聴き終えて、これまでのゼッドとは随分異なる作風、サウンドなのに改めて驚かされる。戸惑うファンも少なくないだろう。いわゆるクラブ向けのトラック、シングルヒット狙いの楽曲を集めたアルバムでないのは明白だ。ゼッド自身も「EDM云々は、一切考えずに制作した」と語っている。アルバムのタイトル”Telos”(テロス)とは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスも用いた用語であり、”完成、達成”などを意味するそうだ。つまり、ゼッドはこのアルバムで”テロス”の境地に到達。

ゼッド
『Telos』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/Telos_Zedd
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/zedd/