グリーン・デイのジャパンツアーが2月21日から26日にかけて開催された。本来なら2020年3月下旬に実現していたはずだった彼らの来日公演だったが、当時猛威を振るった新型コロナウイルスの影響で延期→中止という結果に。
これにより今回の来日は、2012年夏の『SUMMER SONIC 2012』以来12年半ぶりという驚きの結果となった。もっと言えば、フェスを除く単独ツアーとなると2010年1月以来15年ぶり。日本における彼らの不在は、ロック/パンクロック・ファンにとって大きな影響を与えたことは想像に難しくない。

【写真ギャラリー】「パンク」史上最高のアルバム40選

あれから時代が何周もし、後追いでグリーン・デイを知った若年層も多いことだろう。かつ、昨年は充実の内容でファンを歓喜させた最新アルバム『Saviors』を発表しただけでなく、バンドにとっては名作『Dookie』(1994年)発売30周年&『American Idiot』発売20周年という大きな節目の年。海外で行われたツアーではこの3作品を軸にしたセットリストで、往年のリスナーから最新のファンまでを歓喜させた。そんなタイミングで実現した10数年ぶりのジャパンツアー、期待するなというほうが無理なことだ。ジャパンツアーが発表された時点で大きな話題となり、チケット一般発売から1カ月にして大阪、名古屋、横浜2DAYSの計4公演のチケットはソールドアウトを記録した。こうした事実からも、日本のオーディエンスがいかにグリーン・デイを待ち望んでいたかがご理解いただけることだろう。

2月21日の大阪城ホール公演からスタートしたグリーン・デイのジャパンツアーは、各地で熱狂の渦を巻き起こし、我々を大いに楽しませてくれた。ここでは2月25日に行われたKアリーナ横浜での公演について記していく。

【ライブ写真ギャラリー】グリーン・デイ来日公演 2月25日@Kアリーナ横浜

横浜公演では大阪から引き続き、おとぼけビ~バ~がオープニングアクトを担当。
「そう、私たちには時間がない!」の一言を合図に、アグレッシヴなショートチューンの数々を怒涛のごとく連発。最初こそ様子見状態だったオーディエンスも、矢継ぎ早に放たれる”ウィットに富んだ”楽曲に対して好意的なリアクションを示し始め、約30分におよぶステージを終える頃にはバンドに向けて温かな拍手が送られた。

約30分のインターバルを挟んで会場が暗転するとクイーン「Bohemian Rhapsody」が流れ始め、客席の至るところから大合唱が自然発生。さらにラモーンズ「Blitzkrieg Bop」が始まると、ステージにはうさぎの着ぐるみが登場し、観客を煽り続ける。ロッククラシックの連発でフロアがいい感じに温まったところで、マリリン・マンソン「Beautiful People」のヘヴィなビートに乗せて映画『スター・ウォーズ』でお馴染みの「The Imperial March(ダース・ベーダーのマーチ)」が鳴り響く。さらにそこへ「Blitzkrieg Bop」の〈Hey ho, let's go!〉やクイーン「We Will Rock You」、ジョーン・ジェット「I Love Rock 'n' Roll」が重なり、スクリーンにはグリーン・デイの過去のMVやライブ映像のコラージュが映し出されなど、カオスさを醸し出す。もうこの段階で、ここからロックンロールの祭典が始まるのだと誰もが理解したことだろう。

そんなイントロダクションに導かれるように、ステージにはグリーン・デイの3人とサポートメンバー3人が姿を現し、ライブは最新アルバムのオープニングナンバー「The American Dream Is Killing Me」から軽快にスタート。観客の大歓声は次第にシンガロングへと変化し、ビリー・ジョー・アームストロング(Vo, Gt)に促されるように手を左右に振るなどして一体感を高めていく。「Basket Case」MVを彷彿とさせるオレンジの上下で、ステージ上を縦横無尽に動き回るマイク・ダートン(Ba)、その後方で軽快さと重々しさを兼ね備えたビートを叩き続けるトレ・クール(Dr)。1996年の初来日から29年経った今もこうして現役感満載でステージに立ち続けるその姿は、我々を一瞬にして”あの頃”に引き戻してくれる。

グリーン・デイ来日公演を振り返って 誰もが待ち望んだ「ロックンロールの祭典」

Photo by Kazumichi Kokei

そんな余韻に浸っていると、早くも初期の名曲「Welcome to Paradise」が繰り出される。
イントロのギターリフが鳴り響いた瞬間の、あの怒号のような歓声に鳥肌が立ったのは、きっと筆者だけではなかったはずだ。オーディエンスのシンガロングも一際大きくなり、その熱量は「Longview」へと引き継がれ、エヴァーグリーンな「Basket Case」で盛り上がりはこの日最初のクライマックスを迎える。さらに「She」まで飛び出すなど、ライブ序盤に『Dookie』を軸にしたセットリストを体験したことで、この日のステージが大成功を収めることは想像に難しくなかったはずだ。

グリーン・デイ来日公演を振り返って 誰もが待ち望んだ「ロックンロールの祭典」

Photo by Kazumichi Kokei

グリーン・デイ来日公演を振り返って 誰もが待ち望んだ「ロックンロールの祭典」

Photo by Kazumichi Kokei

グリーン・デイ来日公演を振り返って 誰もが待ち望んだ「ロックンロールの祭典」

Photo by Kazumichi Kokei

その後、この日が今ツアーで初お披露目となる新作アルバムからの1曲「Strange Days Are Here to Stay」がプレゼントされると、観客は盛大なクラップでその好意に応えていく。また、「When I Come Around」ではアリーナ上空を「BAD YEAR」と書かれた飛行船型気球が飛び回り、続く「Know Your Enemy」のイントロでその気球から小型爆弾型風船がフロアに落とされるなどの演出もあり、さまざまな形で我々を楽しませてくれた。特に「Know Your Enemy」ではビリーの長尺ギターソロが飛び出したほか、客席からファンをステージに上げて一緒に歌うなどのサプライズも用意。疾走感の強い「Revolution Radio」や、ザ・クラッシュのカバーで知られる「I Fought The Law」の一節を歌ってから本編に突入する「Dilemma」、オーディエンスが一斉にスマホのライトを点灯させ幻想的な雰囲気を作り上げる「21 Guns」、メンバー紹介を交えながら盛り上がりがピークに向かっていく「Minority」と、名曲の数々が次々に繰り出されていく。そして、「Brain Stew」を歌う前にはビリーがザ・ブルーハーツ「リンダリンダ」のサビを歌い始め、会場の空気をひとつに束ねる瞬間も。こうしたサービス精神からも、ビリーやグリーン・デイの面々が今回のジャパンツアーをいかに心待ちにしていたかが伺えたことだろう。

前のめりなアップチューン「Jaded」の空気を引き継ぐように、ライブ後半戦は「American Idiot」からアルバム『American Idiot』パートへと突入。ステージ後方にはアルバムジャケットのイラスト(ハート型手榴弾を掴んだ腕)を模したセットが登場し、フロアにはいくつものサークルが発生する。以降も「Holiday」「Boulevard of Broken Dreams」とヒットナンバーを連発。
特に「Holiday」ではスクリーンに「I DREAM」「NO WAR」のメッセージが表示されるなど、アルバムが孕んだシリアスな空気で場の雰囲気は一変する。それはリリースから20年以上経った今も、世界では相変わらず戦争が続いている、そんな現状に対する怒りとも受け取れた。

ドラマチックな組曲「Are We the Waiting」「St. Jimmy」や、ゆったりとしたテンポ感で歌を届ける「Give Me Novacaine」と、『American Idiot』の世界観が2025年の今も十分に有効であることを嬉しく思うと同時に、少々悲しくも感じてしまった筆者だったが、「Letterbomb」でビリーが連呼する「You are so beautiful! I love you!」や「I wanna celebrate you!」といったポジティブなメッセージで再び状況に変化が訪れる。「俺の4カウントに続いて、みんな好き勝手に歌い踊れ!」というビリーの呼びかけを合図に、それまで以上にこの環境を心の底から楽しもう……フロアからはそんな心意気が伝わってきた。

グリーン・デイ来日公演を振り返って 誰もが待ち望んだ「ロックンロールの祭典」

Photo by Kazumichi Kokei

センチメンタルさが原曲以上に増した「Wake Me Up When September Ends」に続いて、10分前後におよぶロックオペラ「Jesus of Suburbia」でこの日のライブは佳境に突入。次々と変化していく曲調に合わせて、観客は思い思いの楽しみ方でグリーン・デイのステージを堪能していく。そして、最新作からの「Bobby Sox」ではビリーの合図でオーディエンスが一斉にジャンプ。同時に頭上からは紙吹雪が舞い始め、大団円と呼ぶに相応しい演出でライブは最大のクライマックスを迎えた。

バンドメンバーがステージから去ると、アコースティックギターを抱えたビリーがひとりステージに再登場。そのまま「Good Riddance (Time of Your Life)」を弾き語りで披露すると、彼の歌に合わせてファンも大合唱を始める。エンディングではマイクとトレも加わり、クロージングにぴったりな1曲で約2時間におよぶ”ロックの祭典”は終了した。

全体を通してエンタメ精神満載なステージを繰り広げるも、要所要所で彼ららしいパンク精神を滲ませるなど、今や世代を超えたロックアイコンとしてシーンの頂点に君臨するグリーン・デイ。
日本では10数年という空白が生じてしまったが、この長い時間があったからこそ改めて彼らの凄みを実感することができたのではないだろうか。29年前の初来日時、晴海で観た彼らと照らし合わせ、こんなにも逞しくて誇り高いロックバンドに成長したんだと感慨に耽るという、筆者にとって29年前同様忘れられない一夜となった。

グリーン・デイ来日公演を振り返って 誰もが待ち望んだ「ロックンロールの祭典」

Photo by Kazumichi Kokei

セットリスト
1. The American Dream Is Killing Me
2. Welcome to Paradise
3. Longview
4. Basket Case
5. She
6. Strange Days Are Here to Stay
7. When I Come Around
8. Know Your Enemy
9. Revolution Radio
10. Dilemma
11. 21 Guns
12. Minority
13. Brain Stew
14. Jaded
15. American Idiot
16. Holiday
17. Boulevard of Broken Dreams
18. Are We the Waiting
19. St. Jimmy
20. Give Me Novacaine
21. Letterbomb
22. Wake Me Up When September Ends
23. Jesus of Suburbia
24. Bobby Sox
25. Good Riddance (Time of Your Life)
編集部おすすめ