いまの時代の空気や人の感情を敏感に察知した言葉が綴られている。ロシア出身のヴォーカリスト 、Lizaは9曲入りの最新のミックステープ『PARAPARA MIXTAPE』をプロデューサーのChaki Zuluと作り上げた。
本人は自分のことを「完全に陰な人間」と言うが、ダンスホールとアフロビーツをミックスしたようなトラックの上でラッパーの7と愉快に跳ね回る「PARALLEL」があり、シンガーソングライターのsheidAとの「PARADISE」では「僕の脳みその中なら少年ジャンプ」という快活なラインが耳に残る。2023年に「ラップスタア誕生」で大きく注目された彼女ではあるが、17歳のころからアーティストとして活動を開始しており、2022年には『WHO AM I?』というフル・アルバムをリリースしている。Lizaというアーティストは何者なのか。『PARAPARA MIXTAPE』の話を皮切りに、彼女のバックグラウンドや音楽への向き合い方について語ってもらった。

【画像】Liza、撮り下ろし写真(全4枚)

―どのように制作していきましたか?

Liza:最初からアルバムを作ろうとしたというより、1曲目に「PARANOID」を作って、その次に作った曲のタイトルの候補にまた「PARA」が付いたときに、「PARA」が付く曲だけでミックステープを作ってみようとなって。それで約9カ月ぐらいかけて作りました。

―Chaki Zuluさんとの制作はどうでしたか?

Liza:何曲もいっしょに作ると音楽的な部分もそうですけど、制作への向き合い方が変わっていきますね。お互いのことを理解したうえで楽曲を作ることができて、Chakiさんが、私ひとりだったらできないところを開拓してくれました。新しい自分を知るきっかけにはなって新鮮でした。

―両者のあいだに、音楽的にもマインド的にも明確な共有事項みたいなものはありましたか?

Liza:軸がぶれないようにしながら、基本はフィーリングで作りたいものを作りました。ただ、ちゃんと覚悟を持ってやることは最初に約束しました。そのうえでChakiさんはできるだけ私がやりたいことを尊重してくださって。
たとえば、私が感情を優先させて軸がぶれちゃうときに上手く軌道修正してくれた。「なぜ、それをやりたいのかを説明して」という風に言葉をかけてくれたりして。このミックステープを作るまでの2年間ぐらい、素直に音楽を楽しめなくなっていたんですよ。

―それはまたどうしてですか?

Liza:最初に出した4曲がYouTubeとかである程度数字が伸びたんです。そのときは自分の感情を表現するためだけに音楽をやっていて。それがお金になるとも思っていなかったし、ただ自分という存在を知ってほしかった。でも、数字が伸びれば、声をかけてくださった人たちもいて。そのなかには1回お話して、その後は会わなかった人たちもいますけど、「この曲はもっとこうした方がいい」とか言われるようになって、自分の感情の行き場がなくなってしまった。私は音楽の知識もなく、フィーリングで好きなように作っていたから、そういう人たちの話をどこまで聞き入れて、どこから聞き流せばいいかわからなかった。自分を表現する術だった音楽で、ビジネス的側面も考えなければいけなくなって 、曲を作るとなれば感情を込められるけど、ライブのやり方とかMVでの表情の見せ方とか、そういうところで自分がわからなくなってしまって。でも、そういう方たちと出会えたおかげでスキルアップしたり、音楽的知識が身についたりしたのも事実なので良いこともありましたし感謝もしていますがそういう事もあってかなりスランプに陥ってましたね。今は音楽が好きっていう気持ちを尊重しながらすごく良い環境で制作ができていますね。
一番忘れちゃいけない音楽のワクワク感や楽しさを持ちながら制作できています。

―2023年に「ラップスタア誕生」に出演されて、Lizaさんを知った人も多かったと思います。今はSNSでファンの存在やダイレクトな声も知ることができると思いますけど、どんな人たちが自分の音楽を必要としていると感じていますか?

Liza:闇属性の人たちですかね。でも、それは良い意味で。「あなたがいなかったら生きてないんです」という深い繋がりを感じるリスナーが多い気がします。実際に他の人とのファン層の違いを感じるときがあるんです。たとえば街中で私の知り合いのアーティストはファンから呼び捨てされて、ウワーッて近寄られるんですけど、私の場合はそうじゃなくて、「Lizaさんですよね……」みたいな感じで距離を置いてくれる。私がそういう雰囲気を出しているのかもしれないけど。

―それはいいことでもありますよね。今はファンから距離をすごく詰められて大変な目に遭うアーティストも多いでしょうし。

Liza:そうですね。だから、そういう距離感は良いなって。


―孤独と愛というのは一貫してLizaさんの表現の核にありますね。SEEDAをフィーチャリングした曲のタイトルもまさしく「愛」でしたし。

Liza:友達と会うたびにそういうことについて語り合ったりしますけど、「けっきょく人間って何なんだろう」みたいな話になって正解がわからなくなる。自分なりに愛ってこういうことなんだろうなってわかってきている気もするけど、もっと人生経験を積まないとわからないことが多いし、いま正解が見えないからこそ嘆いて音楽にしています。

Lizaが語る、孤独と愛の表現、白黒分けられない感情に寄り添えるようになった理由


―「PARASOCIAL」という曲では、「この世界はPARASOCIALで満たされている」と歌っています。

Liza:「PARASOCIAL」はそれこそ、SNSとかメディアを通じて、会ったこともない芸能人や芸術家にたいして他人以上の感情を一方的に抱くことで。今は、人に直接会って言わないで、SNSに書き込んだりする一方的なコミュニケーションが多いって思うから、それを曲にしようと考えて。「PARASOCIAL」はこのミックステープの中で一番スムーズに歌詞が書けました。色々考察しがいのある歌詞になっていると思います。

―今の時代の空気とか人の感情とか、そういうものを敏感に感じ取って表現しようとしているのが伝わってきます。

Liza:ただ、 私はこれまで他人や若い子たちの悩みが理解できないことが多かったんです。たとえば、自分を雑に扱う男の人を一生懸命に追いかけてしまう、みたいな恋愛の悩みを聞いて、私は「じゃあ、切ればいいじゃん」って言っちゃうような性格だったから。
そういう人の悩みをバカにしているわけじゃないけど、そこにある白か黒かで分けられない複雑な感情があまりわからなかった。そういう話をChakiさんにしたら、「もうちょっと人のそういう感情を理解しようとするマインドでいた方がいいよ」って言われて。それで前よりは人の気持ちに寄り添えるようになったし、歌詞で使う言葉とか、自分のマインドを持っていく範囲が広くなったと思います。『PARAPARA MIXTAPE』はミックステープだから、「これがLizaのすべてです」というわけではないけど、楽しみながら作ることができました。

―「PARADOX」はキャッチーなトラックですけど、さらりとエグみのある内容を歌っていて。

Liza:これはギャルのマインドになり切って作った曲で。最近、周りとかSNSを見ていても、「彼氏と喧嘩したときだけ連絡してくる友達」みたいなのが良く回ってきて。恋愛話で共感できるものとできないものがあるけど、これに関してはたしかにあるなと思えたので、<彼氏と喧嘩したときだけ連絡 何それ舐めてる>っていう歌詞を書いた。だから、いろんなマインドになって歌っているけど、そこに私が最近気づいたことを織り交ぜながら、必ずLizaらしさを残していますね。

―「PARADISE」という曲で客演しているsheidAさんについて教えてもらえますか? 彼女も「ラップスタア誕生」に出ていました。

Liza:自分の主催のイベントで呼ばせていただいてから関係が深まりました。sheidAは凄いポジティヴ・マインドを放ちまくっている人。
自分がポジティヴな人間じゃないから、最初は合わないなと思っていたんですけど、サシで会って話したらいろんな面を知ることができて仲良くなりました。ちゃんとヴィジョンと信念を持って音楽をやっている尊敬できるアーティストだし、プライベートで会ってお互いの家を行き来するぐらいの関係。みんなを元気づけてくれるポジティヴ人間ですね。

―その「PARADISE」の<僕の脳みその中なら少年ジャンプ>という歌詞が意外性が印象的に残っています。

Liza:私、『少年ジャンプ』が本当に大好きで、ジャンプ系のアニメはほとんど制覇するぐらいオタッキーなところがあって。それと、男性脳なのか、女性脳なのか、という診断をしたときに80%男性脳で。恋愛をしたら、めんどくさくなる女の子っぽいところがゼロではないけど、基本的に男の子の考えに寄っているところが多いとは思うんです。そういう自分を一言で表現したくて、<僕の脳みその中なら少年ジャンプ>って入れました。

―意外性といえば、ダンスホールとアフロビーツが混ざったような、ラッパーの7との「PARALLEL」はこれまでになかった愉しい曲ではないかと。

Liza:こういう曲はたしかにこれまでなかったです。ただ、この曲を出したときに「中身がねえじゃん」みたいなことも言われたんです。だけど、人は365日ずっと深い曲を聴きたいわけじゃないし、楽しむのも感情のひとつだし、脳みそのスイッチを切って何も考えずに遊ぶときもありますよね。
あと、今回はギャップも大事にしました。「PARADOX」はあんなかわいいビートだからこそああいうエグいことが歌えるし、逆に「PARAPARA」は曲名からは想像しにくいダークな曲調にしていて。

―そう、「PARAPARA」というタイトルもそうですし、このミックステープから先行でリリースしている3曲のジャケがMDなのも面白くて。

Liza:今2000年代のファッションのリバイバルがあるし、ガラケーの案も出たんです。みんなで話し合って。そのアイデアのなかにMDがあった。私はMDを知らなかったけど、見た目もかわいいし、いいなって。

―Lizaさんはどんなものから影響を受けて自分の表現に活かしてこられたんですか?

Liza:私は陽か陰かでいえば、完全に陰な人間だと思います。その陰が形成されたのは幼稚園ぐらいからで。たとえば、小2ぐらいから山田悠介さんや東野圭吾さんの小説を読んでいましたし、みんながプリキュアの映画を観に行っているときに『踊る大捜査線 THE FINAL』の映画を観に行ったり。織田裕二さんがめっちゃ好きでした。

―それは早熟ですね。

Liza:音楽は特定のアーティストや誰かの歌に影響を受けたというより、中田ヤスタカさんが作った『LIAR GAME』のサントラとか、聴くことで現実世界から離れられる非現実なものに惹かれていました。私が幼少期を過ごしたロシアでは戦争があったし、キレイなものとかハッピーな音楽にあまり共感できなくて。人間の本性が表現されている作品が自分の基盤を作ってきたと思います。音楽をやり始めたときも明るいことを歌にしようとはまったく思わなかったですから。

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―どの曲かを忘れてしまって申し訳ないんですが、<戦争行ったブラザー>という歌詞のある曲がありましたよね。

Liza:ああ、それは「ラップスタア誕生」に応募した曲です。実際にお兄ちゃんは戦争に行ってしまって。そのまま帰って来ない人ももちろんいるんですけど、小2ぐらいのころに最後に会ったきりだったお兄ちゃんと、ロシアに帰ったときに、10何年ぶりに再会したんです。

―それはすごい。ロシアの地元はどこなんですか?

Liza:家族全員バラバラのところに住んでいるんですけど、地元と言えるのはクズネツクっていうロシアのめちゃ田舎です。そこで幼少期を過ごして、モスクワにもいとこが住んでいるのでちょくちょく行ったことがあります。

―ロシア語で歌っている「нож (ノージ )」という曲もあります。

Liza:日本語の方がぜんぜん得意ですけど、他の人と違う自分の強みはロシア語ができることだから、上手く活用して行ければ良いと思っています。「PARALLEL」の最初でもロシア語を使っていますし。

―海外のアーティストのライブ映像とかも観たりしますか?

Liza:くり返し観ているのは、ネットフリックスのトラヴィス・スコットの『Look Mom I Can Fly』っていうドキュメンタリー。あれは5、6回は観ています。他にはテイラー・スウィフトのライブとか。でも大好きなライブは何かと訊かれたら、デュア・リパとビリー・アイリッシュです。やっぱり海外のアーティストのライブは吸収できるものが多いです。

―いま現在、未来に向けて、アーティストとしてどういったマインドでいますか?

Liza:自分は行けるところまで行きたいと思っています。一人で制作していたときの曲はそのときの正解で良い曲だとも思うけど、歌の上手さとかコード進行とかはまったくプロの領域には及んでいないし、そのレベルの曲でアリーナとかの大きなステージに立てるかと言ったら、絶対に無理だった。だから、今 とにかくがむしゃらに音楽を作って成長したいです。私、一度も 自分に満足したことがないので。

<リリース情報>

Liza 
配信Mini Album『PARAPARA MIXTAPE』
2025年3月19日(水)リリース
=収録曲=
1. PARADOX
2. PARALLEL feat. 7
3. PARALYZER
4. PARADISE feat. sheidA
5. PARANOID
6. PARASOCIAL
7. PARASITE
8. PARAPARA
9. PARAGRAPH

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