若くしてシーンに登場し、今やNYはブルックリンを代表するロックバンドとなったサンフラワー・ビーン(Sunflower Bean)が4作目のアルバム『Mortal Primetime』をリリースした。セルフ・プロデュースかつライブ録音というバンドというフォーマットにおける原点に回帰したかのような制作方法で完成した本作は、ヘヴィでソフトな幅のある音像だが、ライブバンドの魅力を見事にパッケージしている。


しかし、前作『Headful of Sugar』から約3年の間にブルックリンの仲良し3人組として知られるサンフラワー・ビーンは、それぞれが人生における転機を迎えていたという。ジュリア・カミング(Julia Cumming)、オリーヴ・フェイバー(Olive Faber)、ニック・キヴレン(Nick Kivlen)にZoomを繋いで話を訊いた。

バンドといっしょに大人になり、そして個人になっていった

ー新作『Mortal Primetime』の完成おめでとうございます。

オリーヴ:最高の気分! すごく力を入れた作品だし、リリースが待ち遠しい!

ーまずは前作から本作までの道のりについて伺います。サンフラワー・ビーンには、”NYを代表するバンド”、”長い間共に活動してきた結束の強い3人組”といった印象があったので、本作『Mortal Primetime』の資料に「(前作のあと)メンバーは新たなプロジェクトを追求し、それぞれの挑戦や悲劇や変化に直面するにつれ徐々に疎遠になっていった」と書いてあるのを読んで驚きました。前作『Headful of Sugar』(2022年)以降、どのように過ごしていたのか教えてください。ジュリアさんは、これまでの活動で初めてご自身だけで曲作りをすることになったことも大きかったそうですね。

ジュリア:私たちのことを、NY出身の結束の強いグループと思ってくれていることがすごく嬉しい。バンドを組むというのは結婚のようなもの、と考えるのが一番近いと思う。で、同時に私たちの場合、このバンドといっしょに大人になっていった。だから疎遠になったというより「個人になっていった」感じなの。私たちは全員お互いをリスペクトしているし、文字通り愛し合っている。
それがあるからこそ今回のアルバムが実現したと思うんだ。

自分だけで曲を書いたと今回の資料に書いたことは我ながら興味深くて。今までも一人で曲を書いたことはあるけど、そのときはそうすることにした自分の選択に自信が持てていなかった。一人で曲を書くソングライターの自分というのもしっくりきていなくて。でもここ数年、ツアーしなかった時期に曲を書く経験を重ねることができた。そのおかげでより深い形で書くことができるようになったし、それがこのアルバムを私たちにとってエキサイティングなものにしてくれていると思う。できる限りハイレベルなレコードを作ること、ファンのためにもできる限り深い作品を作ること、それが私たちのゴールだから。

ーニックさんはそれまでずっと住んでいたNYからLAに移られたんですよね。

ニック:そう……。要因はたくさんあって、何年か考えていたことでもあった。大きな理由の一つは、僕のガールフレンドの友人がLAに移住して、本当にステキなアパートに住んでいたんだけど、それを手放すことになって、そこを僕たちが引き継ぐことができたことで。移住には絶好のタイミングだった。
自分の人生の幅をもうちょっと広げたいという気持ちもあったしね。もっと曲を書いたりプロデュースをしたり、他のアーティストといっしょにいろいろやってみたいなって。NYでもそういうことができるようにとトライしていたけど、どうもうまくいかなくて。あとNYはすごく物価が高いから、もう少し安いところに移るのもいいなと思ったんだ(笑)。

ー物価はLAの方が安いんですか?

ニック:ずっと安いよ。いや、そりゃこっちだって高いけど。でもまだマシって感じかな。NYはバカみたいに高いからね(苦笑)。アンビリーバブルだよ!

ーオリーヴさんは前作が出た辺りで、「オリーヴ」として生きることにしましたね。人生最大の決断のひとつだったのではないかと思います。そして新しいプロジェクトであるStars Revengeを立ち上げました。

オリーヴ:そうだね……。
特に「選択」してそうしたワケじゃなかった。うーん……どう言えばいいかわからないけど、自分の中で理に適うことをしたらこうなったんだ。これが私の人生という旅で、その中で自分にとって理に適っていて、気分良くいられる道を歩んでいる感じ。だから、今はとても気分がいい。自分が何を望んでいるのかを自分に問いかけて、それを手に入れようとする、手に入れる、その練習みたいなものだった。

ー「個人になっていった」というジュリアさんのお話の通り、それぞれが人生の歩みを進めたということですね。その人生の中でサンフラワー・ビーンを続けることを選び、そして新作『Mortal Primetime』を完成させるにあたって、何かきっかけはありましたか?

ジュリア:私たちが〈Lucky Number〉というレーベルと仕事をしていることが大きかった気がする。UKでずっといっしょにやってきて、そのあと他の地域でもいっしょにやっているレーベルなんだけど、私たちのことをすごくアーティスティックな形で信頼してくれていて。マネージャーのクリスタ(Christa Simiriglia)もそう。そういった周りの人たちの観点を教えてもらって、全体像を理解することが往々にして必要になってくる。そして、周囲のみんなは私たちがまだまだいっしょに曲を作ることができるって確信してくれていた。もちろんそれだけじゃなくて、オリーヴがエンジニアリングをたくさん担ってくれたこと、プロダクションに3人共通の興味を注ぐことができたこと、それからそういう形でスタジオに居られたこともあって、私たち自身もこれをプロデュースするというチャレンジを受けて立ちたいと思えた。
そんな経緯があって形になることを願いながら曲を持って集まったんだよね。全部の曲を「マッサージ」するのに1カ月くらい掛かったかな。そうして文字通り「作り上げて」いった。それからLAのヴァンナイズにあるスタジオに行って、15日くらい掛けてレコーディングしたんだ。illuminati hottiesというバンドのサラ・タジンは素晴らしいエンジニアで、彼女の私たちが新作を作る選択をしたことに自信が持てるよう手助けしてくれた。

ー周囲の人間の意見に耳を傾けることが重要だったんですね。その上で3人が再結集したのは自然な流れだったのでしょうか?

ジュリア:というか、本当に「離れて」いた時期はなかったんじゃないかな。離れてはいたかもしれないけど、いっしょに音楽を作ろうという決断はいつも簡単なことだし、エキサイティングなこと。ただ、実際に作るとなると、自分たちがどこへ向かっているのか、それがどういう意味を持つのか、見極めるのはなかなか大変だけどね。でも私たち3人が集まって曲を書いていっしょにプレイするというのはすごく気楽にできることだし、3人でいっしょにいてハッピーなんだ。だから3人でいっしょにやりたい。それにアルバムを作る機会を与えられることがどんなに貴重か、私たちはわかっている。


いっしょに音楽を作らない時期があったのは、3人にとって本当に大切なことだった

ーでは『Mortal Primetime』のテーマに挙げている「友情、忍耐、報復、そして再生」は、バンドとして迎えた苦悩(団結を維持することの難しさ)と繋がっているわけではないんですか?

ニック:繋がっているのは間違いないね。歌詞も曲も頑張って生きていることについて書いているんだ。僕たちとマネージャーのクリスタがいっしょになったときの強さとパワー、僕たちのレーベルの僕たちに対する信頼が、このアルバムと、そのテーマである友情や、自分が生きたい人生を生きて、やりたいことをやるための忍耐、それから自分の価値観にとってとても重要になっている気がする。僕のソングライティングのテーマはいつも”collectiveness”(一体感)だしね。コミュニティがあることの大切さ、価値観を共有できてお互い味方になれる人々がいることの大切さ。”individuality”(個であること)は素晴らしいし、大いに尊重しているけど、どうやら世の中は僕たちを隔離した状態にしておきたいんじゃないかと思うことが多くてね。タイトな絆を築かせたいんじゃなくてさ。それでも僕はコミュニティがとても大切だと思っている。僕にとってはアルバムの多くがそれについてのことだよ。

ーもしかしたら、しばらく離れていたことで、いっしょにいることの価値をあらためて学ぶことができたのかもしれませんね。

ニック:その通り! いっしょに音楽を作らない時期があったのは、僕たち3人にとって本当に大切なことだったと思う。2022年の終わり頃は、いっしょに音楽を作ろうとしてもストレスになったり、ぎこちなくなったりして、どうにもうまくいっていなかった。
自分自身のことを学んで、他のことを試してみたり、他の人たちと仕事をしたりするのに、1年くらい必要だったんだと思う。バンドにフォーカスしないで、それぞれの幅を広げていく時間がね。それがあったから、2024年に再結集してこのアルバムを作ることができたんだ。

オリーヴ:私たちはこのバンドといっしょに成長してきたんだ。その繋がりや仲間意識はとても大切なこと。同時に自分の地平線を押し広げていろんなことをやってみるのも大切ってことだよね。

ーこのようなテーマは、前作『Headful of Sugar』で資本主義社会で生きることの喜びと苦悩を表現していたことと、大きく違っているようで実はとても近しいテーマなのではないかと感じました。

ジュリア:たしかに地続きな部分はある。すべては自分が過去にやったものに対する反応だと思う。それから、ずっと私たちはいろんな意味で「時代」に夢中になっていた気がする。『Human Ceremony』(2016年)も『Twentytwo in Blue』(2018年)もそうだった。後者は文字通り、大人になりたての時代に経験することについてのアルバムだね。『Headful of Sugar』はポップアート・アルバムのような気がしていて。ディーヴォの『Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!』に近いかな。あの頃、私たちはプレイリスト・カルチャーに物申していたんだよ。曲を書いたりリリースしたりした当時の風潮に反応しながら、アイデンティティを本当に多くのことに昇華させていたんじゃないかな。そこから振り子が反対側に揺れて、『Mortal Primetime』では最初に戻ったような感じ。『Human Ceremony』や『Twentytwo in Blue』にもあった甘さもあるし、チェロもピアノも使ったし、ずっと存在していた自分たちのルーツと今までとは違った形で繋がったりした。

私たちはソニック・ユースのレガシーを心から尊敬しているんだ。同じNY出身だし、常に大切なものや本物を追い求めているところをね。彼らのライブ映像には本当にインスパイアされている。ドラムのサウンドや会場の雰囲気だったりもね。『Headful of Sugar』とは全然違うプロセスではあるけど、あなたの言う通り、私たちはいつも近年の資本主義について書いているし、自分たちの生きている時代、その中で得た自分たちの経験について書いている。

「Easier Said」(『Human Ceremony』収録)

ニック:そうだね。一貫した線のようなものはたしかにある。歌詞的にもね。それは僕たちの視点なんだ。ちょっと変わったり、違う角度になることはあるかもしれないけど、バンドのキャリア全体を通じて、歌詞のテーマやアイデアは近いものがあった。自分たちが守りたいメッセージというのかな。

「I Was a Fool」(『Twentytwo in Blue』収録)

「Who Put You Up To This?」(『Headful of Sugar』収録)

ー「Waiting For The Rain」では年齢を重ねることで経験する変化を歌っていますよね。あなた方が感じている変化とそれを受け入れるためにしていることはあったりしますか?

ニック:僕が答えようかな。歳を重ねて……と言うのも変かもしれないけれど、気づき始めてきたのは、フィニッシュ・ラインなんてものはないってこと。ある日、目が覚めて、「よし、僕はこのアルバムを作った。僕は大人になったぞ。アパートもあるし、これで上がりだ」と思える日なんて決して来ないんだ(笑)。次のゴールが必ず出てくる。「大人になった絶対的な状態」なんて存在しない。完全な構築作業で、人それぞれ違う。自分に何が必要かという価値観の中で生きている限りは、どんなレベルのどんなキャパシティも大人って言えるんだ。何を持っていなければならない、何をしていなければならないっていう条件はない。気が遠くなるような手ごわい話だけど、ある意味にステキなことでもあるよね。何かに従わなければならないとか外部に圧力をかけられることなくいられるっていうのは。

ここ数カ月、僕はそんな心境でいるんだ。LAに引っ越してきて、新しい生活、新しい人間関係が始まってからは特にね。新しい出会いがたくさんあって、新しい友人がたくさんできて。選択肢が広がって、理に適うものなら自分の好きにできるようになった。

ーセルフ・プロデュースでライブ録音というバンドとして昔ながらの方法を選んだことによってサンフラワー・ビーンのパワフルかつ繊細な面が輝いていますね。レコーディングでは長い時間いっしょに演奏したそうですが、印象的なエピソードなどありますか?

ジュリア:各楽器がどのように演奏に加わるかは私がいろいろ考えていて。例えばチェロはベースと対になって、いっしょに動くことが多かった。そのチェロを入れたときのことはよく憶えているかな。チェロはエミリー(Emily Elkin)が演奏してくれたんだけど、彼女は忙しくて半日くらいしかいられなくて。だからできる限りベストなプランを立ててレコーディングに臨んだんだけど、計画したことがことごとくうまくいかなかったんだ。私の脳内でのチェロが、実際のチェロの動きと合っていなかったってことだね。でも彼女が来てくれているし、時間も限られていたから、咄嗟に他のメロディから引っ張ってきたものを私が歌って、何とか説明して。全員がひとつの部屋に集まって、それをリアルタイムで組み立てていった。結果的に、すごくエネルギッシュで、エキサイティングな時間になった。まさに自分たちでプロデュースすることの醍醐味だよね。危うく脱線してしまう寸前だったけど、みんなお互いを信頼し合って、その楽器から最高のものを、できる限りすぐに決断して生み出していったんだよ。今でもチェロを聴くとあの時間が目の前に蘇ってくる。

ニック:『Headful of Sugar』は作った時代の影響を大きく受けていて。今のミュージック・プロダクション、つまりポップ・アルバムの作られ方はループやサンプリングやドラム・トラックを多用しているよね。そういった時代を受け入れていたんだ。

今回のアルバムではオールド・スクールなものを作りたかった。それに僕たちにとって最高の財産であり一番ユニークなことは、僕たちがライブバンドであって、10年以上プレイしてきたことだからね。とてもスペシャルなことだよ。悲しいかな、多くのミュージシャンは「プロデューサーやセッション・ミュージシャンと仕事をするソロ・ミュージシャン」で、フォークの伝統である「同じメンツでまとまってプレイする」ことができない。この財産を活用するために、僕たちは新作で録音の多くを生で行った。というか全部か。全員で一つの部屋に入ってプレイしてね。その自然発生的なエネルギーを感じてもらえると思う。音を切り刻んだりデジタル化したりしているワケじゃない。2025年のアルバムの作り方じゃなく、1967年にアルバムを作るのに近い感覚で作ったんだ。

日本のファンと音楽は美しい関係にある

ーなるほど。本作の一部はNYで録音されていますが、大半のレコーディングをLAで行ったのはどうしてですか?

ジュリア:知り合いのプロデューサーのジェイク・シンクレアは、私たちがどんなアルバムを作ろうとしているかを理解してくれていて。彼がスタジオに好きなだけ居させてくれたから、滞在期間を最大限に活用することができたんだ。あそこは私たちが手を広げられる場所だった。それまでの作品はすべてNYで作ったものだけど……。

ニック:EPの『King Of The Dudes』以外はね(笑)。

ジュリア:でも今回はLAで作ったけど、それでもNY由来のアルバムであることは変わりない。ニューヨーカーがLAに行って、そこで写真を撮ってきたというか。写真はLAのものだけど、私たちの本質は変わらないってこと。

ニック:そうだね。ロケーションの影響はアルバムはない。でもスタジオがすごく広くて良かったよ(笑)。

ー「このアルバムではベル・アンド・セバスチャンとアリス・イン・チェインズが混じっているように感じるときもある」と資料で説明していましたね。かなり違った2組ですが納得できます。

ジュリア:その説明をしたのは私(笑)。自分で考えたくせにいつも笑っちゃう。

ニック:クレイジーだよ(笑)。もっと共通点のないバンドを挙げれるかな……いや、わからないね(笑)。

ジュリア:ベル・アンド・セバスチャンが出てきたのは「Waiting For The Rain」や「Please Rewind」のような曲があるからだと思う。要は60年代終わりくらいのポップを感じさせる曲だね。私たちはよく70年代っぽいと言われるんだけど、本当はもっと60年代終わりよ90年代が出会ったような感じで。ベル・アンド・セバスチャンは甘い感じとポップさから引き合いに出したんだと思う。

アリス・イン・チェインズの影響は去年のEP『Shake』ですごく濃く出てきたような気がする。不協和音とかね。今回は「Sunshine」という曲が最後にあって、これはLAに言及した唯一の曲なんだけど、リスナーとしてはあの曲がギリギリのところを突いている気がするんだ。間一髪のところでうまくいっているというか、合うか合わないかギリギリ。アリス・イン・チェインズの持っているそういうところが好き。本来ならこんな良い音にならないはずの組み合わせで素晴らしいものを作っているから。それにアリス・イン・チェインズもベル・アンド・セバスチャンもメロディのセンスが素晴らしくて、他と一線を画していると思う。自分たちが成功しているか私は判断する立場にないけど、私たちは曲を書くとき、そういうところをすごく大事にしている。

ーその例えはアルバムが完成してから思いついたんですか?

オリーヴ:後付けだよね。「こういうものを作ろう」と話さなかった初めてのアルバムで、「とにかくやってみよう」という感じだった。そしたらびっくりするくらい一体感のある、一貫して通っているもののあるアルバムになったんだよ。

ーそうして出来上がったアルバムのミキシングはCaesar Edmunds(ザ・キラーズ、ウェット・レッグ)、エンジニアリングはサラ・タジン(Illuminati Hotties、ボーイジーニアス)が担当しています。どうして彼らに仕事を依頼したのか、また彼らが本作のどのような部分に大きく貢献しているのか教えてください。

ニック:そういったテクニカルな作業を全部やってくれる、素晴らしいチームに恵まれたんだ。

ジュリア:Caesar EdmundsはEPの『Shake』でいっしょにやっていて。彼のおかげで曲が花開く姿を目の当たりにして、今回のミキシングもぜひやってもらおうと思ったんだ。サラ・タジンとは以前も仕事したことがあって、そのときは今回ほど密にはやらなかったけど、有能で素晴らしいエンジニアだってことはわかっていたから。オリーヴもたくさんエンジニアをやる人だから十分情報があったけど、今回は3人全員でプロデュースしているから、オリーヴだけにエンジニアの負担をかけたくないと思ったし、曲に何が必要かを考える余地が3人全員にあることを望んでいた。私たち3人ともソングライターとしてのサラ・タジンの大ファンで、信頼を置くことができたのも良かったポイントだね。特に今回のセルフ・プロデュースのようにいつもと違うことをやる際は、信頼できる人を周りに置く必要があった。

オリーヴ:アルバムのエンジニアリングには関わらなかったけど、お金を掛けてスタジオに入る前にやりたいことをまとめることができたのは良かった。全部自宅でデモに落とし込むことができたからね。

ー時間もあと僅かなので、キャリアについても教えてください。10年以上長く輝かしいキャリアを築いてきたあなた方にとって理想的に思えるキャリアを描いているアーティストはいらっしゃいますか?

ニック:僕が最初に思いつくのはダイヴ(DIIV)だね。最初にDIYミュージックにのめり込んだ頃に聴いていたバンドなんだ。ダイヴのコールは僕たちのことを超サポートしてくれていて、初めてツアーのサポートを務めた相手も彼らだった。彼らは自分たちの信念を貫いて、音楽史に残る一連の作品を作り上げている。友人のザ・レモン・ツイッグスも近いストーリーの持ち主だね。いっしょにツアーしたウルフ・アリスも、ロック・ミュージックの伝統、バンドであることの伝統を活かしながら様々なことを乗り越えてきて、なおかつ妥協も一切していない。自分らしくありながら、世の中で自分だけの居場所を作り上げている。トレンドに合わせようとか、自分らしくないことをマーケティングのためにやろうとか、そういうのはないんだ。

ーまさにあなたたちのようですね。では最後に日本について質問させてください。2016年のサマーソニックと2018年の来日公演でサンフラワー・ビーンは日本のステージに上がっています。それから7年経ちますが、今でも記憶に残っている日本のカルチャーや音楽はありますか?

ジュリア:いつもものすごく温かく迎えてもらっているし、日本のカルチャーにはいつも強く感銘を受けている。音楽に対する日本人のアティチュードにもね。すごく思慮深くてリスペクト豊か。これはサマーソニックで学んだことの一つなんだけど、主催者側の人にこう言われたのを憶えている。「オーディエンスが静かだったとしても引かないで。それは、あなたの言いたいことを大切にしているからなのだから」って。私たちはアメリカ人で、イギリスやヨーロッパでたくさんライブをやってきたけれど、あっちはフェスへの臨み方が違う。飲んだり、友人といっしょにいることありきな感じで、カルチャーを目撃するというのとは違うのよね。レコード・ショッピングをしたときも思ったけど、日本のファンと音楽は美しい関係にあると思う。またぜひそっちでやりたいと思っているし、ここまで間が空いてしまったのはすごく悲しい。早くブランクを埋められるといいな。

Sunflower Beanが語るバンドとしての理想、人生における転機、友情で築き上げた次のゴール

サンフラワー・ビーン
『Mortal Primetime』
発売中
再生・購入:https://found.ee/mortalprimetime
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