90年代初頭、世界を席巻した『ストリートファイターII』の背後には、別の光を放ったもうひとつの血脈があった。SNKが送り出した『餓狼伝説』シリーズは、クロスオーバー文化の礎を築き、対戦格闘ゲームというジャンルの豊かさを陰から支え続けてきた。
そしてついに、26年ぶりの復活作が発表された。『餓狼伝説 City of the Wolves』──それは、過去と未来をつなぐ壮大な物語の、新たな章である。

今日、対戦格闘ゲームシーンは大いに盛り上がっているが、その起源はもっと控えめなものだった。1984年の『イー・アル・カンフー』、1985年の『インターナショナル・カラテ』が、1対1の武術バトルというコンセプトを導入した後、カプコンは1987年、『ストリートファイター』でデジタルアリーナに名乗りを上げる。そこでは、若きファイター・リュウが挑戦者たちに立ち向かう姿が描かれていた。ゲームの出来は芳しくなかったが、カプコンはそこで終わるつもりはなかった。

1991年3月に登場した『ストリートファイターII』は、今日私たちが知る「格闘ゲーム」というジャンルの概念を決定づけた。まもなく、世界中のゲームセンターでは筐体の下にコインがずらりと並び、老若男女が画面に群がって対戦を観戦し、自らも王座に挑む順番を待つようになったのだった。

『ストリートファイター』の成功とともに、他社もこぞって格闘ゲーム市場に参入しようと動き出した。アメリカのデベロッパー、ミッドウェイは1992年に『モータルコンバット』を開発し、首切りや血飛沫満載の超バイオレンスなバリエーションをジャンルにもたらした。そしてカプコンの本拠地・大阪では、「新日本企画(SNK)」を名乗るチームが、『ストリートファイター』のライバルとなる新たな格闘ゲームを生み出そうとしていた。

『餓狼伝説』は『ストII』とほぼ同時期に開発され、ちょうど格闘ゲームシーンが爆発的に盛り上がり始めたころにアーケードに登場した。
カプコンの『ストリートファイター』が、独裁を目論む男と戦うために世界を旅する8人のファイターたちを描いていたのに対し、『餓狼伝説』は、赤い帽子をかぶった金髪の戦士とその仲間たちが、架空のアメリカ都市「サウスタウン」の街角で荒っぽい戦いを繰り広げる物語だった。初代『餓狼伝説』は、『ストリートファイターII』からわずか数カ月後にアーケードに登場し、格闘ゲーム史に新たな系譜の種を蒔いたのである。

続編が何作も出され、スピンオフ作品が大ヒットするなどの成功はあったものの、『餓狼伝説』本編は次第に表舞台から姿を消し、約30年間、表立った展開は控えられることとなった。それでも熱心なファンたちは、このシリーズがいつの日か再び蘇ることを待ち続けていた。そして今、シリーズ最後の作品から26年の時を経て、SNKは最新作『餓狼伝説 City of the Wolves』を発表した。ここでは『餓狼伝説』がいかにして格闘ゲーム界の伝説となったのか、いまこそ注目すべき理由を紹介しよう。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『餓狼伝説』 Courtesy of SNK

『餓狼伝説』の誕生:サウスタウンに灯る炎

『餓狼伝説』は、カプコンで初代『ストリートファイター』を手がけた後にSNKに移籍した二人のゲームデザイナー、西山隆志と松本裕司によって始まった。松本は後に、SNKのもうひとつの代表作『龍虎の拳』を開発。西山は『餓狼伝説』シリーズの指揮を執ることになった。

この共通のルーツもあって、『餓狼伝説』と『ストII』のゲームプレイスタイルは驚くほど似ている。どちらも2D格闘ゲームであり、特定の方向入力と攻撃ボタンの組み合わせで必殺技を繰り出し、それぞれに独自の技や属性を持った戦略的に異なるキャラクターたちを選択できる。もし『ストリートファイター』を一度でもプレイしたことがあれば、『餓狼伝説』もほとんど違和感なく遊べるだろう。
多少の操作上の違いはあるが、波動拳や昇龍拳を自在に繰り出せるプレイヤーなら、すぐに馴染めるはずだ。

それでもなお、『餓狼伝説』がコアな格ゲーファンを惹きつけた理由はいくつかある。たとえば「レーンシステム」──前景と背景、2つの戦闘平面を自由に行き来できる仕組み──が導入され、CPU操作の対戦相手もこれを駆使した。また、(欧米の)ファンの間で「プレッツェルモーション」と愛情を込めて呼ばれる、複雑な方向入力を要求する必殺技も支持を集めたが、カジュアルなプレイヤーにはやや敷居が高かったかもしれない。

初代『餓狼伝説』でプレイできたのは3人のキャラクターのみ。赤い帽子をかぶったテリー・ボガード、彼の義弟アンディ・ボガード、そして親友のジョー・ヒガシだ。彼らは、父親を殺した犯罪組織のボス、ギース・ハワードに復讐するため、ギースが主催する「キング・オブ・ファイターズ」と呼ばれる格闘大会に出場する。この「キング・オブ・ファイターズ」という名前は、後にSNK最大の人気シリーズへと受け継がれることになる。3人は大会に参加し、最終的に勝利を収める。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『餓狼伝説』 Courtesy of SNK

テリー・ボガードはすぐに、『餓狼伝説』の事実上のマスコットとして定着した。同情を誘うバックストーリーと、赤いトラッカーハットを含む印象的なビジュアルで心をつかんだ。その後テリーは数多くの作品にカメオ出演し、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(2018年)ではプレイアブルキャラクターとして登場。
『スマブラ』のディレクターである桜井政博は、テリーの参戦を発表するために48分にもわたる特別動画を制作し、任天堂のオーディエンスに向けてSNK格闘ゲームの歴史そのものを丁寧に解説した。最近では『ストリートファイター6』(2023年)に、カプコンの看板格闘ゲーム史上初のゲストキャラクターとして参戦を果たしている。

『餓狼伝説』とその開発元であるSNKについて語るなら、1990年代の大半を象徴するSNKの家庭用ゲーム機「NEOGEO(ネオジオ)」についても触れておくべきだろう。NEOGEOでは、『餓狼伝説』や『龍虎の拳』を皮切りに、後の『キング・オブ・ファイターズ』シリーズへと続いていくなかで、格闘ゲームが大きく繁栄した。

『KOF』の誕生:クロスオーバーという革新

『餓狼伝説SPECIAL』には、隠しキャラクターとして『餓狼伝説』の姉妹シリーズ『龍虎の拳』の主人公、リョウ・サカザキが登場していた(彼は『ストリートファイター』のリュウにもどことなく似ている)。リョウを隠し挑戦者(家庭用版ではプレイアブルキャラクター)として登場させたこの試みは大好評を博し、SNKは「アベンジャーズ」式のクロスオーバー作品を作ることを決意。そして同年8月、『ザ・キング・オブ・ファイターズ'94』が登場した。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『ザ・キング・オブ・ファイターズ'94』Courtesy of SNK

『KOF'94』は、当時のほかの格闘ゲームと一線を画していた。最大の特徴はチーム制の導入だ。プレイヤーは単独のキャラクターを選ぶのではなく、3人一組のチームを選択する形式。テリー、アンディ、ジョーが『餓狼伝説』チーム、リョウ、ロバート・ガルシア、タクマ・サカザキが『龍虎の拳』チームとして登場し、そのほかにも『サイコソルジャー』や『怒』といったSNK作品を代表するチームが続々と参戦した。

この豪華なクロスオーバーは、彼らの最大のライバルにも影響を与えた。
カプコンもまた、自社の人気キャラクターたちを他ブランドのトップキャラクターと戦わせるというアイデアの魅力に気づき、『X-MEN VS. ストリートファイター』を皮切りに、後の『MARVEL VS. CAPCOM』シリーズへとつながる「VS.シリーズ」が誕生することになった。

さらに両社は、カプコン開発による『CAPCOM VS. SNK』シリーズ2作品、そしてSNK開発による『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』(2003年)といったタイトルで、直接タッグを組むことにもなった。これらのゲームは、今振り返ると特に皮肉な存在だ。なぜなら、カプコンがSNKの『龍虎の拳』に登場するリョウ・サカザキやロバート・ガルシアを揶揄するために生み出したギャグキャラクター、火引弾がついに自らの「元ネタ」と直接対決することになったからだ。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』 Courtesy of SNK

『KOF』に自社キャラクターを取り込んだことでシリーズ同士が共食いしてしまうリスクもあったが、SNKは『餓狼伝説』シリーズを止めることはなかった。1995年には『餓狼伝説3』と『リアルバウト餓狼伝説』の2作品、1997年に『リアルバウト餓狼伝説スペシャル』、1998年に『リアルバウト餓狼伝説2』、そして1999年に『餓狼 MARK OF THE WOLVES』を発表した。

これら後期の作品では、ロック・ハワード(初代ヴィラン、ギース・ハワードの息子)やブルー・マリーといった新たな人気キャラクターたちが加わった。しかし、これらの『餓狼伝説』シリーズ作品に対するファンや批評筋の反応は、SNKが『KOF』シリーズで得ていた評価と比べると賛否が分かれるものだった。その結果、『餓狼伝説』フランチャイズは休眠状態に追いやられ、SNKの旗印を掲げ続ける『キング・オブ・ファイターズ』シリーズを、約30年もの間、サイドラインから見守る立場に甘んじることになったのである。

そして今、長い空白期間を経て、『餓狼伝説』は『City of the Wolves』という新たな一章を、その偉大な歴史に加えようとしている。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『餓狼 MARK OF THE WOLVES』 Courtesy of SNK

新たなる挑戦:「REVシステム」の導入

『餓狼伝説 City of the Wolves』は、フランチャイズの壮大な復活を飾るタイトルだ。開発チームも、このシリーズがもともと多くの人気を集めた理由を再確立する絶好のチャンスだと認識している。
その鍵を握るのは、強力なゲームプレイだ。プロデューサーを務めるのは小田泰之。1993年から2000年まで『餓狼伝説』シリーズに携わり、その後カプコンに移籍して『ストリートファイターIV』(2008年)でジャンルを再定義したあと、現在はSNKに復帰した重要人物が指揮を執る。

過去にもフランチャイズ復活を成功させてきた小田は、潜在的なシリーズを蘇らせるためには、新規プレイヤーにも親しみやすいシステムを作ることが不可欠であることを誰よりも理解している。『City of the Wolves』では、その第一歩が「REVシステム」の導入だった。

「今回の最大の特徴は、我々のバトルシステム『REVシステム』です」と小田は語る。「誰でも簡単に、とてもクールで派手なコンボを繰り出せるようにデザインしました」。このビジュアルの派手さは開発チームにとって重要な要素であり、特に「REV Excel」という要素の演出については、SNKが独自の特許を取得しているほどだ。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『餓狼 MARK OF THE WOLVES』 Courtesy of SNK

しかし、アーケード全盛期とは異なり、現代では格闘ゲームの高い難易度が新規プレイヤーを遠ざける原因にもなりうる。そこで開発チームは、「スマートスタイル」コントロール──複雑な操作を簡単に実現できる操作モード──を導入。これにより、初心者でも難易度の高い技を容易に繰り出せるようにしている。エントリーの敷居を下げることは、チームにとって非常に重要なミッションだ。


こうした簡易操作導入は、格闘ゲームファンの間で物議を醸すこともあるが、他のシリーズでも同様の試みがなされている。たとえば『ストリートファイター6』には「モダン操作」が搭載されており、必殺技の入力が簡略化されている。これについては「格闘ゲームを簡単にしすぎる」という声もあれば、「初心者に入口を与え、やがて従来の操作に移行できる仕組みがあれば問題ない」という肯定的な意見もある。

『City of the Wolves』は、こうした新旧プレイヤーのギャップを埋めることを目指している。「私たちは、誰もがすぐに飛び込んで楽しめることを目指しています」と小田は説明する。「だからこそ『REV Excel』のような要素を取り入れたんです。他のゲームにも似たシステムはありますが、うちにはうちの独自のテイストがあります」。

新たなプレイヤー層を取り込もうとする原動力の一つは、前作『餓狼 MARK OF THE WOLVES』のレガシーに応えることだ。あの作品は発売から数十年経った今も、格闘ゲームの最高峰のひとつと見なされている。

「今回の新作もまた、30年後もプレイされているような存在にしたいと思っています」と小田は語る。「最初はシステムが少し複雑に感じられるかもしれませんが、プレイすればするほど、自分の力を解き放てるようになるはずです」。

グローバルなオンライン対戦の進化

1999年から現在に至るまでのあいだに、『餓狼伝説』の新作が最大限に活かせる大きな変化があるとすれば、それはオンライン対戦の普及だろう。格闘ゲームとオンラインプレイの関係は、かつてはなかなかうまくいかなかった。というのも、かつて主流だった「ディレイベース方式」のネットコードは、相手側のラグに合わせるためにローカルで入力を遅延させる仕組みだったからだ。

ディレイベース方式のネットコードは、2000年代中盤から後半にかけてはそこそこ機能していたが、コンソール機が進化するにつれて限界が露呈した。今日では、「ディレイベース方式」という言葉自体が、コアな格闘ゲームファンにとっては新作に対する警戒サインとなっている。

そこに登場したのが「ロールバック方式」のネットコードだ。これは、接続によるラグを補正するために、過去のフレームを「巻き戻す」ことで、入力遅延なしにスムーズな対戦体験を提供するシステムであり、まるでオフライン対戦のような感覚を実現する。この技術により、格闘ゲーム界は再び黄金時代を迎えた。『ストリートファイター6』『Mortal Kombat 1』『鉄拳8』などがロールバック方式を採用している。SNKもまた、自社の旧作格闘ゲームにロールバックネットコードをテスト導入し、その後のプロジェクトに活かしてきた。『City of the Wolves』は、その試行錯誤の結晶なのである。

「当時(1999年)はオンライン対戦なんてなかったですからね」と小田は語る。「ドリームキャストを持っていた人たちが少し遊べたくらいですが、あのころは56kbpsモデムですから、同じ街区に住んでいる相手としかまともに対戦できなかった。だから、今はオンラインプレイをしっかり作り込むことに本気で取り組んでいます」。

『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作


『餓狼伝説』を今こそ再検証 格闘ゲームの歴史を塗り替えた功績、26年ぶりの復活作

『餓狼 MARK OF THE WOLVES』にはシリーズの2大人気キャラ、テリー・ボガードと不知火舞も登場 Courtesy of SNK

このグローバルな接続環境によって、世界各地にコミュニティが生まれ、それらが結びつくことで、格闘ゲームの真の醍醐味が生まれている。「グローバルイベントが開かれるのは本当に素晴らしいことです」と小田は言う。「違うゲームの例にはなりますが、たとえば『鉄拳』でアルスラーン・アッシュ選手やパキスタン勢が登場して世界を驚かせた光景──そして『KOF』でも、モロッコの選手たちが活躍した大会がありました。こうした世界中のコミュニティが育っていくのを見るのは、本当にワクワクします」。

『餓狼伝説』は、1991年に『ストリートファイターII』に挑んだときから、すでにその存在感を放っていた。クロスオーバー格闘ゲーム時代の到来を促し、やがて「ゲストキャラクター」という基本コンセプトの先駆けともなった。サウスタウンを飛び出したテリーや不知火舞といったキャラクターたちは、ほかの人気格闘ゲームにも進出し、確かな足跡を残してきた。SNKが初めて踏み出した格闘ゲームの挑戦は、今や業界で最も長く愛されるジャンルのひとつに深く根付いている。

26年という長い時を経て──そのレガシーは、いま新たな物語を語ろうとしている。

From Rolling Stone US.

『餓狼伝説 City of the Wolves』公式サイト:
https://www.snk-corp.co.jp/official/fatalfury-cotw/

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