ニューヨークやロサンゼルス、ロンドン、パリといった世界の主要都市にラジオ用のスタジオをオープンしてきたApple Music。この度、4月21日にいよいよ東京にもそのスタジオが新たにオープンすることとなった。
華々しいスタジオ・オープンを祝すべく、本拠地であるアメリカからラジオ・ホストのゼイン・ロウ(Zane Lowe)とイブロ・ダーデン(Ebro Darden)が来日。ゼインはもともとイギリスの老舗メディア、BBCのラジオ局で活躍してきた人物、そしてイブロはニューヨークの人気ヒップホップ・ラジオ曲であるHOT97において、長年人気番組を担当してきた人物であり、両名ともApple Musicにおけるラジオ・カルチャーを牽引するレジェンドたちである。今回は、イブロがホストを務める人気番組である『The Ebro Show』の”Japan Edition”と題して、日本のヒップホップ・アーティストを招いて番組の収録を敢行。千葉雄喜、Awich、Creepy Nuts、ZOT on the WAVE & STUTS、Daichi Yamamoto、Yo-Seaらがスタジオを訪問してイブロとの会話を繰り広げた。

【写真】収録中の様子

本記事では、収録を終えたばかりのイブロとAwichの対話の様子をエクスクルーシブでお届けする。ラジオの収録後、沖縄の民謡や三線といったローカルな音楽や楽器に興味を持ったイブロに対して丁寧に説明をしていたAwich。実際にApple MusicでAwich 「RASEN in Okinawa」と沖縄の民謡を流しながら、Awichが「三線は、沖縄特有のギターのようなものなんです。そして、”すりさーさー”というフレーズは、沖縄の民謡によくあるチャントのようなもの」とイブロに説明し、彼も探究心を露わにして彼女に応える。そんな雰囲気の中、彼らへのショート・インタビューが始まった。

―ついに、ここ東京にApple Studioがオープンしました。どのように感じていますか?

Ebro:本当に最高だと思う。もう何年も前からこの話をしていて、ついに実現したことを嬉しく思うよ。
東京には素晴らしい音楽やアーティストがたくさんいるから、彼らのためのスペースがあるっていうのは、本当に意味があることだと思う。Apple Musicとして、音楽に関する話題やプレイリスト、そしてラジオ番組を届けていくことはすごく大事な役割なので。今は音楽について語る人は多いけど、実際に音楽を”かける”人は少ない。だから、僕らは両方やる。素晴らしい音楽を届けて、みんなに”本物”を見つけてもらえるようにしたいんだ。

―今回は、多くの日本のヒップホップ・アーティストを呼んでの収録となりましたが、いかがでしたか?

Ebro:すごくよかったよ。特にAwichとも話してたんだけど、日本ってやっぱり”クラフトマンシップ”へのこだわりがすごいと思う。文化や敬意――ちゃんと、丁寧にやるという姿勢が根付いてる。みんな、トレンドやチャートを追いかけるだけじゃなくて、本当に良いものを作ろうとしているのが伝わってくる。僕は30年この業界にいるけど、それって本当に貴重なことだと思うね。

Awich:イブロとの会話は音楽的なヒントをいっぱいもらえるんです。とってもありがたい時間だし、彼と一緒に話すことが出来てとても光栄ですね。


―Awichさんは先日、ニューヨークを訪れた際にも現地にあるApple Musicのスタジオでイブロとお話していらっしゃいました。ニューヨークと東京、それぞれのApple Musicのスタジオでの収録を経験しているわけですが、雰囲気はどうですか?

Awich:とってもAppleらしいというか……(笑)。とても洗練されていて、落ち着いていて、ミニマルな感じ。とてもクリーンな雰囲気ですよね。

Ebro:スタジオには、とにかく音楽があればOKだからね。Appleのチームも熱意にあふれてるし、ポジティブな雰囲気に満ちていると思う。ひとつだけ言うと、僕の声がデカすぎて、日本だと「うわ、うるさっ!」って反応になってしまうかも(笑)。

―こうして日本にもApple Musicのスタジオができて、リスナーにはどんな風に楽しんで欲しいと思っていますか?

Ebro:ただリラックスして、番組や音楽を楽しんで欲しいな。ケンタロウ(落合健太郎氏)やミノ、そしてLANAたちといった信頼できる人が選んだ音楽が流れているわけだし。ちゃんと音楽に向き合っている人たちの声を聴ける場所になればいいなと思っているよ。

―日本のアーティストとの収録の様子を見学させていただきましたが、ローカルのアーティストたちのことを本当によくご存知でびっくりしました!

Ebro:番組のプロデューサーたちが優秀なのもあるけど、自分でもちゃんと彼らの音楽を聴いているよ。アーティストがどんな想いで、どういう意図で言葉を選んでるのか、というところに興味がある。
たとえばAwichが”bad bitch”って言うのにも彼女なりの意味があると思っていて、それを掘り下げていくのが好きなんだ。だから、「なぜこの人はこういうことを歌っているんだろう?」「どんな状況や感情があって、こういう表現になったんだろう?」という点を掘り下げるのが大事だと思っている。もちろん、それはアーティストによって違うし、特に若いアーティストは無意識で言葉を選んでいる訳ではなくて、自然に出てきたものだったりする。でも、アーティストが成長していくと、その時に感じていたこととか、「なぜこの曲を作ったのか」ということを後からちゃんと振り返られるようになってくる。(ラジオ番組の)ホストとして、そういう部分を拾っていくことで、リスナーとの橋渡しができると思っているんだ。音楽を聴く場面は色々。たとえば、日曜の朝に掃除しながら聴く音楽もあれば、友達と出かける前にテンション上げるための音楽もあるし、ジムでかける音楽もある。だから、その場面をリスナーに提案できることが、1曲をちゃんとみんなに届ける、ということにつながるんだと思うんだよね。

―Awichさんは先日、FERGとのコラボ楽曲「Butcher Shop」をリリースしたばかりで、リリックは全編英語で書いていらっしゃいます。

Awich:「Butcher Shop」に関しては、いろんな世代のリスナーからすごくいい反響もいただいています。作詞においては、英語をリズムに乗せる方が簡単だと感じるし、自然に言葉がメロディに乗っていく感じがする。日本語だと音の高低が少なくて、話し言葉と歌詞の距離もあるから自分でリズムをつくるのが大事で。
それって、楽しいけど難しいことでもある。日本語という言語の美しさを伝えるアーティストもいると思うんですけど、私は英語も使って歌詞の意味を伝えたいし、ストーリーを伝えたい。世界に向けて発信したい曲は英語の詞で書いているし、このApple Musicのスタジオのように、自分の目的やその意味を(英語で)話せる場所があるということはとても嬉しいし、そのために英語を喋れるよう、今でも勉強しています。こういう人も日本に一人は必要なのかなって私自身が思っているし、日本の音楽を変えたいなと思っていることも色々ある。それは私だけじゃなくて、私とたくさんの”bad bitch”たちと一緒に変えていきたい。トラディショナルなことを守っていく美しさもあるけど、状況によっていろんな選択肢があるよっていうことも伝えていきたいですね。

Ebro:うん。俺は日本語は分からないけど、それでもリズムや韻の踏み方だけでも感じるものがある。そこに感情が乗っていたら、それだけで心に響くからね。俺たちは(英語で)色々とめちゃくちゃなことだって言うし、ルールすらないような感じだから。

Awich そう。日本語でもルールを破りながら、自分だけのスタイルを模索していかないといけないと思う。
難しいけど、その分、やりがいはあると思う。時々、ヘンになりすぎちゃうかもしれないし、聴いてる人に「それはナシ」って言われちゃうかもしれない。だから、バランスが大事。でも、「これだ!」っていうスポットを見つけられたら最高ですよね。

―スタジオのオープンに寄せて、Awichさんから最後にメッセージを頂けますか?

Awich:イブロも言っていたみたいに、やっぱり音楽を聴いてほしい。切り取られてネットで拡散されているような短いクリップとかリールじゃなくて。それもクールだし、私も好きだけど、やっぱり一曲丸ごと聴いて欲しいですね。一曲全体、そしてアルバム全曲を楽しんでほしい。これは私からのお願いです(笑)。新しいドアが開けるかもしれないし、アーティストにとってもありがたいことだから。

Awich × Ebro、Apple Studioで交わす音楽の対話「状況によっていろんな選択肢がある」


The Ebro Show
Ebro in Japan, Pt.1 
配信中
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