インド系の両親のもとにロンドンで生まれ、シンガポールで育った1999年生まれのシンガーソングライター、Dhruvことドゥルヴ・シャルマが注目されたきっかけはデビュー・シングル「double take」がTikTokで時間をかけてバイラル・ヒットしたことだった。クィアであることを公言しているDhruvによる「boy」の呼びかけもあるその甘く切ないラヴ・ソングは、クィア・アンセムとしても聴かれることになる。


そういう意味ではとても現代的な受容をされている新星なのだが、エイミー・ワインハウスをはじめとするポップ・ソウルから受けた影響をフランク・オーシャン以降の感覚のR&Bとミックスするそのサウンドは、聴き手に柔らかく寄り添う包容力に満ちている。Dhruvの楽曲は、トレンドに左右されないポップスとしての強度を備えているのだ。2022年リリースのEP『rapunzel』ではベッドルーム・ポップ的な親密なR&Bを聞かせていたが、昨年のデビュー・アルバム『Private Blizzard』はサウンドのスケールを大きく増し、ミュージシャンとしてのポテンシャルを発揮してみせた。

そんなDhruvが6月1日、一夜限りの来日公演のためにビルボードライブ東京にやって来る。ジャズやクラシックをなめらかに吸収しつつ、あくまでスウィートなソウルとして聴かせるDhruvのシンガーとしての魅力が体感できる時間になるにちがいない。バックグラウンドやライブへの意気込みについて、メールで聞いた。

—2024年はデビュー・アルバム『Private Blizzard』のリリースがありましたが、あなたにとってどんな年だったと感じますか?

Dhruv:成長の多い一年だったと思う。はじめてのアルバムをリリースできたことを誇りに思っているし、5週間以上かけてヨーロッパをツアーしたり、アジアをまわる長めのプロモーションにも行った。その合間にもいくつかライヴをやったりして、本当に充実していたよ。

—日本の読者にあなたのことを紹介したいので、少し基本的なところから聞かせてください。シンガポールで育つなかでTOP40ラジオのポップスを聴いていたとのことですが、子どもの頃とくに心惹かれた音楽はどんなものでしたか?

Dhruv:僕はボリウッドの楽曲が本当に大好きだった。インド系の家庭で育ったこともあって、両親がよく地元の「ジェイド・シネマ」っていう映画館に連れて行ってくれたんだ。
ボリウッド音楽には強いメロディ感があって、それが僕が曲づくりに興味を持つきっかけになった。

—ミュージシャンを志望するようになって、とくに重要な指針やインスピレーションとなったアーティストはいますか? そのアーティストは、なぜあなたにとって重要だったのでしょうか。

Dhruv:エイミー・ワインハウスだね、間違いなく。彼女のことを思い浮かべるとき、まず頭に浮かぶのは、音楽をつくるという行為に対する純粋な献身なんだ。商業的なことを優先すべきか、それとも芸術的な選択を取るべきか迷うとき、彼女の姿勢が僕の指針になってくれる。

—シングル「double take」は時間をかけてバイラルヒットとなりましたが、いまから振り返って、同曲の大ヒットをどんな風に感じていますか?

Dhruv:本当にありがたいことだと感じてる。おかげでいまのキャリアがあるし、多くのひとに知ってもらえるきっかけにもなった。でも同時に、そういうタイミングを乗りこなすのってすごく難しい部分もあるんだ。曲がバイラルになりはじめると、いろんなことが一気に押し寄せてくる。人生の方向が変わるかもしれないような決断を、短い時間で下さなきゃいけないこともある。それが終わったら、今度は次に何を出すべきか、本格的にどうやってキャリアを築いていくかを考えなきゃいけない。正直、プレッシャーは大きいよ。


—「double take」は〈boy〉という呼びかけもあり、リスナーにクィアのラブソングとして受け止められていますね。ただ、あなた自身はクィアのラブソングを作りたいという意識はありましたか? 

Dhruv:僕はクィアだから、正直に言うと、当時付き合っていた彼に向けてそのまま書いていたんだ。

―『rapunzel』に収録されている「vulnerable」もすごくエモーショナルな楽曲ですね。あなたにとって、音楽を通してvulnerability(脆さ・無防備さ)を表現することは重要ですか?

Dhruv:それが僕にとって一番自然なやり方なんだ。音楽は、自分の人生を記録する手段であり、理解しようとする手段でもある。とくに、自分がいちばん無防備になっている瞬間を掬いあげるためのものなんだ。

—『rapunzel』は2010年代の親密なタッチのR&Bとシンクロする作品だったと思います。アルバム『Private Blizzard』ではそれに加えてクラシック、スタンダード・ポップ、ジャズ、チェンバー・ポップといったように音楽性の幅が広がった作品だとわたしは感じますが、あなたにとって、音楽的な意味で重要なポイントはどんなところにありましたか?

Dhruv:『rapunzel』の成功のおかげで、このアルバムにはしっかりとした制作予算を組むことができたんだ。それを使って、ずっと夢だったライヴ録音のアルバムを形にしたかった。僕が昔から聴いてきたアデルの『21』、ダフィーの『Rockferry』、エイミー・ワインハウスの『Back to Black』みたいな作品にも近いものを目指した。ナッシュビルでは素晴らしいミュージシャンたちがたくさん参加してくれて、本当に贅沢なセッションになった。

音の質感としては、スケールが大きくて、ちょっと雑然としていて、不協和音が混ざるような、そんなサウンドにしたかった。
それは、頭のなかで絡まりあっていた複雑な感情をほどこうとしていた、その感覚に寄り添うものだったから。

—『Private Blizzard』はシンガーとしても、あなたの多面的な感情が感じられる作品だと感じました。シンガーとして、あなたがもっとも大切にしているのはどのようなことでしょうか。

Dhruv:僕がいちばん惹かれるのは「声のトーン」なんだ。レンジの広さとか技巧的な歌い回しにはあまり興味がなくて、そのひとの声に説得力があるかどうか、そこがすべてだと思ってる。

—6月1日の東京でのライヴを楽しみにしています。インタビューであなたはシャイなほうだと語っていましたが、ライヴではとくにどのようなことを心がけているのでしょうか。また、東京公演では、あなた自身どんなパフォーマンスを届けたいと考えていますか?

Dhruv:ステージ上での自信はかなりついてきたし、ツアーもすごく好きになった。『Private Blizzard』のライヴは、アルバムのテーマに合わせてかなり綿密に構成されていて、音楽以上の体験になるように意識している。あまり詳しくは言いたくないけど、ただのライヴ以上のものになっているのは間違いないと思う。

—ミュージシャンとしてこれから挑戦してみたい表現や、作ってみたい音楽のスタイル・テーマなどがあれば教えてください。

Dhruv:ポップ・アルバムを作ってみたいと思ってる。
僕なりのやり方でね。

Dhruvが語る、新時代のクィア・アンセムとスウィートソウルを生み出した若き才能の原点

Dhruv Billboard Live TOKYO
2025年6月1日(日)ビルボードライブ東京
1stステージ:開場15:00/開演16:00
2ndステージ:開場18:00/開演19:00

<メンバー>
Dhruv(Vo)
Daniel Crespo(Dr)
Victor Hafoka(Key, Gt)

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