最初のアルバムから数えると54年もの歴史を持つスパークス(Sparks)。もはや”知る人ぞ知る”グループの代表格だった過去が嘘のように、彼らは70代にして正真正銘のスターとなった

最新作『MAD!』が通算26枚目と聞くと寡作に思うかもしれないが、近年は2020年に『A Steady Drip, Drip, Drip』(全英7位)をリリースして以降、原作と作詞・作曲を手掛けたレオス・カラックス監督のミュージカル映画『アネット』(2021年)、エドガー・ライト監督が手掛けた初の本格的な長編ドキュメンタリー『スパークス・ブラザーズ』(2021年)、そして47年ぶりに古巣のアイランド・レコードに復帰したアルバム『The Girl Is Crying In Her Latte』(2023年/全英7位)と、超多忙。
その間にツアーもこなしていた彼らは2022年、2023年と続けて来日、日本では過去最大キャパのワンマンライブとなった2023年7月のLINE CUBE SHIBUYA公演も大盛況だった。

そんなスパークスのロン・メイル(Key)とラッセル・メイル(Vo)が、早くもニュー・アルバム『MAD!』を完成させ、プロモーションのため緊急来日。しかもリリースはアーロ・パークスやデーモン・アルバーン(ブラー)のソロ作をリリースしてきたイギリスのレーベル、Transgressiveからだ。2002年のアルバム『Lil' Beethoven』から顕著になったミニマル・ミュージックへの傾倒、音と言葉のデザインを突き詰める路線を継続させつつ、今回はタイトルからもわかる通り”怒”のモードが露わに。無論全曲がそのトーンということはなく、感情の起伏が終盤にはドラマティックな帰結を見せる。スパークス史上でも珍しい、ある意味”最もエモーショナルなアルバム”と言える新作について、そして6月の来日公演について、メイル兄弟に訊いた。

※『MAD!』爆音リスニングパーティー&サイン会も開催決定、詳細は記事末尾にて

スパークスが語る唯一無二の制作論、70代にしてスターとなった兄弟の『MAD!』な現在地

2025年2月下旬、都内某所で取材に応えるスパークス(公式SNSより引用)

─新作ではまた所属レーベルが変わりましたね。今回Transgressiveからアルバムを出すことになったいきさつを教えてください。

ラッセル:僕らって常に落ち着きがないというか、前作はIslandから出したんだけど……まあ、これは長い話になるな。しかもあんまり面白くない話かも(笑)。Transgressiveには僕らと同じような哲学を持っている人たちがいてね。「自分のやり方でやる」っていう……ちょっと陳腐に聞こえるかもしれないけど、アルバムの1曲目のタイトル「Do Things My Own Way」みたいな考え方を彼らは大切にしているんだ。
彼らも「この曲は自分たちのレーベルのアンセムみたいに聞こえる」と言ってくれて、すっかり意気投合したんだよ。

─既報の通り、ジョン・ウー監督の映画などいくつかのプロジェクトが同時進行していると思います。新しいアルバムは、それらとはまったく関連しない作品と考えてよいですか?

ロン:直接的には繋がっていないね。映画やミュージカルの仕事って、スパークスのアルバムとはまた違うアプローチでやってるから。でもまあ、僕らのセンスというか、そういうのは全てに共通して流れているものだと思う。だからまったく別物ってわけではないけれど、基本的には別のプロジェクト、という風に見ている。

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─前作が「Crying」モードだったのに対し、新作は一転して「Mad」な空気に包まれました。

ロン:ハッハッハ。

─何がこういう尖った作品をあなたたちに作らせたのでしょう?

ラッセル:うん、結果的には、今の世の中の状況をいろんな意味で反映した作品になっていると思うよ。世界全体の状況という意味でもね。で、”mad”っていう言葉も、いろんな捉え方ができるじゃない? 狂ってる(crazy)って意味もあるし……。

ロン:正気じゃない(insane)っていう意味もある。


ラッセル:それに、ぶっ飛んでるっていう意味もあるからね。アルバムを作り始めた頃は、まだタイトルが決まっていなかった。でも曲が出揃って、さあアルバムのタイトルをどうしようかっていうときに、ロンがぽつんと「Mad」って言ったんだよね。で、確か僕が最後に感嘆符をつけたんだ、もっと”Mad”っぽくなるようにって。

ロン:コラボレーションだね(笑)。

─(笑)歌詞はメディアやインターネット、セレブリティと名声、バックパック、タトゥー、宗教など、アメリカの日常がさまざまなシチュエーションで切り取られていますね。皮肉や批評性があるのと同時に、対象を突き放さずじっと観察するような客観性もある、バランスの面白さを歌詞からいつも感じます。何か歌詞を書くときの哲学やルールがあるのでしょうか。

ロン:特に決まったルールがあるわけではないけれど、僕らは曲の中にとても具体的なイメージを入れるようにしてるんだ。なんとなくの雰囲気とかではなくて、ちゃんと「これ」っていうものを明示したい。そこから逆に、より広い意味に繋がってくることもあると思うんだ。だから、まずは細部が大事なんだよ。


それと、ありきたりなソングライティングのクリシェには、いつも抗おうとしている。だから個別的に扱える題材を探してるんだけど、そういう題材って、見る角度を変えると、もっと普遍的な意味を持ったりすることもあるんだよ。

ラッセル:たとえば、「JanSport Backpack」って曲がそう。最初にそのタイトルを聞いた人は、「え、バックパックだって?」と笑うかもしれないし、何のことかわからないかもしれない。でもこれは恋愛関係の歌なんだよ。文字通りの意味もあるし、同時にメタファーにもなっている。彼女が彼に背を向けて、バックパックを背負っているので、彼はいつも彼女の背中しか見ていない——つまり彼女がいつもどこかに行こうとしている、離れようとしているっていう関係なんだ。で、そのバックパックが最終的に、破綻しかけた関係のメタファーになるんだよ。

─作を重ねるごとに無駄が削ぎ落とされていきますが、「Do Things My Own Way」はついにたった2音のメロディを繰り返すところまで来ました。どのようにしてここまで極端な曲が生まれたんでしょうか?

ロン:スパークスの楽曲はコードチェンジがたくさんあるものが多いんだけど、逆にそれをやらないっていうのもチャレンジだったりする。ほとんどワンコードで進む曲だけど、それでもちゃんと面白くするっていうチャレンジだよ。それで今は……特にラッセルのスタジオで作業するようになってから、アレンジと作曲の関係性に興味があって。
昔みたいにふたつを分けて考えるんじゃなくて、両方が一緒になってるようなやり方に惹かれている部分がある。

もちろん、昔ながらに「曲を書いて、それを持ち込んで、録音して、そこからアレンジを加えていく」ってやり方も、今でもやっている。でも「Do Things My Own Way」みたいな曲では、アレンジ自体が最初からひとつの作品みたいになっていて、そういう作り方も好きなんだ。

『MAD!』日本盤はボーナストラックとして、Corneliusによる「Do Things My Own Way」のリミックスを収録

―「Do Things My Own Way」には〈I'm Howard Hughes in Jordan 2's〉というパンチラインがあります。ロンはAir Jordanのコレクターですよね。この一節が生まれた背景を聞かせてください。あなた達なりのヒップホップ解釈でもあるのかなと思いましたが。

ロン:まあ、時には単に韻を踏むために言葉を選ぶ場合もあって。あくまでイメージとして、ハワード・ヒューズ(※)って本当に面白い人物でさ。でも、ある意味マイケル・ジョーダンと並べるとすごくミスマッチというか、変な取り合わせに感じられるところもあって、そこがまた面白い。それにヒップホップ・カルチャーの中にもすごく興味深い要素があると思っていて。特に最近のものよりも、パブリック・エネミーみたいなグループに惹かれるんだよね。
彼らのアレンジや繰り返しの構造とか、とても面白い。

で、話はちょっと変わるけど、僕のAir Jordanへの情熱の話をすると……マイケル・ジョーダンって、スポーツとファッションを結びつけた最初の存在だったと思うんだよね。彼は自分の名前を冠したブランドを持った最初の選手でもある。だから僕はマイケル・ジョーダンの大ファンになったんだ。彼の”魔法”みたいなものがちょっとでも僕に移ればいいなと思ってAir Jordanを買ったわけ。でも特に魔法は起こらなかったし、ジョーダン自身が履いているときのほうが、ずっとかっこよかったんだけど(笑)。いずれにせよ、あの靴は時を経ても美しいと思うよ。

※ハワード・ヒューズ(1905–1976):米国の実業家・映画プロデューサー・飛行家。航空機製造のヒューズ・エアクラフトを創設し、世界一周飛行の記録を達成する傍ら、映画『地獄の天使』を製作。20世紀を代表する億万長者として知られる多才な人物

―「Do Things My Own Way」のMVに登場する壊れたピアノを見て思い出したのですが。ロンさんは昔、ピアノの椅子を叩き壊すパフォーマンスをやっていましたよね。

ロン:ああ、そうだね。
覚えている限りだと、『ジェット・ローラー・コースター』(スパークスが出演した1977年の映画)の中でやったのが唯一かな。ピアノを持ち上げて壊すのは無理だったけど、椅子ならいけた。正直、なんでそんなことをしたのか自分でもよくわからない(笑)。

僕はピート・タウンゼントの大ファンだったので、ギターを粉々にする姿がずっと羨ましくて。でもギターはすぐに壊せるけど、ピアノはそう簡単にいかない。だから自分でも壊せるものとして、ピアノの椅子を選んだんだ。でもそのツアーでは毎回新しい椅子を用意しなきゃいけなかったから、けっこうコストがかかったね(笑)。

―「Do Things My Own Way」のビデオはレモン・ツイッグスのビデオも手掛けているアンバー・ナヴァロが監督しましたね。彼女とはどんな風に相談して、このユニークなビデオを作ったんでしょうか。

ラッセル:ベーシックのアイディアは僕らが考えたんだ。最初はすごくシンプルで、僕が歩いていると空からピアノが落ちてきて地面に叩きつけられるっていう発想から始まった。それを”歩みがずっと止まらない””ずっとカメラが横にパンしていくだけ”っていう、編集カットが入らないシームレスな映像にしたかったんだよ。ずっと歩いてるだけなんだけど、そこにピアノが降ってきたり、自転車の人が横切ったり、犬がついてきたり、そういう要素が自然に入ってくる、ひと繋がりの長回し映像にしたかった。僕らの頭の中にあったそういうイメージを、アンバーがちゃんと形にしてくれたんだ。

アンバー・ナヴァロはレモン・ツイッグスのほか、ジーザス&メリーチェイン、ジョン・カーペンター、ワイズ・ブラッドのMVも手がけている

「ありきたり」に抗う、唯一無二の制作論

―反復は『Lil' Beethoven』以降、取りつかれたように取り組み続けているテーマですね。ポップミュージックの形式で、これを突き詰め続けている理由は? 何か変化のきっかけがあったのでしょうか。

ロン:ひとつあったのは、ドイツのプロデューサーから依頼された企画があってね。それは、いわゆるスパークスの有名曲とは違うんだけど、あるドイツのスポーツ実況アナウンサーの音声クリップを使った企画だったんだ(ギュンター・コッホを題材にした2001年の企画アルバム『Günther Koch Revisited』)。彼の決まり文句みたいなのをいろんなバンドに渡して、「自由に使っていいよ」っていう内容で。たいていのバンドは、単にビートを足してエレクトロっぽいリミックスにしてたんだけど、僕らは違う方向に行きたかった。彼のセリフのひとつ、「Wunderbar」(英語で言う「wonderful」)を選んで、半分オーケストラっぽいアプローチでやってみたんだ。それが、僕らがより反復的な音楽手法に興味を持ち始めたきっかけだったかもしれない。そのコンテクストの中で何ができるかって考えるのがすごく面白かったんだよね。ヒップホップにもそういう要素はたくさんあるし。

僕は昔からメロディが大事だと思ってるけど、逆に、あえて非メロディックなやり方で音楽を作るのもすごく魅力的だと思う。繰り返しの中に音楽性があるっていうね。新しいアルバムでも、「Do Things My Own Way」みたいにワンコードで攻撃的な曲と、最後に入ってる「Lord Have Mercy」みたいにすごくメロディアスな曲があって。その対比があることで、アルバム全体が豊かになったと思っているよ。

―今話に出た「Lord Have Mercy」や、「My Devotion」のような美しいメロディも、まだ湧いてくるのですね。メロディはどうやってうまくつかむんですか。降ってくるもの? それとも、もっと苦労してひねり出している?

ロン:いつも「神の啓示」みたいなインスピレーションが降ってきたらいいなって思ってるけど、実際には自分から探しにいかないと、そういう瞬間ってなかなか来ないんだよね。待ってるだけじゃ、永遠に来ない。少なくとも僕の場合はそうだよ。

時々そういうものが降りてくることもあって、それは本当に幸運だなって思うけど、僕らの場合はちゃんとそれを追いかけて、半分くらいまでは自分から近づいていかないとダメだ。ただ座っていても勝手にはやってこないから、自分で探しにいかないとね。

いつまでもこれが続けばいいなって思ってる。ここまで来たら、さすがにもう「自分はソングライターとして大丈夫だ」って思ってもいいはずなんだけど、実際には、いつも「これが最後のメロディかもしれない」って不安になるんだよ。突然、もう何も書けなくなるんじゃないかって。だから、次の曲を書くときはいつもナーヴァスになっているんだ。

―リズムのアプローチが面白いアルバムですが、これまでよりレゲエのアフタービートを感じるのは気のせいでしょうか? カリフォルニアでもレゲエを耳にすることは日常的によくあると思いますが。

ラッセル:特に意識してやってるわけじゃないんだけど、たぶん僕らって常に「これまでと同じリズムにはしたくない」って思ってるんだよね。だから、少しでも新鮮なリズムができそうなら、たとえそれがスパークスの枠の中でも、それを取り入れることで全体が新しく感じられる。

レゲエっぽい何かを意図的にやったってことはないんだけど、でも「JanSport Backpack」にはほんの少しそういう感じがあるかもしれないね。とはいえ、あれも自然にそうなっただけで、狙ってそうしたわけじゃない。「My Devotion」にも、ちょっとそんなフィーリングがあるかも。僕らって何をやっても、仮に何かのスタイルに寄せようとしても、最終的には全部スパークスっぽく”歪んで”しまうんだ。それは曲の作り方とか、歌い方とか、全部が重なって、自然と違う文脈を持ってしまうっていうか。

ロン:もしかすると、初期にIsland Recordsでクリス・ブラックウェルと関わってた頃の影響もあるのかもしれないな。

ラッセル:1974年頃の話だね(笑)。

―スパークスの音楽は白人っぽいと思われがちですけど、実際はレゲエだったりヒップホップだったり、いろんなジャンルの音楽が無意識に混ざり合っていると思うんです。

ロン:うん、まあ僕らとしては、何か特定の文化的なものに関連づけようとか、そういう意識で取り組んでるわけじゃないんだよね。僕らはただ、自分たちがやりたいことをやっていて、それができるだけ多くの人に届けばいいなと思ってる。それだけ。でも、その辺のことってすごく難しい。たとえば黒人文化から要素を借りてきて、それを表に出すようなことって、どうしても”文化の盗用”みたいに受け取られる場合があるし……うまく言えないけど、慎重にならざるを得ないんだよね。僕らはそういう枠組みで物事を考えてるわけじゃないんだ。

ラッセル:たとえば、僕の歌い方だって、いわゆる「ソウルフル」って感じじゃないと思う。でも、そこにも僕なりの”ソウル”はあると思ってる。たとえばスティーヴィー・ワンダーみたいなシンガーとは全然違うけど、自分なりに感情のこもった歌になってるはず。

ロン:もちろん、ファルセットで歌う偉大なソウル・シンガーだってたくさんいるしね。テンプテーションズの……。

ラッセル:エディ・ケンドリックスとかね。彼もすごく高い声だった。

ロン:だから結局、僕らはそういう”ジャンル”を追いかけてるわけじゃない。ただ、自然に出てきたものが、そういう要素とどこかで重なることはあるんだろうね。

―カリフォルニアの高速道路について歌った「I-405」は、スパークスにしては珍しく、素直に郷土愛があらわれているように感じたのですが。それとも僕はだまされていて、実は何かひねりがある歌詞なのですか?

二人:ノー!(笑)

―よかった。キンクスの「Waterloo Sunset」を聴いてるときと同じような温かい気持ちになりましたから。

ラッセル:いい指摘だと思う。確かに「I-405」は僕らにとっての「Waterloo Sunset」かもしれないね、文脈は異なるけれど。あれは皮肉とかじゃなくて、本当に素直な気持ちで作った曲なんだよ。

まあ、「Waterloo Sunset」の舞台になってるテムズ川と比べると、I-405(州間高速道路405号線)はそこまでロマンチックなイメージはないかもしれないけど、でも僕らの曲の中では、それを同じくらい特別なものとして描いてるんだよね。曲中で隅田川にも言及しているけど、そういう世界中の有名な”美しい”ランドマークと同じくらい、I-405をロマンチックで特別なものとして捉えているんだ。

ロン:僕らが住んでいるロサンゼルスの西側でも、ラッシュアワーの時間に上の方から渋滞の様子を見るとさ……もちろん、実際にその中にいる人にとっては地獄みたいな時間だけど……上から眺めると、なんだか川が流れているみたいに見えるんだよ。それって、僕らなりの”美しさ”の形なんだ。

スパークスが語る唯一無二の制作論、70代にしてスターとなった兄弟の『MAD!』な現在地


―アルバムの曲順が本当に素晴らしくて、最後の2曲、「A Little Bit Of Light Banter」から「Lord Have Mercy」という流れが心に残りました。これまでのアルバムで一番シリアスな終わり方、という見方もできると思いますが。こういう終わり方にした意図は?

ラッセル:それはうれしいコメントだよ。まさにその通りのことを僕らも考えてたからね。アルバムの終わり方っていろんなパターンがあると思うんだけど、今回のアルバムでは、長い旅を経て、最後にはもっと感情的な場所にたどり着きたかったんだ。

「Lord Have Mercy」っていう最後の曲は、とてもメロディアスだし、歌詞も皮肉とかじゃなくて、ものすごくストレートなんだよね。そういうのって、もしかしたら世間がイメージするスパークスとは違って見えるかもしれないけど、でも本当に誠実な曲なんだ。僕らとしては、ああいう誠実さで終わることにすごく意味があると思っていて、それが聴き手にもちょっと高揚感を残せるんじゃないかと思った。だからあの曲を最後に持ってきたんだよ。

ラスト・ディナー・パーティーへの共感、来日への想い

―エドガー・ライト監督が作ったドキュメンタリー『スパークス・ブラザーズ』のおかげで、スパークスは日本でも新しいファンが増え、とても有名になりました。有名になりすぎて、これまでのようにカフェで人々の観察をしにくくなったりしてないかと心配してましたが、生活に大きな変化はありましたか?

ラッセル:ロンが金沢でね、ふたりの人に声をかけられたんだよ。

ロン:そのうちのひとりに「あなたたち、こんなところで何してるの!?」って驚かれた(笑)。すごくチャーミングな出来事だったね。ああいうことって、ドキュメンタリー映画が世に出る前だったら起こらなかったと思う。もちろん、そういうことに文句を言いたくなるときもあるけど、そんな反応すらなかったら、それはそれでさらに文句を言いたくなるだろう(笑)。だからまあ、光栄なことだよ。

ラッセル:そういうことも僕らはうれしいんだ。ドキュメンタリーも『アネット』も、それまでスパークスをまったく知らなかった人たちにまで届いたわけだから。それって、今の僕らのキャリアの中で、すごく満たされることだよ。特に日本では、ふたつの映画がほぼ同時期に公開されて、昔からのファンもすごく興味を持ってくれたし、新しいファンも増えたと思う。『アネット』は僕らにとっても特別なミュージカルだったし、『スパークス・ブラザーズ』も、本当にいい映画になった。エドガーが監督したっていうだけで、あの作品はたとえスパークスが題材じゃなくても、とてもいい作品になったはずだ(笑)。だから僕らとしては、あの2本の映画が、今やっていることを新しいオーディエンスたちに届けるきっかけになってくれて、本当にラッキーだったと思ってるよ。

―さて、ちょっと前にイギリスのザ・ラスト・ディナー・パーティーが、スパークスの「This Town Aint Big Enough For Both Of Us」をカバーしましたよね。

ラッセル:うん、ラスト・ディナー・パーティーがあの曲をやってくれたのはうれしかったよ。彼女たちは新しくて若くて、今すごく人気が出てきてるし、多くの人が「彼女たちの音楽にはスパークスの影響が強く出ている」と言っていたから、僕らも最初から注目してたんだ。で、しばらくしてから「This Town」をカバーしてくれて、「ああ、これは単に少し影響があるってレベルじゃないぞ」って確信できた。だから、本当にうれしかったよ。この前、ロサンゼルスで彼女たちのライブを観に行って、実際に会ったんだけど、「いつか一緒に何かやりたいですね」って言ってくれてね。もしかしたら、将来的に実現するかもしれない。彼女たちのバージョンは気に入ってるよ。

「This Town」はこれまでもたくさんの人たちにカバーされてきた。昔だと、スージー&ザ・バンシーズがやったし、ブリティッシュ・ホエールという名義でザ・ダークネスのメンバーがカバーしたバージョンもあるし……。

ロン:フェイス・ノー・モアもね。

ラッセル:そう、本当にたくさん「This Town」のバージョンがあって、それぞれ全然タイプの違うバンドがやってるのが面白いんだよ。フェイス・ノー・モアとラスト・ディナー・パーティーなんて共通点がほとんどなさそうなのに、どちらも僕らの曲を選んでくれてるっていうのが、すごく面白くてワクワクするんだ。

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ラッセルとラスト・ディナー・パーティー(公式SNSより引用))

―ところで、最近はどんな音楽を好んで聴いていますか?

ロン:個人的な話だけど、インターネットラジオを聴くのが好きなんだ。たとえばノルウェーのジャズ専門の局とか、ロサンゼルスの局よりよっぽど面白かったりするし、イタリアのヴェネツィアにあるクラシックの局とかもね。そういう局の番組を聴くのって、僕にとってはちょっとロマンチックなんだ。知っている曲でも、そういう場所から流れてくるっていうだけで何か特別な感じがする。

ラッセル:ロンとは真逆だけど、僕は最近だとK-POPも聴いたりするよ。全部が好きってわけじゃないけど、あれはもう完全に”バンド”というフォーマットとは違うやり方で音楽を作ってるよね。だから、そこがすごく興味深くて。もちろん、面白いものもあれば、そうじゃないものもあるけれど、それはどんなジャンルでも同じこと。あの分野でも良い仕事をしている人たちは確かにいると思うよ。特に好きなのはG-DRAGONだね。

―ありがとうございます。では最後に、6月の来日公演がどんな内容になりそうか教えて頂けますか?

ラッセル:僕らがライブに臨むとき、いつも考えているのは、アルバムと同じくらいダイナミックなものにしたいってこと。というか、それ以上のものにね。スパークスのファンって、僕らに「何か特別なもの、大胆なもの」を求めて観に来てくれると思っている。だから、決して遠慮がちなライブにはしたくない。アルバムと同じくらい特別であるべきだ。ライブパフォーマンスでも、ビデオやアルバムのジャケット、音楽そのものからスパークスに抱くイメージと同じくらいのインパクトを感じてもらいたい。スパークスのあらゆる側面と同じくらい、ライブも”特別”であってほしい。そういうステージを届けたいと、僕らはいつも願ってるんだ。

スパークスが語る唯一無二の制作論、70代にしてスターとなった兄弟の『MAD!』な現在地

スパークス
『MAD!』
2025年5月23日リリース
解説/歌詞/対訳付
日本盤ボーナス・トラック収録「Do Things My Own Way (Cornelius Remix)」
詳細:https://bignothing.net/sparks.html

スパークスが語る唯一無二の制作論、70代にしてスターとなった兄弟の『MAD!』な現在地

SPARKS JAPAN TOUR 2025
2025年6月8日(日)京都・ロームシアター京都
2025年6月10日(火)大阪・Zepp Namba
2025年6月12日(木)東京・EX THEATER ROPPONGI
2025年6月13日(金)東京・EX THEATER ROPPONGI
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/sparks_2025/

スパークスが語る唯一無二の制作論、70代にしてスターとなった兄弟の『MAD!』な現在地

スパークス『MAD!』
爆音リスニングパーティー(フリー入場)
【東京】タワーレコード渋谷店 6F TOWER VINYL SHIBUYA
2025年5月22日(木)20:00スタート 
詳細:http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-16104.html

【大阪】タワーレコード梅田店
2025年5月22日(木)19:30スタート
詳細:http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-16105.html

サイン会
2025年6月3日(火)
タワーレコード渋谷店 6F TOWER VINYL SHIBUYA
集合時間:19:45 開演時間:20:00 

詳細:https://towershibuya.jp/2025/05/16/213840
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