2025年4月27日(日)、大阪発の3ピースピアノロックバンド・606号室が東京・Spotify O-Crestにて『最低限の生活に 最上級の愛情で』を開催した。関西を拠点に活動する606号室が挑んだ初めての東京での単発自主企画。
ここでは、ターニングポイントを分かち合ってきた盟友・猫背のネイビーセゾンと「ずっと一緒にやりたかった」という先輩・osageのライブを受け、展開された606号室のステージをレポートする。

「大阪からロックバンド、606号室始めます。どうぞよろしく!」と声高らかに名乗りを上げ、「私」でキックオフした606号室は、「変わっていくものもあるけれど、変わらずにここにいてくれるあなたがいるから。今日も一緒に音楽したい。一緒に青春しよう」と「いつだって青春」、「ギターロックが主流の時代で、俺たちはピアノロックバンドの格好良さを教えます」と「君のことは」を連打し、色彩豊かなオープニングを演出。

冒頭3曲でありありと提示された通り、606号室の華やかさと円花(Pf,Cho)のピアノサウンドは蜜月の関係にある。「いつだって青春」の砂浜を駆け抜け、海風を香らせる冒頭と冬の侘しさを照射したミニマムに届けられる中間部のコントラスト然り、疾走感にドライブをかけ、夜空の列車へ乗車させるトゥインクルな「君のことは」の開幕然り、粒だった鍵盤の音はリードギターと近似する役割を担いながら、人懐っこさと数滴の物悲しさを醸し出す。それでも決してロックバンドらしい姿勢を喪失しないのは、彼らがシーンを真っ直ぐに見つめ、ピアノロックバンドとして戦い抜く道を探しているからであると同時に、<わからないことばかり バンドのことも君が本当か偽物かも><正解がない世界の中で 僕はただ君に向けて歌うんだ>と綴られたラインにも滲み出す深い音楽への愛情と決意があるから。そしてそのパトスは、甘美な昇栄(Vo,Gt)のボーカリゼーションに潜むエッジボイスという名の棘として、あるいは全身でアジテートするゆうあ(Ba,Cho)のプレイスタイルとして、客席に降り注いでいく。

606号室、東京初単発自主企画で確かめた等身大と、ピアノロックバンドの在り方

昇栄(Vo,Gt)(Photo by キタムラショウタ)

606号室、東京初単発自主企画で確かめた等身大と、ピアノロックバンドの在り方

円花(Pf,Cho)(Photo by キタムラショウタ)

606号室、東京初単発自主企画で確かめた等身大と、ピアノロックバンドの在り方

ゆうあ(Ba,Cho)(Photo by キタムラショウタ)

「初恋の人を思い出すことが沢山あって。恋って魔法にかかったと言うけれど、魔法じゃなくて、呪いみたいに思える時がある。絶望を持っているけど、少しの希望を持ってしまう。
そんな気持ちを歌った曲です」とドロップされた新曲「君は悪魔」は、スキップするピアノの旋律上で捨てきれない未練を吐き出していく1曲。転調でスケールアップする終盤では、思わず過去を回顧してしまう自分への情けなさや諦められないという不可避の事実を認めるため、痛みにも似た強烈なシャウトが耳へと飛び込んでくる。それでも決してダークに染色することなくポップの範疇へと収めるバランス感覚も見事で、そのスィートネスは続けて投入された「おとぎ話」でも炸裂。ハッピーエンドにならなかった2人の物語を狂おしいほどに抱きしめて、擦り切れるほどにリフレインするこのナンバーも、順当に進まなかった過去を幸福に変えてしまうマジックであり、606号室の優しさを具現化していると言えよう。

「最低限の生活に、俺たちから最上級の愛情を」と不器用な3人からの精一杯のラブソングである「だらしない2人」が弾けたのち、昇栄はこんな言葉を口にする。「何回もバンドを辞めたいって思うこともあった。けど、このメンバーとあなたを連れてどこへでもいけるバンドになりたい。そう思えるのは、あなたがいるから。俺はやっぱり、あなたを救いたい」。背伸びしない決意をド直球に伝え、放ったラストナンバーは「スーパーヒーロー」。<スーパーヒーローになりたい僕も 君のために戦えるほどつよくいたいの><ロックスターみたいに君の心に触れてみて 震える声で君をだきしめたいの>と轟いた宣誓は、あらゆる傷を引き受けてくれる大きな背中以上に、共に傷つき共に涙する中でそっと隣に存在してくれるヒーロー像を浮かび上がらせていく。完璧になれない私たちにとって、606号室はやるせない毎日をどうにか生き抜く原動力なのだ。


2度目の「だらしない2人」と「抱きしめてやる」でゴールテープを切ったアンコールまで、オーディエンスへ寄り添う姿勢を終止崩さなかった606号室。ライブ中盤、昇栄が「僕にとってosageと猫背のネイビーセゾンは、その人たちにしか鳴らせない音楽を鳴らせるバンド。だから、自分たちの不器用な音楽で勝負したいと思いました」と語った通り、彼らにとって今回の自主企画は自らの音楽でどこまで戦えるのかを確かめる試金石であったと同時に、ひとりぼっちで始めたバンドの広がりを見つめ、もう1つ先のステージへと踏み出すためのマイルストーンであったはず。ともすれば、「自分が始めたバンドが報われた気がしています」と一切の偽りなく口からこぼれたことは大きい。ギリギリの暮らしの先で待ち受けていた、バンドを続けられるという決して最低限ではない喜び。その幸福を溢さぬよう、606号室は今日も特大の花束をライブハウスで響かせている。

SET LIST
1. 私
2. いつだって青春
3. 君のことは
4. 静寂の夜
5. 君は悪魔(新曲)
6. おとぎ話
7. 未恋
8. だらしない2人
9. スーパーヒーロー
[ENCORE]
En1. だらしない2人
En2. 抱きしめてやる
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