6月に2度目の来日でジャパン・ツアー3公演を行うヴァリー。ヴァリーは、ロブ・ラスカ、カラ・ジェームズ、アレックス・ディマウロの3人から成る、トロントを拠点とするカナダのオルタナ・ポップ・バンドだ。
【写真】ヴァリー
ー今回のツアーは2年振りの来日となりますが、どのような気持ちですか?
カラ すでにワクワクしてる。
アレックス 超ワクワクしてるね。前回は時間が足りなかったね。東京に着いたと思ったらもう離れてたから。でも、今回は3公演もあるんだ。
ロブ 新幹線にも乗れるし、東京でもっと時間を作れるし、今回はいろんなところに行ける。日本は一番好きな場所の一つだから、超ワクワクしてるよ。
ーYouTubeで前回のツアーの映像『Lost in Translation: Asia Tour』を観ました。アジアの各都市をいろいろ回って、楽しそうでしたが、けっこう忙しそうでしたね。
ロブ スケジュールはタイトだった。
カラ ライブ演奏と電車の移動をたくさんやった感じ。
ー他のアジアの都市と比べて、東京はどこが特別だと思いました?
アレックス 東京にはワイルドな要素がたくさんあると思う。他の都市でも素晴らしい経験ができたけど、東京にはもっと知りたいと思わせる何かがあるんだ。テクノロジーも素晴らしいし、食べ物も最高だ。僕たちは寿司が大好きすぎるから、地元のちゃんとした寿司屋に行けたのはうれしかった。
ロブ タワーレコードで多くのファンと交流ができたのも良かった。タワーレコードは子供の頃よく行ったから、思い出深かったね。日本人が今もレコード屋に行って、CDを買うのってすごくクールだと思うんだ。東京ってテクノロジーが進んでるのに、同時に90年代の名残りがあるところがいいんだよね。
ー前回のツアーは『Lost in Translation』のツアーでしたが、映画の『Lost in Translation』のような感覚はありました?
ロブ 『Lost in Translation』は大好きな映画だよ。もちろん映画のように、コミュニケーションが伝わらないと感じたことも少しあった。
アレックス 日本は他のアジアの国と比べるとカルチャーショックは少なかったかな。理由はわからないけど、おそらく文化の違いのギャップを埋めてるんだろうね。ファッションも進んでたし。
カラ 私にとってのカルチャーショックは、北米と比べてみんながリスペクトを持ってるところ。良い意味でのショックだけど。
ーライブでもファンが思い切りシンガロングしていましたね。
ロブ 本当に最高に楽しいライブだった。今でも鮮明に覚えてるくらいだよ。
アレックス ロブは僕の肩に乗って、「Japan!!」って叫んだよね。
ー「Life Goes On Without Me」という曲には、リリックに「Crying in Tokyo」というラインが出てきますが、東京がインスピレーションなんでしょうか?
ロブ もちろんそうだ。あの曲はアジア・ツアーから生まれたんだ。アジア・ツアーは楽しいツアーだったけど、メンタルがやられたツアーでもあった。言葉にはしなかったけど、おそらくミッキー(マイケル・ブランドリーノ)との最後のツアーになるというのはわかってたから、喪失感を感じてたんだ。ミッキー在籍時の、ヴァリーというバンドの第1章の終わりという感じだった。その終わりの始まりが東京だった。
ー映像で見たのですが、ライブ前に円陣を組んでみんなで何かを叫んでいますよね。あれは「シナモンロール!」と叫んでいるのですか?
ロブ (笑)あれは僕たちのライブ前の儀式なんだ。その儀式はカナダのバンドの間で受け継がれてるものなんだよ。
アレックス だから、やんなきゃなんだよ(笑)。
ロブ 一貫してやり続けてるからね。
アレックス それに、あれをやると一人じゃないんだって思えるんだよね。みんなでやろうって気持ちになれるんだ。ステージに上がる時はチームだし、ライブをやるのもチームだから。スポーツの時にもやるような儀式だよ。僕はあれをやると落ち着くんだ。
僕たちという存在を超える「何か」を育てる物語
ー今回の来日は最新アルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』のツアーですが、最近のセットリストを見ると、このアルバムからの曲を何曲もプレイしていますよね。YouTubeの「BTS Video」で観たのですが、アルバムの制作は木々に囲まれた山奥のキャビンにこもって行われたんですよね。
ロブ 制作を始めた時は、僕たちにとって非常にセンシティブな時期だった。さっきも話したように、僕たちはバンドの第1章の終わりを迎えてた。これからの僕たちは何がしたいのか、どこに行きたいのか、すごく迷いがあったんだ。僕たちにはそこから抜け出すための時間が必要なのは明らかだった。しかも、目的地に向かうためには環境というのも重要だ。それでプロデューサーのチェイスが提案してくれた、1カ月間、どこからも離れた環境に身を置いて制作するというアイデアにコミットしたんだ。そこで、特に何かを期待することなしに、とにかく自分たちが感じてることを表現すること、何かを作ってみるというのをやってみた。それはすごく自然な流れだったね。望んでたことというよりも、必要なことだった。だからスピード感も速かったよ。言いたいこと、曲にしたいことだってたくさんあった。
アレックス あれは初めての体験だったね。三人だけでああいうことをやったこともなかった。どこからも隔離された環境で、初めて三人だけでやったんだ。チェイスとは共同でプロデュースを行い、曲も一緒に作った。しかも、あれはミッキーが脱退してからまだ2週間後のことだった。そこから抜け出すために僕たちは挑戦が必要だったんだ。それでチェイスのアイデアに乗っかったわけだ。
ーそこで自分たちの音楽のルーツとか、音楽をやる喜びを再発見したような部分はありました?
ロブ もちろん。ニュー・アルバムを作ろうってなった最初の段階からそれはあったね。このアルバムでは、たくさんの命が宿る美しいものを僕たちが育てるという物語だった。それは「喜びと幸福、そしてバンドであることの純粋さ」という庭の中から出ていくものだった。それは僕たちという存在を超える何かを育てる物語なんだ。しかも、僕たちの存在を成り立たせてくれてたルーツの部分に戻ることができたから、これは大きなことだったんだ。
ー「BTS Video」でも、いろいろな楽器をプレイしてみたり、いろいろなアプローチでプレイしてみたり、三人で一緒にプレイしたりと、かなりクリエイティブにアプローチしていますね。
ロブ いろいろな発見に向かうドアが開いた感じだったよ。家のキッチンにドラムセットを置いて、スタジオのようにセッティングをして、一人ひとりが思いついた楽器を手にして制作を始めたんだ。そこにはルールなんてなかったよ。プロデューサーのチェイスの果たした役割も大きくて、美しいもの、素晴らしいものを作るために、ルールをなしにしてくれたんだ。アイデアが浮かんだらとにかくトライしてみる。プレッシャーとか期待とかなしにできたのも良かったし、何よりも楽しかったんだ。
ーボーカルにしても、みんなで歌ったり、キャビンの外の自然の中で歌ったり、いろいろアプローチを変えていましたね。
ロブ そうそう。そんな感じで、フレッシュな気持ちでやってたよ。本当にルールなしだったんだ。
アレックス レコーディングをやったのは2024年の2月だけど、テネシーはけっこう暖かかったから、外に出ても寒すぎることもなかった。ずっと自然の中にいたし、レコーディングも時々自然の中でやってみた。それが良かったと思うんだ。
ーチェイスの果たした役割についても聞きたいのですが。
ロブ 彼の果たした役割は多大だよ。僕たちはどこかのタイミングで彼に声をかけるだろうって確信してたんだ。ミッキーが脱退した時、パーソナリティにおいても、感情レベルにおいても、僕たちとパートナーシップを持てて、一緒に人生の道を歩んでいけるような人が必要だったんだ。チェイスは、「僕は同じような道を歩いてるけど、君たちよりも少し先を歩いてる。だから君たちがどこを歩いてるのかがわかるよ」という感じで、僕たちに手を貸してくれたんだ。「OK。三人だけじゃないから。僕が君たちに加わることで、君たちが何を言いたいのかがわかるようにヘルプをするし、君たちの話はすべて受け止めてあげるから」って言ってくれて。結果としては、それ以上の存在になってくれたんだけどね。彼は素晴らしい音楽を作って、プロデュースできる人だけど、同時に、バンドに所属するということが身体的にも精神的にもどのようなものなのかを理解してるし、バンドの独特な人間関係のあり方も理解してる。彼は僕たちに鏡を用意して見せてくれたようなものだよ。それはすごく重要なことだったんだ。
ーサウンド・プロダクションも良いんですよね。ミックスはクリーンなのに、大きな音で聴くと音が非常に豊かで、様々な音がレイヤーのように重ねられていますね。
ロブ ありがとう。チェイスのプロデュースは素晴らしくて、ミニマルなアプローチなのに、音は果てしなく広がっていくんだ。しかも、僕たちのサウンドのコアとなる部分をとらえてくれてる。いろいろ音を詰め込みすぎることなく、広大なサウンドにしてくれるんだ。そこは非常に勉強になったね。チェイスと一緒にやることで、良いエネルギーを生み出すことができたんだ。
「Like 1999」は僕たちの一部だし、僕たちの過去の一部だ
ー第2章の始まりとなるアルバムが出来た今、次はどこに向かっていますか? すでに新しいアルバムの制作が始まっているとの話でしたが、どのようなアルバムになりますか?
ロブ 次のアルバムもチェイスと制作してるんだけど、素晴らしいよ。前作は自分たちのルーツを再発見したアルバムで、表面にあるもの、美しいものに目を向けたんだけど、次はその下にあるコアなもの、それを形作ってるもの、花を咲かせる元のものに目を向けてる。僕たちのバンドにとって一番大切で楽しんでる部分はライブだから、そのライブのエネルギーをアルバムに反映させたいと思ってる。だから、ライブの感じとスタジオワークをミックスしたような感じになるかな。もっとダンスしたくなるような曲になってると思うよ。
ー今、アルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』の曲をライブでやると、どのような感情になりますか?
カラ 大きな発見がたくさんあるわ。バンドを始めて以来、アルバムは2年ごとに出してきたから、ライブでいろいろな曲をやると積み重ねてきた感覚になるの。ライブはチャレンジでもあるから、異なる時代の異なる曲に合わせてプレイするのは、すごい労力だったりもする。だから、セットリストを作って、その中で調整してるんだけど、常に発展途上な感じがするんだよね。質問に対する答えとしては、『Water the Flowers, Pray for a Garden』の曲をライブでやると、私たちはバンドなんだっていう気持ちに改めてなれるの。ガレージでプレイしてた時の気持ちに戻れるから。プレイしてると、親の家の地下室であろうと、東京で3000人のお客さんを前にしようと、それが私たちにとってとても正しいことに思えてくる。曲によっても変わってくるけど、私たちはライブで演奏するのが大好きだから、何も文句はないわ。
ー最近のセットリストでは、最後に「Bob Ba」をプレイしていますね。
ロブ ライブはハイエナジーだから、最後に僕たちとお客さんで「Bob Ba」を歌うと、よりレイドバックした感じになれるし、余計なものをすべて削ぎ落とした感じになれるんだ。あの曲の持つ柔らかさで、お客さんが最後に僕たちと歌って、会場を出る時には、このライブの一部になれたと思ってもらえるのもいい。だから毎晩、そこが素敵な瞬間になるんだ。
ー今のライブでも「Like 1999」はプレイします?
ロブ プレイしとかないとね(笑)。
ーこの曲はコロナ禍にバイラルヒットしましたが、今振り返るとどのような思いがあります?
アレックス 面白い質問だね。この曲は僕たちの一部だし、僕たちの過去の一部だ。しかも、今も多くの人が共感してくれてる。そこから僕たちは成長したし、この曲の成功がその成長をもたらしてくれた。この曲がなかったら東京でライブをやることもなかっただろうね。僕たちに特別なものをもたらしてくれたんだ。だから間違いなく東京のファミリーのためにこの曲はプレイするつもりだ。この曲はこれからもずっと大切にしていきたいと思ってる。
ーちなみに、90年代カルチャーは好きですか?
ロブ 僕たちは90年代生まれだからね。歳を重ねれば重ねるほど、90年代を意識するようになるんだ。90年代のファッション、音楽、映画には共感も覚えるし。あの10年間は重要な時代だから、多くの人が90年代に惹かれてる。だから、エンタメ的にも、文化的にも、社会的にも、90年代は注目されてるんだ。良い時代だと思うよ。
ーアルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』の曲の映像ですが、普通のミュージックビデオの代わりにライブビデオを発表していますよね。屋上で撮ったり、本棚に囲まれて演奏したり、海の近くで撮ったり、ロケーションと構図が素晴らしくて、シンプルなのに目が離せないんですよね。
ロブ ありがとう。正直言うと、普通のミュージックビデオは制作費が高いし、ビデオのアイデアを出すと、いつも予算を超えてしまうからなんだ(笑)。もう一つの理由としては、今新しいアルバムの制作にライブの感じを入れようとしてるのと同じ理由で、ライブと同じエネルギーでそれらの曲をプレゼンしたいというのがあるんだ。ミュージックビデオの要素もありつつ、ライブ感を出してるから、そこはハイブリッドになるね。どの曲にもつながりを持たせたいから、同じディレクター、同じクルーで撮影をしてる。制作費も高くないし、意味のあることをやってるし、やってて楽しいんだよね。実際に演奏だってしてるから。
ー日本でも撮影はしないのですか? 寿司屋で撮影できたら最高ですね。
全員 それ、是非やりたいなあ!
ー最後に、日本のファンへのメッセージを。
ロブ 前回から2年かかったけど、楽しみにしてる。また日本に行けることにとても感謝してるよ。みんなが僕たちのライブを楽しみしてくれてることにも感謝しかない。新しい曲で新しいライブをやるし、今回のツアーはかなり特別なツアーになるはずだ。またみんなに会いたいね。
WATER THE FLOWERS, PRAY FOR A GARDEN ASIA TOUR
6月3日(火)大阪・BIGCAT
開場 18:00 / 開演 19:00
6月4日(水)名古屋・NAGOYA CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00
6月5日(木)東京・Zepp DiverCity
開場 18:00 / 開演 19:00
https://www.livenation.co.jp/valley-2025
コロナ禍に「Like 1999」がバイラルヒットして、2023年8月に行われた初来日公演はソールドアウト。その後、マイケル・ブランドリーノの脱退を経て、2024年8月にアルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』を、COINのチェイス・ローレンスのプロデュースの下、初の三人体制で発表。今回の来日はこのアルバムのアジア・ツアーの一環となっている。
【写真】ヴァリー
ー今回のツアーは2年振りの来日となりますが、どのような気持ちですか?
カラ すでにワクワクしてる。
アレックス 超ワクワクしてるね。前回は時間が足りなかったね。東京に着いたと思ったらもう離れてたから。でも、今回は3公演もあるんだ。
ロブ 新幹線にも乗れるし、東京でもっと時間を作れるし、今回はいろんなところに行ける。日本は一番好きな場所の一つだから、超ワクワクしてるよ。
ーYouTubeで前回のツアーの映像『Lost in Translation: Asia Tour』を観ました。アジアの各都市をいろいろ回って、楽しそうでしたが、けっこう忙しそうでしたね。
ロブ スケジュールはタイトだった。
カラ ライブ演奏と電車の移動をたくさんやった感じ。
ー他のアジアの都市と比べて、東京はどこが特別だと思いました?
アレックス 東京にはワイルドな要素がたくさんあると思う。他の都市でも素晴らしい経験ができたけど、東京にはもっと知りたいと思わせる何かがあるんだ。テクノロジーも素晴らしいし、食べ物も最高だ。僕たちは寿司が大好きすぎるから、地元のちゃんとした寿司屋に行けたのはうれしかった。
ロブ タワーレコードで多くのファンと交流ができたのも良かった。タワーレコードは子供の頃よく行ったから、思い出深かったね。日本人が今もレコード屋に行って、CDを買うのってすごくクールだと思うんだ。東京ってテクノロジーが進んでるのに、同時に90年代の名残りがあるところがいいんだよね。
ー前回のツアーは『Lost in Translation』のツアーでしたが、映画の『Lost in Translation』のような感覚はありました?
ロブ 『Lost in Translation』は大好きな映画だよ。もちろん映画のように、コミュニケーションが伝わらないと感じたことも少しあった。
前回は初めての日本だったから、バカバカしいこともやったね。セブン-イレブンに行って、初めて見るスナックやドリンクをいろいろトライしてみた。僕は食べるのが大好きだから、何でもトライしたよ。
アレックス 日本は他のアジアの国と比べるとカルチャーショックは少なかったかな。理由はわからないけど、おそらく文化の違いのギャップを埋めてるんだろうね。ファッションも進んでたし。
カラ 私にとってのカルチャーショックは、北米と比べてみんながリスペクトを持ってるところ。良い意味でのショックだけど。
ーライブでもファンが思い切りシンガロングしていましたね。
ロブ 本当に最高に楽しいライブだった。今でも鮮明に覚えてるくらいだよ。
アレックス ロブは僕の肩に乗って、「Japan!!」って叫んだよね。
みんなクレイジーになってた。あのライブは本当に楽しかったな。みんな優しかったし、リスペクトを持って接してくれたから。
ー「Life Goes On Without Me」という曲には、リリックに「Crying in Tokyo」というラインが出てきますが、東京がインスピレーションなんでしょうか?
ロブ もちろんそうだ。あの曲はアジア・ツアーから生まれたんだ。アジア・ツアーは楽しいツアーだったけど、メンタルがやられたツアーでもあった。言葉にはしなかったけど、おそらくミッキー(マイケル・ブランドリーノ)との最後のツアーになるというのはわかってたから、喪失感を感じてたんだ。ミッキー在籍時の、ヴァリーというバンドの第1章の終わりという感じだった。その終わりの始まりが東京だった。
ー映像で見たのですが、ライブ前に円陣を組んでみんなで何かを叫んでいますよね。あれは「シナモンロール!」と叫んでいるのですか?
ロブ (笑)あれは僕たちのライブ前の儀式なんだ。その儀式はカナダのバンドの間で受け継がれてるものなんだよ。
最初はデフトーンズが始めた。それを引き継いだバンドが僕たちの好きなバンドで、そこから何世代にも渡って多くのバンドが受け継いできたものだ。特に深い意味はないんだけど、あれをやらないと悪いことが起きそうなんだ(笑)。
アレックス だから、やんなきゃなんだよ(笑)。
ロブ 一貫してやり続けてるからね。
アレックス それに、あれをやると一人じゃないんだって思えるんだよね。みんなでやろうって気持ちになれるんだ。ステージに上がる時はチームだし、ライブをやるのもチームだから。スポーツの時にもやるような儀式だよ。僕はあれをやると落ち着くんだ。
僕たちという存在を超える「何か」を育てる物語
ー今回の来日は最新アルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』のツアーですが、最近のセットリストを見ると、このアルバムからの曲を何曲もプレイしていますよね。YouTubeの「BTS Video」で観たのですが、アルバムの制作は木々に囲まれた山奥のキャビンにこもって行われたんですよね。
バンドにとっての新しいチャプターの始まりという意味もあったのでしょうか? あの場所を選んだ理由と、そこで何を追求したのかを聞かせてください。
ロブ 制作を始めた時は、僕たちにとって非常にセンシティブな時期だった。さっきも話したように、僕たちはバンドの第1章の終わりを迎えてた。これからの僕たちは何がしたいのか、どこに行きたいのか、すごく迷いがあったんだ。僕たちにはそこから抜け出すための時間が必要なのは明らかだった。しかも、目的地に向かうためには環境というのも重要だ。それでプロデューサーのチェイスが提案してくれた、1カ月間、どこからも離れた環境に身を置いて制作するというアイデアにコミットしたんだ。そこで、特に何かを期待することなしに、とにかく自分たちが感じてることを表現すること、何かを作ってみるというのをやってみた。それはすごく自然な流れだったね。望んでたことというよりも、必要なことだった。だからスピード感も速かったよ。言いたいこと、曲にしたいことだってたくさんあった。
未来がどうなるのか予測もつかない中、スタジオに入って何かを作ることで、僕たちがそもそも何故これを続けてきたのかというのを、改めて思い出させてくれたんだ。山奥でのレコーディングは特に意図があったわけじゃないけど、どこかしっくり来るものがあってね。引きこもって、何にも邪魔をされずにやりたかったんだ。それで、2月1日に山奥のキャビンに着いて、2月の終わりにはニュー・アルバムの音を手にしてたよ。あんな経験は今後もまたあるのかどうかはわからない。だからこそこのアルバムは特別なものになったと思う。あの瞬間をとらえたものだし、僕たちがどこにいたのか、僕たちが何者だったのかをとらえてるし、特定の瞬間をピンポイントでとらえたスナップショットになってる。あれができたことに対しては感謝しかないね。本当に特別な時間だったから、大変な時ではあったけど、バンドとしての成長も可能になった。
アレックス あれは初めての体験だったね。三人だけでああいうことをやったこともなかった。どこからも隔離された環境で、初めて三人だけでやったんだ。チェイスとは共同でプロデュースを行い、曲も一緒に作った。しかも、あれはミッキーが脱退してからまだ2週間後のことだった。そこから抜け出すために僕たちは挑戦が必要だったんだ。それでチェイスのアイデアに乗っかったわけだ。
ーそこで自分たちの音楽のルーツとか、音楽をやる喜びを再発見したような部分はありました?
ロブ もちろん。ニュー・アルバムを作ろうってなった最初の段階からそれはあったね。このアルバムでは、たくさんの命が宿る美しいものを僕たちが育てるという物語だった。それは「喜びと幸福、そしてバンドであることの純粋さ」という庭の中から出ていくものだった。それは僕たちという存在を超える何かを育てる物語なんだ。しかも、僕たちの存在を成り立たせてくれてたルーツの部分に戻ることができたから、これは大きなことだったんだ。
ー「BTS Video」でも、いろいろな楽器をプレイしてみたり、いろいろなアプローチでプレイしてみたり、三人で一緒にプレイしたりと、かなりクリエイティブにアプローチしていますね。
ロブ いろいろな発見に向かうドアが開いた感じだったよ。家のキッチンにドラムセットを置いて、スタジオのようにセッティングをして、一人ひとりが思いついた楽器を手にして制作を始めたんだ。そこにはルールなんてなかったよ。プロデューサーのチェイスの果たした役割も大きくて、美しいもの、素晴らしいものを作るために、ルールをなしにしてくれたんだ。アイデアが浮かんだらとにかくトライしてみる。プレッシャーとか期待とかなしにできたのも良かったし、何よりも楽しかったんだ。
ーボーカルにしても、みんなで歌ったり、キャビンの外の自然の中で歌ったり、いろいろアプローチを変えていましたね。
ロブ そうそう。そんな感じで、フレッシュな気持ちでやってたよ。本当にルールなしだったんだ。
アレックス レコーディングをやったのは2024年の2月だけど、テネシーはけっこう暖かかったから、外に出ても寒すぎることもなかった。ずっと自然の中にいたし、レコーディングも時々自然の中でやってみた。それが良かったと思うんだ。
ーチェイスの果たした役割についても聞きたいのですが。
ロブ 彼の果たした役割は多大だよ。僕たちはどこかのタイミングで彼に声をかけるだろうって確信してたんだ。ミッキーが脱退した時、パーソナリティにおいても、感情レベルにおいても、僕たちとパートナーシップを持てて、一緒に人生の道を歩んでいけるような人が必要だったんだ。チェイスは、「僕は同じような道を歩いてるけど、君たちよりも少し先を歩いてる。だから君たちがどこを歩いてるのかがわかるよ」という感じで、僕たちに手を貸してくれたんだ。「OK。三人だけじゃないから。僕が君たちに加わることで、君たちが何を言いたいのかがわかるようにヘルプをするし、君たちの話はすべて受け止めてあげるから」って言ってくれて。結果としては、それ以上の存在になってくれたんだけどね。彼は素晴らしい音楽を作って、プロデュースできる人だけど、同時に、バンドに所属するということが身体的にも精神的にもどのようなものなのかを理解してるし、バンドの独特な人間関係のあり方も理解してる。彼は僕たちに鏡を用意して見せてくれたようなものだよ。それはすごく重要なことだったんだ。
ーサウンド・プロダクションも良いんですよね。ミックスはクリーンなのに、大きな音で聴くと音が非常に豊かで、様々な音がレイヤーのように重ねられていますね。
ロブ ありがとう。チェイスのプロデュースは素晴らしくて、ミニマルなアプローチなのに、音は果てしなく広がっていくんだ。しかも、僕たちのサウンドのコアとなる部分をとらえてくれてる。いろいろ音を詰め込みすぎることなく、広大なサウンドにしてくれるんだ。そこは非常に勉強になったね。チェイスと一緒にやることで、良いエネルギーを生み出すことができたんだ。

「Like 1999」は僕たちの一部だし、僕たちの過去の一部だ
ー第2章の始まりとなるアルバムが出来た今、次はどこに向かっていますか? すでに新しいアルバムの制作が始まっているとの話でしたが、どのようなアルバムになりますか?
ロブ 次のアルバムもチェイスと制作してるんだけど、素晴らしいよ。前作は自分たちのルーツを再発見したアルバムで、表面にあるもの、美しいものに目を向けたんだけど、次はその下にあるコアなもの、それを形作ってるもの、花を咲かせる元のものに目を向けてる。僕たちのバンドにとって一番大切で楽しんでる部分はライブだから、そのライブのエネルギーをアルバムに反映させたいと思ってる。だから、ライブの感じとスタジオワークをミックスしたような感じになるかな。もっとダンスしたくなるような曲になってると思うよ。
ー今、アルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』の曲をライブでやると、どのような感情になりますか?
カラ 大きな発見がたくさんあるわ。バンドを始めて以来、アルバムは2年ごとに出してきたから、ライブでいろいろな曲をやると積み重ねてきた感覚になるの。ライブはチャレンジでもあるから、異なる時代の異なる曲に合わせてプレイするのは、すごい労力だったりもする。だから、セットリストを作って、その中で調整してるんだけど、常に発展途上な感じがするんだよね。質問に対する答えとしては、『Water the Flowers, Pray for a Garden』の曲をライブでやると、私たちはバンドなんだっていう気持ちに改めてなれるの。ガレージでプレイしてた時の気持ちに戻れるから。プレイしてると、親の家の地下室であろうと、東京で3000人のお客さんを前にしようと、それが私たちにとってとても正しいことに思えてくる。曲によっても変わってくるけど、私たちはライブで演奏するのが大好きだから、何も文句はないわ。
ー最近のセットリストでは、最後に「Bob Ba」をプレイしていますね。
ロブ ライブはハイエナジーだから、最後に僕たちとお客さんで「Bob Ba」を歌うと、よりレイドバックした感じになれるし、余計なものをすべて削ぎ落とした感じになれるんだ。あの曲の持つ柔らかさで、お客さんが最後に僕たちと歌って、会場を出る時には、このライブの一部になれたと思ってもらえるのもいい。だから毎晩、そこが素敵な瞬間になるんだ。
ー今のライブでも「Like 1999」はプレイします?
ロブ プレイしとかないとね(笑)。
ーこの曲はコロナ禍にバイラルヒットしましたが、今振り返るとどのような思いがあります?
アレックス 面白い質問だね。この曲は僕たちの一部だし、僕たちの過去の一部だ。しかも、今も多くの人が共感してくれてる。そこから僕たちは成長したし、この曲の成功がその成長をもたらしてくれた。この曲がなかったら東京でライブをやることもなかっただろうね。僕たちに特別なものをもたらしてくれたんだ。だから間違いなく東京のファミリーのためにこの曲はプレイするつもりだ。この曲はこれからもずっと大切にしていきたいと思ってる。
ーちなみに、90年代カルチャーは好きですか?
ロブ 僕たちは90年代生まれだからね。歳を重ねれば重ねるほど、90年代を意識するようになるんだ。90年代のファッション、音楽、映画には共感も覚えるし。あの10年間は重要な時代だから、多くの人が90年代に惹かれてる。だから、エンタメ的にも、文化的にも、社会的にも、90年代は注目されてるんだ。良い時代だと思うよ。
ーアルバム『Water the Flowers, Pray for a Garden』の曲の映像ですが、普通のミュージックビデオの代わりにライブビデオを発表していますよね。屋上で撮ったり、本棚に囲まれて演奏したり、海の近くで撮ったり、ロケーションと構図が素晴らしくて、シンプルなのに目が離せないんですよね。
ロブ ありがとう。正直言うと、普通のミュージックビデオは制作費が高いし、ビデオのアイデアを出すと、いつも予算を超えてしまうからなんだ(笑)。もう一つの理由としては、今新しいアルバムの制作にライブの感じを入れようとしてるのと同じ理由で、ライブと同じエネルギーでそれらの曲をプレゼンしたいというのがあるんだ。ミュージックビデオの要素もありつつ、ライブ感を出してるから、そこはハイブリッドになるね。どの曲にもつながりを持たせたいから、同じディレクター、同じクルーで撮影をしてる。制作費も高くないし、意味のあることをやってるし、やってて楽しいんだよね。実際に演奏だってしてるから。
ー日本でも撮影はしないのですか? 寿司屋で撮影できたら最高ですね。
全員 それ、是非やりたいなあ!
ー最後に、日本のファンへのメッセージを。
ロブ 前回から2年かかったけど、楽しみにしてる。また日本に行けることにとても感謝してるよ。みんなが僕たちのライブを楽しみしてくれてることにも感謝しかない。新しい曲で新しいライブをやるし、今回のツアーはかなり特別なツアーになるはずだ。またみんなに会いたいね。
WATER THE FLOWERS, PRAY FOR A GARDEN ASIA TOUR

6月3日(火)大阪・BIGCAT
開場 18:00 / 開演 19:00
6月4日(水)名古屋・NAGOYA CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00
6月5日(木)東京・Zepp DiverCity
開場 18:00 / 開演 19:00
https://www.livenation.co.jp/valley-2025
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