アルゼンチン発のデュオ、”カトパコ”ことカトリエル&パコ・アモロソ(CA7RIEL & Paco Amoroso)が、7月のフジロックで待望の初来日を果たす。幼少期からの友人であり、兄弟のように深い絆で結ばれたふたりは、ロックバンドからアーバンシーンへと転向し、いまや世界中から注目される存在に。
プロジェクトの急成長と激動の人生について語った、Rolling Stoneスペイン語版による15000字のロングインタビューを完全翻訳。

ジェットコースターのような快進撃

ほんの数日前、カトリエル・ゲレイロとウリセス・ゲレイロ(※パコの本名)──ここ1年でシーンに革命を起こしたカトリエル&パコ・アモロソは、カリフォルニア州で開催されたコーチェラのステージを燃え盛るかのように盛り上げ、今年の同フェスにおいてひときわ鮮烈で記憶に残るパフォーマンスを披露した。そして今日、ホテルの部屋での静かなひとときのなか、ふたりはインタビューに応じ、プロジェクトの急激な躍進と、ここ最近体験した非現実的な出来事の数々を振り返る。

「観客はすごく手ごわいって聞いてたんだよね。みんな突っ立ってるだけだって。でも、実際はめちゃくちゃ愛をくれたよ」と、コーチェラでの体験を語るカトリエル。「もう笑いっぱなしでさ、今までで一番楽しかったかも。ブライアン・メイを間近で見て、思わず泣いちゃったよ。そんなことがコーチェラにはあったんだよね。あとレディー・ガガも見たんだけど、マジで脳みそぶっ飛んだ。2週とも観たんだ。そこまでファンってわけじゃなかったけど、あの人は化け物だよ。
めちゃくちゃ感動した」

「みんな曲を歌ってくれてて、かなりクレイジーだったよ」とパコも続ける。「自分がこんな場所で演奏するなんて、想像もしてなかった」と。フェスの間には、ニルヴァーナの元ドラマー/フー・ファイターズのフロントマンとも遭遇したという。「デイヴ・グロール、彼は天才だよ」と、いつもの飄々とした様子で語るカトリエル。

この1年、ふたりはまるでジェットコースターのような快進撃を続けてきた。初のアルバム『BAÑO MARÍA』のリリース(2024年)を皮切りに、カトリエル&パコ・アモロソの楽曲は世界中で鳴り響き、Tiny Deskでの爆発的なパフォーマンスがその勢いに火をつけた。彼らは世界各地の伝説的なステージを渡り歩き、何百万人ものリスナーを魅了し、見る者すべてを巻き込む独自のスタイル、型破りで遊び心に満ちた唯一無二の表現で、音楽の枠組みさえ揺さぶってみせた。

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Rolling Stoneスペイン語版の表紙。左からパコ・アモロソ、カトリエル(Photo by Sofía Malamute)

幼い頃から培ってきた信頼関係

カトリエルとパコの間にあるケミストリーは、一生をともにしてこそ築ける類いのものだ。ふたりは共に育ち、隣り合って人格を形成し、今やステージ上にもその深い友情がにじみ出ている。「小さい頃から、なぜかずっと隣同士に座らされてたんだよね。そしたら、なんか魔法みたいなことが起きたんだ」とカトリエルは語る。
「うちの母親どうしもウマが合って、すごく仲良くなったんだよ。親どうしがつながって、その子どもたちもつながったら、もうほとんど先祖代々の縁って感じでさ。ふたつの世代が同時にいいバイブスを出してるみたいな。めちゃくちゃ一緒に過ごしてきた。パキート(パコ)と過ごした子ども時代は最高だったよ」

「アイツは昔から転んだりぶつけたりばっかで、いつもケガしてたんだよね……今も相変わらずだよ。ただ、今はもう少し美意識のあるバージョンになったって感じかな。子どもの頃はふたりともブサイクだったし。今は髪を染めたり、ジムに通ったりしてる。ま、パキートはね。俺はそこまででもないけど」と、カトリエルは笑いながら語る。このコメントは、ふたりがメキシコシティでのライブ中、(「EL ÚNICO」の)有名なサビ「首にタトゥーが……」を歌っていた最中にパコが突然ステージから落下した場面を思い起こさせる。

「マジで大ゴケしてさ。
”あ、骨折した。もうこれでツアー全部出られないかも”って本気で思った」とパコは振り返る。「もしそうなってたら、完全に人生の悲劇だったと思う。マジで立ち直れなかったかも。でも奇跡的に骨は無事でさ。点滴で薬を打ってもらったら、数日間メキシコシティでめっちゃサイケな体験することになったよ」

「もう、グチャグチャになってたよ」とカトリエルが言葉を継ぐ。「みんなで超ビビった。でも、正直そこまで驚きはしなかったんだよね。だって、あんなの何回もあったし。もちろん心配になるし”大丈夫かな?”って思うよ。でもさ、今までに27回くらいコケてるのを見てきたし、毎回”まだ生きてる?”となって、毎回生きてるんだよね、あのクソ野郎は」

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

ふたりに共通しているのは、「何もかもがもっとシンプルだった頃」──つまり、無邪気で自由だった子ども時代へのごく普通のノスタルジーだ。「それって、大人なら誰にでもあるような懐かしさだと思うよ。
子どもの頃は責任なんてなかったしさ。僕はずっと働いてるタイプなんだけど、実は仕事が大っ嫌いなんだよね。いつも全力だけど、本当は静かにしてるのが好き。見た目とは真逆だけど。人間は苦手で、猫とか犬のほうが好き……ウソ、好きな人間もけっこういる」と、カトリエルは笑いながら語り、自分の現実と内面のギャップをちらりとのぞかせる。

記憶の輪郭がはっきりしているパコは、こう続ける。「子どもの頃って、学校から帰ってきたら、あとは一日中サッカーして友だちと遊ぶだけって感じだったよね。しかも、あの頃はまだスマホもなかったし、テクノロジーもそんなに発達してなくてさ。自転車に乗ったり、サッカーしたり。今とはぜんぜん違う世界だったと思う。だからこそ、もう戻れないあの時代を懐かしく感じちゃうんだよね。いい思い出ばっかりだよ」

前歴のロックバンド時代、アーバンミュージックへの転向

ふたりは、ストリートでの時間やリハーサル、そして芸術への探究心を共有しながら育ってきた。
そうして結成したのが、ロックバンド「Astor(アストール)」だった。ふたりにとって、まさに音楽の学校のような存在だったと振り返る。「Astorでは、ライブのトレーニングをめちゃくちゃ積ませてもらったよ。さっきも言ったけど、当時は今とは全然違う時代だったんだ。今は家で簡単に録音できるけど、当時は本当に難しかった。特にバンドとなるとね。レコーディングは(費用が)高すぎて、とてもじゃないけど手が出なかった。だから音源なんてなかったし、僕らの音を聴きたい人はライブに来るしかなかったんだよ」とパコは語る。

Astor時代の映像、パコはドラムを担当していた

AstorのEP『Vacaciones Todo el Año】(2017年)

しかし、時代の変化とともにテクノロジーが進化し、ふたりのアプローチも変わっていった。「自分の部屋で音楽を録りはじめたんだよ。スタジオ名は『El Chiquerito(エル・チケリート:小さな豚小屋)』って呼んでた。というのも、動作の遅いパソコンと、僕の匂いが染みついたマットレスしかないような環境だったから(笑)。
でも、そこが最初の出発点だったんだよね」と、カトリエルは笑いながら当時を懐かしむ。

「ある時、ふたりとも疲れちゃったんだよね」とカトリエルは続ける。「何年もずっと、電車にバッテリーを積んで移動したり、ケーブルや壊れかけのプラグを持ち歩いたりしてたってことに、ふと気づいたんだ」。パコも思い出を補足するように語る。「僕はドラム一式を運ぶ係だったんだよ。シンバルにスネアに、それを全部リハスタまで持ってってた。”24番”っていうバスがあって、それに乗って自宅からスタジオまで通ってたんだけど、シンバルとスネアを抱えて乗るのはなかなか大変だった。でもね、その頃のことを、今でもすごく愛おしく思い出すんだ。バンドをやってた人なら、きっと共感してくれると思うよ。ああいうのって本当に大変だけど、全部”音楽が好き”って気持ちだけでやってるんだよね。だって、お金になんかならないんだから」

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

アーバンミュージックへの転向は、必要性と好奇心の入り混じった結果でもあった。「現代的なやり方で音楽を作るのは、圧倒的にシンプルで速くて効率がいい。だから僕たちは”アーバン”って呼ばれるような音楽を作り始めたんだ……まあ、その言葉にはちょっと引っかかるときもあるけどね」とカトリエルは語る。「パソコンがあって、MIDIの機材があって、ちょっとしたキーボードがあれば、もうそれで完成。僕はもともとクラシック畑の出身で、譜面を書いたり、オーケストラだったり、ギターのチューニングだったり、そういうことをずっとやってきた。でもこっちのやり方なら、常に音程も合ってるし、自分が求める音で鳴ってくれる。しかも安上がり。結局それなんだよ、”安く済む”っていうのが大きい。だから半分は必要に迫られて、半分は頭を使って”節約しよう”と思った結果でもあるんだよね」

とはいえ、パコもカトリエルも、「変化」や「適応」によって自分たちの本質を裏切ったとは感じていない。「いや、本当にそういうのはないよ。必要に駆られて、やりたくないことを我慢してやったことなんて一度もない」とカトリエルはきっぱり言う。「ずっと音楽に関わって生きてきたし、音楽を通して初めてお金を稼げるようになった。レッスンもしてたし、電車の中で帽子を回して演奏したこともあるし、スタジオ・ミュージシャンもやってた。音楽に関する仕事はいろいろやってきたけど、夢を諦めたことは一度もなかった。だって、最初からずっとこの夢が俺のすべてだったから」

パコもその考えに同意する。「そうだね、僕らは自分たちのやりたいことを捨てる必要なんてなかったと思う。自分のことを好奇心のかたまりだと思ってるんだ。ある時期はこれが好きになって、また別の時期には別のものにハマって……ずっとそんなふうに、いろんなものに惹かれて生きてきた。音楽でもそう。ジャンルやスタイルを次々に飛び越えていく感じ。それで、その時々で惹かれたものを曲として形にしていく──それが自分のスタイルなんだと思う」

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

「フリーキー」であり続けることが原動力

変化は、ほとんど無意識のうちにやってきた。「歌いはじめたのも、最初は半分ふざけてた感じだったんだよね。遊び感覚というか、”本気じゃないけど、まあやってみるか”みたいな。でも、変な話、狙ったわけじゃなくて。そしたら、ちょうどアルゼンチンで”トラップ”って呼ばれてたムーブメントがブームになってさ──まあ、あれは正確には”自宅録音してネットに上げる人たちの流れ”って感じだったけど──YouTubeとかの環境も整ってきたことで、自然と俺たちにも居場所ができた。そこから少しずつ人生が変わっていったんだ。それまでは働いたり、勉強したり、いろんなことをやってたけど、突然”音楽キャリア”っていうものが目の前に現れて、それで食っていけるようになった。もう、最高だよね。ずっと、音楽で生きていくのが夢だったから」そう語るのはパコだ。

初期のトラップナンバー。コーチェラでも披露した2018年の「A MÍ NO」と2019年のヒット曲「OUKE」

アルゼンチンのアーバン・ミュージック・シーンが爆発的な広がりを見せる中で、Duki、Bizarrap、Nicki Nicoleといったスターが次々と登場し、瞬く間に成功を収めていった。そしてそのなかで、カトリエル&パコ・アモロソもまた、シーンの第一波として注目を集めることとなった。ただし、彼らのやり方は少し違っていた。ジャンルの”お約束”に乗らず、型破りなアプローチで挑んだのだ。

「僕らはちょっと変わり者だったんだよね」とパコは振り返る。「今でもそうだけどさ。トラップの枠にもハマらなかったし、変なことばっかやってた。変なビデオに、変な歌詞。あと、ライブでバンドを従えて演奏してたっていうのもあって……たぶん、あの頃そういうスタイルでやってたのは、僕たちくらいだったと思う。そこが自分たちのアイデンティティだった。僕らは”バンドで演奏するフリークス”なんだよ」

2019年のライブ映像。デビュー当初からバンド編成でパフォーマンスを行っていた

こうして、シンバルを抱えて乗ったバスの記憶、ちょっと怪しい匂いのするマットレス、そして何の野心もなく録音された曲たち──そんなかけがえのない積み重ねから、カトリエルとパコは自分たちだけの宇宙を築き上げていった。それは自由と音楽、そして”意地”でできた世界だった。

人を不意に驚かせたり、戸惑わせたりすることは、彼らにとって目的というよりも、むしろ「自然な結果」だ。ふたりは自分たちをあえて挑発的な存在だとは考えていないが、それでも「個性を貫くこと」の重要性は強く感じている。「誰かがすでにやってることじゃなくて、まだ誰もやってないことに挑戦する。そして、自分らしさっていうかパーソナリティを持たせること。それが大事だと思うんだよね」とパコは語る。ポップの構造、レーベルからの要求、そしてTikTokのアルゴリズムにすら支配されがちな現代の音楽業界において、彼らはあえて”中から”そのルールをねじってみせるという選択をしている。

「例えば、曲の構造がポップで、メロディもポップだったとしても、結局レーベルに所属してて、TikTokにも投稿しなきゃいけない。みんなと同じルールのなかでやってるわけだけど、そのなかでどれだけ自分の本質を注げるかだと思うんだよね。それが、ちょっとでも信頼につながったり、”他とは違う何か”になるんじゃないかな」。ふたりが「フリーキー(変わり者)」と呼ぶこの姿勢こそが、彼らの創作を突き動かす原動力なのだ。予想外であること、少し不穏であること、他の誰とも同じようには聴こえないこと──それがカトリエル&パコ・アモロソというユニバースの核心にある。

兄弟のつながり、共犯関係のような絆

論理を超えた芸術的なつながりというものがあり、このふたりの関係もまさにその領域にある。論理を超えた芸術的なつながりというものがあり、このふたりの関係もまさにその領域にある。それは単なるクリエイティブな相性ではなく、どこか神秘的で、自然に補い合うような結びつきだ。「俺がイカれてるときは、あいつは落ち着いてて、俺が落ち着いてるときは、今度はあいつがイカれてるんだよ。陰と陽みたいなもんで、言葉にしなくても通じ合ってる。”兄弟のつながり”みたいな感じかな」そうカトリエルは語る。それは、説明するよりも”感じる”ものなのだ。

その共犯関係のような絆は、ふたりにとって最大の盾となった。目を合わせなくても通じ合い、視線でモールス信号を送り合っているかのように互いを読み取り、そして何よりも、どんな時でもお互いを支え合ってきた。「仕事のときも、人生を生き抜くときも、どっちかに何かあったら、もう片方が必ずそばにいる。僕たち、ちょっとアンドロイドっぽいところがあるけど、めちゃくちゃ愛し合ってるんだよね」。秩序とカオスが入り混じるその関係性は、ふたりの力を引き出すだけでなく、外の世界から守ってくれる盾にもなっている。「僕らは世界から自分たちを守ってきたんだ。ふたりでいるときにだけ開く第三の目があって、それがあったからこそ誰にも食い尽くされることなく、ここまで来られたんだよ」

けれど、その調和は決して摩擦のないものではない。ふたりを突き動かす力は、同時に互いを試し合う力でもある。ただし、ここでいう”競争”は、決してネガティブなものではない。「競争があるかって? うん、もちろんあるよ。スタジオでさ、あいつが一発で完璧なテイクをキメると、マジでムカつくんだよ(笑)。でもそれは、自分も同じレベルまで持っていかなきゃって思わされるから。だってパキートに火がついたときは、もう誰にも止められないからさ」。そんなライバル関係が、ふたりの火を絶やさない。そして、どちらかがくじけそうなときは、もう片方が自然と支えてくれる。「兄弟ってこういうのが一番健全なんじゃないかな。殺したくなるときもあるけど(笑)、でもちゃんと愛し合ってるんだ」

生き抜くために、創り続けるために、互いを必要とする。爆発的で、カオティックで、そして輝きに満ちたデュオだ。

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

レイヴパーティーのようなデビューアルバム

この会話が行われたのは、ふたりのデビューアルバム『BAÑO MARÍA』のリリースからちょうど1周年を迎える数日前のことだった。とはいえ、それが「たったの1年前」だとはなかなか信じがたい。というのも、アルバムがリリースされてからというもの、Tiny Desk出演、コーチェラでのステージ、米トーク番組『The Tonight Show』への登場など、信じられないほどの出来事が矢継ぎ早に起こってきたからだ。周年の話を振られたふたりは、感慨深そうに振り返る。

「マジでクレイジーだよな。まだ1年しか経ってないんだぜ」とパコは言う。「まあ、今の時代って時間がものすごいスピードで過ぎてくよね。みんな音楽を聴いて、すぐに捨てて、もう次を欲しがってる。だから、こっちも新しいルールに適応してかなきゃいけない」。「ほんと信じられないよ」とカトリエルが続ける。「『BAÑO MARÍA』みたいなプロジェクトって、子どもみたいにどんどん成長してくんだよな」

『BAÑO MARÍA』収録、カトパコ最大のライブアンセム「EL ÚNICO」

カトパコ屈指の人気曲「DUMBAI」。最新作『BAÑO MARÍA』を引っさげ、故郷ブエノスアイレスでの公演で15,000人を動員。国民的アイコンの座を確立した

『BAÑO MARÍA』の制作は、ふたりのキャリアにとって大きな転機だった。1年半ほど一緒に音楽を作ってきたのち、ようやくふたりが共有してきた宇宙に、正式なかたちを与える時が来たのだ。「だいたい1年半くらい、カトリエルと一緒にいろんな曲を作ってたんだよね」とパコは語る。「それでレーベルと契約して、”アルバムを出したい”って言われて、”OK、やろうぜ”って感じだった」。ただし、彼らは勢いに任せて制作したわけではない。明確な方向性、事前に設定された感情の核、そしてスタジオ入りする前からコンセプトを持って臨んだのだ。「面白かったのはさ、過去の曲を引きずってると、どうしてもその”荷物”を背負い込むことになるじゃん。何度も聴いてるしね。でも最初からコンセプトを決めておくと、そのぶん新しい感覚で入れる。『BAÑO MARÍA』では、まさにそれをやったんだよ」

『BAÑO MARÍA』のリリースをめぐって最も話題を呼んだ出来事のひとつが、アルゼンチン・ロラパルーザでの異例のパフォーマンスだった。カトリエルとパコは従来のようなライブを行うのではなく、ステージ全体をリスニングパーティーへと変貌させた。アルバムの音源が流れる中、ふたりはステージ上に設置されたジャグジーに入り、周囲では友人たちが踊り、祝福し合っていた。それはもはやコンサートというよりも、アルバムの世界観を体現した奇抜で遊び心に満ちたパフォーマンスであり、彼らがまるで観客の目の前でプライベートパーティーを楽しんでいるかのような光景だった。
@lasubimos
このアルバムは、ノスタルジー、パーティー、そして人生の転機が混ざり合って生まれた作品だ。「ここ数年、ふたりともイカれた日々を過ごしてたんだよ。パーティーばっかで、レイヴもすごくてさ。で、”その時期の自分たちってこんな感じだったよな”って感覚を、もう一度味わいたくて」とパコは振り返る。ふたりには、変化の訪れが見えていた。待ち受けている多くの責任、もはや以前のような奔放な日常には戻れない。だが、彼らはその変化に抗うのではなく、むしろそれをアートへと昇華させた。「『BAÑO MARÍA』では、最初からひとつのコンセプトを決めて、そこに向けて曲を作っていったんだ。あの頃の”ハチャメチャな楽しさ”みたいな感覚を、楽曲を通して再現しようとしたんだよね」

さらに言えば、そのコントラストは避けられないものだった。過去のカオスについて書いていたその頃、彼らは”妙に安定した”時期を生きていたのだ。「『BAÑO MARÍA』を録ってた頃って、ふたりともめっちゃ恋人とラブラブだったんだよね。”結婚してる”って冗談で言ってたくらい。だから、もう過ぎ去った過去を題材にするっていうのがちょっとおかしくてさ。『俺たちふたりとも結婚状態なのに、昔の狂った日々について歌ってる』って、そのギャップを笑いながらやってたんだよ」。その結果生まれたのが、「かつてのエネルギー」と「今の皮肉」が同時に詰まったアルバムだった。

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

Tiny Deskでの世界的ブレイク

そして、『BAÑO MARÍA』のプロモーションの一環として行われたのが、例のTiny Deskでのパフォーマンス。米NPRによるこのシリーズは、今の音楽シーンで何が起きているかを象徴するショーケースのような存在になっており、彼らもそこに登場した。アルゼンチン出身のふたりは、楽器に囲まれ、実力派ミュージシャンたちとともに、生演奏形式でアルバムの楽曲を披露。その結果は、予想をはるかに超えるものとなった。本記事の掲載時点で、動画の再生回数は3700万回を超えている。多くの人々がこのパフォーマンスをきっかけに彼らの存在を知り、映像の中で見たスパークをもっと感じたくて、彼らの音楽を聴き始めたのだ。そのスパークとは、彼らの型破りな自由さ──歌詞の中に、衣装の中に、どこか力の抜けた立ち振る舞いの中に、確かに垣間見えるものだった。

「Tiny Deskは、僕たちがずっとやってきたことを世界に見せるための”窓”だったよ」とカトリエルは語る。「本当に素晴らしい体験だったし、むしろやりやすかったんだよね。というのも、僕たちは(昔のバンド時代から)もっとポップかつ伝統的な形で音楽を見せるスタイルをやってきてたから。僕らが知ってる”楽器を使ってできること”を、ああやって現場で遊ぶようにやることで、毎回同じにはならないっていうのがポイント。考え方にジャズ的なものがあるんだよね──演奏そのものというより、発想の部分で。メンバーたちもジャズを演奏するけど、すごく落ち着いてるタイプでさ……あれ、なんだっけ? 何聞かれてたか忘れたけど、たぶんいい感じだったと思う(笑)」

最新作『PAPOTA』と現実のスケッチ

注目を集めるようになると、同時にプレッシャーもやってくる。だがふたりは、そうした重圧──インポスター症候群、不安、圧倒される感覚──に押しつぶされるのではなく、それらをまるごと音楽に昇華させた。そうして生まれたのが最新EP『PAPOTA』だ。この作品は、音楽的な卓越性、ユーモア、そして現代の音楽業界の基準や構造に対する鋭い批評的まなざしという、彼らの本質的なバランスを的確に表現したものとなっている。

『PAPOTA』は、このデュオの転換点というべきEPであり、急激な成功に伴う緊張や矛盾を、直接的かつ皮肉たっぷりに描いている。このEPにはショートフィルムも付随している。「『PAPOTA』では、Tiny Deskやその後に起こったいろんなことと向き合うことについて歌ってる」と、パコはこのプロジェクトが最大の注目を浴びた時期について語る。カトリエルにとって、このEPは失望から生まれたものではなく、システムに対する鋭い観察に基づくものだという。「『PAPOTA』は”がっかりした話”じゃない。これは、泡のように急上昇していく新人アーティストが直面する”現実のスケッチ”なんだ。業界から投げかけられる甘い約束、そこに登場する人たち……そういう現実を描いてる」

『PAPOTA』は4つの新曲とTiny Deskのパフォーマンス音源を収録。7月16日リリースの日本盤(世界初CD化)には、前掲の「DUMBAI」をボーナストラックとして追加収録

『PAPOTA』ショートフィルム

ふたりは『PAPOTA』のなかで、ベテラン音楽業界人の典型的な姿をアイロニカルに描写し、キャラクター「ジンバランド(Gymbaland)」として登場させている。「ああいう業界のおじさん、いるでしょ。経験豊富そうな顔をして夢を売りつけてくる。名刺を渡して、『君たち、賞を取れるよ』なんて空中に言葉を投げてくる。そういうの、全部実際にあったことなんだよ。もちろんこれは風刺だし、俺たちなりのユーモアを乗せてるけど、起きたことはリアルだよ」

短編映像に登場するキャラクターは、音楽業界の偽りでプラスチックのような側面を象徴する存在として、あえて不快に描かれている。だがミュージシャンのふたりは、自分たちのキャリアの中で「ジンバランド」的な人物に何度も出会ってきたと語る。「ジンバランドって、どこにでもいるよ。俺たちもいろんな場面で出会ってきた。あのキャラは、誰もが一度は経験したことのあるタイプをうまく体現してると思う」とパコ。「てか、今まで何人見てきた? 何百万ってくらいでしょ」と相方が続ける。

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

パコはこのキャラクターのコンセプトをユーモアを交えてこうまとめる。「ちょっと誇張はしてるよ。アルゼンチンでは”IVA(付加価値税)をかける”って言うんだけど、面白くするためには盛る必要があるからね。”元気です”とか”調子いいです”って言うだけじゃ何も起きない。ちょっとはドラマがなきゃ、少なくとも曲の中ではさ」。そして、世間の期待に応えなきゃというプレッシャーこそが、創作の出発点になったと明かす。「正直言って、”もしみんなが俺たちにすごい期待してて、実はこいつら詐欺師なんじゃないか、全然ダメじゃん”ってバレたらどうしようって思ったこともあった。でも、過剰な期待に押しつぶされそうになる状況そのものがもう笑えるっていうかさ。それがテーマになったんだよね」

〈じゃあ、これからどうする?/ウソをつかなきゃ/俺はただのインポスター症候群/ちょっとだけな/みんなが盛り上がってる/おばあちゃんがTikTokやってる/で、これからどうすんの?/Tiny Deskにやられた/俺、歌えもしないし/ラップもできないのに〉──これは「IMPOSTOR」の歌詞の一節。一方、「#TETAS」ではこんなふうに歌われている。〈何者かになりたいなら、自分じゃダメだ/自分じゃない誰かにならなきゃ/自分でいようとするなら、誰にもなれない。ただの”自分”で終わるんだ〉

「IMPOSTOR」「#TETAS」のMV、後者の冒頭に映し出されるのがジンバランド

アルゼンチンで「papota」という言葉は、俗語で「プロテイン」や「栄養補助食品」を意味する。短編映像の中で、ジンバランドはふたりに「成功したければ筋肉をつけろ」と告げる。そして、「#TETAS」ではこう歌われる。〈デカい胸筋、それが秘訣さ〉

「#TETAS」では、ふたりの鋭いユーモアと風刺が最も狂気的なピークに達している。この曲は、「めっちゃぶっ飛んだ、英語の単語とか使った超クレイジーなことをやろう」という衝動から生まれたと、パコは語っている。だが、そのナンセンスな表現の裏側には、新進アーティストとして外部から課せられるプレッシャーに対するさりげない批判が込められている。「インポスターっぽい感覚があるんだよ。”英語で喋れ”とか、”ジムに行け”とか、いろいろ言ってくるの。『なあ、マジで英語覚えとけよ。もうすぐ賞を狙うんだから、アメリカでツアーもやるし、お前らふたりとも読み書きできないんだろ? ちゃんとやってくれ』みたいなさ」

そんな皮肉たっぷりの構成のなかで、この曲は成功に伴うプレッシャーを映し出す”歪んだ鏡”のような存在になっている。「そういう笑いのセンスが、自分の中には常にあるんだよね。今起きてることから出てくるアイデアがいつも頭の中で回ってて、それをどんどん重ねて、曲の中に落とし込むようにしてるんだ」。とはいえ、それは決して政治的なマニフェストなんかではない。パコはそれを率直かつ謙虚にこう表現する。「別に、そこまで深い批判でもないんだよ。ちょっと『ズーランダー』っぽいっていうか。僕らがただのアホで、世の中とか業界とか、そういうのを理解しようとしてるってだけ。そんなに深くはないんだ(笑)」

バンドメンバーへの信頼、音楽の未来に思うこと

『PAPOTA』では、Tiny Deskで高く評価された生演奏主体のアプローチをさらに深めており、より有機的な美学へと近づいている。ステージ上には実際のミュージシャンが立ち、アレンジも従来のデジタルプロダクションから大きく離れたものになっている。「というか、これは僕たちがずっとやってきたことなんだ」とカトリエルは語り、こうしたスタイルが新たな試みではなく、自分たちの音楽性の本質的な一部であることを強調する。彼にとって、”楽器による表現の再評価”は単なる美学的選択を超えており、音楽の未来に影響を与える可能性をもっている。「今の子どもたちがギターを弾きたいって思ってくれたらいいな。だって、ロボットの脅威が迫ってるからさ」。そして彼は、AIを恐れてはいないとしながらも、これからの時代において何が真に際立つかについてははっきりと語る。「結局、指と魂をつなげられる人がいちばん輝くんだよ」

仲間たちと一緒に演奏し、ステージの上でも下でも楽しむこと──たとえフルバンドでのライブを組むのが常に採算に合うわけではなくても、ふたりはそれこそがカトリエル&パコ・アモロソの「核」であり、譲れない部分だと考えている。「うん、このプロジェクトの本質だよ。たとえ儲からなくてもね(笑)。しばらくぶりにまたやり始めたけど、正直言うとAstorのときと同じなんだ。あの頃も、ライブで稼げる金なんてなかったし。今も同じだよ」とパコは語り、過去に直面していた経済的な厳しさと重ね合わせる。とはいえ、ふたりにとってその選択は迷う余地のないものだった。「一人で突っ立ってトラックを流すほうがずっと簡単だよ。でも、僕たちの魅力ってそこじゃないんだ。ちゃんと生で演奏してくれるバンドがいて、しかも全員が昔から知ってる仲間たちでさ。だから演奏の間に特別なシナジーが生まれるんだよ。それが、このプロジェクトの大事な部分なんだ」

「あいつら何食ってんのか知ってる? ベッドなんて使わないし、冷蔵庫は勝手に開けるし、トイレも詰まらせるし、何もかもめちゃくちゃ(笑)」と、カトリエルは冗談混じりに語る。「でもね、そういうのが魂の栄養になるんだよ。僕たちは何のために働いてるかって? 腹を満たすため、そして魂を満たすためさ」。「ありがたいことに、僕は世界中を回って、友達とゲラゲラ笑いながら生きてる」。とはいえ、その裏には覚悟と犠牲もある。「ほんとはさ、もうちょっと家でお母さんや恋人、家族と一緒に過ごしたいよ。でもまあ、それは叶わない。今の僕は、超高速で進む船の上に乗ってるんだ。あの頃のどん底にはもういない。また戻ってこれるまでには、きっと時間がかかると思う」

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー


「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

コーチェラのライブ写真(Photo by Rafael Avcioglu)

カトリエル&パコ・アモロソは、Rolling Stoneスペイン語版の「Future of Music」特集で表紙を飾った。「かなり嬉しいよね」音楽の未来を形作るアーティストのひとりと見なされることについて、パコは語る。「ヨーロッパでのライブでも、ブエノスアイレスと同じくらいの観客が来てくれてるんだ。正直、ちょっと信じられないよ。でもだからこそ、これを一発の思い出で終わらせないようにしたい。できる限りこの状況を長く続けられるように本気で取り組んでるし、これを自分たちの”新しい現実”にしたいんだ。つまり、常にツアーをして、ずっとライブをしてる──それが僕らのいちばん好きなことだから」

音楽の未来、そして自分たち自身のこれからについて何にワクワクしているかと尋ねられると、ふたりは揃って「日本に行くこと」と声を弾ませた。しかしカトリエルの答えは、いつも通りの”らしい”脱線を見せる。

「正直、未来のことはあんまり考えないんだよね。僕はもっとその先を考えてる。民俗音楽っていうのは、ちゃんと残していけば世界中に残るし、心から生まれた音楽はこれからも長く生き残っていくものだ。少しずつ僕たちはロボットになっていくけど、ちゃんと本物の歌を歌える人、本物の楽器を演奏できる人が輝くようになる。それについては何の心配もしてないよ。次の世代が何を見るのか? 太陽はきっとまだ輝いているはずだ。僕が考えてるのはそのもっと先。音楽の未来なんて、マジでどうでもいい。僕が本当に知りたいのは、石油がなくなったときにどうなるかってこと。音楽? たぶん、超ハイパー・スーパーポップになるんじゃない? ネットっぽい音楽。コンセントを挿したら鳴るようなピコピコ音。そんな感じさ。世の中って全部すぐに変わっちゃうから、想像もできないけど……でもクラシックはいつだって戻ってくるんだよね」

テクノロジーのディストピア、永遠の太陽、人工的なメロディのなかで、彼の言葉が伝えるメッセージはひとつ──たとえ世界が再編されようとも、本物の表現だけが灯りであり続ける。カトリエルとパコは型破りであることを恐れず、次世代の音楽像を更新し続けている。

 *

カトパコ、日本独自の最新インタビューが実現!
6月25日発売の雑誌「Rolling Stone Japan vol.31(2025年8月号)」フジロック/サマーソニック特集に掲載
「何度でも言うけど、日本は世界中で一番行きたかった場所だから」
▶︎詳細はこちら

▶︎【関連記事】フジロック大本命「カトパコ」どこが革新的? 世界的熱狂の理由を15000人ライブから考察

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

Photo by Sofía Malamute

From Rolling Stone en Español

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

カトリエル&パコ・アモロソ
世界初CD化作品『PAPOTA|パポタ』
2025年7月16日リリース予定
対訳/ライナー/ボーナス・トラック付き(代表曲「ドゥンバイ」)
初回仕様限定:オリジナル・ステッカー封入
予約・購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/Papota_JPRS

「カトパコ」Ca7riel & Paco Amoroso、激動の音楽人生を振り返るロングインタビュー

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※カトリエル&パコ・アモロソは7月26日(土)出演
公式サイト:https://fujirockfestival.com
編集部おすすめ