新曲のテーマはカリンバとブレイクビーツ
―EGO-WRAPPINとしての新曲は2021年にリリースした7インチに収録の「The Hunter」以来、約4年ぶりとなります。
森:本格的に次の制作へと向き合い始めたのは去年からなんですけど、まずはその年の夏の日比谷野外音楽堂ライブ「Dance,Dance,Dance」で披露することを目標にしました。あの野音の太陽が落ちて暗くなり始める時間に映える、ダンス・チューンがほしいと思って作ったのが、今回の2曲です。あともう一つとっかかりがあって、僕がカリンバという楽器を買ったので、それを弾きながら生まれたフレーズを膨らます形でどちらも作っていきました。だからテーマはカリンバとブレイクビーツ。
―なぜカリンバを買おうと思ったんですか?
森:そうですよね(笑)。いつも使っているTakagi's Homeという練習スタジオ兼楽器屋さんにあったカリンバを、いつも休憩時間にポンポンと鳴らして遊んでいたんです。ええ音やなぁと常々気になっていて。今のカリンバってマイクがついてたり、ライン接続が出来るものもあったり、レコーディングとかにも使えそうやなと思っていたので、去年の誕生日に思い切って自分へのご褒美として買いました。
―カリンバやブレイクビーツがテーマということで、具体的にリファレンスとした音楽はありますか?
森:いかんせん他の何かを意識してしまうと、ずばりそのものになってしまうタイプなので、何も参考にはしないようにしました。
―ではどんなプロセスで作っていきましたか?
森:カリンバで自分がしっくりするフレーズのパターンをまず決めて、そこにベースやリズムを重ねていく形です。特に「AQUA ROBE」に関してはワンコードなんですよね。その中でどこまで展開していくことが出来るかやってみたかったんです。今まで30年近くやってきて、色んな制作やレコーディングを経験しましたけど、基本的にはパートごとに物語や起伏があり、それがうまくつながって着地させるという考え方でやってきました。でももっとビートとBPMを軸にして、理屈抜きに体が動いたり、ずっと聴いていたくなるようなダンス曲ってどう作ればいいんだろうって。新たな作り方にトライしてみました。
『Treasures High / AQUA ROBE』『Sunny Side Steady』ティーザー映像
―2曲とも構成としてはすごくシンプルなんですけど、ただ繰り返しているようには聴こえなくて。ベースラインが先導して、後半になるにつれどんどん高揚感が増してくるのが痛快でした。
森:おっしゃる通り、ベースの聴き心地によってすごく変わってくるんですよね。それぞれのパートの一番気持ちいいところでベースが入ってくるように、色々試しました。今回の2曲で一番こだわった部分だったので、そこを言っていただけるのはめっちゃ嬉しいです。
―特に「Treasures High」の最後に、シックの「Good Times」のベースフレーズが登場するところは思わずニヤリとしました。
森:僕としてはそれをサンプリングしたシュガーヒル・ギャング「Rapper's Delight」から、さらに借りてきたという洒落ですね。せっかくのダンス曲なのでレジェンド・ベースラインのオマージュを入れてみました。このフレーズが変わるだけで同じパートでもグルーヴの捉え方がすごく変わるので、やっぱりダンスミュージックって奥深い。
―中納さんはこの2曲の歌詞はどんなイメージで書きましたか?
中納:2曲とも同じグルーヴでずっと進んでいくダンス曲だったんですけど、歌詞は日常に即した方がええなと思って、「AQUA ROBE」はお風呂ソングにしました。サウナは今ちょっと流行りすぎているから取り入れるか迷ったんですけど、ブームになるずっと前から好きやし、自分にとっての幸せな時間はやっぱりお風呂に入っている時やからええかなと。
―「Treasures High」は歌い出しの〈あくびしたら ちょっとだけ涙が出たんだ 寂しいんじゃない 間違えてもいいから とにかくやろう〉のポジティブさにグッと来てしまいました。久しぶりの新曲とあって、コロナ禍を経て来年の30周年イヤーに向けた新章突入宣言にもとれるような。
中納:前向きな歌詞になりましたね。これを書いている時、やっぱり私はずっとワクワクドキドキしていたいなって思っていたんです。何かを始める時ってちょっと怖いけど、一歩踏み出して次の場所にいこうよって気持ちはありました。
―この12インチに加えて、7インチシングル「Sunny Side Steady」も同時にリリースされます。
森:「サニーサイドメロディー」ってライブの最後やアンコールでやることも多くて、すごくファンの方に愛してもらっている曲なんです。あと2022年と2023年に、僕が拠点にしている浅草で毎年夏にやっている「千束通り納涼大会」に出させていただくことがあって。せっかくなので普段とは少し違った形をということで「EGO-WRAPPINカリビアンセット」と名乗って、ロックステディやカリプソにリアレンジした曲でライブをしました。このアレンジ自体はその時にやったものですね。その時もまた他のライブ会場でやっても、しっかり手ごたえが得られたし、レゲエ・レコード好きのファンや、スタッフからのリクエストもあったので、このタイミングでようやく出せた次第です。
―SIDE Bには「Sunny Side Dub」としてダブミックスが収録されていますね。レゲエやダブ方面で大活躍のプロデューサーPrince Fattyを起用しています。
森:レコードを色々掘っていたコロナ禍の時期に彼の音源を見つけたんですが、すごく音が気に入ったのと、現在進行形で活動されている人で驚きました。またスチャダラパーのSHINCOさんから知り合い経由で繋がれるということで、今回お願いすることができたんです。ダブに正解ってあんまりないと思っているんですけど、すごくポップなダブワイズに仕上げていただいて嬉しいですね。
―この2タイトルでのダンス路線は、今後も続く予定なのでしょうか?
森:いや、これはあくまで今年の夏に向けたものです。
フジロックを振り返る、忌野清志郎との想い出
―また今年は2019年以来となるフジロックの出演も決定しています。今年で10回目の出演となりますが、初出演された2001年当時の記憶はありますか? 当時は2ndアルバム『満ち汐のロマンス』リリース直後というタイミングでした。
中納:海外のアーティストをあれだけ呼べるフェスというのが当時他になかったし、砂煙がすごかったり、土砂降りでライブしていたみたいな伝説も聞いていたから、オファーをいただいた時は「やったー!」ってなった記憶があります。
―これまで出演された中で特に印象に残っているステージや出来事はありますか?
中納:2002年は二日目のFIELD OF HEAVENに出たんですけど、並びがすごかったんです。スカタライツがいて、日本からはDETERMINATIONS、Ska Flames、DRY&HEAVYがいる中に私らも入れてもらった。もうこの年はこの場所から動けない!って感じの、すごく光栄なラインナップでした。
森:僕はバックステージの思い出が結構あって。いつか日高正博さんが「EGO-WRAPPINはフジの全ステージに出ている貴重なアーティスト」って言ってくれたのは、嬉しかったですね。あとパティ・スミスに会えた時があって、写真撮ってもらったなぁ。
中納:私はビョークと宿泊先のエレベーターで一緒になったこともある。全身黄緑の衣装のまんまで入って来たからびっくりした。
森:二人で忌野清志郎さんに挨拶しに行ったこともあるよね。
中納:そうそう。「あ、エセジャズだ」って言われた(笑)。EGO-WRAPPINを知ってくれていたことが嬉しかったです。
2020年9月「Dance, Dance, Dance」のライブ映像(全6曲)
―フジロックのステージに立つ時って、どんな心構えで臨んでいますか?
森:1曲1曲をちゃんと演出してお届けするワンマンライブとは少し違って、フジロックはその場にいるお客さんと共存するみたいな感覚があります。いつもより解放された演奏になるのを楽しんでいますね。
中納:いつも「よし! やったろか」ってなりますね。私はフェスって、いい意味で最高のプロモーションの場だと思っているんです。まだEGO-WRAPPINを知らない人にも、偶発的に観てもらえる。特にフジロックは幅広い音楽を求めている人が多い印象やし、やらしい言い方ですが、なんとかして引っかけたいなって思っています。
―今年出演されるのはFIELD OF HEAVENですが、このステージの印象はいかがでしょうか?
森:何度もやらせていただいている場所ですが、観たいアーティストをしっかりめがけて回るというより、FIELD OF HEAVENという場所を楽しみにしているお客さんが多いイメージ。だから適度なゆるさがあって、やりやすいから大好きです。
―今年はどんなパフォーマンスになりそうですか?
中納:出演するのは夜の時間なので、やっぱりアッパーなものとムーディーな曲を取り入れながら……。
森:まるでFIELD OF HEAVENにオーロラや光のカーテンが広がるような幻想的な音空間を……。
中納:作りたいね(笑)。お客さんもお酒を飲んだり、くたくたやったり、だいぶ仕上がっている時間だと思うので、この日の最後にもう一つ欲しがりに来てほしいです。
EGO-WRAPPIN
アナログ2タイトル同時リリース
発売中/各種ストリーミングサービスで配信中
購入:https://ego-wrappin.lnk.to/treasureshigh_sunnysidesteady

■LP
SUN SIDE 「Treasures High」
MOON SIDE 「AQUA ROBE」
12inch(45rpm) TFJC-38137 2,750円(税込)
配信:https://TF.lnk.to/treasureshigh_aquarobe

■EP
SIDE A 「Sunny Side Steady」
SIDE B 「Sunny Side Dub -Prince Fatty Dubwise-」
7inch(33rpm) TFKC-38138 2,200円(税込)
配信:https://TF.lnk.to/sunnysidesteady

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※EGO-WRAPPINは7月26日(土)出演
https://fujirockfestival.com
『EGO-WRAPPIN' ”Dance, Dance, Dance”』
2025年7月12日(土)日比谷公園大音楽堂
OPEN 17:00/START 18:00
2025年8月2日(土)大阪城音楽堂
OPEN 16:30/START 17:30