オジー・オズボーン最後のライブパフォーマンスとなるイベント『Back to the Beginning』が、現地時間7月5日、英バーミンガムのヴィラ・パークで開催された。会場にはメタル/ロックの王者たちが集結。
現地レポートをお届けする。

メタル版W杯決勝のような熱狂

「狂乱の始まりだ!」悪戯っぽく叫んだのは、コウモリと髑髏で飾られた玉座に腰掛けた”闇の王子”オジー・オズボーン。イングランド・バーミンガムのヴィラ・パークは満員御礼。そのステージに、ついにオジーが姿を現した。7月5日に開催された『Back to the Beginning』では、オジーとブラック・サバスの功績を称え、伝説的なメタルバンドたちが次々に登場し、丸一日をかけてトリビュートを捧げた。

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だが、その熱気はこの日だけのものではない。バーミンガムでは何週間にもわたって”サバスの夏”が続いていた。ヘヴィメタルの聖地として名高いこの街は、偉大なる息子たちの凱旋を祝して、文字どおり紫のカーペットを敷き詰めた。パブには紫の風船と旗が飾られ、あちこちの壁には壁画が描かれ、人々はオジーに扮して街を練り歩き、年季の入ったTシャツとデニムジャケット姿で通りは溢れかえった。まるでメタル版ワールドカップ決勝のような熱狂だ。世界中からファンがこの地に集結した。

そのカーニバルのような空気は、ニュー・ストリート駅を出た瞬間から始まっていた。
駅近くの〈ブラック・サバス・ブリッジ〉の壁画の前には人だかりができ、オジーとメンバーはその数日前にそこへサインを残していた。ロンドンから訪れたというファンに出会った。彼は、開場前に”サバス巡礼”をしているのだと言う。「今は、ブラック・サバスが初めてライブをやったThe Crownとか、いろんな展示会、Ozzy the Bull(※ニュー・ストリート駅に常設展示されている雄牛の巨大像、オジーにちなんで命名)とか、そういうスポットを回ってるんだ」

もちろん、これらはすべて、かつてバンドの4人のメンバーが暮らしていた労働者階級の郊外に位置する歴史あるフットボール場、ヴィラ・パークへ足を運ぶ前の話だ。

その会場に到着すると、まず我々を迎えたのは、唸るようなディストーションの轟音と、信徒たちを見守るかのようにそびえ立つ巨大なインフレータブル(※バルーン型立体造形物)のオジーだった。

スタジアムへと足を踏み入れると、ペンシルベニアからやって来たというファン、コーディ・ホールさんが興奮のあまり半ば陶酔状態にあった。「これはブラック・サバスにとって最後の”サバス”なんだ」とホールは語る。「これまで一度も観たことがなくて、2017年のツアーの後、自分に言い聞かせたんだ。今度こそ絶対行く。何があっても行くって。ここに来なきゃならなかったんだよ」

レジェンドが次々に登場、さらにサプライズも

この日ステージに登場したヘヴィメタル界の王者たちもまた、同じような畏敬の念に打たれていたようだった。それもそのはず、ブラック・サバスは彼らすべての原点であり、音楽的DNAに深く刻まれた存在だからだ。
オープニングを飾ったマストドンから、スラッシュメタルの雄アンスラックス、ラム・オブ・ゴッドに至るまで、その影響は計り知れない。

なかでもラム・オブ・ゴッドが序盤に披露した「Children of the Grave」のカバーは、早くも会場を熱狂させるハイライトとなった。ピッチ上には自然発生的に巨大なサークルピットが生まれ、観客たちは渦のように暴れ回った。

そんな興奮の瞬間が、一日中ひっきりなしに詰め込まれていた。チケット完売の壮大な祭典に運よく足を運べた者たちにとって、最大の課題は、この体験すべてを心に刻み、記憶に封じ込めることだった。

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『Back to the Beginning』参加メンバーの集合写真

当初発表されたラインナップの時点で豪華絢爛だったが、まだまだサプライズの余地はあった。ヤングブラッドが登場し、この日最初のスーパーバンド編成に加わって、ブラック・サバス屈指のバラード「Changes」のカバーを披露したのだ。唾を飛ばし、怒りと激情をまとってステージに躍り出た彼は、同曲を交通事故で亡くなったリヴァプールのストライカー、故ディオゴ・ジョタに捧げた。

「この次の曲を、僕たちみんなの思いを込めてディオゴ・ジョタに捧げます。ブラック・サバスに神の祝福を。そしてオジー・オズボーンにも」──そう語った後の熱演は、会場の動きを一瞬止めるほどの感動をもたらした。

その深い感情の余韻のなかでも、笑いや高揚を呼ぶ”お祭り騒ぎ”の側面も忘れてはいけない。
ブリンク182のトラヴィス・バーカー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス、Toolのダニー・ケアリーなどドラム界の猛者たちが、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロをフロントに、豪快なドラムバトルを繰り広げたのだ。

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さらに、ビリー・コーガン(スマッシング・パンプキンズ)とジューダス・プリーストのギタリスト、K.K.ダウニングが登場。ジューダスの代表曲「Breaking the Law」をぶちかまし、場内の熱狂は最高潮に達した。

この空前のロック絵巻はさらに続き、アリス・イン・チェインズ、ゴジラ、パンテラ、Toolといったレジェンドたちが次々に登場。それぞれ30分という限られた持ち時間の中で、圧倒的な存在感を放ち、観客を完全に引き込んでいった。

スレイヤー、ガンズ、メタリカが登場

そして夕陽が雲の向こうへと沈みかけた頃、ステージに姿を現したのはスレイヤー。彼らが放つ衝撃波は、この日最大のモッシュピットを巻き起こした。「Reign in Blood」や「Angel of Death」といったジャンルを定義づけた名曲たちが炸裂するなか、その渦に飛び込むことは、まるで死と隣り合わせの儀式のようでもあった。

ガンズ・アンド・ローゼズが登場すると、いよいよ終盤戦。メタリカ、オジー、そしてブラック・サバスへと向かう流れが本格的に始まった。

わずか1週間前にもこのヴィラ・パークのステージでヘッドライナーを務めたばかりの彼らは、その余裕と高揚を全身で体現していた。まずは「Sabbath Bloody Sabbath」のカバーでサバスへのリスペクトを示し、続いて鳴り響いたのは、あの象徴的なギターイントロ──「Welcome to the Jungle」である。
ロックの巨人たちは、この祝祭を心から楽しんでいた。

この日、ブラック・サバスへの最も深い敬意を表したひとりが、メタリカのジェイムズ・ヘットフィールドだった。ステージ上から数え切れないほどの観客を見渡しながら、彼は静かに、しかし力強く語りかけた。「もしブラック・サバスがいなければ、メタリカは存在していなかった。人生に意味を与えてくれてありがとう」

その言葉の余韻も冷めやらぬうちに、メタリカはバンドのキャリアを総括するような代表曲の数々を次々と解き放ち、場内の熱狂をさらに押し上げていった。

オジーの「幕引き」──圧倒的な哀愁と感動

過去の栄光を振り返るストロボのようなモンタージュ映像が流れた後、ついにオジー・オズボーンがステージへと姿を現した。その登場はまさに真っ向勝負。

「このクソ素晴らしいステージに立てて最高だよ、お前らには分からないだろうけどな!」
そう叫んだオジーは、観客に問いかけた。「今日はいい一日だったか?」

その声に応えるように、不穏なオルガンのイントロが鳴り響き、「Mr. Crowley」が始まった。バラード「Mama Im Coming Home」を歌いながら、オジーは明らかに感情を抑えきれず震えていた。この場所に──すべてが始まった場所に──50年以上の時を経て戻ってきたという事実が、その瞬間に圧倒的な重みを与えていた。

「Crazy Train」の熱狂的なパフォーマンスを終えたオジーはいったん退場。
そして再登場すると、ブラック・サバスのメンバーたちとともに短縮版のスペシャル・セットに臨んだ。雨が降りしきるなか、鐘の音が鳴り響き、「War Pigs」のイントロが空気を切り裂く。拳に「OZZY」のタトゥーが刻まれた手でマイクスタンドを握りしめながら、オジーが歌い出す。〈将軍どもが群れをなして集まり…(Generals gathered in their masses…)〉──今もなお世界に突き刺さる、このオープニングラインが、劇場のような荘厳さのなかで鳴り響いた。

椅子に腰かけたままではあったが、オジーはまるで全身の残された悪魔的エネルギーをすべて振り絞るかのように、体をくねらせ、のたうち、叫んだ。ラストを飾ったのは「Iron Man」と「Paranoid」。「イカれちまえ、これが最後の曲だ!」──そう叫んで始まった「Paranoid」に、観客たちは歓喜と狂乱で応えた。

これまでにも何度となく”終焉”や”引退”が語られてきたオジーだが、今夜に限っては、そのすべてとは一線を画す、どうしようもなく”終わり”の気配が漂っていた。それが、夜を覆うような圧倒的な哀愁と感動をもたらしていた。

しばしば悲劇なのは、こうした伝説的存在が、これほどの祝福を受ける前にこの世を去ってしまうことだ。しかし、奇跡か、あるいは神の意志か──オジー・オズボーンは、ついに自らのトライブ(一族)と共に、最後の一礼を捧げることができたのだ。

From Rolling Stone US.

Ozzy Osbourne Set List
”I Dont Know”
”Mr. Crowley”
”Suicide Solution”
”Mama, Im Coming Home”
”Crazy Train”

Black Sabbath Set List
”War Pigs”
”N.I.B.”
”Iron Man”
”Paranoid”

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