3rdアルバム『Raspberry Moon』をリリースした米NY発のHotline TNT(ホットライン・ティー・エヌ・ティー)に、メールインタビューで話を聞いた。2025年2月末から3月上旬の初来日ツアーは即完売。
シューゲイズとパワーポップが共存する親密なサウンドは、いまや国境を越えてリスナーを惹きつけている。最新作では”過去との対話”と”希望の兆し”がノイズの波間に鮮やかに刻まれた。DIY精神と柔軟な音楽性を併せ持つフロントマン、ウィル・アンダーソンが、自身の制作観、日本での体験、そして今後の展望について語ってくれた。

ー新作『Raspberry Moon』でも、ノイジーなサウンドとメロディアスな要素のバランスが印象的でした。ご自身では、このバランスをどのように意識して制作されていますか?

限界まで攻めることは、いつも大事にしています。頭に残るキャッチーな曲を作りたいけど、同時にできる限りラウドでアグレッシブでもありたい。個人的には、アコースティックギターみたいなシンプルな形でもしっかり響く曲を書くのが一番いいと思ってて、そこが整ったら、あとはアンプの音量を”11”まで上げて鼓膜を突き破るようなサウンドにしていくんです。

ーよく「現代版のシューゲイザー」と評されることがありますが、ご自身の中でその表現はしっくりきていますか? それとも、もう少し違う捉え方をされていますか?

自分たちが”現代のシューゲイザー・バンド”って言われるのは、確かに当たってると思います。ただ、同じジャンルにくくられるバンドとはかなり違うサウンドだとも感じてます。昔のシューゲイザー・バンドもみんなが同じような音だったわけじゃないし、今のシューゲイザー・バンドもみんな違ってて当然だと思います。

ー本作には、過去の記憶や自己を振り返るような歌詞が多く見られます。ご自身の中で、今回の作品に込めたテーマや感情があれば教えてください。


歌詞のテーマはあらかじめ決めて書くことはあまりなくて、アルバム全体を振り返ってみて初めて見えてくるものがあるんです。今回は希望に満ちたエネルギーが多く込められている気がします。これまでの作品を知ってくれている人なら分かると思うけど、僕はこれまで何度も失恋してきました。でもようやく、今は健全な関係を築けていて、この人生の一時期を記録に残しておきたかったんです。

ー歌詞を書く際、個人的な体験や感情と、聴き手との距離感について意識されることはありますか?

特にはないですね。リスナーがどう受け取ってくれるかに関しては、どんな解釈でも心地よく受け入れられるようにしています。ジャケットやタイトルについても、同じように自由な解釈を尊重しています。すべてを細かく説明しなくても、聴いてくれる人に自由に感じてもらうのが楽しいんじゃないかなって。

ーHotline TNTは、もともと非常にDIY色の強いプロジェクトとしてスタートされました。現在はThird Man Recordsとタッグを組み、フルバンド体制での制作も増えていますが、創作における姿勢や方法に変化はありましたか?

プロジェクトが大きくなるにつれて、それに応じて自分もできる限りすべてを注ぎ込みたくなります。作品が好意的に受け取られているのは本当にうれしいし、だからこそリスナーへのリスペクトとして、自分の持てる力をすべて注ぐようにしています。

ー自主制作からレーベルとの協働に移ることで、守りたいと感じた部分、あるいは新たに得られた気づきなどがあれば教えてください。


もちろんあります。Third Manと契約したときは、「レーベルがこうしたほうがいい」と言うやり方に従いそうになったこともありました。でも、そのたびに思い出すようにしていたんです。そもそもレーベルが自分に声をかけてくれたのは、僕が自分のやり方を貫いていたからだって。だからこそ、自分の直感を信じるべきだと。

ー2025年初頭に初来日され、日本ツアーは全公演ソールドアウトと大きな話題を呼びました。日本のオーディエンスとのライブ体験はいかがでしたか?印象に残った瞬間があれば教えてください。

日本でライブができたことは、本当に夢のようでした。僕が育ったのはアメリカの中西部の小さな町で、ヨーロッパでのツアーよりも、日本で演奏するなんて遥かに非現実的な話に感じてたんです。だから、実現したこと自体が奇跡みたいでしたし、実際すごく素晴らしい経験になりました。ファンも最高で、演奏中はたくさん体を動かしてくれて、初めての日本なのにすごく歓迎されていると感じました。忘れられない瞬間がたくさんありましたが、誕生日に行われた東京公演は特に特別でした。
まさに電撃的な夜でした。

ーツアー中に訪れた場所や、印象に残った食べ物・体験などがあればぜひ教えてください。

奈良公園がすごく気に入って、ツアーの全員と行ったあと、恋人とふたりでもう一度行きました。食べ物だと、ローソンが本当に好きで、毎日おにぎりだけでも生きていけそうなくらいでした。あと、桜味のキットカットが人生で食べた中で一番美味しかったです。恋しいですね……。

ー日本の音楽シーンやアーティストで、興味を持っている存在がいれば教えてください。

日本のアンビエント・ミュージックのファンなんです。吉村弘の『Green』と『Nine Postcards』は、僕にとって完璧なアルバムですね。現代のアーティストには詳しくないんですけど、いつかそういった音楽を作る方々と出会って、コラボレーションしてみたいなと思っています。

ー今作のタイトル『Raspberry Moon』には、どのような意味やイメージを込めたのでしょうか?

個人的にも意味があるし、多くの音楽ファンにとってはすぐ思い当たるような別の音楽的な参照も含んでいます。何よりも「赤い月の下で、大切な人と過ごす夏の終わりの夜」みたいな象徴として感じてもらえたらいいですね。
ただ、それに限らず、どんな解釈でも自由に受け止めてくれたらうれしいです。

ー「Candle」のMVでは蝶が印象的に使われています。あのモチーフにはどのような象徴性や意図があるのでしょうか?

蝶は、恋をしたときのドキドキとか、始まったばかりのロマンスを象徴する存在としてよく知られています。この曲を書いたとき、まさにそういう気持ちだったので。

ー今後コラボレーションしてみたいアーティストやジャンルがあれば教えてください。

ML Buchとのコラボをしてみたいと思っています。彼女は現代のギター音楽の中で本当にインスピレーションを与えてくれる存在で、どんな形でも一緒にやれたら面白いんじゃないかなって。

ーアジアや日本のアーティストと制作するとしたら、どんなサウンドやアプローチを試してみたいと思いますか?

さっきも言ったように、日本の現代アンビエントには詳しくないけれど、まずはそこを探ってみて、どんな化学反応が生まれるか試してみたいですね。

ーコラボレーションにおいて、もっとも大切にしている要素は何ですか?

お互いのアイデアがしっかり表に出て、尊重される余地があることが一番大事です。

ー最近よく聴いている音楽、ハマっている作品などがあれば教えてください。

The Tubsの「Cotton Crown」。Combat Napsの「This Was The Face」。
あとはAlex G、They Are Gutting a Body of Water、Wednesday、Nourished by Timeの最近のシングル全部ですね。

ーもし音楽活動をしていなかったとしたら、どんなことをしていたと思いますか?

実は、K-12(幼稚園から高校まで)のスクールカウンセリングの修士課程をもう少しで終えるところだったんです。だから、きっとそっちの道に進んでいたと思います。

ー最後に、日本のリスナーにメッセージをお願いします。

またすぐに戻れるのが待ちきれないです。この前日本に行ったとき、本当にあたたかく迎えてくれてありがとうございました。

Hotline TNTが語る、轟音とポップの境界線で揺れる心「アンプの音量を【11】まで上げる」

『Raspberry Moon』
Hotline TNT
Third Man Records
配信中
https://ffm.to/hotlinetntraspberrymoon

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