熱狂と祈りが渦巻いた2日間。「POP YOURS 2025」は、過去と未来をつなぐヒップホップの「今」を刻みつけた。
文筆家/ライターのつやちゃんによる渾身のルポをお届けする。

【画像】「POP YOURS 2025」ライブ写真(全58枚)

一年に一度の、ヒップホップの祭典! POP YOURSが、今年も大きな盛り上がりとともに開催された。昨年に続き全出演者が明らかになる前にチケットがソールドアウトしたことから、フェスとしてしっかり定着してきていることが分かる。来場者数は2日間合計で約3万5000人にのぼり、YouTubeの無料生配信では合計約180万回の視聴回数を記録。オンラインの視聴回数は昨年よりも増えており、4年目を迎えてますます注目度が高まっているようだ。

さて、「POP YOURS 2025」のラインナップの第一弾が発表されたのは、今年の1月だった。そこから何度かに分けて全出演者が出そろったところで、主催者側のコンセプトを読み取ろうと様々な考えを巡らせた。これまで、まだ浅いながらもPOP YOURSは着実に歴史を積み重ねてきている。パンデミックの名残がある中で初開催となった2022年、さらに勢いに乗り拡大した2023年は、フェスのスタートとして今のヒップホップシーンの盛り上がりを鮮やかに切り取ったものだった。それをベースに、2024年はLEXとTohjiをヘッドライナーに抜擢し、多様性を示すキュレーションへ進化。ヒップホップのサブジャンルが増殖し、若手ラッパーの数も増える中で、分散するシーンの状況を反映するような内容だったと思う。実際、昨年のレポートでは、次のように書き記していた。


”2024年、この国のヒップホップは間違いなく次のステージへと突入したように思う。BAD HOPが解散し、LEXとTohjiが真にオルタナティブなスタイルで天下を獲った。近年、多様化の一途をたどり、無数のトライブへと拡散していったヒップホップだが、それでも時代を捉えた感性は必ずや大きな光を浴びるということを、LEXとTohjiは証明した”

以上を踏まえたうえで、2025年の方向性として考えられるのは、再び若手のヘッドライナーを抜擢するか、大物ヘッドライナーへ回帰するか、全く別の道を探るか、といったところだろう。蓋を開けてみると、2023年に急遽キャンセルになった¥ellow Bucksのステージがついに実現するというのがDAY1、JJJが指名されたのがDAY2という形に。その他のラインナップも含めて、実力派の渋いタレントが揃ったのでは、という印象だった。ところが、突然の悲しいニュースが舞い込み、激震が走る。JJJの訃報である。4月13日に35歳の若さで亡くなった彼は、多くの傑作をリリースしてきた実力あるラッパーで、昨年11月には日比谷野外音楽堂でのワンマンライブを成功させたばかり。これからさらなる活躍が期待される中での抜擢だっただけに、まさか開催1カ月前にヘッドライナーの訃報が報じられるなんて信じられなかった人も多いだろう。もちろんそれによって、「POP YOURS 2025」の在り方も変わってくる。フェスとしてのコンセプト云々といったことを超えて、これまでにない意味合いを持つ年になるに違いない――そんな複雑な思いで迎えた2日間だった。

DAY1

さて、会場に到着すると、これまで以上に充実したブースが目につく。
アーティストのマーチ売り場や「POP YOURS STORE」という名のオリジナルアイテムのショップ。さらには限定アーティストキーホルダーがもらえるオンラインガチャ、フォトブースにパウダーブース、フードエリアなど、どこに行っても大賑わいだ。普段様々なジャンルのフェスやライブに足を運ぶことが多いが、POP YOURSはどの現場よりもお客さんが若く、ファッションも面白い。ひとつのペルソナに縛られない多彩なスタイリングが並んでいて、皆が思い思いの服装に身を包み自由に楽しんでいるのが伝わってくる。同様の傾向は2022年の初開催時からあったが、ますます”フェスを楽しむ場”としてのカルチャーが根づいてきているように感じて、わくわくする。

ライブエリアに行くと、午前10時台にもかかわらず、DJ YUTOがすでに多くの観客を沸かせていた。冒頭からSEEDA、Jinmenusagi、Charluという並びだ。まず、このスロットを体験しただけで、主催者側が今年のPOP YOURSで何をやりたいかがはっきりと理解できた。つまり、「ラップ」である。3人とも、マイク一本での見せ方が巧みで、三者三様のスタイルをはっきりと打ち出している。特に驚いたのはCharlu。世間ではラップスタアをきっかけに出てきたママラッパーと思われているかもしれないが、すでにそれ以前から確かなスキルには定評があった。
その彼女は、「さっき次男からは、カマしてきて!と言われました。長男からは、ラップしかできないもんね、と言われたんですよ。なんか、ラッパーとして認めてもらえたのかなと思いました」と語っていた。Charluらしい、印象的なMCだ。

次なるスロットは7、eyden、Fuji Taito、Kaneee、3Houseと続いていく。ここでまず驚いたのは、7が連れてきた和歌山勢の勢い。昨今、全国的にも熱視線が注がれている和歌山のヒップホップシーンのタレントが揃う中で、特にMIKADOの「言った!!」では大勢がすぐさまスマホを掲げて撮影。この曲がますますアンセム化していることに嬉しくなった。また、Kaneeeの声量にも心を動かされたことを記しておこう。「Life is Romance」などのラップには確かな力が宿っていて、打ちのめされた。

そして、この日一番の盛り上がりに匹敵する時間を作り出したのが、次のKM、kZm、JP THE WAVYだ。「ライブは俺ひとりで作るものじゃないから、みんな今日帰ったらkZmとライブしてきたって言ってね」と告げて観客を煽ったkZm、さらにヒット曲と新曲を織り交ぜてダンスとともに見せたWAVYの両者もすごかったが、ここでは、忘れられない時間を作り出したKMに触れておきたい。
LEXの「力をくれ」やJJJ「Eye Splice」をつないだリミックスを披露しながら、自らマイクを持ってパフォーマンス。そこから「Lost2(Ftheworld)」でラップを聴かせた。昨年リリースしたアルバム『Ftheworld』は生々しい声を閉じ込めた衝撃的なアルバムだったが、そのヴァイブスとJJJへの想いが交差し爆発するようなステージ。後日、KMは自身のInstagramを更新し、次のような言葉を綴っていた。

”スポットライトはセンターステージにしか無い。だからオレは今回DJの美学の一部を捨てました。そうしないと、光が当たらないから”

Kaneee、Kohjiya、Yvng Patraを招いての「Champions」では、会場が割れんばかりの歓声が起こった。間違いなく、KMはこの日のハイライトのひとつだったように思う。

さて、ここからはDAY1のゴールに向けて、すべてがクライマックス。BIM、ANARCHY、IO、Benjazzy、Watson、LANAという豪華なラインナップが並ぶ。感銘を受けたのは、ANARCHYだ。今回に限った話ではないが、とにかくハートをつかむパフォーマンスに痺れる。
ラップもMCも、丸裸の感情をそのまま差し出してくるようなリアリティがあり、全員が一気に引き込まれていた。その点、LANAの求心力にも触れておくべきだろう。次から次にヒット曲をまくしたてる怒涛のショウで、先日の武道館公演でも展開した”Street Princess”な世界を余すことなく披露していた。一方、とてつもないスキルでストイックな時間を届けたのはBenjazzy。スター性あるタレントが並ぶこのスロットでも、彼のラップは群を抜いており、特に最新アルバムから持ってきた「3MINITS」では、止まらないラップ芸を凝縮したパワー漲る3分間に皆が釘付け。トラヴィス・スコットを思わせるようなドラマティックなビートとともに、幕張メッセの空気を震撼させていた。

DAY1を締めくくったのは、¥ellow Bucksだ。「Im Back」から始まるステージはヒット曲連発の選曲――になると思いきや、「DJやりたくなってきた」と言って途中からターンテーブルの前へ。ダンサーが並び、そこかしこでめくるめく妖艶な世界を演じていく。東海勢は他のヒップホップフェスでも、東海ならではのカラーを前面に打ち出してくることが多い。この日はなんと、¥ellow BucksはPOP YOURSのヘッドライナーの時間を使って、名古屋のクラブの一夜を巨大なスケールで再現してきたというわけだ。なかなか勇気のいる判断だったと思うが、会場の盛り上がりを見るに、彼の考えるヒップホップに多くの人が共感・共鳴していたのは間違いない。


DAY2

前夜の熱が醒めやらないまま、POP YOURSはMARZYのDJを皮切りにDAY2へ。PUNPEEにswetty、lil soft tennisというラインナップでスタートした。NEW COMER SHOT LIVEの出演者も含めて、DAY2の前半はオルタナティブなヒップホップの面々が多く、客席からもDAY1とは異なるノリが生まれていた。続いてMIKADO、DADA、Bonbero、Elle Teresa、NENEといったラップスターがズラリと並び、DAY2の熱狂はますます高まっていく。ここで触れるべきは、まずBonberoだろう。ラップ巧者としての風格は昨年よりさらに増しており、抜群のキレを見せていた。滑舌、フロウ、発声のすべてが別格で、ヒップホップのライブにおけるラップの技術がいかに盛り上がりを左右するかを証明していたように思う。Bonberoの時間に限らず、今年のPOP YOURSで何度か客演で登場したCampanellaについても同様だ。他方で、Elle TeresaとNENEの独自スタイルを突き詰めたパフォーマンスも、特筆に値する魅力を放っていた。両者ともに、近作を中心にパンチラインとフック満載のナンバーを畳みかけるようにプレイ。衣装やヘアメイク含めたDIVA性の高いショウは、独自の芸としてオリジナルの世界観を形成していた。

次のDaichi Yamamotoは、「Taxi」などでJJJへの追悼を示しながら終始美声を響かせる。続くSTUTS on the WAVEは、STUTSとZOT one the WAVEのコンビでプレイ。2人のケミストリーがどのように混ざり合うのか想像がつかなかったが、どちらかというとなめらかで静的な音を鳴らすSTUTSと、跳ねた動的な音を鳴らすZOTという対比が、これはこれで面白い。ある意味で真逆とも言える二人の共通点はというと、”ポップ”なところだろう。途中で客演も呼びながら、会場に異色の”ポップ”を響かせた。その後サプライズ披露されたswettyとElle Teresaの「I JUST」は、どこか甘酸っぱさのあるエモーションが詰まった佳曲。待ってましたと言わんばかりの歓声に、この2人の組み合わせがいかに歓迎されているかが分かった。

DAY2は、終盤に向けて加速していく。Kohjiya、Kvi Baba、Jin Dogg、G-k.i.d、Yo-sea、唾奇という並びに、疲労も忘れて盛り上がる観客たち。ここでは、高まり続けるKohjiyaの人気に圧倒されることに。客演での出番も非常に多かったが、それ以上に、自身のステージでは緩急つけたラップで空気を一変させる。同時に、POP YOURS初出演ながら、トップクラスの緊張感でインパクトを残した唾奇にも打ちのめされた。派手な演出はないが、ラップに華があり、地に足の着いた巧さもある。POP YOURSがなぜJJJの前の重要な位置に彼を置いたのか、理由が分かった気がした。さりげなく武道館ライブを告知していたが、今後のすばらしいステージにさらなる期待が高まる出来だった。

目まぐるしくエキサイティングな2日間も、いよいよ最後の時間へ。急逝したJJJに対してPOP YOURSは、「当初の予定通りヘッドライナーとしてライブを行なう」とアナウンスしていた。予告通り、ライブがスタートする。バックDJにはAru-2が、コントラバスには岩見継吾が立ち、ステージにはスポットライトが当てられる。皆がスマホをかざし、動画を撮る。何も知らない人がこの光景を見たら、そこにJJJがいると思うに違いない。それくらい、観客は固唾を飲んでステージを見守り、最高のビートが鳴り、最高のラップが鳴っていた。客演には、OMSBやDaichi Yamamoto、Benjazzy、Campanellaらが参加。JJJと「共演」していた。

聴きながら、様々な想いが頭の中を駆け巡る。JJJは、特異なラッパーだったと思う。それはビートとラップの両立、つまりトラックメイカーでありリリシストでもあるという、二面性に宿っていた。自らトラックメイキングを行なうラッパーというのは今でこそ増えたものの、彼は自身でビートを作り自身の言葉でラップするというスタイルを、早くから確立していた。さらにJJJのビートには、ソウルやジャズを咀嚼した温もりがありつつ、決してノスタルジーに閉じない「現在の耳」が備わっていた。その上に乗るラップは、内省的で詩的で、不器用なまでに真摯。その「トラックと一体化したようなラップ」は彼でしかできないもので、オリジナルの強度があったと思う。

踊りながら、自然と涙が流れる。JJJの何が凄いかって、彼に影響を受けたミュージシャンが数多くいた点だ。しかも、その人脈はヒップホップに限らない。彼が果たした、90sヒップホップへのリスペクトと再提示は、多くのミュージシャンに一目置かれていたから。ブーンバップ、サンプリング主体のビートメイクなどを2010年代の日本で意識的に再提示したことはとても先駆的であり、偉大な功績だったのだ。その言葉の間合い、ビートの抜き差し、グルーヴの設計は、前述した通り「古くて新しい」もので、当時の最先端R&BやLo-fi Hip Hopとも共鳴する部分があった。そして何よりも、KID FRESINOとFebbと組んでいたFla$hBackSという存在は、2010年代前半の日本語ラップにおける伝説だった。彼らが示したのは、DIY精神に支えられたリアルな生活感とストリート性、そして美学のある音楽制作。それは下の世代にも確実に受け継がれ、2020年代のラップ・シーンの骨格を形成する礎の一部となっている。あの時代、まだヒップホップは「ポップ」なものではなかった。日本語ラップがストリーミングとともに本格的にバズを起こし、現在のPOP YOURSにつながるような潮流が出来ていくのは2016年以降のことで、その前夜に、JJJは地道な制作とライブ活動を通して土壌を耕していた存在だったのだ。

POP YOURS 2025の最後は、2013年リリースの「Fla$hBackS」で幕を閉じた。クラシックと言える名曲を聴きながら、目の前では多くの、本当に多くの人たちが音楽に乗って揺れている。2013年当時、ヒップホップとまだ出会っていなかったであろう若い人たちもたくさんいる。自分の功績を決して声高に主張せず、表舞台に多く登場することもあまりなかった彼だが、この音楽は時を経て、ずっとこれからも聴かれ続けていくのだろう。JJJの音楽は、死なない――そうつぶやきながら、会場を後にした。恐らくあの場にいたすべての人が、同じ想いで帰路についたはずだ。

POP YOURSルポ ラップがすべてをつなげた2日間

POP YOURS OSAKA 2025
2025年10月18日(土)大阪城ホール
時間:開場12:00 / 開演13:00
https://popyours.jp/osaka2025

出演者:
Awich
Tohji
LEX
bZm
Elle Teresa
guca owl
Kaneee
MFS
MIKADO
Red Eye
STUTS
Vingo
and more
(AtoZ)

A席(スタンド) 通常 ¥12,800(税込)
A席(スタンド) 限定Tシャツ付き ¥19,300(税込・Tシャツ送料込)
A席(スタンド) 限定グッズセット付き ¥24,800(税込・グッズ送料込み)
A席(アリーナ後方)通常 ¥12,800(税込) SOLD OUT
A席(アリーナ後方)限定Tシャツ付き ¥19,300(税込・Tシャツ送料込)SOLD OUT
A席(アリーナ後方)限定グッズセット付き ¥24,800 (税込・グッズ送料込み)SOLD OUT
ゴールド 通常 ¥22,800(税込)
ゴールド 限定Tシャツ付き ¥29,300 (税込・Tシャツ送料込み)
ゴールド 限定グッズセット付き¥34,800(税込・グッズ送料込み)
《ゴールドチケット特典》 
ステージ付近 ゴールド専用エリア / 来場者特典パス

お問い合わせ窓口:GREENS CORPORATION: 06-6882-1224(平日12:00~18:00)
主催:株式会社スペースシャワーネットワーク
制作:SMASH / GREENS / WWW

Art Direction: Kei Sakawaki
Key Visual Design: Kei Sakawaki, Hiroaki Hidaka
CG Artist: Kazusa
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