もしあなたが2024年2月の寒い午後に彼らを探していたとしたら、Rolling Stoneのオフィスでアコースティック・ギターをつま弾く4人兄妹のバンドを見つけることができただろう。幾重にも重なる彼らの歌声はガラス張りの壁に反響し、その空間をたちまち幻想的なステージへと変貌させた。ひとたび音を奏でれば、通りかかる誰もが瞬時に心を奪われる。彼らはインフィニティ・ソングと名乗り、まさに飛躍の年を迎えようとしていた。
約1年後の2025年2月、バンドは同じ会議室に戻ってきて、この12数カ月に起こったすべてについて語ろうとしていた。「遠いようで、近いような気もする」と語るのは、エイブラハム・ボイド。彼のまわりには、妹のエンジェル、弟のイスラエル、そして末妹のサリア”モモ”が座っている。「不思議な感覚だよ。あれから本当にいろんなことがあったからね」

Photo by Elianel Clinton for Rolling Stone
それはまさに控えめすぎる表現だった。2024年、ニューヨークを拠点とするソフトロック・グループ、インフィニティ・ソングはあらゆる面で飛躍を遂げた。
このEPこそが、彼らが2020年のメジャーデビュー作『Mad Love』で打ち出したR&B路線を脱し、豊かなボーカルとアコースティックな質感を備えたロック・アクトへと変貌を遂げた作品だった。ビージーズやフリートウッド・マックを想起させるような、滑らかで洗練された音像。そのサウンドの変化は歓迎され、『Metamorphosis』のリリース後まもなく、インフィニティ・ソングはキャッチーで耳に残るメロディーでネット上でも話題に。2023年8月にはウィットに富んだ楽曲「Haters Anthem」でその火がつき、12月には激情的な「Slow Burn」が再生回数やストリーミング数を大きく伸ばした。
だが、この1年の経験を最も雄弁に物語っているのは、やはりEP『Metamorphosis』のタイトル曲だろう。この楽曲でバンドは、まるで自らのキャリアの次章を予言していたかのようだ。〈見てごらん、君が成し遂げたことを/見てごらん、君の変化を〉と、彼らは声を揃えて歌う。
「僕たちは、まだ変化の途中なんだよ」とイスラエルは語る。「たしかに、これまで大きな変化を経験してきたし、以前とはまるで違う存在になった。たくさんのことを乗り越えて、ある意味”卒業”もした。
ジェイ・Zも魅了したパフォーマンス
インフィニティ・ソングは、地道な努力とは無縁ではない。音楽の世界で成功をつかむべく、すでに10年以上にわたって活動を続けてきた。活動初期の多くの年月を、ニューヨーク市内の地下鉄やセントラルパークでのストリート・パフォーマンスに費やし、歌声を磨き、どんな場所でも「自分たちのステージ」に変える術を身につけていった。
そんなセントラルパークでのバスキングが、彼らにとっての大きな転機をもたらす。2016年、ジェイムズ・サミュエルが彼らのパフォーマンス映像をジェイ・Zに見せたことをきっかけに、インフィニティ・ソングはRoc Nationと契約を結ぶこととなった(当初のメンバーは、エイブラハム、エンジェル、そして姉のヴィクトリーの3人。ヴィクトリーは2022年に脱退し、その後イスラエルとモモが加入した)
ライブでも披露している、フリートウッド・マック「Dreams」のカバー
インフィニティ・ソングが最も「自分たちらしくいられる場所」としてステージを挙げるのは、当然のことだろう。「ステージは、僕たちにとって最も安心できる場所のひとつなんだ」とエイブラハムは語る。それに対してイスラエルも同意する。「僕たちは、ステージの上で生きてるんだよ」と。
2024年に成し遂げた数々の功績の中で、彼らが最も誇りに思っているのは、ロンドンやシドニーといった都市でのソールドアウト公演を含む、世界各地でのライブパフォーマンスだ。つい最近、新たなツアー日程も発表されたばかりだが、2024年のステージには特別な思い入れがあるという。「”最初の瞬間”は、もう二度と経験できないものだから」とエンジェルは語った。

Photo by Elianel Clinton for Rolling Stone
生い立ちとアイデンティティを赤裸々に語る
デトロイトで9人兄妹の大家族のもとに育ったボイド家の兄妹たちは、幼い頃から音楽的な才能を育んできた。その原点は、デトロイト・ボーイズ・アンド・ガールズ合唱団での活動だった。父親のジョン・ボイドは、警備員や学校の合唱団の指導者として働きながら、地域の子どもたちのためにこの合唱団を設立。そして母親は元教師であり、家庭での学習カリキュラムの中に、アフリカ系アメリカ人としての深く根ざした文化や信仰についての教育を織り込んでいた。
「私たちはずっと一緒に夢を見て、一緒に努力して、お互いを支え合いながら今の自分たちを築いてきたの」と語るのは、兄妹たちとの固い絆について話すモモだ。部屋の中には、子どもの頃に交わしていた「いつかお金持ちで有名になったらね」という会話や、父親がいつも何かしらのことわざを授けてくれた思い出を、兄妹たちが次々と語り合う様子が温かく満ちている。
ボイド家での幼少期を振り返りながら、エイブラハムはひとつのことをはっきりと語る。「僕たちは裕福な家庭の出身じゃない。恵まれた環境で育ったわけでも、”銀のスプーンをくわえて生まれてきた”わけでもない」と彼は言い添えたうえで、こう続ける。「僕たちが経験してきた苦労は、本当に大きなものだったんだ」
モモもまた、現在のインフィニティ・ソングを見た人々が抱きがちな誤解を正したいと語る。「みんな、私たちが私立の学校で教育を受けてきたとか、中流家庭で育って、何もかもが整ってたって思ってるみたい。でも、それを聞いたとき、本当にびっくりした……そんなの現実とはまるでかけ離れてるのに」と、彼女は率直に打ち明ける。
インフィニティ・ソングのメンバーたちは、ここまで来るのに努力を重ねてきた一方で、両親から受けた恩恵についても自覚している。「僕たちの家には”愛”があった。それが何よりの財産だった」とエイブラハムは語る。「両親はいつも僕たちの可能性を信じてくれて、夢を追いかける力を与えてくれた。今でもずっと、そうやって背中を押し続けてくれてるんだ」
彼は、兄妹たち一人ひとりが強いアイデンティティを持てたのは両親のおかげだと話す。「僕たちのルーツはアフリカから連れてこられた奴隷の血筋にある。それが僕たちの背景だ」「僕たちはアフリカ系アメリカ人そのものなんだ。そして世界に対して、”アフリカ系アメリカ人とはどういう存在か”を体現する立場にあると思ってる」
それは、彼らがソフトロックというジャンルに挑戦し始めた頃から強く意識してきたことでもある。というのも、そのジャンルは歴史的に見て、ブラック・アーティストが前面に出ることの少なかった領域だからだ。
さらなる飛躍に向けて
今のインフィニティ・ソングは、自信を持ってさらに大きな目標を見据えている──次なる狙いは「スーパースター」の座だ。「ダイヤモンド認定の楽曲をいくつも出して、アリーナやスタジアムでライブをして、フェスのヘッドライナーも務める。そういうこと全部を本気で目指してる」とエイブラハムは語る。
確かなアイデンティティを磨き続け、サウンドを進化させ続ける彼らにとって、それらは決して夢物語ではない。そして、次の飛躍に必要なものも彼らはよくわかっている。「僕は、ものすごく大きなヒット曲を持てたらいいなって思ってる」とイスラエルは語る。「どんな成功したアーティストにも、最低でもひとつは”代表曲”がある。それが、その後の人生を切り開くカギになるんだ」
エンジェルもその考えに同意しているが、彼女が目指しているのは、ただのヒットではない。タクシーの車内から、ホットドッグ屋のラジオから──街のあらゆる場所で自然と流れてくるような、逃れようのないほど浸透した楽曲。彼女の言葉を借りれば、「自分たちの音楽が、誰かの人生に普遍的かつポップな形で溶け込んでいるような、そんな存在になりたい」のだ。

Photo by Elianel Clinton for Rolling Stone
インフィニティ・ソングはすでに、次なる大ヒットとなり得る楽曲の構想をスタートさせている。イスラエルは「新曲はまだ構想段階」としながらも、エンジェルはこう断言する──「新しい音楽は、すごくすごく近いうちにリリースされるわ。私たち、仕事が早いから」
次のリリースも、これまで築いてきたソフトロック路線を軸に展開される予定だ。「ソフトロック、ロック的なムードはしっかり残すつもり。でも、よりポップ寄りになると思う」とエンジェルは語っている。
これらすべては、彼らが「マラソン」と呼ぶ長い旅路の一部にすぎない。「僕たちは必ずゴールにたどり着く」とエイブラハムは誓う。「そして、世界を手にするその日を楽しみにしてるんだ」
ポップ寄りの最新シングル「London Foxes」
From Rolling Stone US.

INFINITY SONG
SUMMER SONIC EXTRA
2025年8月14日(木)東京・神田スクエアホール
OPEN 18:00/ START 19:00
チケット:¥7,000-(税込/All Standing/1Drink別)
公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/infinitysong-ssextra/

SUMMER SONIC 2025
2025年8月16日(土)・17日(日)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
大阪会場:万博記念公園
※インフィニティ・ソングは8月16日(土)大阪会場、17日(日)東京会場に出演
https://www.summersonic.com/