ロサンゼルスの自宅の小さな部屋で、シンガーソングライターのディジョン・ドゥエナス(プロとしてはDijon名義)が2021年に作り上げたデビュー作『Absolutely』は、感情がはち切れんばかりに詰め込まれた繊細なサウンドの断片のパッチワークだった。あの作品には、制作環境そのものの質感が染み込んでいる。YouTubeで最も人気のあるDijonの動画は、このアルバムのセッションを再現したもので、バンド仲間たちがドラムマシンやケーブル、ギター・ペダルの渦に囲まれながら、ペンテコステ派の教会の礼拝さながらに体を震わせ、叫んでいる姿が映し出される。実際、『Absolutely』は霊的な占い、呪術のようなプロジェクトだった。Dijonの作品に一貫して流れる賭け事は「人を愛するとはどういうことか」という問いに集約されている。このアルバムによって、当時30代前半の彼はカルト的な人気を獲得し、同時に幽玄で異世界的なメロディを奏でるギタリスト、マイケル・ゴードン(Mk.Gee)を世に押し上げることにもなった。
それでも、このカルト的人気がメインストリームに届くまでには数年を要した。先月、ジャスティン・ビーバーがリリースしたアルバム『SWAG』は、DijonとMk.Geeが手がけた今や彼らの代名詞とも言えるポップの解釈に大きく依拠している。Dijonがプロデュースした「Daisies」や「Devotion」のような楽曲は、時代やジャンル、ムードを縦横に行き来しながら、万華鏡のように新鮮でありながらどこか懐かしい響きを生み出している。この成功の直後に発表された最新作『Baby』は、いままさに広まりつつあるサウンドを利用して収益化するのではなく、果敢に刷新する道を選んでいる。
アルバム冒頭の3曲(「Baby!」「Another Baby!」「HIGHER!」)がすべて感嘆符付きなのは象徴的だ。いずれもDijonの咆哮するような感情表現で幕を開ける。
アルバム全体を通じて、燃えるようなアドリブやゴールデンエイジ・ヒップホップのサンプル、逆再生された声のリフなどが断片的に現れ、夜の闇を貫く光線のように輝きを放つ。「Yamaha」では煌めくピアノと静かなアルペジオが重なり、80年代を思わせる質感を与えている。〈この特別な感情に恋している〉と彼は甘く歌い、アルバム中で最も伝統的なフックを聴かせる。そして終盤にはトラップ風のドラムの上を漂うように歌が進み、エレクトロニクスがDijonの声を次曲「FIRE!」の轟くベースに溶かしていく。そこで再び感嘆符が戻ってくるのだ。ここでDijonは無条件の愛に潜む不気味な不安をたどり、存在の核心に迫っている。
『Baby』は、フランク・オーシャンの『Endless』とも比較できるかもしれない。R&Bの固定観念を崇拝していたファンの期待を外し、全貌を完全には明かさない感情的なパッチワークを提示した、同様に広がりのある作品だからだ。「Kindalove」では、Dijonがアルバム全体の総括とも言えるテーマを打ち出している。このレコードは間違いなく「実験的」と呼ぶのがふさわしいが、ここで彼はより伝統的なR&Bに近い領域に立ち戻り、30分以上にわたる音の探究を結論づけている。〈必要なとき、君は愛で僕を打ちのめす!〉と、彼は叫ぶ。それまでに彼自身がまさにそうしてきたように。
From Rolling Stone US.