海外勢を総括──超大物からニューカマーまで躍動
Common

©︎SUMMER SONIC All Rights Reserved.
今年のソニックマニアで海外勢の一番手を務めたのは、シカゴヒップホップのベテランであるコモン(Common)。まず魅了されたのは、変わらぬ声の艶とラップの上手さ、そして惜しみないサービス精神だ。ライブが始まるや否や、コモンはステージの端から端まで動き回り、花道にも早々に降りてくる。セットリストも前半から「Dreamin」「The Corner」と名曲を連発。とにかく全力でオーディエンスを楽しませようという気概が、そのステージングや選曲の端々から伝わる。中盤には観客の女性をステージに上げ、顔を近づけて愛を囁くように「Come Close」を披露。これもまた、彼のエンターテイナーぶりを見せつける楽しい演出だった。
ライブはカバー曲も盛りだくさんで、ビズ・マーキーやドクター・ドレー、ウータン・クラン、ノトーリアスB.I.Gの大クラシックを次々と聴かせたのはひとつのハイライト。そして「ヒップホップはDJから始まった」というコモンのMCから、DJのアンドレ・スミスがソロでターンテーブリストとしての技巧を披露する場面も。もちろんカバーやDJタイムは観客へのサービスの一環でもあるが、同時にコモンのヒップホップの歴史に対する愛と敬意の表明でもあるだろう。
確かなスキルと音楽への愛、そして抜群のサービス精神に裏打ちされたライブ。

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2hollis

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白いシャツに白いパンツ、そしてプラチナブロンドの長髪──まるで中世ファンタジーの世界から抜け出してきたような風貌でステージに立つのは、Z世代から熱烈な支持を集める2ホリス(2hollis)ことホリス・パーカー・フレイジャー=ハーンドンだ。ステージ上にバンドやDJはおらず、ホリスただ一人。だが、それだけで十分にステージを支配できる際立った存在感を放っている。
一曲目「flash」のカオティックなノイズが鳴り響くと、早くもフロアは大熱狂。ホリスはその興奮を煽りながら、熱い鉄板の上を跳ねまわるようにステップを踏んで歌う。レイジビートの獰猛さ、EDMの壮大なスケール感、そしてハイパーポップに隣接する目まぐるしい曲展開が混然一体となったサウンドは、ひたすら暴力的でエクストリーム、なおかつキャッチーだ。海外の一部メディアでは「男性版のチャーリーXCX」とのハイプな見出しが躍っているが、その破壊的なサウンド/パフォーマンスと美麗なルックスの合体は「ポップスター化したプレイボーイ・カーティ/スクリレックス」と呼びたくなる。この日のライブを観る限り、既に日本でも若く熱狂的なファンダムが形成されていたが、そのパイはさらに大きくなってもおかしくない。そんなふうに予感させる、強烈な熱気に満ちたライブだった。

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Floating Points
開演前のフロアは「宇多田ヒカルは本当に出るのか?」という話題で持ちきり。だがそれも無理はない。
ライブは最新作『Cascade』屈指のフロアバンガー「Birth4000」からいきなりスタート。昨年のフジロックでのステージ同様、最新作のモードを反映させて徹頭徹尾激しく飛ばしていくセットを予感させる。だが、今回のプレイはタメの瞬間も多く、パワフルに盛り上げては焦らし、焦らしては盛り上げを繰り返しながら、徐々にフロアの熱気を高めていく展開だ。そしてまだ持ち時間が半分も過ぎていない段階で、「コンニチハ、サムです。今日は紹介したい友達がいます」という日本語のMCが流れて、宇多田ヒカルが登場。もちろん歌うのは二人のコラボ曲「Somewhere Near Marseilles―マルセイユ辺り―」である。観客は一斉にカメラを取り出して熱狂に包まれたが、曲自体はひとつ前の「Del Oro」からスムーズに繋がれており、唐突な印象を与えない。サムの見事な構成力、そして楽しそうに踊りながら歌う宇多田のリラックスした佇まいもあり、この”事件”はあくまでセットの一部として上手く溶け込んでいた。
宇多田がステージを去り、後半に入るとライブはさらにヒートアップ。
If you missed Hikaru Utada at their surprise appearance during Floating Points set in Japan last weekend - heres your chance to take a peek! Thank you SONICMANIA for having us pic.twitter.com/cNEWh4HniN— 宇多田ヒカルSTAFF (@hikki_staff) August 19, 2025
The Prodigy

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フローティング・ポインツが終わってから急いでマウンテンステージに駆けつけると、濁流が押し寄せるような勢いで爆音が耳に飛び込んでくる。プロディジー(The Prodigy)が生んだ無数の完璧なレイヴアンセムのひとつ、「Voodoo People」だ。巨大なマウンテンステージを物ともしない、凄まじいスケール感のサウンドに思わず圧倒される。レイヴミュージックとロックの垣根をブルドーザーでなぎ倒すようなエネルギーの豪快さは、やはりプロディジーしか持ちえないものだ。何十年にも渡って世界中の巨大フェスや大会場で勝負し続けてきた歴戦の猛者は、今年の出演者の中でもスケール感と風格という点では頭ひとつ飛び抜けていた。
「Firestarter」では、2019年に他界したキース・フリントのシルエットをレーザーでスクリーンに描き出す。その奇抜なルックスと強烈なパフォーマンスでバンドの顔役を担った彼の不在は、当然ながら大きい。だが、彼を失ってもなお、プロディジーがレイヴとロックの混沌をステージで生み出せることを証明しているのは、キースに対する何よりの追悼だろう。
マキシムの扇動的なMC、リアム・ハウレットによる切れ味鋭いビート、そしてサポートメンバーによるドラムとギターが激しくぶつかり合いながら、息をつく暇もなく終止フルスロットルでライブは進む。本編ラストの「Invaders Must Die」~「Breathe」、そしてアンコール一発目の「Smack My Bitch Up」の爆発力は特にすさまじく、広大なフロアが狂乱のレイヴ会場のような熱気に包まれた。
バンドのアイコンだったキースを失い、一体プロディジーはどうなってしまうのか?──このライブを観るまでは正直、不安に思うこともあった。だが、実際にこの目で見て確信したのは、まだまだプロディジーは前を向いて進み続けている、という事実だった。


Gesaffelstein

まず誰もが圧倒されるのはそのビジュアルだろう。黒光りする水晶の柱が地面から突き出ているようなステージセット。そしてゲサフェルスタイン(Gesaffelstein)本人は全身真っ黒な衣装に身を包み、顔や髪の毛まですっぽりと黒いデスマスクで覆われている。その彫像のような姿は、水晶のステージセットと一体化しているかのよう。彼が創出する耽美的で漆黒のエレクトロサウンドを表現するには完璧であると同時に、あまりにも強烈なインパクトを放つビジュアルだ。
その異様な佇まいに緊張感すら漂う中、フレンチエレクトロをより硬質で重たく、クールな質感へと発展させたサウンドが次々に投下されていく。いまやチャーリーXCXやレディー・ガガなど大ポップスターたちのコラボレーターとして有名なゲサフェルスタインだが、自身が関わったポップヒットをプレイすることは一切なし。そのセットリストは極めてストイックだ。そして随所でライティングが効果的に使われるものの、エレクトロニックミュージックのライブでは定番の巨大LEDスクリーンを駆使したド派手な映像はなく、演出も抑制的でミニマル。だが、ストイック/ミニマルだからこそ、微細な変化が絶大な効果を生む。
ラストに向けて、ゲサフェルスタインもどんどんとギアを上げ、曲のbpmも上がっていく。最後はほとんどハードテクノかインダストリアルロックかという勢いで、叩きつけるようにライブを終わらせた。その演出から選曲まで、何かに迎合することなく、自身の美意識を徹底的に貫き通すという強い意志を感じさせるパフォーマンスだった。
[小林祥晴]


Perfume、きゃりー、電気グルーヴも揃い踏み
Perfume

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MOUNTAIN STAGEのトップバッターを務めたのはPerfume。8月18日からニューアルバム『ネビュラロマンス 後篇』の全曲配信がスタートしたが、それに先駆けて8月15日のソニックマニアに登場した3人は、『ネビュラロマンス 前篇』に収録された「The Light」「ラヴ・クラウド」「Cosmic Treat」で幕を開けた。クラブ系の観客が多い本フェスとも親和性の高いサウンドでフロアを魅了すると、名曲「エレクトロ・ワールド」で文字どおり彼女たちの世界へと引き込んでいく。『後篇』収録の新曲「巡ループ」の切ないサウンドも印象深い。
恒例のP.T.A.コーナーでは、なんとZAZEN BOYS「ポテトサラダ」をダンスカバー。8月9日開催のイベント「70号室の住人 LIVE!!!! ~ チョコレイトポテトサラダ ~」でZAZEN BOYSと共演したばかりのPerfumeは、その縁を幕張にも持ち込んだ。あ~ちゃんが「おじちゃん達が踊りやすい」振り付けをレクチャーしたあと、いざ本番へ。

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きゃりーぱみゅぱみゅ

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きゃりーぱみゅぱみゅが登場すると、23時のMANIAC LABステージは一瞬で祝祭ムードに包まれた。オープニングから「ファッションモンスター」「にんじゃりばんばん」といった代表曲を披露し、キュートさとダンサブルなビートを兼ね備えたポップワールドへと観客を引き込んでいく。スクリーンにはカラフルな映像が目まぐるしく映し出され、きゃりーならではの世界観を視覚的にも体感させる。この夜のDJセットで驚くべきは、凄まじいテンションを保ちながら50分間ノンストップで駆け抜けたこと。産後復帰したばかりとは思えないエネルギッシュなパフォーマンスは、ひたすら多幸感に満ち溢れていた。そして最後は代表曲「つけまつける」へ。幕張のフロアは熱狂に包まれ、歓喜が最高潮に達した。
[Rolling Stone Japan編集部]

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電気グルーヴ

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Perfumeに続いてMOUNTAIN STAGEに登場したのは、電気グルーヴ。この2組が初めて対バンした『Perfume FES!! 2017』の会場も、ここ幕張メッセだったと思うと胸が熱くなる(終演後、電グルとまりん、そしてPerfumeの集合写真が何パターンもアップされていたのも心和んだ)。しかも今回は、サポートメンバーにまりんこと砂原良徳、agraphこと牛尾憲輔、そして吉田サトシを迎えた5人編成! 直近のホールツアー『ツアー”the”席指定』をまりん、吉田と回ったばかりの電グルだが、そこに、吉田とともに長年サポートを務めてきた牛尾が加わるのは、今年7月のLIQUIDROOM21周年記念ライブ以来となる。
ツアーのオープナーでもあった「新幹線」で幕を開けると、この日のために「車内アナウンス」やVJをソニマニ仕様にアレンジしてくるあたりが心憎い。バキバキでありながら、ユーモアと人懐こさを内包した鉄壁のテクノトラックが、「これでもか」と言わんばかりに放たれていく。その一方で、シルクハットを被ったピエール瀧が、謎の笑みを浮かべつつ奇妙なダンスでオーディエンスを煽る。もはやオリジナルよりも日本では有名となった「POPCORN」のカバー(まりんの手弾きシンセにフロアは阿鼻叫喚)をはじめ、「N.O.」「かっこいいジャンパー」など、まりん在籍時の楽曲が多めのセットリスト。やはり「Shangri-La」の駆け上がるストリングスシンセは、これまで何百回と聴いてきたにもかかわらず、いまだに込み上げるものがある。
さらに、浮遊感たっぷりの「Fallin Down」や、生成AIと思しき不気味なCG映像をバックに演奏された「Flashback Disco」などを聴いていても思うことだが、電グルはトラックの格好良さ、メロディのキャッチーさはもちろんのこと、ピエールと石野の声が混じり合い、掛け合うときに降り注いでくる「魔法」こそが唯一無二なのだということを、この日のライブでも再確認させられた。無機質と有機質、シリアスとユーモア。それらが交差する瞬間、音楽を超えた何かが立ち上がる。それが電気グルーヴのライブなのだ。
[黒田隆憲]

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国内の気鋭アーティストも一挙集結
「大型フェスティバルの前夜祭」というポジションに止まらず、国内外のエッジなアクトが一同に会する夏夜の祭典として、独自のカラーを強めているソニックマニア。とりわけ今年はラインナップ間の横の繋がりに加え、その歴史の中で醸成されてきたコンテクストが縦方向に絡まる形となった。ここでは国内の気鋭アーティストに注目、そのステージを振り返りながらソニックマニアという場が織りなしたストーリーのいくつかを辿りたい。
Tyrkouaz

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オープニング・アクトを務めたのはTyrkouaz。兄のsoutaと弟のrentによる双子のミクスチャーロックデュオであり、昨年はサマーソニック出演権を賭けたオーディション「出れんの!?サマソニ!?」に選出、ソニックマニアのトップバッターを務めた。
初の全国流通盤『turqouise engine +』の発表を経ての凱旋となったMANIAC LABのステージ、ラウド・ロックとドラムンベースのミクスチャーという二人のスタイルを体現した「Crush Core」から始めると早速ボルテージが高まる。ダフト・パンク「One More Time」のリミックスに、同週にリリースされたばかりのシングル「MEIQ」を投下すると、DnBステップを踏むオーディエンスの姿も目立ちはじめ、呼応するようにステージの上の熱量も高まっていく。昨年は登竜門となったソニックマニアが1年間の成長を誇る舞台に変わったと同時に、ビッグ・ビートの先駆として時代を牽引したプロディジー、そしてBOOM BOOM SATELLITESひいてはTHE SPELLBOUNDという先達を見てきたファンたちにも鮮烈な印象を残した、ノンストップのダンスタイムとなった。

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きくお

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続いてMANIAC LABに登場したのはきくお。ボカロPとしては未曾有のヒットを連発し、昨年は初のアメリカツアーに加え世界18カ国41公演を回るワールドツアーを成功させるなど、インターネット発の音楽カルチャーを担う顔役として時代の先端に立つ彼。Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅといった国内のスターと並び、ソニックマニアがダンスアクトとして招いたという意味は大きい。
冒頭からDJブースの前に乗り出し、きくおが拍手を煽る。即座にフロアの勘所を掴むのはワールドツアーを経た成長の賜物なのだろうか、コンクリートに囲まれた幕張メッセに高速でビートを打ち付けていく。ポップで展開のある楽曲はブレイクコアの進化系としても鋭い上、アジアンホラー・テイストの不気味なサウンドを担うパーカッシブの生々しさはトライバルハウスの亜種としてもヴィヴィッドに響き、ボーカロイドの文脈ともクロスオーバーしながら深く意識へと訴えかけてくる。サイケデリックなVJにも魅入られ、観客はその世界観に病みつきだ。「早い曲いきます!」という一言からの「カラカラカラのカラ STuPiD DaNCe ReMiX」でテンションを極限まで高めて中盤に突入しつつ、ラストは「しかばねの踊り」に「君はできない子」という親しみやすい代表曲で締めくくるという構成にも隙がない。リスナーにはお馴染みの「星くん」もステージに登場するなど、狂騒とエンタメ性が高次で絡みあった40分間だった。

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MFS

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午前0時を超え、ソリッドながら艶やかなダンスチューンをドロップしたのはMFSだった。昨年のサマソニでもSpotify RADAR: Early Noise Stageに登場、もはや国内ヒップホップファンにとってもチェックの欠かせないイベントとなった同フェスの空気を作るのに欠かせない存在だ。
スリムなサウンド・デザインの「BINBO」で洗練されたスキルを早速見せたMFS、「プロディジーじゃなくて私の方に来てくれた人のこと、一生忘れません」というMCに歓声が上がる。ハイテンションで跳ね回るのでも、棒立ちでじっくりと味わうのでもなく、キックとベースのうねる地平をフラフラと歩く姿には気ままなパーソナリティが滲んでいる。ドラムンベースにダンスホール・レゲエまで横断しながら、呼吸をするように繰り出されるフロウが澄んだトラックと調和する様には「これしかない」という納得感さえある。パソコン音楽クラブとの「Please」をはじめ開放的なチューンを披露し、ライブが中盤から終盤に差し掛かった頃には、音に惹かれて近づいてきたクラバーたちでフロアは埋め尽くされていた。もちろんテキーラの差し入れも大歓迎だ。最後の「Combo」を終えると、彼女は金曜の夜を根の根まで楽しむために颯爽とステージから去っていった。

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Tohji
「2000年代と俺らが曲を出した2010年代と今の2020年代をぶち抜くリミックスを持ってきた」と語ったのはTohji。横浜アリーナでの単独公演とその映画化など、オルタナティブ・ラップの寵児として押しも押されぬ存在へと到達した彼は、自らの歴史をソニックマニアで誇った。
「GOKU VIBES」のリミックスでSONIC STAGEに駆け付けたオーディエンスにパーティーの開始を告げたかと思えば、早々にLootaを呼び込み『KUUGA』からのナンバーで自身の世界観に引き込む。ケミカル・ブラザーズばりの巨人VJとレーザーが炸裂する「Jungle人」にマンブルラップのスタイルで畳みかける「Tenkasu」などフィーリング先行のアップチューンを投下した矢先にgummyboyが登場、Mall Boyzとして一大アンセムの「Higher」を披露する。そして先のMCに続き流れたのは浜崎あゆみ「Dearest」、まさかの選曲に驚嘆しているとユーロビート調の「Higher」リミックスで一段と享楽的なムードが流れた。Y2Kのレトロフューチャー的想像力を伴って表現されるのは、Tohjiのアーティスト像を支える風通しの良さだ。ラストの「Super Ocean Man」が終わる頃には水色の汗がフロアに瞬いていた。
THE SPELLBOUND × BOOM BOOM SATELLITES

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更新される歴史もあれば、引き受けられる歴史もある。THE SPELLBOUNDがBOOM BOOM SATELLITEというプロジェクトを念頭に置きつつ、その先に見据えた明るい未来を描いてきたバンドであることは周知の通りだ。だからこそ「THE SPELLBOUND × BOOM BOOM SATELLITES」という名義により、両者の歴史が分かち難く結びついた意味は重い。思えば「MUSIC AWARDS JAPAN」のテーマ曲にもなった「KICK IT OUT」が初披露されたのも、2022年のソニックマニアであった。
小林は川島のフライングVを、中野は川島の形見わけのリングを携えステージに登場。冒頭の「Moment I Count」から眩い電子音とバンドサウンドが交錯する展開に満杯の聴衆が沸く。エレクトロニカに寄ったアクトが目立った今回のソニックマニア、福田洋子と大井一彌によるツインドラムが一層強烈に響く。続く「Dive For You」に「MORNING AFTER」と、改めてBOOM BOOM SATELLITEの先駆的なサウンドに驚かされると同時に、小林の眼差しには単なる「カバー」以上の光景を示すという覚悟が滲んでいた。中盤で披露された「LAY YOUR HANDS ON ME」はBOOM BOOM SATELLITEの活動の終幕を表す一曲。その長い旅路に差し込まれた栞を、4人の保有しているエナジーを総動員して引き抜き、次のページを見ようとする野心に、フロアは飛び跳ねながら呼応する。MCを挟まずにひたすらキラーチューンを連打する姿は圧巻。ラストは「KICK IT OUT」から「DRESS LIKE AN ANGLE」に雪崩込み、小林は真っ赤なフライングVをステージの中央に掲げ、SONIC STAGEのオーディエンスに別れを告げた。

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みんなのきもち

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空が白み始めた頃、ラストを締めくくるのはみんなのきもちだ。レイヴ~トランスのストイックなセットで踊り足りない来場者に低音をサーブする姿がこの上なくピュアに映る。自らでイベントを立ち上げると共に、Tohjiが主催するu-haにも招かれている二人がソニックマニアで新たな歴史の萌芽を見せたことは、あの日あの場所にいた誰の目にも明らかなものだった。ラストにプレイされたのはフレッド・アゲイン「adore u」。ピースフルなままに夜が閉じられ、爽やかな週末の朝へと繋がれた。
[風間一慶]

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SONICMANIA公式サイト
https://www.summersonic.com/sonicmania/