そんなカッサの最新作『CREAM』は、ジョン・コルトレーンやマイルス・デイヴィスを思わせるモダンジャズ黄金期のスタイルを踏襲した、生粋のアコースティックなジャズ・アルバムだ。もともとカッサはテリ・リン・キャリントンやジェリ・アレンといった超一流に起用される若手の注目株として台頭し、自身の作品にもサリヴァン・フォートナーやアーロン・パークス、ヴィジェイ・アイヤーといったジャズ・シーンのトップランナーが名を連ねてきた。今作はカッサがジャズ・ドラマーとしての自身を提示した初の作品とも言えるだろうか。
ただし、今作では1曲を除き、90年代ヒップホップ大名曲のカバーで占められている。しかも、スウィング系のリズムが中心となっており、まるでジャズ・スタンダードのように演奏されているのだ。ジャズをヒップホップのマナーで奏でるミュージシャンはこれまでにもあったが、ヒップホップの名曲をジャズど真ん中のサウンドに生まれ変わらせた例はほとんどないだろう。「ジャジー」でもなければ「ヒップホップ・テイスト」でもない。紛れもなく「ジャズ」だ。この逆転の発想は誰も思いつかなかった。
どう聴いてもジャズ・アルバムだが、その旋律はヒップホップ。こうした発想はどこから生まれたのか。ジャズ・ミュージシャンとしての立場から、カッサはヒップホップをどのように料理したのか。
ヒップホップの再現ではなく、別の言語へと昇華させる
― 『CREAM』のコンセプトを教えてください。
カッサ:『CREAM』は、子供の頃にインスピレーションを受けた楽曲を集めたアルバム。どの楽曲も俺のクリエイティビティを形成する上で重要な役割を果たしてきた。楽曲の大半は、初めて聴いた時の想い出が詰まっていて、自分の音楽や文化に対する視野をどう変えてくれたのか今でも覚えているよ。90年代の俺は若手ジャズ・ミュージシャンであるのと同時にヒップホップ愛好家で、ビートメイカー、そしてラッパーとしても活動していた(※カッサは1982年生まれ)。ところが、この2つの世界にはかなり距離感があったんだ。音楽的には深く繋がっているのに、文化的な繋がりは感じられなくてね。ジャズとヒップホップは繋がりがあるのに、プロとして(演奏にヒップホップやラップを取り入れる方法もわからず、(その頃はまだ)文化的に繋がっているようには感じられなかった。
だから、これは別の視点からジャズとヒップホップを合わせた作品なんだ。俺はこれまで自分の演奏をサンプリングし、ジャズや即興作曲を生み出し、それを再びサンプリングして電子音楽を作ってきた。この『CREAM』は、これまでの俺の全作品への回答となるアルバムだよ。
―初期の作品『Drake It Till You Make』(2018年)では、ドレイク、スヌープ・ドッグ、カニエ・ウェストの曲を取り上げていました。当時との違いはどう説明できますか?
カッサ:『Drake It Till You Make It』は、デビュー・アルバム(2020年作『I THINK I'M GOOD』)の前に作った実験的なプロジェクトだった。こういう音楽スタイル(=ヒップホップ)を融合させると唯一無二の作品ができるんじゃないかという理論に基づいた、ある種の試作品のようなものだったね。
あの作品は広く知られた楽曲を媒介として使い、自分のプロデュース手法を示すってアイデアから制作した。自分の楽曲をリリースできるようになれば、ドレイクやスヌープの有名曲をカバーする必要はなくなる。『Drake It Till You Make It』は、ミュージシャンたちとスタジオ録音し、その録音素材を切り取って新しい質感を作り出すという、独自のプロセスを発展させたものだ。
一方、『CREAM』では編集を行わないという点で真逆だね。カバーするラップ曲を選び、そのアレンジを考え、リハーサルしてからスタジオに入って、ルディ・ヴァン・ゲルダー方式、つまりマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンがやってきたようなやり方で録音をした。プロセスは全く異なるけど、意図は同じだよ。
―同じなんですか?
カッサ:すべてのレコード制作の意図は、同じはずの文化をひとつにまとめること。
『CREAM』フル試聴
―なるほど。今作を一発録りで制作した理由は?
カッサ:デビュー・アルバムを作った頃は、演奏した素材を編集で切り貼りしていくプロセスで制作する手法はまだ新しく、少数派だった。ところが、俺がやってきたこの手法は、2025年の現在、ごく普通のものになった。みんなやってるだろ?(笑)。誰もがライブ演奏を切り刻んでビートを作り、ステージ上で披露している。もはやありふれたものになり、陳腐な表現方法とさえ言えるね。「もう飽きた」とまでは言わないけどさ。
―たしかに増えましたよね。
カッサ:だから、5人が一室で共に音楽を創り出す芸術性を選んだんだ。特にアコースティックな演奏では、ドラムやアコースティック・ベース、グランド・ピアノ、バス・クラリネットやフルートの振動を体感できる。それらの音がリアルタイムに混ざり合う振動を、文字通り肌で感じられるんだ。これは非常に強力な、感情的かつ精神的な体験だから。
俺は自分のことを電子音楽家だと思っているけど、アコースティックな演奏を軽視しているとは思われたくない。俺の作品には常に有機的な要素があったから。『CREAM』の収録曲は、俺の通常の制作過程の一部と言ってもいいかもしれないね。スタジオ作業の中で常に他のミュージシャンたちと同じ空間で音楽を創作しているからこそ、時にはそれを前面で表現する必要があると思う。特に今のような電子音楽が主流の時代、AIなんて言葉すら口にしたくないけど、人間はみな「有機的」な感覚を求めていると思う。音楽もそうだし、自然と触れ合い、現実の世界で友人と話すことなんかもね。スマホやFaceTimeに没頭し、SNS投稿に追われる日々は人間の感覚を鈍らせる。だからこそ、俺は有機的な部分のための作品を作りたいんだ。
―オーガニックな方向性に振り切ったと。
カッサ:あと、ジャズやジャズ・ドラミングの現状について語っておきたい。今はグルーヴを基盤とした領域から、みんながやっている表現は生まれていると思う。でも、俺がジャズ・シーンに入った頃は、「シンバル・ビート」と呼ばれるものを習得しておく必要があった。「(※シンバルの擬音)ディン・ガディン・ディン」っていう感じのビートを完璧に演奏することは必須だったんだ。そこにベース・プレイヤーが拍子に合わせて入り、心地よく感じる演奏を習得する必要があった。でも、現在の大半のギグではそれが必須条件ではない。俺の頃は、どんな演奏技術を持っていようと、ポケットをキープできようと、スウィング系の演奏時にそれが欠けていたら「おいおい、準備できてないな!」なんて言われてたんだけどね。
このアルバムにはシンバル・ビートを基調としたリズムも多用されている。ヒップホップ・リズムの影響というよりは、シンバル・ビートを重視したうえで、スネア・ドラムとバス・ドラムの言語に由来したリズムを使ってるって感じだ。ここでの目的はヒップホップの楽曲を再現することではなく、それを別の言語へと昇華させることだったからね。
ラップ曲を抽象化して、日常に寄り添うBGMへ
―選曲の基準なんですけど、NYのウータン・クランとア・トライブ・コールド・クエスト(以下、ATCQ)、ノトーリアス・B.I.G.、LAのドクター・ドレー、アトランタのアウトキャスト、フィラデルフィアのディゲブル・プラネッツ、ニューオーリンズのジュヴナイルと、各地のヒップホップを満遍なく選んでいます。
カッサ:それは別の思惑から出てきた副産物だった。こういうアルバムを作る際に、例えばATCQ、ディゲブル・プラネッツ、ギャングスター、DJプレミアみたいなジャズ寄りのヒップホップ・アーティストを選ぶのは安易だろ? ジャズとヒップホップを愛する人たちはコモンだとかJ・ディラだとか、ジャジーなヒップホップを思い浮かべがちだ。
―ですよね。
カッサ:でも、今回は(90年代の)ラップ全体を取り上げたかった。マニー・フレッシュがプロデュースしたジュヴィナイルの「Back That Azz Up」は、今回の収録曲のなかでも和声の面でもっとも先進的だった。あの曲にはちょっとしたコード進行があったし、しかもサンプリングではなく、オリジナル曲だったんだ。コンシャス・ラップや知性派ラップとは違い、露骨で過激なヒップホップって軽視されがちだけど、ATCQやウータン・クラン同様に音楽的価値があるんだよ。だからコンセプトとしては、「あらゆるタイプのラップ・ナンバーを集め、どの曲もジョン・コルトレーンのアルバムみたいに感じさせるようにする」ってこと(笑)。そんな感じで幅広いラップ・スタイルを選んだら、結果的に各地のヒップホップを網羅することになったんだよね。

Photo by Erik Bardin
―ここに収録されているヒップホップの原曲にはすべてラップが入ってますよね。あなたはラップもできるし、ラッパーをゲストに迎えることもできる。なぜそうしなかったのでしょうか?
カッサ:根本的な制作意図は、楽曲を「抽象化」することだった。そして、すべてインスト曲にしたのは「ラップ・アルバムを作らない」ためでもあった。そのために原曲から離れて、まったく異なる感覚の作品を生み出す手法を取ったんだ。
それと、BGM的に流しておけるようなアルバムを作ってみたかったのもある。これまでの作品の多くは、自伝的あるいは内面的な感情的な部分に時間を費やし、そういう聴き方を想定して制作した。でも、今回はBGMとして流しながら家の掃除をしたり、デート中に流したり、子供と遊びながら聴いたり、日々の生活の中で聴けるようなアルバムを初めて制作したんだ。そうなると歌詞ナシのほうが、人々の生活に寄り添えるだろうし。これはずっとやりたかったことなんだ。
―ただ今回選ばれた曲は、リリックがその曲の世界観に大きな影響を与えているものが多いですよね。そこはカバーに反映したんですか?
カッサ:一部のリリックに関してはそうだね。例えば「Nuthin but a ”G” Thang」(ドクター・ドレー)のような曲は、敢えて正反対のサウンドに仕上げたかった。その結果、原曲の歌詞とは結びつかない美しいバラードになった。「Back That Azz Up」(ジュヴィナイル)もそう。この2曲はヒネリを効かせていて、「えっ、あの曲がこうなったの!?」って驚かれるんじゃないかな(笑)。
あと、ディゲブル・プラネッツはゆったりした雰囲気でクールだよね。レイドバックしたサウンドの「Cool Like Dat」では、リリシストたちが感情のコントロールを完璧に保っているから、俺は敢えてアグレッシブかつアップビートなサウンドに仕上げた。これも原曲とは正反対の「反インスピレーション」的な曲といえるかな。
―「反インスピレーション」的ではないカバーもありそうですか?
カッサ:「C.R.E.A.M.」でウータン・クランが伝えようとした核心はスピリチュアルなものだったと思う。「金には囚われるな」的な内容だからね。俺はそこにコルトレーンのエネルギーに近いものを感じていたんだ。
ビギー・スモールズ(ノトーリアス・B.I.G.)の「Big Poppa」に関しては、あの楽曲形式と、楽曲に乗せたビギーの声に惹かれてきた。ビギーのラップは、ブラジル音楽のラブソングを彷彿させる。決して叫んだりはせず、まるで話しているようで、常にダイナミクスのコントロールができていた。その味わいはブラジル音楽とは全然異なるものだけど、ある意味で同じような要素があると思うんだ。
つまり、制作のプロセスとしては、原曲を聴き、そこからどんなインスピレーションを得て、何を想像するかが重要だった。そして、誰も想像できないようなアイデアを探って、その糸を引っ張っていくんだ。だから特定の1つの要素から影響を受けているんじゃなくて、もっと抽象的な感覚だね。和声、リズム、歌詞といったものを自分の頭の中で試行錯誤しながらアイデアを見出していった感じかな。
―そのなかで、なぜヒップホップの楽曲ではなく、ジャズ楽曲の「Freedom Jazz Dance」(※サックス奏者のエディ・ハリスが作曲)が冒頭を飾っているのでしょう?
カッサ:自然とこうなったんだ。「Freedom Jazz Dance」はよくライブでやってきた曲で、そこにバスタ・ライムズの「Put Your Hands Where My Eyes Could See」を混ぜたんだ。今回インスト・カバーを作るにあたっては、「Freedom Jazz Dance」の要素を前面に出すアレンジのほうが理にかなっている。でも、バスタの「クティ・ゴン・ゴン・ゴン…クティ・ゴン・ゴン・ゴン…」っていうビートの痕跡も残っている。
新作のトラックリストを決める際に、俺としては「Freedom Jazz Dance」を1曲目に配置して、ジャズの「門番役」にしたかった。ジャズ・アルバムとして「Freedom Jazz Dance」で始まり、そこからラップ・アルバムへと移行するって流れだ。でも、レーベルはそうすることに反対したんだよね。この曲に関してはいろいろ質問された。確かにストリーミングのことを考えると、原曲を知らない人もいるだろうし、飛ばされるかもしれない。でも、芸術的観点では、こうするのが理にかなっている。だから、俺は再生回数が少し減っても構わないって思ったんだ。自分が納得できる作品を作りたかったからね。
ジャズとヒップホップにはまだまだ溝がある
―ディゲブル・プラネッツのイシュマエル・バトラーによるラップは、ビートニク文学からも影響を受けた詩的で特殊なスタイルです。「Rebirth of Slick (Cool Like Dat)」には彼のラップも反映されているのでは?
カッサ:その通り。イシュマエルの放つラップのリズムの一部が、今回の楽曲アレンジに反映されているんだ。そもそもイシュマエルはジャズ通なんだよね。彼のラップを聴くと、マックス・ローチやマイルス・デイヴィスから、ハンク・モブレーのようなマイナーなところまで取り上げている。彼が熱狂的なジャズ・ファンであり、真のリスナーであることを俺は昔から知っていた。ちなみに、イシュマエルは俺たちのバージョンを物凄く気に入ってくれたんだよ。
―ジャズとの繋がりだと「Check the Rhime」(ATCQ)にはマッコイ・タイナー「Passion Dance」が接続されていますよね。
カッサ:その意図は2つ。まず、ヒップホップっぽいサウンドは避けたかったってこと。実は「Passion Dance」は(スウィングじゃなくて)ポケット感(=グルーヴ)がすごく強い。そのリズムもジャズの曲でやるなら許されるかなって思ったんだ。
あと、「Check the Rhime」の「♪ダラリ・ダドゥドゥ・ダドゥドゥ・ダッデ…」ってフレーズって「Passion Dance」っぽいと思わない?「♪ディピディ・ディップト・ダァー」ってほぼ同じリズムだしね。というわけで、「Check the Rhime」を聴いていたら頭の中で「Passion Dance」が聴こえてきたから、足したらいい感じになったってこと。多分上手く行ってるよね?(笑)
―「Passion Dance」の原曲はピアノがマッコイ・タイナーで、ドラムがエルヴィン・ジョーンズ。つまり、コルトレーンのバンドメンバーが演奏している曲です。今作はジョン・コルトレーンのカルテットとそのメンバーのサウンドが重要なインスピレーションと言えそうですか?
カッサ:そうだね。でもコルトレーンだけじゃないよ。「Nuthin but a ”G” Thang」「Big Poppa」「Back That Azz Up」のダイナミックな質感は、マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』や『Someday My Prince Will Come』、アーマッド・ジャマルの『At the Pershing: But Not for Me』、ユセフ・ラティーフの『Eastern Sounds』、コルトレーンの「Wise One」(『Crescent』収録)からも影響を受けている。コルトレーンからの影響は特に強いと思うけど、アルバム制作期間中はコルトレーンよりも『Kind of Blue』について語っていたような気がするね。
―アウトキャストの「SpottieOttieDopaliscious」はレゲエっぽくなってますね。
カッサ:原曲のベースラインが「ダデデドデ・ダダ・ダンダン」って感じで典型的なダブのベースラインなんだ。彼らはそれを少しヒップホップ風にアレンジしたけど、リム・ショットにディレイをかけていて、当時からレゲエの影響をさりげなく取り入れていた。俺たちのバージョンでのレゲエ的要素は自然と生まれたものだね。変拍子のパターンとマイナー・ブルースのジャズ・セクションの部分にこだわってアレンジしたら、自然とレゲエの部分が生まれた。アウトキャストの『Aquemini』は、おそらく俺の人生における名盤TOP5に入る。この曲は子供の頃から何度も聴いてきたから、俺の成長期に音楽的影響を与えたものなんだ。
―ジュヴィナイルの「Back That Azz Up」の原曲はニューオーリンズ・バウンスですが、この曲のカバーも変わったリズムで演奏してますね。
カッサ:5/4拍子にしたんだ。(デイヴ・ブルーベック・カルテットの)「Take Five」のドラムパートからリズムを拝借した。あの曲はジャズ史上もっとも人気のある5/4曲だから。ジュヴィナイルによる「Back That Azz Up」の冒頭では、四分音符を多用している。変な話だけど、どちらもまず休止から入って、後からリズムが来るんだ。つまり「ディン・ディン・ディン・ディー…ディン・ディン・ディン・ディー」って感じで、その後ビートがドロップされる。奇妙なことに「Someday My Prince Will Come」も同じ。だから何か共通点があると思ったんだ。かなり抽象的で飛躍したアイデアだけどね。 ―ジャズとヒップホップの関係は、この20年ですごく近くなったと思います。でも、ヒップホップ的なビートを演奏することはできるけど、多くの人がカバーする定番のヒップホップ曲は存在しない。つまり、ジャズにおいてヒップホップの曲はまだスタンダードにはなっていない。その意味でも、このアルバムは野心的な試みだと思うんですよね。
カッサ:それは興味深い意見だね。2025年発表のアルバムが「珍しい内容」なんて、面白い話だよ。ありとあらゆることがやり尽くされているはずなのに(笑)。明らかに誰かがやるべきことだったのに、まだ実現していなかったのも笑える。すでに何百もの作品があると思いきや、実際には存在しない。
―そうなんです。
カッサ:理由はわからないけど、長年ジャズの世界ではヒップホップが不当な評価を受けてきた。今はそれほどでもないけど、俺たちの出発点はそこにある。ヒップホップは「真剣な音楽」ではないと思われていた。たしかにヒップホップの和声的要素の多くは、おそらくそれほど挑戦的ではないと言えると思う。ヒップホップはポップな側の音楽だって捉えられてしまう。ほとんどのジャズ・ミュージシャンって、自分が演奏する曲を探す際に、複雑な和声で構成されたポップ・ソングから探そうとするよね。でも、それって怠惰なんだよ。どんな曲にでも自分で和声は付け加えられるんだから。だから、俺たちはかなりシンプルな曲からレパートリーを探したんだ。
それに、ジャズ・ミュージシャンがヒップホップと交わる際には、お決まりのパターンがあるよね(苦笑)。ジャム・セッションに行ったときに、バラードやジャズ曲でもラップをすることがある。すると、俺がマイクを握った途端になぜかドラマーがディラっぽいビートを叩き始めるんだ(笑)。俺としては「おいおい、シンバル・ビートでラップさせてくれよ。今までと同じ感じでドラム演奏してくれよ」って思うんだけど(笑)。ジャズとヒップホップの間にはそういう溝がまだまだあるんだよ。
―僕はこのアルバムを聴いたとき、ここでカバーしたヒップホップの楽曲を、ジャズ・ミュージシャンがセッションで演奏できるようにリード・シート(簡単な譜面)にしたらいいんじゃないかって思ったんです。そのうちリアルブックにヒップホップの曲が入るきっかけになるんじゃないかなって。
カッサ:それはいいアイデアだね。実は、友達が先日スモールズで「C.R.E.A.M」を演奏したんだ。彼らは俺のバージョンを覚えてカバーしたんだけど、観客がすごく気に入ってくれたみたい。君のアイデアはメモっておくよ、儲かりそうだし(笑)。
―今回のアルバムに収められている曲は、どれも5分前後の短いアレンジで、ソロもコンパクトですよね。ライブで披露する際、演奏やアレンジはかなり変化するのでしょうか?
カッサ:今回のツアーでは、『CREAM』の1曲目から順番にアルバム全曲を演奏するつもり。10月のジャパン・ツアーもそう。過去にそういうセットリストを組んだことはないから初めての経験だね。ただ、予定が変わる可能性もある。毎晩演奏するうちに、もっと楽しい形を見つけるかもしれないし。どの方向に進むかはオープンでありたいからね。
『CREAM』に収録された曲順やアレンジには多くの意図があるけど、その枠組みの中でユニークな演奏は十分可能だと思う。例えば、新しいソロを入れたり、セクションを長くすることもできる。状況次第だね。会場で観客が俺たちに与えてくれるものが音楽的アプローチに影響を与えることもありえるわけだし。

カッサ・オーバーオール
『CREAM』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15237

カッサ・オーバーオール来日公演
2025年10月8日(水)・9日(木)・10日(金)
ブルーノート東京
詳細:https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kassa-overall/