2012年に結成された、名古屋を拠点に活動する鈴木実貴子(Vo./Gt.)とズ(高橋イサミ/Dr.)による2ピースロックバンド・鈴木実貴子ズが、インディーズ時代の楽曲を再録したミニアルバム『瞬間的備忘録』を9月24日にリリースした。

本作には、インディーズ時代の楽曲を2人編成で改めてレコーディングを行なった音源が5曲収録。
いまでもライブで演奏することの多い色褪せることのない楽曲たちをジップロックした、まさに瞬間的備忘録というタイトル通りの作品となっている。

2024年10月に日本クラウン・PANAMレーベルよりメジャーデビュー、2025年には、3年振りとなる「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演するなど、活躍の舞台を広げつつも、アコースティックギターとドラムというミニマムな編成で、社会や生活に対する強烈な歌詞を力強いヴォーカルで歌い続ける彼女たち。その変わらぬ芯の部分を改めてパッケージした本作について、2人にじっくりと話を聞いた。

―『瞬間的備忘録』には、インディーズ時代の楽曲5曲が改めてレコーディングされ、収録されています。選曲はお2人でされたんですか?

実貴子:最初に2人で10曲くらい選んで、その中から日本クラウンのレーベルスタッフが「これがいいんじゃない?」って5曲を選んでくれた感じですね。

―最初に選んだ10曲は、どういう基準で選んだんですか?

ズ:基本は「今でもライブでやっている曲」ですね。気持ちが変わったり、お客さんの反応でやらなくなる曲も増えていくけど、昔からずっとやっている曲を10曲選びました。

―ライブベストに近い選曲だったんですね。ちなみに、普段のセットリストはどう決めているんですか?

実貴子:セトリを決めるのって、本当に難しいよね。

ズ:あなたが言う(笑)? ほぼ全部、僕です。決めたら決めたで、「この曲はやりたい」って後から言われて。その曲をやるなら流れ的にここに入れなきゃ、とか最終的に調整して再提出しています。


実貴子:私はセトリを決められない人なので……。

ズ:例えば僕が「この曲やろうよ」って言っても、「いや、今は歌えない」ってなることもあるから、結局、今歌いたい曲、歌える曲が中心になるんです。

―もともと決めていたセトリが当日に変わることもありますよね?

ズ:直前に変えることは、めっちゃあります。お客さんの様子を見たり、リハで試したりして、「やっぱりこっちの方がいいんじゃない?」って変わることもあるんです。

―その中でも、特にやることが多い曲の共通点はあるんですか?

実貴子:変化がない曲、ですね。変化がないからこそ歌える。

ズ:逆に変化して、数年間歌わない時期がある曲もあるよね。数年経って「今ならまた違う気持ちで歌えそう」とか「もう1回あの気持ちに戻って歌えそう」って思える時もある。

―以前、インタビューで「曲を生み出すのは排泄に近い」って話をされていましたよね。改めて当時の曲をレコーディングしてみて、排泄に近い感覚はあったんでしょうか?

実貴子:ずっと歌っているから、あまり変わらないですね。

ズ:まだ「排泄」のまま、ってことかも。結局また同じことを感じるターンが来るんだよね。
同じような場面があって、また「情けないな」って思った時に、「今のこの気持ちはこの曲だな」って。

―まさに”再排泄”というか。

実貴子:そう(笑)。だから、あまり自分って変わってないのかもしれない。

―今回の5曲はリリースされた時期もそうですし、それぞれ心情が違いますよね。「あきらめていこうぜ」は、2019年の1stアルバム『現実みてうたえよばか』に収録された曲です。どういう心情で生み出された曲なんでしょうか?

実貴子:正直、昔すぎて、最初の気持ちは全く覚えてなくて。ただ、<RISING SUN ROCK FESTIVAL>で演奏した時の記憶がめちゃめちゃ残っていますね。0から1でできた時の気持ちはもうないかもしれないけど、ずっと共感できているんです。

―<RISING SUN>のライブは、どういうステージだったんですか?

ズ:大抜擢で、めちゃくちゃ大きいステージだったんです。しかも、コロナの影響でステージ数が減っていた中で、僕らがメインステージのひとつにトップバッターで立たせてもらったんですよ。だからこそ「期待に応えなきゃ」っていうのを全部忘れて、諦めて、自分たちをそのまま出していこうっていう気持ちで臨みました。


実貴子:期待に応えようとしたって無理だし、1回全部忘れて、「自分にしかなれないしな」っていう感じだったよね。

鈴木実貴子ズが語る、インディーズ時代の楽曲を「今」歌う理由

鈴木実貴子

―この曲は、「光や暗闇の中でも進んでいこうぜ」というポジティブな印象があります。僕は、2ndアルバム『外がうるさい』(2020年4月)リリース時に初めて取材させてもらったんですけど、同作は「死」をテーマにした曲が中心で、1stとだいぶ印象が違いますよね。

実貴子:かもしれないですね。

ズ:『外がうるさい』から『泥の滑走路』って、俺の中ではダーク期なんですよ。

実貴子:確かに。

ズ:「あきらめていこうぜ」も、想像だけど、数年やってきて、ぐちゃぐちゃ文句も言った上で「最終的に一回ここだな」っていう覚悟というか。

実貴子:一旦の区切りとしての、自分なりの答え、みたいな感じだよね。

ズ:規模は小さいなりに、結論みたいな感じ。そのあとにまた落ちていくんですけど(笑)。

実貴子:コロナとかもあったしね。

鈴木実貴子ズが語る、インディーズ時代の楽曲を「今」歌う理由



―まさに「都心環状線」が収録されている『外がうるさい』はコロナ禍でのリリースでした。
この曲はライブ曲になっていますよね。

ズ:曲自体で言ったら、「あきらめていこうぜ」と同じくらい古いんです。2ndにはライブ録音を入れただけで、実際は結成して2、3年目くらいにできた曲ですね。

実貴子:鈴木実貴子ズとして初めてライブをやったのが、京都のライブハウスだったんです。キャパは60人くらい。でも名古屋から何度通っても全然集客が増えなくて。

ズ:うちらは京都でそこのハコにしか出てなくて。しかも、年に4~5回は行っていたから、10年間で5、60回は通ったんじゃないかな。この前のアルバム『あばら』のツアーファイナルも京都でやったけど、ギリギリソールドしなかったくらい。もう何十回も行っているから、いよいよナビに目的地も入れなくなって(笑)。いつも名古屋の「都心環状線」って標識を見ながら行っているんです。

実貴子:ずっと同じところを回っているなって感覚。
バンド活動そのものがね。

ズ:だから、本当は今歌っちゃいけない曲なんですよ。

実貴子:そう。歌っちゃいけないんだけど、歌えちゃっているのが現状。だから「初心を忘れないぞ」じゃなくて……。

ズ:まだその状況にいるぞ、っていう。もちろん東京とかでは規模感が変わって、手応えを感じる場面もあるんですけど、この曲に関してはずっと同じ場所のイメージで、ぐるぐる繰り返している感覚がある。

―「正々堂々、死亡」は、3rdアルバム『泥の滑走路』(2021年6月)に収録されている曲ですが、どういう状況や感情の時に作ったんでしょう。

ズ:『泥の滑走路』の頃が一番のコロナ禍で……これ言っていいのかわからないけど、鈴木実貴子の”苛立ち期”だったんですよね。

実貴子:そうだね。

ズ:不満というか、不安しかなかった時期。そういうイライラの中で、「あきらめていこうぜ」にもちょっと近いけど、最終的に辿り着いた結論みたいな曲というか。
当時と今では歌う意味合いが違うけど、その頃は単純に「自分はこうするぞ」っていう気持ちだった、って言っていたよね?

実貴子:うん。何があっても自分が最後に”正々堂々、死ねた”って言える人生にできたら、それでいいっていう。

ズ:当時は、世の中と違う決断をしたら省かれるというか、方向性を合わせなきゃいけない風潮があった。僕らはそれが窮屈で。だから「嫌なことは嫌」「納得できないことはやらない」「反発することは反発する」っていう姿勢を貫けば、最後はちゃんと”正々堂々、死亡”できるんじゃないかって。そうしたいっていう曲でした。

実貴子:大変だったよね、その時期。まだお店をやっていて(※名古屋のライブスペース『鑪ら場』を経営)、「マスクをいつする/しない」とか、「マスクしたくないって人が来たらどうするか」とか。大きな会場ならルールを統一して主催が決めればいいけど、個人店だと自分の判断でやらなきゃいけなくて。直接「俺はしたくない」って文句を言われたりもして、本当にいろんなことを感じました。

ズ:全部のお客さんが大事だけど、同時に「全部のお客さんを大事にすることはできない」っていう現実もあったしね。

―この曲は、「あきらめていこうぜ」に近い、ニュアンスがありますね。考えきった先にもうやるしかない、というか。

実貴子:でも、両方ともポジティブなんですよ。「あきらめていこうぜ」と「正々堂々、死亡」は。ちょっと投げやりポジティブかもしれないけど(笑)。

―そして「坂」と「夕やけ」は、4作目『最終兵器は自由』(2022年9月)に収録されています。比較的最近の曲ですが、この2曲はどういうふうに作られたんですか?

実貴子:「夕やけ」は、未来に対する不安が大きすぎて。投げやりかもしれないけど、とにかく今だけを見る、でも今は未来に繋がっているんだからって気持ちからできた曲ですね。

ズ:今思い出したけど、この時期、ちょっと自己啓発的なものにハマっていたよね?

実貴子:そうそう、ハマってた(笑)。

ズ:マインドフルネス的な。「今に集中して不安を消す」みたいなのがあって。それに頼ろうと思った時期でもありました。正解とは言わないけど、1つの方法だなって。

―「坂」も、同じ時期に作ったんですか?

ズ:同じ時期ですね。ただ「坂」はアルバムには実貴子ソロで入っているんです。アルバムの最後に弾き語りの”おまけ曲”を入れることが多くて。これは2人ではやらなかったけど、この人(実貴子)には「没にされた」ってよく言われて(笑)。

実貴子:今回、クラウンが最初に10曲を選んでくれた時に、別で「これやってみたら?」って言ってくれたんです。

ズ:そうだ。この曲だけは僕らが最初に「やりたい」と出した曲には入ってなかったんです。

実貴子:2人で前にもやったことあったけど、その時はしっくりこなくて。でも今回やってみたら意外とできちゃって。

ズ:しかも良かったんだよね。

実貴子:そう、よくできた。他人の意見って大事だなって思いました。タイミングも含めて。

ズ:レコーディング直前に、「ドラムをつけて収録してください」ってなって。急造でやったわりには素直にいい形でまとまった。自分たちも「すごいいい曲だな」って思えた。これだけ例外的な経緯の曲です。

―今回DVDに収録されているリリースツアー「あばら」のツアーファイナルである下北沢SHELTER公演でも演奏されていましたよね。

ズ:やり始めてみたらすごく良くて。「ライブでもやったらめっちゃいいじゃん!」ってなったんですよね。

実貴子:うん。結果的に、結構大事なポジションの曲になったよね。

ズ:昔は共感できなかったんですよ、この曲。

実貴子:歌詞に共感できないから「やらない」って言っていたよね。でも数年経って、うちのレベルが追いついたというか。成長の証かもしれないですね。

ズ:……。無言のニュアンスも書いておいてくださいね(笑)。

鈴木実貴子ズが語る、インディーズ時代の楽曲を「今」歌う理由


―あははは。ズさん的に、当時は共感できなかった?

ズ:この曲は、2人で出たライブイベントの途中、実貴子さんが嫌になって1人で抜け出した時の情景を歌った曲なんですよ。

実貴子:そう。イベントの途中で外に出て、自販機の前でカフェオレを飲みながらイベントが終わるのを待っていたことがあって。でもこの人(ズ)はイベントを普通に観ていて。

ズ:俺は普通に楽しく観ていたから、多分その気持ちが全然わかってなかったんですよね。でもどっかで、俺もあなたと同じステージに上がったのかもしれない。わかったような気もするし、やっぱりまだわかんない気もする。

実貴子:上がったんじゃなくて、私のほうに降りてきたのかもしれないしね(笑)。

―(笑)。でも、今は、その歌詞に関して共感できる?

ズ:めちゃくちゃ共感できますね。なんで当時はわからなかったんだって、逆に思います。

―<ライクアローリングストーン ふざけんなよ転がり続けてこのザマさ>という歌詞がいいですよね。転がり続けることを良しとする風潮に対して、「転がり続けてこのザマさ」という視点がすごく共感できるなと思って。一番耳に残るフレーズでした。

ズ:俺もそこめっちゃいいと思っています。

―2人の最小限編成で録るというのは、今回のテーマでもあったんですか?

ズ:そうですね。自然と「2人がいいんじゃないか」ってなって。

実貴子:メジャー1stアルバム『あばら』はバンド編成の音だったけど、実際のライブは2人編成が多いから。

ズ:音源はライブとは別物だけど、バンド編成の音源を聴いてライブに来た人は、「違う」と思うはずで。今回は、ライブに、より近いものになったんじゃないかなと思います。

実貴子:あと、歌詞をちょっと変えています。「坂」は、以前は<答えは無いと聞く>だったけど、今回は<答えは無いと知る>に。あと、再録してみて、少しは上手くなったなって思えたというか。ほんのちょっとだけど、前よりできるようになったなって思える部分があったのは嬉しかったですね。

―レコーディングは、2人で一緒に「せーの」で楽器録りするんですか?

ズ:基本は「せーの」ですね。ボーカルだけ、別録りで。別々に丁寧に録った方が絶対に直しやすいんですけどね。でもめんどくさいし、結局2人で合わせた方がいい。

実貴子:本当にそう。クリックを聴きながらやるんですけど、クリックからズレていても、2人の演奏は合っているんですよね。呼吸の間が合うから、歌も入れやすくなる。

―テイク数は、結構録る?

実貴子:最大で2回くらい。3回行ったことはほぼない。

ズ:1回録って、「一応もう1回いきますか」って2回目を録る程度。大体ワンテイクです。そのまま使うことも多い。パンチインとかもほとんどしないし。

実貴子:本当にないよね。歌も2回くらいかな。多くても3回。

ズ:だから、周りと比べると、レコーディング時間はめちゃくちゃ短いと思います。

実貴子:時間をかけすぎると、テンションが下がってくるんですよ。特に声は。元気がない声って、すぐにわかる。録っていても「今のはうまいけど元気ない」って。

ズ:レコーディングも同じですね。やっぱり新鮮な方がいいのかなって思います。

―ジャケットも、今までと雰囲気が違いますよね。

実貴子:これは、デザイナーさんからのアイデアで。アニメーターの青木健一郎さんに『瞬間的備忘録』っていうタイトルと音楽も聴いてもらった上で、「瞬間の美しさをワンカットで切り取る」っていうテーマで提案していただきました。私たちが歌っているのはすごく現実的なことなのに、ジャケットは「ロボット製作所」みたいなテーマで、みんなでロボットを作っている。実貴子ズの音楽の中身とはちぐはぐなんだけど、それが面白いなと思って採用しました。

鈴木実貴子ズが語る、インディーズ時代の楽曲を「今」歌う理由


―イラストもそうですが、色合いも独特ですよね。

実貴子:優しい感じですよね。

ズ:2人編成なのに、周りに人がいるのも違和感あると思うんです。でも、自分たち的には、打ち合わせの時に「レーベルや事務所など、関わってくれている人、聴いてくれる人たちも含めてチームなんだよね。」って話が出て。

実貴子:そうそう、チーム感っていうか。

ズ:ただ、このイラストの世界では絶対チームじゃない人もいる。そこも含めて、ちょっと影の意味を持たせているのが面白いなっていう話になったんです。

―変わらず多くのライブが続いていきますが、12月13日(土)には東京・鶯谷 ダンスホール新世紀で、ワンマン「危機一発」を開催します。会場はかなり広い場所ですよね。

ズ:下見もさせてもらったんですけど、絶対埋まらないだろうなって(笑)。でもだからこそ、やりたいって思ったんです。

実貴子:ほんとに「危機一発」だよ。どうなるんだろう。

―今年のフジロックを見ていても、場所の大小じゃなく、鈴木実貴子ズのライブは、どこでも同じ熱量と向き合い方だなと思いました。

実貴子:小さい場所も大事ですし、そこはそうですね。でも年末ワンマンは、この一年の締めになるライブになると思います。

―気は早いですが、来年はどんな年にしたいですか?

ズ:アルバムを出して、またツアーを回りたいですね。

―今後生まれる曲は、今回収録されたインディーズ時代の楽曲とはまた違ったものになりそうですか?

ズ:レーベルの担当者からは「違う曲を」って言われています(笑)。でも実際は、同じような曲を書いてしまうんですよね。だから色々悩みながら作っています。

実貴子:だから、いまも悩み中だよね。

<リリース情報>

鈴木実貴子ズ
ミニアルバム『瞬間的備忘録』(CD+DVD)
2025年9月24日(水)リリース
CRCP-20616 / ¥5,000(tax in)
=収録曲=
1. 坂
2. 都心環状線
3. 夕やけ
4. 正々堂々、死亡
5. あきらめていこうぜ

【DVD収録内容】
・2025年6月28日「あばら」ツアー ファイナル@下北沢SHELTERライブ映像
・ライブ当日の鈴木実貴子ズを追ったドキュメント映像

<ライブ情報>

ワンマンライブ「危機一発」
2025年12月13日(土)東京・鶯谷ダンスホール新世紀
VINTAGE ROCK:https://vintage-rock.com/artists_events/suzukimikikozu/
鈴木実貴子ズ Official HP : https://mikikotomikikotomikiko.jimdofree.com
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