リトル・ミックスのメンバーとして知られるジェイド(JADE)のソロ・デビュー・アルバム『THAT'S SHOWBIZ BABY!』が大きな話題を集めている。ポップシーンの新星としてソロとしての地位を加速させている彼女の現在地を、ライター・辰巳JUNKに解説してもらった。


人気グループ出身者のソロデビューというのは、特別な緊張感をともなうものだ。ヒットを出してさらに上昇するのか、それとも意外な個性を魅せてくるのか? かのマイケル・ジャクソンからLOONAのYvesまでつづく一大イベントと言える。

今年、ひときわ評価を集めたソロデビューといえば、元リトル・ミックスのジェイドだろう。「アイドルは本物のアーティストではない」といった偏見も受けてきた身として、ソロになるやいなや作曲家を対象とするアイヴァー・ノヴェロ賞の候補に。さらに母国イギリスを代表するブリット・アワードも受賞し、グループ時代「お門違い」として縁がなかった名門グラストンベリー・フェスティバルにも出演を果たした。

なにより、このたびリリースされたアルバム『THAT'S SHOWBIZ BABY!』は、歴代ソロデビューの中でも有数の衝撃作だ。「これぞ芸能界」というタイトルのもと、世界有数のグループとして経験した誇りや屈辱が渦巻いている。

リトル・ミックスのジェイドが大躍進、ソロデビュー作で歌う芸能界の愛憎劇とは?


TWICEへの楽曲提供でも知られる実力派、ジェイド・サールウォールは1992年、イギリス北部の小さな町の生まれ。多様な音楽を聴くアラブ系一家のなか、母親に似ているダイアナ・ロスに憧れて育った。元々ソロ歌手を目指していたというが、2011年、10代としてオーディション番組『Xファクター』に参加したことをきっかけにリトル・ミックスを結成することとなった。

当初こそ同僚ワン・ダイレクションの「妹分」と呼ばれたりしたリトル・ミックスだったが、力強い歌唱とガールズパワーの魅力によって独自の人気を確立。約10年の活動期間での売上は7,500万枚。
ガールズグループとして、憧れのダイアナ・ロスが所属していたスプリームスに次ぐ歴代3位となる記録だ。

グループが活動を休止したのは2022年。メンバーの脱退や妊娠がつづき、コロナ禍で環境が変わったことが契機になったという。仲間との激務生活から一転、落ちついたライフスタイルを手に入れたジェイドは、2年間を自分探しにあてた。

グループ時代の共作者マイク・サバスらと取り組んだ目標は、最新チャートを聴かず、TikTokやラジオでの人気も気にしない曲づくり。とくにソロデビュー曲に関しては「普通に良い曲と思われること」こそ最悪の展開とした。

〈私が泣いても、死んでも気にしない、あなたが気にするのはお金だけ〉〈もし勝てなければゴミ扱い〉
(「Angel of My Dreams」)

お目見えしたデビュー曲「Angel of My Dreams」は、またたくまに世界中のポップリスナー、そしてアイドルファンに衝撃をもたらした。〈サイコに魂を売った〉とまで歌いあげる絶望的な内容が「グループ時代の音楽業界の闇」の告発だと考察されていったのだ。

ミュージックビデオで描かれるのは、夢見る少女が音楽業界に認められてスターになるものの、すぐ次の新人に取って代わられてしまう残酷なサイクル。強欲な男性プロデューサーのキャラクターは(リトル・ミックス「Not A Pop Song」でも名指しされた)グループの生みの親、サイモン・コーウェルとも噂されている。

ただし、つらく悲しいだけの作品にはなっていない。「ずっとあなたを愛している」という告白で幕を閉じるように「Angel of My Dreams」とは、自分を傷つけながらも夢を叶えてくれた業界への愛と憎、その両方を認める曲なのだ。


愛憎こそ、このアルバムの面白さでもある。多くの曲が恋愛や葛藤にまつわるポップソングとして成立しているが、同時に、アーティストと芸能界の複雑な関係ともとらえられるのだ。

たとえば「Plastic Box」は恋人を箱の中に閉じ込めたいと願う内容だが、ビジュアル版では、むしろアイドルとしてのジェイドが「展示品」として愛でられる状態が浮かびあがる。

ショービズと愛をめぐる旅路

「私の作品やビジュアルのほとんどはショービズがテーマ。業界のダークなトーンや『人生で何が起ころうとショーを続けなければいけない』思想。それこそ、14年間活動してきて感じてきたことだから」(ジェイド

業界人による容姿統制を拒絶するラップポップ「IT girl」にも登場するアルバム題『THAT'S SHOWBIZ BABY!』とは、現場で使われている慣用句。たとえば、機材故障によって撮影が止まってしまった時「これが芸能界さ」という風に発して場を和ませるユーモアであり処世術でもある。これと同様に、アルバム自体も、つらい経験すら「ショー」にしてみせる魂が貫かれている。

かつて舞台美術の道も考えていたというだけあり、ジェイドの「ショー」は、ビジュアルあってこそ。RAYEと共作した喧嘩ソング「FUFN (Fuck You For Now)」のミュージックビデオでは、作り笑顔だらけの授賞式で勝利に歓びながら大切な恋人を失ってしまう映画さながらの展開だ。

自暴自棄をテーマにしたシンセポップ「Self Saboteur」ビジュアライザーでは、TikTokビデオの撮影がどんどん悪化していく様、それを延々見てしまう視聴者という馴染みやすいモチーフで惹き込む。

「フランケンシュタイン・ポップ」と名づけられた音楽性は、先輩UKグループ、ガールズ・アラウドの名曲を手がけたゼノマニアの手法をもとに、ジェイド自身が好きな音楽をつなぎ合わせるマキシマリズムだ。


グラムディスコ「Fantasy」はまさにモータウン。「Unconditional」はドナ・サマー流ながら、ロックバンドMGMTを意識したギターが合流していく。

「Headache」も異彩を放つ。ニュー・ジャック・スウィング調で月経中の頭痛に悩まされる荒々しい状態が表現されていくが、最後には「そんな自分でも愛してもらえる幸福」によってオペラ調の昇天を遂げる。

つづく轟音バラード「Natural at Disaster」は、グループ時代に培われた歌唱技術を知らしめる逸品だ。

なにより感動的なのは、成功を卑下してしまう「Glitch」を経た「Before You Break My Heart」だろう。ここで挿入されているのは、ジェイドの原点たるダイアナ・ロスが在籍したスプリームスの名曲。ただし、サンプリングされている音源そのものは、母親が録音していた幼少期のジェイドの歌声となっている。

〈去ったりしないで どうか愛の名のもとに〉と懇願する名歌詞は、少女時代の自分と再会してステージへ向かうビジュアライザーを通して聴くと、どんなにつらいことがあっても音楽愛を忘れない宣言として響く。

ビジネスから恋愛まで、さまざまな愛を描いた『THAT'S SHOWBIZ BABY!』のテーマとは「自分自身で責任を持つこと」だという。つまり、このアルバム自体、子ども時代からグループ活動、そして立派なソロ歌手になるまでの旅路を描いている。

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終幕を飾る「Silent Disco」は、恋人と二人きりの世界に浸るラブソング。
この曲にしても、アルバムのコンセプト上、アーティストとショービズの関係として聴くことができる。もしくは、ジェイド・サールウォールとファンの絆かもしれない。「あなたが私を必要としてくれるくらい、私もあなたが必要」──そう歌われるように、観客なくして「ショー」は完成しないのだから。

リトル・ミックスのジェイドが大躍進、ソロデビュー作で歌う芸能界の愛憎劇とは?

JADE|ジェイド
『THAT'S SHOWBIZ BABY! |ザッツ・ショービズ・ベイビー!』
2025年9月12日リリース
再生・購入:https://jadejp.lnk.to/ThatsShowbizBaby
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