ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)が再び日本にやってくる。Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPANへの出演(9月27日)に加え、日本武道館(9月24日)と大阪城ホール(9月25日)にて単独公演も開催される。


今回注目すべき、彼女が2024年の最新アルバム『Visions』を携えて、特別なパフォーマンスを聞かせてくれること。サーシャ・ドブソン、サミ・スティーヴンスという二人のボーカリストを従えた新編成が、日本で初お披露目される。今回の来日に合わせて、最新ライブ音源を追加した日本企画盤『Visions(Japanese Edition)』がリリースされた。大胆な実験が行われたスタジオ録音がライブでどう再現されるのかを確認することで、ノラの音楽性が立体的に浮かび上がる。

さらに直近では、ジョン・レジェンドとコラボレーションした新曲「Summertime Blue」もリリースされている。ノラが夏をテーマにしたメランコリックな佳曲で、ファンにはたまらない一曲になっている。

普段の取材ではそれほど饒舌に語る印象のない彼女だが、今回のライブについての語り口には圧倒的な熱量があった。そのおかげで、来日公演に向けた予習にふさわしい言葉を読者に届けることができた。

ジョン・レジェンドと作り上げた「夏の曲」

―ちょうど先日、リオン・マイケルズことEl Michels Affairにもインタビューしたばかりです。あなたは『24 hr sport』に参加してますよね。

ノラ:そう、彼のニューアルバムがちょうど出たばかり。私も1曲歌っていて、あのアルバムは素晴らしい一枚。
彼は最高。

―同感です。まずはジョン・レジェンドとの新曲「Summertime Blue」を作ったきっかけを聞かせてください。

ノラ:あれは本当に楽しかった……。今、友人であるグレッグ・ワッテンバーグと、とあるプロジェクトをちょっと始めていて……まだ始まったばかりなんだけど。で、グレッグはジョンとも仕事をしてるので「じゃあ3人で会おうよ」と彼が提案してくれたのがきっかけ。ほんと、たまたま流れでそうなっただけ。でも楽しかった。ジョンのことは昔から大好きだったのに、なぜかこれまで会う機会がなかったから。

―「Summertime Blue」はもともとあったアイデアなのですか? それともジョン・レジェンドの存在ありきで書いた曲なんですか?

ノラ:最初にコラボのアイデアを言い出したのはグレッグ。実際に「じゃあ何かやろう」となってから、グレッグが曲を書き始めた。私はその曲を仕上げるのを手伝ったという感じ。
ジョンも一緒に仕上げてくれた。だから「とにかく何かをやろう」というところから、生まれた曲と言っていいと思う。

―あなたにとってジョン・レジェンドってどんなアーティストですか?

ノラ:何事にも素直で、自然体な人だし、素晴らしいミュージシャン。個人的にも尊敬している。社会的な活動にも関わっているし、経済的にも大成功してるしね(笑)。

―ジョン・レジェンドの作品で、特に好きなものがあったら教えてください。

ノラ:『Get Lifted』(2004年)に収録されてる「Ordinary People」。余計なものが一切ない、美しい曲。当時は大掛かりなプロダクションの曲が多かったから、余計そう感じたんだと思う。彼を知るのに最高の一曲だった。

―「Summertime Blue」はグレッグが書き始め、あなたとジョンが仕上げたということですが、クレジットを見ると、ジェシー・フィンクという方も参加してますよね。

ノラ:ええ。
彼はグレッグの友人で、私は直接知らない人。グレッグが「Summertime」に続く言葉を見つけられずにいた時、意見を求めたら「Summertime Blueは?」と彼が言ったらしくて。

―その「blue」という1ワードでクレジットされたわけですね?

ノラ:そう。それは当然のこと。

―グレッグとの仕事のきっかけは、まだ喋れないですか?

ノラ:今まさに進行中のプロジェクトなんだけど、まだ話せることは何もないかな(笑)。でももし実現したら、すごくクールなプロジェクトだっていうことだけは言える。途中でダメになっちゃうかも知れないけどね。でも、これをきっかけにグレッグとは友達になれた。彼はすごく仕事がしやすい人。

―『Visions』のインタビューの時、すごく高いキーが頭の中で聴こえてきたから、そのキーで歌ったという話をしてくれました。でも、「Summertime Blue」もすごくキーが高くないですか?

ノラ:というか、低いところと高いところ、全部がいっしょくたに入り混じってる!Vevoでのパフォーマンス用にジョンとライブで歌ったんだけど、入り組んでいて、本当に大変だった。パート分けをしてライブで歌うには、これまでやった中で一番難しい曲じゃないかな。
お互いにパートを回し合いながら、低く下がったり、高く上がったり……あっちこっちに行くから(笑)。

―「Summertime Blue」はちょっと懐かしい感じの手触りのあるサウンドですが、『Visions』とは少し違うタイプの懐かしさを感じます。どんな感じにしようと思ったのか聞かせてもらえますか?

ノラ:どこか懐かしい夏の感じが出せたらと思い、ストリングスは少し古っぽい感じにした。過ぎ去った記憶を歌っているかのような……そんな感じを出したくて。

―その記憶とは、どんな記憶?

ノラ:実際には叶わなかったけど、もし叶ったなら良かったなと思う愛の記憶、みたいな感じ。そういう雰囲気を出したかった。

―レコーディングはどういうスタジオで行ったのですか?

ノラ:大半はグレッグのスタジオ。ショーン・ペルトンがドラムを叩き、私のバンドのベーシストのジョシュ・ラタンジがベースを弾き、グレッグがギター、私がピアノを弾いた。後から、私がオルガンとヴァイブを加え、ストリングスはリモートで録音したもの。全部グレッグのスタジオでね。

―グレッグのスタジオはどんなスタジオなんですか? リオン・マイケルズみたいにこぢんまりしたアットホームな感じ? それともハイエンドなスタジオ?

ノラ:その両方かな。スタジオ自体はアットホームで、ドラム用の小さなスタジオもあるんだけど、機材的にはハイエンドな機材を備えている。
それでいて、落ち着ける感じ。決して大きくて派手なスタジオっていうんじゃない。

―これまで「Wintertime」や「December」、数々のクリスマスソングなど、よく冬の曲を書いてきましたよね。そんなあなたが夏の曲を書くのは珍しい気がします。

ノラ:言われてみればほんとにそう! グレッグがフックの部分を書いたんだけど、(その時点で)あったのは「summertime, summertime, summertime…」というあの最初の部分だけ。だから、あそこから曲を仕上げていっただけ。

―意識して夏の曲を書いたわけではないと?

ノラ:そう。正直、私って変なのかもしれないけど、夏があまり好きじゃない。大抵の人は夏が好きって言うんだろうけど、私は冬が好き(笑)。たぶんテキサスで育ったからなんだと思うけど、あの暑さにもううんざり。個人的には夏は苦手!

―(笑)でもすごく涼しげな曲で、こういう曲をファンは待っていたと思います。

ノラ:だったらよかった。
夏が嫌いだから、夏はどうしてもメランコリックな気分になっちゃう。

ハーモニーへのこだわりと進化するライブ表現

―ここからは来日公演に向けて、ライブの話を伺いたいです。去年リリースした『Visions』の多くの曲はリオン・マイケルズのスタジオで二人で演奏しながら、それを編集して作ったもので、バンドで作ったものではありません。それをライブでのバンドのためにアレンジし直す作業はどんなものでしたか?

ノラ:これまでにないくらいリハーサルをした。基本的に私はあまりリハが好きじゃない。ミュージシャンがその場の雰囲気でインプロヴァイズしてくれるのが好きだし、シンプルな曲が好き。でも、今回はハーモニーがとにかく複雑で入り組んでいた。幸い、サーシャ・ドブソンとサミ・スティーヴンスという素晴らしいシンガーが二人いたおかげで救われたけど。サーシャとは大昔からずっと一緒にやってきて、まるで姉妹のような関係だし、新たに加えた第3パートはサミが担当してくれた。二人とも、その挑戦に意欲的に取り組んでくれた。でも、あんなにリハーサルで合わせたのは、これまでになかったことかもしれない。

―2012年の『Little Broken Hearts』も『Visions』と同じように非バンド的な作品です。『Little Broken Hearts』と『Visions』に収録された曲では、ライブ用にアレンジする際に違いはありましたか?

ノラ:『Little Broken Hearts』の時も、ものすごくリハが必要だった。でも今回の方がさらにハーモニーが複雑で、まったく別レベル。誰が高音パートを歌って、誰が低音を歌うか、そしてそれをどうスイッチするか。パートによっては4~5人分のボーカルがあったりしたから、それをどう割り振るか……『Little Broken Hearts』もかなりリハをしたけど、今回の比じゃなかった。

―原曲のハーモニーが特殊だから、全員歌えるメンバーが揃ったことが、今回のツアーの特徴でもあると。

ノラ:ええ、その通り。そこが素晴らしい点。ブライアン(・ブレイド:Dr)もジョシュ(・ラタンジ:Ba)も、色々なところで声を重ねられる。私にとって、ハーモニーは昔から大好きな要素だった。過去のバンドでも必ず歌える人を入れてたけど、女性ボーカルにここまでこだわったのは初めてかも。女性だけの声って、またちょっと違う、特殊なサウンドだと思うから。

―二人がどんなシンガーか説明してもらえますか? まずはサーシャ・ドブソン。

ノラ:サーシャは一番付き合いが古い、大親友の一人。出会った時、お互い20歳で……サーシャとは歳も一緒で、しかも誕生日が1日違いなの! 彼女とはニューヨークに出てきた年の夏に出会った。何年か疎遠になった時期があったけど、再会してからはずっと親友。一緒にプス・ン・ブーツもやってるし、ギターを学んだのも彼女と一緒。それ以外にも、たくさんの音楽をサーシャと二人で探求してきた、そんな存在。

―次はサミ・スティーヴンス。彼女は今年3月、コットンクラブで来日公演を行なったばかりです。

ノラ:そのライブのことは本人から聞いてる。彼女も素晴らしいシンガー。私も親しいリチャード・ジュリアンのアルバムで、サミはハーモニーを歌ってた。会ってみたらすごく楽しくて、気さくな人柄で、彼女のハーモニーワークもすごくいいなと思った。だから、この3人のケミストリーがどうかを試してみることにしたって感じ。

―声を使ったアレンジに関して、特に変わったことをした曲はありますか?

ノラ:リハで試す中で、一番チャレンジングだけど特別さを感じたのは「On My Way」だった。特にラストにかけて、ものすごく楽しい感じが出てると思う。もう1曲は、サーシャとサミと私の3人で歌うタイトル曲の「Visions」。ステージでは3人だけで、私がギターを弾いて、二人が歌を重ねるんだけど、本当に特別なアレンジに仕上がってると思う。

―バンド用にアレンジすることで、改めて気付いた『Visions』の特殊さってありましたか?

ノラ:なんと言っても、ハーモニーの素晴らしさが楽曲を特別にしているんだな、ということかな。もちろんリオンがドラムを叩いて、それに合わせて演奏するのは本当に楽しくて、大好きだった。彼のクールなドラムプレイと私の相性は抜群にいい。それでも、私の長年のドラマーはブライアン・ブレイド。私はブライアンに取り憑かれてるから(笑)。アルバムでも彼を入れないわけにはいかなかった。それで数曲で彼を迎えたわけだけど、ブライアンには唯一無二のサウンドにする何かがある。とにかく、あのアルバムに詰められた全ての音が大好きって言える。

―『Visions』収録曲のハーモニーってすごく変わっていますけど、そもそも曲を書いたとき、ライブで披露することをほんの少しでも想像してましたか?

ノラ:いいえ。私はそういうことはあまり心配しない。だって、その場で起きていることが楽しいなら、それでいいタイプだから。「どうしよう?」って思うようになるのは少し経ってから。それでいいんだと思う。もちろん、どう再現するかがわかればそれでいいし、わからなくても完全に再現しようとしなければ問題ない。いい曲って、それ自体で成立するものだから、アルバム通りに演奏する必要はない。それを学んだのが『Little Broken Hearts』のとき。あの曲たちは大好きだけど、アルバムと全然違うアレンジで演奏しても、素晴らしさは変わらない。そのことがすごく誇らしいし、そこから大事なことを学んだと思う。

―女性3人の声、という話をされてましたが、さらにそこに男性2声が加わり、アルバムに比べ、一気にバリエーションが増えましたよね。

ノラ:ええ、まるでクワイア(聖歌隊)ね。

―その5人の声が一番発揮できたと思う曲は?

ノラ:「Finally Awake」かな。あの曲では、いろんなパートが行き来して、全員が声を重ねているの。もともと、ボーカルをダブルで重ねたり、オクターブ違いで重ねるのが私は好きで、サーシャにオクターブ上を歌ってもらい、サミがオクターブ下を……というようなこともしている。でもサミは曲によっては、後半からサーシャとすごく高音でハーモニーをつけることもあって、そういう時はジョシュとブライアンが低音パートを重ねる、そんな感じになってる。

―これまで、クワイアのための曲を書いたり、アレンジをしたことはありますか?

ノラ:いいえ。でも子供の頃からクワイアで歌ってきたから。

Blue Note JAZZ FESTIVAL出演への想い

―今回の来日に合わせて『Visions(Japanese Edition)』が出ます。『Visions』収録の2曲「All This Time」「I'm Awake」のライブ音源が追加収録されていますが、それぞれどんなことを考えてアレンジしましたか?

ノラ:ずっとリハーサルを重ねてきたから、ライブからのバージョンを選んだと記憶してる。「All This Time」と「I'm Awake」の2曲は、ライブで特に気に入ってる曲かな。

「All This Time」はハーモニーがたくさん詰まっていて、とにかく楽しい。それにアルバムと同じ鳥の声のサンプルを、ラスト近くでトリガーして流すんだけど、それがすごくかわいくて、聴いてると幸せになれる(笑)。鳥の声が私をハッピーにしてくれる。本当はオーディエンスみんなに鳥の声の代わりに口笛を吹いてもらいたいと思ってたけど、難しいかなと思って諦めたの。私の場合、アレンジにすごくこだわってしまいがち。でも、それを全部やる余裕はないことが多かったりする(笑)。

―あなたのバンドは、いつだって素晴らしいミュージシャンが集まってますよね。ライブでは彼らそれぞれが独自のインスピレーションをその場で発揮することで、より素晴らしくなることも多いなって思うんですよ。

ノラ:要は、私はそれが好きだってことに尽きると思う。ブライアンはすごくダイナミックなミュージシャンだけれど、加えて反応がすごく鋭い。リハで練習した通りに演奏することもできるけど、必ずそこに、その場で起きていることに反応したフレーズを入れてくれる。今まで一緒に演奏した中で、誰よりも”その瞬間にいる”ミュージシャンだと思う。そういう人たちと一緒にやるのは、本当に楽しい。わかるでしょ?しかも、それって一緒にやってて楽だしね。

―前回の来日時に武道館でライブを観ました。僕はかなり上の席だったので、ステージ上のあなたはすごく遠かったんですけど、ライブが始まるとあなたの声を近く感じられたんです。あなたは長い間、派手な演出なしに大きな会場でライブをやってきて、そこでひとりひとりのオーディエンスにしっかり歌を届ける方法を身に着けたんじゃないかなと思ったんです。もし、そのために意識していることがあったら教えてください。

ノラ:私のコンサートに来てくれる人たちの大半が、「音楽を聴きたい」と思って来てくれているんだと思う。私は踊ることを期待されていないし、それはありがたいこと(笑)。だから私のコンサートは、歌を歌うことが中心で、それを気に入ってもらえたらいいなと願っているだけ。

なぜ届くのかは自分でもわからないけれど、私にできることは「音楽を通してつながりたいと願うこと」だけ。あと、照明にも助けてもらってる(笑)。きれいなドレス、ステージのセットにもね! ただ当然だけど、大切なのは優れたサウンドだと思ってる。

ノラ・ジョーンズ来日直前インタビュー ハーモニーへのこだわりと進化するライブ表現

2022年来日時のライブ写真(Photo by Masanori Doi)

―Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPANでは、あなたと同じ出演日にヴァレリー・ジューンとドン・ウォズも出演します。

ノラ:ジューンも出るって知らなくて、先月初めて知ったの! ドンが出ることも数カ月前に知ったばかり。すごく楽しみ。友達がみんな集まって楽しいパーティになると思う。

―ヴァレリー・ジューンとは、彼女のアルバム『The Order of Time』(2017年)に参加したりなど親交が深いですよね。

ノラ:ヴァレリーは大好き。すごくユニークだし、ステージに立つと特別な存在感を感じさせる人。自然体で、音楽を身体すべてで感じている……そんなタイプなので、観てても、聴いてても、すごく楽しい。

2022年、ノラとヴァレリー・ジューンがポッドキャスト番組で共演

―ドン・ウォズとの信頼関係は言わずもがなですが。

ノラ:ドンはレジェンド。今ではいい友人になれたし、私のレコードレーベルの社長でもある。私がアルバムを作るたびに、誰よりも素敵なフィードバックをくれる。しっかり聴いてくれてるのがわかるし、私のやっていることをちゃんと理解してくれているんだなって感じられるような言葉をかけてくれる。ただ「クール! いいね!」って口先だけで言うんじゃない。物事をしっかり受け止め、見極める洞察力がある。だからこそ、あれだけ素晴らしいキャリアを築いてきたんでしょうね。

ノラ・ジョーンズ来日直前インタビュー ハーモニーへのこだわりと進化するライブ表現

ノラ・ジョーンズ
『Visions [JAPAN EDITION]』
2025年9月24日(水)リリース
SHM-CD:¥3,300(tax in)
詳細:https://norahjones.jp/disco/uccq-9788/

ノラ・ジョーンズ来日直前インタビュー ハーモニーへのこだわりと進化するライブ表現

Norah Jones Visions Tour 2025
2025年9月24日(水)東京・日本武道館
2025年9月25日(木)大阪城ホール
特設ページ:https://udo.jp/concert/NorahJones25

ノラ・ジョーンズ来日直前インタビュー ハーモニーへのこだわりと進化するライブ表現

Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN
2025年9月27日(土)・28日(日)
OPEN 12:00 / START 13:00(両日ともに)
※ノラ・ジョーンズは9月27日(土)出演
公式サイト:https://bluenotejazzfestival.jp/

来日公演 予習プレイリスト
https://visionstour.lnk.to/Norah2025

ノラ・ジョーンズ日本公式サイト
https://norahjones.jp/

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