ホンキートンク調のピアノが飛び回る「だらしない2人」を筆頭に、ライブハウスに留まらないスケールの音楽へビルドアップを続けてきた606号室。そんな彼らは10月1日(水)に2nd EP『-依依恋恋-』をドロップするやいなや、東京・Spotify O-Crestにて606号室pre.『祝祭宣言』を開催する。
星々の瞬く空の下、大切なあなたに思いを馳せ、時に明日を切り拓いていこうと決心を固める606号室の力強い筆遣いと、メイク道具や着飾った勝負服、愛おしい寝ぐせから痛いほどにキラキラした恋模様を投影するYUTORI-SEDAIの筆致。その背後にある、ポップへのこだわりとロックバンドであることの誇りについて、昇栄(606号室・Vo,Gt)と金原遼希(YUTORI-SEDAI・Vo,Gt)の2人に語り合ってもらった。
606号室だったら音楽的にもお客さんにとっても良い日になるだろうなっていう確信があった(金原)
ー10月5日(日)に東京・Spotify O-Crestにて606号室pre.『祝祭宣言』が開催されます。SNS上では606号室より大事な宣言があることも予告されていましたが、そうしたターニングポイントとなる企画にYUTORI-SEDAIをお誘いした理由を聞かせてください。
昇栄:YUTORI-SEDAIのツアー(※『"Reason for Smiling" Tour 2025』大阪編)に出させていただいた時、メンバーにとってもお客さんにとってもめちゃくちゃ良い日になったと感じたんですよ。自分たちがライブしている時はYUTORI-SEDAIのお客さんも良い顔をしてくれたし、YUTORI-SEDAIがライブをしている時は僕らのお客さんが良い顔をしていた。音楽性としても共通している部分が多いと思いますし、「良い日だったよね」ってメンバーとも話しているほどで。だからこそ、YUTORI-SEDAIとだったら良い1日が作れるんじゃないかと思って、お誘いさせてもらいました。
"Reason for Smiling" Tour 2025 (Photo by キタムラショウタ)
ー今回のイベントはYUTORI-SEDAIが『"Reason for Smiling" Tour 2025』に606号室を呼んだことがひとつのキッカケで実現したとのことですが、前回のツアーでYUTORI-SEDAIが606号室を対バン相手として選んだ理由は何だったのでしょう。
金原:シンプルに曲が良いっていうのが一番の理由でしたね。2023年くらいに「未恋」がSNSで流れてきたんですけど、そもそもピアノを主体としたバンドが僕らの周りにいないこともあって、凄く新鮮だったんですよ。
ー前回のツアーではthe shes goneやanewhiteをはじめ、数々のバンドと対バンを重ねてきたわけですけれど、606号室とのツーマンはどのような光景を描いていたんですか。
金原:ツアーで出てくれたバンドはみんな好きなんですけど、ポップっていう視点で一番純粋に笑顔になってもらえそうな気はしていましたね。凄く盛り上がる1日になれば良いなと、大阪のお客さんに対して期待していて。実際にその日は、一番明るい日になったんじゃないかと思います。
ー606号室となら笑顔が弾ける日を作り上げられるだろうという信頼は、どのようにして出来上がったものなんでしょう。
金原:一番は曲ですけれど、これまでの対バンでライブに対する信頼ももちろんありました。例えばライブだと「ジャンプしようぜ」や「声出してくれ!」と盛り上げることがあると思うんですが、606号室のライブはお客さんが呼びかけに応えたいと心から思っているのが伝わってくるんですよね。それは606号室がそう思わせるだけの説得力を持ったライブをしているってことで、決して当たり前のことじゃないからこそ良いなって。あと、メンバー全員に安心感があるんですよ。
昇栄:金ちゃん(金原)がコミュ力おばけだから。初めてShibuya Milkywayで対バンした時から、近所の兄ちゃんっぽかったというか。606号室は決して話が上手いわけじゃないんですが、金ちゃんとは初対面の時からがっつり喋ることができました。
YUTORI-SEDAIの歌詞は、自分がその恋愛を体験してなくても、同じ恋愛をしていたように感じさせてくれる(昇栄)
ーここまでのお話の中で既にお2人の周波数の近さを感じているんですけれど、相手のリスペクトしているところや自分にないと感じているポイントを聞かせてください。
昇栄:まず音楽的に言うと、金ちゃんのギターの上手さをリスペクトしています。ツアーに出させてもらった時に「恋しちゃったんだ」をカバーしたんですが、その時に人生で初めてギターリフを弾いて、今でもリハーサルで弾いちゃうくらいギターが格好良いなと。歌詞で言うと、金ちゃんの歌詞は近辺にあると思っているんですね。反対に、僕は遠い場所にあるものを持ってきてしまうというか、結論みたいなものを書いている気がする。身近にあるものをしっかりと発信出来ていることが羨ましいなと思いますね。
ー「近辺」というのは、身近な生活や恋路を描いているということ?
昇栄:良い意味でファンタジーがないというか、風景や背景がハッキリと見えてくるみたいな。YUTORI-SEDAIの歌詞は、自分がその恋愛を体験してなくても、同じ恋愛をしていたように感じさせてくれると思うので。
ーよく分かりました。逆に昇栄さんが書いている結論とは、「こういれたら良かったな」みたいなことですか。
昇栄:結論って言ったら良いんかな……。「ある人がもし自分にこう言ってきたら、僕はこう返すやろうな」とか、「こういうことを言ってたら、その人は後悔してくれたのかな」みたいな、2人の間にあることを歌っている感覚なんですよ。
ー「あの時、こう言えてたら」のもしもを想像するというか?
昇栄:それに近いです。金ちゃんの歌詞は、ペットボトルみたいに身近にあるものから物語を紡いでいると思うんですけど、僕はそれができなくて。自分の部屋じゃなく、もっと外に飛び越えた先にある空や星からじゃないと歌詞が生まれない、みたいな。
金原:僕はシンプルな言葉をどう表現するかにそのアーティストの個性が表れると考えているんですけど、606号室は知的な表現が凄いなと思っていて。さっき話に出た「未恋」だと<先のページは作れやしないと 私は栞を挟んでるままだ>という歌詞で取り残されたままの気持ちやその物語を再び始められないことを表しているじゃないですか。そういう表現に憧れているし、実際にそういった歌詞を散りばめている曲もあるんですが、僕は結局分かりやすいところに言葉を持っていきがちなんですよ。というのも、自分の本音を隠すことはしないというか、曲の中だと凄く素直に書けるから。自分の体験だったり、自分が感情移入できたものを曲にするので、昇栄が言ってくれたような近い部分にベクトルが向いているのかもしれないです。
ー金原さんが等身大の言葉やシンプルな歌詞を大事にしようと思った背景は何だったのでしょう。
金原:まず、自分の価値観として、たくさんの人に届いてほしいっていう気持ちが強いんですよね。あと、自分はメロディー先行で音楽を聴くことが多いんですが、感情移入してしまう作品の特徴を考えた時、ストレートな言葉に心を動かされてきたなと思った。だから、ポップを目指そうとする価値観と自分が聴いてきた音楽からの影響を受けて、今みたいな歌詞になっていったのかなと。
ありきたりだけど、ありきたりじゃないことを目指している(昇栄)
ーここまでポップや分かりやすさというワードも登場してきましたが、606号室は「ライブハウスに似合わないバンドになる」、YUTORI-SEDAIは「普段バンドを聴かない人も好きになるようなバンドになりたい」という旨を各所で語っていたりと、広いレンジを視野に入れていると思うんです。それは、YUTORI-SEDAIが『"Reason for Smiling" Tour 2025』のコメントで606号室に対して「ポップスという括りの中で親和性が高い」とコメントされていたことからも明らかですし。そんな中で、ソングライターとして大事にしているポイント、失ってはならないと感じていることは何ですか。
金原:歌詞もメロディーも分かりやすさは当然大事なんですけど、分かりやすいだけじゃ意味がないと思っていて。ただキャッチ―なだけだとすぐに飽きられちゃうような気もするし、幅広い人に聞いてもらうならすぐに飽きられてしまう音楽じゃ駄目だと思う。なので、裏で鳴っているコード感とかにエッジを加えることは大切にしていますね。一癖あるけれど、それ以上にキャッチーであるっていう。そういうキャッチ―至上主義みたいな側面もありながら、ライブではロックであることを大事にしていて。
YUTORI-SEDAI(Photo by Ayaka.)
ー消費されず、引っ掛かり続ける作品を生み出すために一癖加えているとのことですが、どのくらいの割合でフックを仕込んでいる感覚なんですか。
金原:感覚的には3割くらいなのかな。とはいえ、エッジの効かせ方って音階だけじゃなくて。言葉の譜割りとそこにどれだけ言葉がハマっているかも大事だと思うんですよ。このメロディーにこの母音が入ると居心地が悪いな、とかもあるから。歌詞とメロディーと譜割りの3つが気持ち良いバランスを探しているっていう。
ーエッジを入れることによって、ポップなメロディーを追求するだけではないやり方を選択していくことにした理由は何だったのでしょう。
金原:あんまり考えたくないところなんですけど、今ってSNSの時代じゃないですか。そう考えた時、シンプルな構成で凄く綺麗な歌詞が書かれている昭和歌謡とか、もともと僕が好きだったとにかく心地良いメロディーが鳴っているミドルバラードだけだと、インパクトがないなと感じるんです。今の時代にも刺さるようなフックのある曲を作りたいって思ったのは、そういう意味ではSNSがキッカケだったのかな。
ー多くの人に届くキッカケを作るためのエッジであり、フックだと。
金原:そうですね。
昇栄:僕も金ちゃんと同じくSNSを気にしてしまうところもあって。歌詞に関して言えば、ありきたりだけど、ありきたりじゃないことを目指しているというか。どこかで聞いた気もするけれど実はなかった、みたいな盲点を付くのが理想なので、それを追い求めていますね。あとは、あんまり背伸びしないこと。他の人が作った曲を聴いて、「こういうのをやりたい」「こんな曲も書いてみたい」って思うけれど、今までの自分の傾向として変に着飾るのは良くない気がしているから。ダサ格好良いが好きなんですよ。「この歌詞ダサいけど何か良いよな」って思ってもらえるように意識しています。
ー606号室は「ジャンプしてほしい」「歌ってほしい」と心から思っていることが分かるという話も金原さんから冒頭でしていただきましたが、着飾らないことを体現しているからこそ、そういったイメージを与えられているのかなと。昇栄さんがダサ格好良いに惹かれている理由は何なのでしょう。
昇栄:恥ずかしい部分であっても、歌にしたら格好良くなっちゃうのが好きなんですよ。授業中に友達と歌詞を書いたことがあったんですけど、初めて書いたその歌詞はめちゃくちゃダサくて。だけど、なぜだか嬉しかったというか。そういう原体験があるので、僕と僕の音楽にとってダサい、恥ずかしいっていう要素は大事なんだと思いますね。
606号室(Photo by キタムラショウタ)
ー歌にしたら、ダサくても格好良く見えるところに惹かれている。
昇栄:そうです。背伸びしていない、人間の感情的な側面が凄く好きなんだと思いますね。だから、自分自身も背伸びしたくないし、着飾りたくないっていう。
ー先ほど歌詞で結論を書いてしまうとおっしゃっていただきましたけれど、背伸びしないという観点で言えば、もっと身近な物事から書き始めるようにも感じました。
昇栄:単純に空や海が好きなんで、スケールの大きい歌詞になっているんじゃないかなと。家の中にある身近なものに執着せず、遠くの方を見ていたというか。空を見上げることや、遠くにある何も分からないことを見つめる方が、自分にとっては親しみ深かったんだと思います。
曲を考える上での基盤はギターだから、「結局、俺はギターなんだな」って思います(金原)
ー先ほど金原さんからもおっしゃっていただいた、ロックという側面についても伺わせてください。YUTORI-SEDAIは「ロックンロール」、606号室は「スーパーヒーロー」をはじめ、ロックバンドであることをハッキリと宣言していますが、どうしてもポップを追求する上でいわゆるロックバンドらしさと共存が難しい面もあると思っていて。そうした中で、幅広く受け入れられることとロックバンドであることの両面をそれぞれどのように大事にされていますか。
金原:歌はJ-POPをやり抜く覚悟を持っている一方で、オケやアレンジでロックバンドらしさを出すようにしていますね。どれだけロックな曲でもサビは絶対にキャッチ―でありたいというか、歌メロのキャッチ―さは崩したくないんで。だから、曲調やアレンジの部分でロック感を意識することが多いかも。あと、僕は色んな音楽ジャンルを聴くんですけど、それをどうやったらギターで表現できるかを考えるんです。ギターリフも歌メロに近い感覚で考えているから、ロック感の強い曲でもキャッチ―に帰着するのかなって。
ー多様なジャンルを吸収しながらも、最終的な落としどころがギターになっていることが、YUTORI-SEDAIをロックバンドたらしめている要素だと感じました。その他の音色を入れることも選択肢にある中で、まずはギターに落とし込んでみる点にギター、ひいてはロックバンドへのこだわりを感じるというか。
金原:本当にその通りですね。「YURU FUWA」で言うと、頭のフレーズはシンセサイザーを使っているんですが、もともとそのフレーズもギターで考えていたんですよ。そこからギターよりもシンセの方が合っていると思って、今の形になった。やっぱり曲を考える上での基盤はギターだから、「結局、俺はギターなんだな」って思います。
ーなんでギターに戻ってくるんだと思います?
金原:自分のルーツとして、ギターが格好良い曲が好きだからかなと。X JAPANをはじめ、LUNA SEA、GLAYみたいにメロディックなギターフレーズを鳴らしているバンドも好きなんで、僕のギターはバッキングギターとしてアンサンブルを支えるというよりも、リードギター色の方が強いんですよ。ギタリストでありたい、みたいな。だから、ギターを主軸にしてしまうんだと感じていますね。
昇栄:それで言うと、うちはリードギターがいない分、その役割をピアノが担ってくれていて。もともとMr.ふぉるてやRADWIMPSとか爽快なギターロックに憧れていたんですが、いざバンドを始めたらリードギターが上手くハマらなかったから、「曲を丸くするためのピアノじゃなく、尖らすためのピアノにしてくれ」って話でピアノを主体にしたんですね。極端な話を言えば、「キーボードがある時点でポップスや」みたいに聞こえるかもしれないけれど、きちんとピアノでもロックバンドらしさを出せている気がします。
ー「未恋」や「いつだって青春」ではお話いただいたような疾走感やほとばしる熱を受け取ることができる一方で、「だらしない2人」や「色取り」をはじめ、ピアノの音色の豊かさと華やかさを前面に出した楽曲も印象的です。
昇栄:星野源やSEKAI NO OWARI、Teleをはじめ、ポップスを大事にしているバンドも好きだからこそ、「この曲はロックでやろう」「この曲はポップにしよう」っていうのを使い分けているんですよね。紙とペンを持った時、自分がどういう音楽を作りたいのかで決めていく、みたいな。
ーここまでの話を通じて、606号室とYUTORI-SEDAIの共通点や相違点も改めて浮かんできましたが、10月5日(日)に開催される『祝祭宣言』はどのような1日にしたいですか。
金原:誰かを敵にしたいわけじゃないんですけど、さっきも話していたみたいに多くの人に広がる音楽やポップスっていうキーワードは僕も大事にしている部分なので、このジャンルが一番格好良いってことを知らしめたいと思いますね。どのロックバンドも「自分たちが1番だ」って考えているはずですが、俺らだって負けないくらいに熱い思いを持っている。舐めんなよ精神じゃないですけど、そういう衝動を出せる1日にしたいですし、なによりお客さんが心から楽しかったと思ってもらえるライブをしなきゃいけないなと。
昇栄:ポップスの熱を見せたいって話には大共感ですし、やっぱり僕らは色んな共通点がある2バンドだと感じて。お客さんに笑顔になってもらうのは大前提として、「今日めちゃくちゃ良かったな」って思わず言ってしまうくらいの日にしたいです。
<ライブ情報>
606号室pre.「祝祭宣言」
2025年10月5日(日)Spotify O-Crest
OPEN 11:30 START 12:00
w/ YUTORI-SEDAI
https://eplus.jp/room606/ (チケット一般発売中)
<リリース情報>
606号室
2nd EP『-依依恋恋-』
2025年10月1日(水)配信リリース
配信リンク:https://linkcloud.mu/bebadabc
10月5日(日)に執り行われる同イベントには、これまで幾度も対バンを重ねてきたYUTORI-SEDAIが出演。
星々の瞬く空の下、大切なあなたに思いを馳せ、時に明日を切り拓いていこうと決心を固める606号室の力強い筆遣いと、メイク道具や着飾った勝負服、愛おしい寝ぐせから痛いほどにキラキラした恋模様を投影するYUTORI-SEDAIの筆致。その背後にある、ポップへのこだわりとロックバンドであることの誇りについて、昇栄(606号室・Vo,Gt)と金原遼希(YUTORI-SEDAI・Vo,Gt)の2人に語り合ってもらった。
606号室だったら音楽的にもお客さんにとっても良い日になるだろうなっていう確信があった(金原)
ー10月5日(日)に東京・Spotify O-Crestにて606号室pre.『祝祭宣言』が開催されます。SNS上では606号室より大事な宣言があることも予告されていましたが、そうしたターニングポイントとなる企画にYUTORI-SEDAIをお誘いした理由を聞かせてください。
昇栄:YUTORI-SEDAIのツアー(※『"Reason for Smiling" Tour 2025』大阪編)に出させていただいた時、メンバーにとってもお客さんにとってもめちゃくちゃ良い日になったと感じたんですよ。自分たちがライブしている時はYUTORI-SEDAIのお客さんも良い顔をしてくれたし、YUTORI-SEDAIがライブをしている時は僕らのお客さんが良い顔をしていた。音楽性としても共通している部分が多いと思いますし、「良い日だったよね」ってメンバーとも話しているほどで。だからこそ、YUTORI-SEDAIとだったら良い1日が作れるんじゃないかと思って、お誘いさせてもらいました。

"Reason for Smiling" Tour 2025 (Photo by キタムラショウタ)
ー今回のイベントはYUTORI-SEDAIが『"Reason for Smiling" Tour 2025』に606号室を呼んだことがひとつのキッカケで実現したとのことですが、前回のツアーでYUTORI-SEDAIが606号室を対バン相手として選んだ理由は何だったのでしょう。
金原:シンプルに曲が良いっていうのが一番の理由でしたね。2023年くらいに「未恋」がSNSで流れてきたんですけど、そもそもピアノを主体としたバンドが僕らの周りにいないこともあって、凄く新鮮だったんですよ。
なおかつ、音楽性的にも相性の良さを感じていた。で、『"Reason for Smiling" Tour 2025』は文字通り、自分たちも対バン相手もお客さんも全員が笑顔になれるようなライブにしたいっていう思いを込めたツアーだったんです。そういう願いを込めた1日を作ることを考えた時、606号室だったら音楽的にもお客さんにとっても良い日になるだろうなっていう確信があったというか。
ー前回のツアーではthe shes goneやanewhiteをはじめ、数々のバンドと対バンを重ねてきたわけですけれど、606号室とのツーマンはどのような光景を描いていたんですか。
金原:ツアーで出てくれたバンドはみんな好きなんですけど、ポップっていう視点で一番純粋に笑顔になってもらえそうな気はしていましたね。凄く盛り上がる1日になれば良いなと、大阪のお客さんに対して期待していて。実際にその日は、一番明るい日になったんじゃないかと思います。
ー606号室となら笑顔が弾ける日を作り上げられるだろうという信頼は、どのようにして出来上がったものなんでしょう。
金原:一番は曲ですけれど、これまでの対バンでライブに対する信頼ももちろんありました。例えばライブだと「ジャンプしようぜ」や「声出してくれ!」と盛り上げることがあると思うんですが、606号室のライブはお客さんが呼びかけに応えたいと心から思っているのが伝わってくるんですよね。それは606号室がそう思わせるだけの説得力を持ったライブをしているってことで、決して当たり前のことじゃないからこそ良いなって。あと、メンバー全員に安心感があるんですよ。
僕は自分の話で笑ってくれる人が大好きなんですけど、606号室のみんなは一緒にいて心地良いし、良い思い出を一緒に作りたいと思えるバンドだなと。
昇栄:金ちゃん(金原)がコミュ力おばけだから。初めてShibuya Milkywayで対バンした時から、近所の兄ちゃんっぽかったというか。606号室は決して話が上手いわけじゃないんですが、金ちゃんとは初対面の時からがっつり喋ることができました。
YUTORI-SEDAIの歌詞は、自分がその恋愛を体験してなくても、同じ恋愛をしていたように感じさせてくれる(昇栄)
ーここまでのお話の中で既にお2人の周波数の近さを感じているんですけれど、相手のリスペクトしているところや自分にないと感じているポイントを聞かせてください。
昇栄:まず音楽的に言うと、金ちゃんのギターの上手さをリスペクトしています。ツアーに出させてもらった時に「恋しちゃったんだ」をカバーしたんですが、その時に人生で初めてギターリフを弾いて、今でもリハーサルで弾いちゃうくらいギターが格好良いなと。歌詞で言うと、金ちゃんの歌詞は近辺にあると思っているんですね。反対に、僕は遠い場所にあるものを持ってきてしまうというか、結論みたいなものを書いている気がする。身近にあるものをしっかりと発信出来ていることが羨ましいなと思いますね。
ー「近辺」というのは、身近な生活や恋路を描いているということ?
昇栄:良い意味でファンタジーがないというか、風景や背景がハッキリと見えてくるみたいな。YUTORI-SEDAIの歌詞は、自分がその恋愛を体験してなくても、同じ恋愛をしていたように感じさせてくれると思うので。
ーよく分かりました。逆に昇栄さんが書いている結論とは、「こういれたら良かったな」みたいなことですか。
昇栄:結論って言ったら良いんかな……。「ある人がもし自分にこう言ってきたら、僕はこう返すやろうな」とか、「こういうことを言ってたら、その人は後悔してくれたのかな」みたいな、2人の間にあることを歌っている感覚なんですよ。
ー「あの時、こう言えてたら」のもしもを想像するというか?
昇栄:それに近いです。金ちゃんの歌詞は、ペットボトルみたいに身近にあるものから物語を紡いでいると思うんですけど、僕はそれができなくて。自分の部屋じゃなく、もっと外に飛び越えた先にある空や星からじゃないと歌詞が生まれない、みたいな。
金原:僕はシンプルな言葉をどう表現するかにそのアーティストの個性が表れると考えているんですけど、606号室は知的な表現が凄いなと思っていて。さっき話に出た「未恋」だと<先のページは作れやしないと 私は栞を挟んでるままだ>という歌詞で取り残されたままの気持ちやその物語を再び始められないことを表しているじゃないですか。そういう表現に憧れているし、実際にそういった歌詞を散りばめている曲もあるんですが、僕は結局分かりやすいところに言葉を持っていきがちなんですよ。というのも、自分の本音を隠すことはしないというか、曲の中だと凄く素直に書けるから。自分の体験だったり、自分が感情移入できたものを曲にするので、昇栄が言ってくれたような近い部分にベクトルが向いているのかもしれないです。
ー金原さんが等身大の言葉やシンプルな歌詞を大事にしようと思った背景は何だったのでしょう。
金原:まず、自分の価値観として、たくさんの人に届いてほしいっていう気持ちが強いんですよね。あと、自分はメロディー先行で音楽を聴くことが多いんですが、感情移入してしまう作品の特徴を考えた時、ストレートな言葉に心を動かされてきたなと思った。だから、ポップを目指そうとする価値観と自分が聴いてきた音楽からの影響を受けて、今みたいな歌詞になっていったのかなと。
ありきたりだけど、ありきたりじゃないことを目指している(昇栄)
ーここまでポップや分かりやすさというワードも登場してきましたが、606号室は「ライブハウスに似合わないバンドになる」、YUTORI-SEDAIは「普段バンドを聴かない人も好きになるようなバンドになりたい」という旨を各所で語っていたりと、広いレンジを視野に入れていると思うんです。それは、YUTORI-SEDAIが『"Reason for Smiling" Tour 2025』のコメントで606号室に対して「ポップスという括りの中で親和性が高い」とコメントされていたことからも明らかですし。そんな中で、ソングライターとして大事にしているポイント、失ってはならないと感じていることは何ですか。
金原:歌詞もメロディーも分かりやすさは当然大事なんですけど、分かりやすいだけじゃ意味がないと思っていて。ただキャッチ―なだけだとすぐに飽きられちゃうような気もするし、幅広い人に聞いてもらうならすぐに飽きられてしまう音楽じゃ駄目だと思う。なので、裏で鳴っているコード感とかにエッジを加えることは大切にしていますね。一癖あるけれど、それ以上にキャッチーであるっていう。そういうキャッチ―至上主義みたいな側面もありながら、ライブではロックであることを大事にしていて。
初めて見てくださった方から「想像していたよりもロックだね」と言っていただくこともあるんですが、メンバーと「ライブはロックでありたい」って話もしているんですよね。僕らはギターを主体にしているバンドだから、その武器を活かして「俺らはロックバンドなんだ」っていう意識は忘れちゃいけないなと。

YUTORI-SEDAI(Photo by Ayaka.)
ー消費されず、引っ掛かり続ける作品を生み出すために一癖加えているとのことですが、どのくらいの割合でフックを仕込んでいる感覚なんですか。
金原:感覚的には3割くらいなのかな。とはいえ、エッジの効かせ方って音階だけじゃなくて。言葉の譜割りとそこにどれだけ言葉がハマっているかも大事だと思うんですよ。このメロディーにこの母音が入ると居心地が悪いな、とかもあるから。歌詞とメロディーと譜割りの3つが気持ち良いバランスを探しているっていう。
ーエッジを入れることによって、ポップなメロディーを追求するだけではないやり方を選択していくことにした理由は何だったのでしょう。
金原:あんまり考えたくないところなんですけど、今ってSNSの時代じゃないですか。そう考えた時、シンプルな構成で凄く綺麗な歌詞が書かれている昭和歌謡とか、もともと僕が好きだったとにかく心地良いメロディーが鳴っているミドルバラードだけだと、インパクトがないなと感じるんです。今の時代にも刺さるようなフックのある曲を作りたいって思ったのは、そういう意味ではSNSがキッカケだったのかな。
ー多くの人に届くキッカケを作るためのエッジであり、フックだと。
金原:そうですね。
昇栄:僕も金ちゃんと同じくSNSを気にしてしまうところもあって。歌詞に関して言えば、ありきたりだけど、ありきたりじゃないことを目指しているというか。どこかで聞いた気もするけれど実はなかった、みたいな盲点を付くのが理想なので、それを追い求めていますね。あとは、あんまり背伸びしないこと。他の人が作った曲を聴いて、「こういうのをやりたい」「こんな曲も書いてみたい」って思うけれど、今までの自分の傾向として変に着飾るのは良くない気がしているから。ダサ格好良いが好きなんですよ。「この歌詞ダサいけど何か良いよな」って思ってもらえるように意識しています。
ー606号室は「ジャンプしてほしい」「歌ってほしい」と心から思っていることが分かるという話も金原さんから冒頭でしていただきましたが、着飾らないことを体現しているからこそ、そういったイメージを与えられているのかなと。昇栄さんがダサ格好良いに惹かれている理由は何なのでしょう。
昇栄:恥ずかしい部分であっても、歌にしたら格好良くなっちゃうのが好きなんですよ。授業中に友達と歌詞を書いたことがあったんですけど、初めて書いたその歌詞はめちゃくちゃダサくて。だけど、なぜだか嬉しかったというか。そういう原体験があるので、僕と僕の音楽にとってダサい、恥ずかしいっていう要素は大事なんだと思いますね。

606号室(Photo by キタムラショウタ)
ー歌にしたら、ダサくても格好良く見えるところに惹かれている。
昇栄:そうです。背伸びしていない、人間の感情的な側面が凄く好きなんだと思いますね。だから、自分自身も背伸びしたくないし、着飾りたくないっていう。
ー先ほど歌詞で結論を書いてしまうとおっしゃっていただきましたけれど、背伸びしないという観点で言えば、もっと身近な物事から書き始めるようにも感じました。
昇栄:単純に空や海が好きなんで、スケールの大きい歌詞になっているんじゃないかなと。家の中にある身近なものに執着せず、遠くの方を見ていたというか。空を見上げることや、遠くにある何も分からないことを見つめる方が、自分にとっては親しみ深かったんだと思います。
曲を考える上での基盤はギターだから、「結局、俺はギターなんだな」って思います(金原)
ー先ほど金原さんからもおっしゃっていただいた、ロックという側面についても伺わせてください。YUTORI-SEDAIは「ロックンロール」、606号室は「スーパーヒーロー」をはじめ、ロックバンドであることをハッキリと宣言していますが、どうしてもポップを追求する上でいわゆるロックバンドらしさと共存が難しい面もあると思っていて。そうした中で、幅広く受け入れられることとロックバンドであることの両面をそれぞれどのように大事にされていますか。
金原:歌はJ-POPをやり抜く覚悟を持っている一方で、オケやアレンジでロックバンドらしさを出すようにしていますね。どれだけロックな曲でもサビは絶対にキャッチ―でありたいというか、歌メロのキャッチ―さは崩したくないんで。だから、曲調やアレンジの部分でロック感を意識することが多いかも。あと、僕は色んな音楽ジャンルを聴くんですけど、それをどうやったらギターで表現できるかを考えるんです。ギターリフも歌メロに近い感覚で考えているから、ロック感の強い曲でもキャッチ―に帰着するのかなって。
ー多様なジャンルを吸収しながらも、最終的な落としどころがギターになっていることが、YUTORI-SEDAIをロックバンドたらしめている要素だと感じました。その他の音色を入れることも選択肢にある中で、まずはギターに落とし込んでみる点にギター、ひいてはロックバンドへのこだわりを感じるというか。
金原:本当にその通りですね。「YURU FUWA」で言うと、頭のフレーズはシンセサイザーを使っているんですが、もともとそのフレーズもギターで考えていたんですよ。そこからギターよりもシンセの方が合っていると思って、今の形になった。やっぱり曲を考える上での基盤はギターだから、「結局、俺はギターなんだな」って思います。
ーなんでギターに戻ってくるんだと思います?
金原:自分のルーツとして、ギターが格好良い曲が好きだからかなと。X JAPANをはじめ、LUNA SEA、GLAYみたいにメロディックなギターフレーズを鳴らしているバンドも好きなんで、僕のギターはバッキングギターとしてアンサンブルを支えるというよりも、リードギター色の方が強いんですよ。ギタリストでありたい、みたいな。だから、ギターを主軸にしてしまうんだと感じていますね。
昇栄:それで言うと、うちはリードギターがいない分、その役割をピアノが担ってくれていて。もともとMr.ふぉるてやRADWIMPSとか爽快なギターロックに憧れていたんですが、いざバンドを始めたらリードギターが上手くハマらなかったから、「曲を丸くするためのピアノじゃなく、尖らすためのピアノにしてくれ」って話でピアノを主体にしたんですね。極端な話を言えば、「キーボードがある時点でポップスや」みたいに聞こえるかもしれないけれど、きちんとピアノでもロックバンドらしさを出せている気がします。
ー「未恋」や「いつだって青春」ではお話いただいたような疾走感やほとばしる熱を受け取ることができる一方で、「だらしない2人」や「色取り」をはじめ、ピアノの音色の豊かさと華やかさを前面に出した楽曲も印象的です。
昇栄:星野源やSEKAI NO OWARI、Teleをはじめ、ポップスを大事にしているバンドも好きだからこそ、「この曲はロックでやろう」「この曲はポップにしよう」っていうのを使い分けているんですよね。紙とペンを持った時、自分がどういう音楽を作りたいのかで決めていく、みたいな。
ーここまでの話を通じて、606号室とYUTORI-SEDAIの共通点や相違点も改めて浮かんできましたが、10月5日(日)に開催される『祝祭宣言』はどのような1日にしたいですか。
金原:誰かを敵にしたいわけじゃないんですけど、さっきも話していたみたいに多くの人に広がる音楽やポップスっていうキーワードは僕も大事にしている部分なので、このジャンルが一番格好良いってことを知らしめたいと思いますね。どのロックバンドも「自分たちが1番だ」って考えているはずですが、俺らだって負けないくらいに熱い思いを持っている。舐めんなよ精神じゃないですけど、そういう衝動を出せる1日にしたいですし、なによりお客さんが心から楽しかったと思ってもらえるライブをしなきゃいけないなと。
昇栄:ポップスの熱を見せたいって話には大共感ですし、やっぱり僕らは色んな共通点がある2バンドだと感じて。お客さんに笑顔になってもらうのは大前提として、「今日めちゃくちゃ良かったな」って思わず言ってしまうくらいの日にしたいです。
<ライブ情報>

606号室pre.「祝祭宣言」
2025年10月5日(日)Spotify O-Crest
OPEN 11:30 START 12:00
w/ YUTORI-SEDAI
https://eplus.jp/room606/ (チケット一般発売中)
<リリース情報>

606号室
2nd EP『-依依恋恋-』
2025年10月1日(水)配信リリース
配信リンク:https://linkcloud.mu/bebadabc
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