1990年に米LAで結成され、35年の活動歴を誇る孤高のバンド、トゥール(TOOL)。単独としては実に約19年ぶりとなる超待望の来日公演が12月に控えている。
あまりにもオリジナルなサウンド、世界観、圧倒的なライブ・パフォーマンス……そのどれもが、他のヘヴィ・ロック、オルタナティヴ勢とは完全に一線を画しており、それでいてチャートでも全米1位に輝くなど、規格外の存在なのだ。音だけでなく、アート、ビジュアル、演出も担当するギタリスト、アダム・ジョーンズに話を聞いた。

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ーアニメ、漫画、怪獣といった日本のカルチャーが好きだと聞いていますが、最初の入り口はどこでした?

アダム 子どもの頃、土曜に怖い映画をよく観てたんだ。メインストリームのものじゃなくて、再放送のもので、ゴジラ映画はもちろん全部観たけど、キノコに襲われるような映画とか、奇妙な映画に僕は完全に魅了されたんだ。ストーリー展開とかメイク、ミニチュア、映像技術にも興味を持って、どうやってああいうのを作るのかって思ったよ。それでどんどんハマって、サムライものも好きになって、『子連れ狼』は何度も観た。吹き替え版で放送されてたアニメにもハマったよ。『Speed Racer』(『マッハGoGoGo』)とか『G-Force』(『科学忍者隊ガッチャマン』)とか大好きなものがたくさんあった。日本人はいつも一歩先を行ってるなと思ったよ。日本の文化をリスペクトして、吸収し始めると、それが本や雑誌、漫画やコミックにまで及んで、自分でも絵を描くことにしたんだ。そこで気づいたことがあって。僕の大好きなアーティスト、ジャック・カービーと日本の漫画家の間には、強いスタイルの類似点があったんだよね。
登場人物の周りにたくさんのアクションが起こってる感じが好きで、それが僕のアートに多大な影響を与えたんだ。

ーあなたはアートも音楽も好きですよね。そういった子どもの頃に触れたカルチャーは、後のあなたのクリエイティブにどのような影響を与えましたか?

アダム 僕が受けた影響はもちろん多大だよ。だけど音楽みたいなものは他にはないね。音楽と比べられるものはないんだ。それが他のアートからの影響と共鳴するんだよ。色とかヴァイブレーションについて考え始めると、それが音につながっていくんだよね。それで80年代になると、トム・モレロと僕はメタルとかグラムメタルにハマって、いろんな国のバンドを好きになり始めた。当時はレコードを手に入れるのは大変だったけど、LOUDNESSが大好きになって、そこからX JAPANとか、日本のヘアメタル・バンドもスゴく良くて。とにかく自分が触れたものはどれも最高だったんだ。

ーアートと音楽は自分の中ではどのように融合していますか? トゥールのアートワークやライブでの演出を見ると、この二つの異なる要素が見事に融合しているんですよね。

アダム 僕たちの世代は、子どもの頃、アルバムを買ってベッドに座って、アルバムを聴きながらジャケットのアートを眺めてたんだ。
あれは僕の中では常に強烈な体験だった。自分でもバンドを始めた時、僕はあの感覚を再現したいと思ったんだ。当時はアルバムに歌詞が付いていなかったし、今みたいに簡単に調べてどういう曲なのかがすぐにわかる時代ではなかった。だから自分なりの結論を出さなきゃいけなかったんだ。アルバムのアートをもとに、その曲が自分にとって何を意味するのか。一枚のジャケットでも、見開きジャケットでも同じだ。ピンク・フロイドの『The Wall』なんて、映画も観ないうちに買ったのを覚えてるよ。「Oh my god!」ってぶっ飛ばされたんだ。だからその感覚はいつも自分のマントラとして取り入れてる。重要なのはどういう曲なのかではなく、その曲が自分に何をもたらしたのか、自分が何を感じ取って、何を持ち帰ったのかということだから。だから後になって、僕たちはアルバムに歌詞を付けないということで、人々は怒り出したね(笑)。自分たちのスタンスにしても、バンドとして影の存在でい続けたかったから、長い間僕たちがどんな見てくれなのかも知られないままだった。
5000人規模の会場で演奏しても、僕が客席で前座バンドを観てても、邪魔されなかったんだよね。最高だったな(笑)。

ー音楽とアートを見て、想像力を働かせて世界観を感じる時代だったから、今とは音楽の楽しみ方が全く違っていたんですよね。

アダム でも、もっと感情的、精神的なものだった。今は音楽が出てくれば、すぐに掘ることで欲しい答えはすべて得られるけど、当時は自分なりの結論を出さなきゃいけなかった。もしそれがポジティブなものなら、それは感情的なものになるし、そこから自分なりにキャラクターを形作ることができたんだ。

ーそういうのもあるから、トゥールのライブではスマホの使用を禁止しているのですか? トゥールは音楽だけではなく、すべてを含めた演出で全体の世界観をこだわって創り上げていますよね。観客にその世界観に集中してほしいというのはとても理にかなっていると思います。

アダム スマホから何を得られるんだ? 音楽を聴いてる間、どんな形でお金を使えば刺激になるんだ?って思うよ。僕たちはいつもシンプルな潜在意識のアイデアについて話すんだ。僕たちが一つのリズムで演奏すると、照明担当は別のリズムで動く。そうすると、考えなくても頭の中でこの二つが戦うことになる。
そこで視覚と聴覚を同時に処理すると、右脳と左脳の両方が一緒に働き出して、まるでトランス状態に陥る。しかもそれはとてもシンプルに行われるんだ。僕たちはいつもそういうアイデアにアプローチしてきたし、それがとても面白いんだよね。

アウトラインはある、でも自由でいい ステージを動かす設計図

ー今回の来日ツアーではどのようなライブの演出を考えています?

アダム ライブ後に彼らに「スゴかった! チケット代の元は取れたぜ」って思ってもらえたら最高だよ(笑)。僕だってそう思いたいからね。とにかく与えられた予算の範囲で、最高にクールなショーを作ろうとしてるよ。ビジュアル、映像、レーザー、照明に関しては、才能も経験も豊かな人たちがいるから。僕たちが何を表現するにしても、CDを作るにしても、デザインをパッケージするにしても、Tシャツを作るにしても、ショーを作るにしても、常に若い頃からの影響がありつつも、自分が満足できるもの、自分が望む最高のクオリティのもの、元を取れたと思える以上の何かを作りたくなるんだ。いつもそういう感覚だから、より良いショーをするために利益を減らすことだってあるくらいだ。ファンのみんなは僕たちのやってることに夢中だから、僕たちも彼らに与えることに夢中なんだ。とにかく楽しい時間を提供したいね。これは手品のトリックをやってるみたいなものだから、最高の手品を見せてみんなをぶっ飛ばしたいんだ。
観客との奇妙な親密さがそこにはあるんだ。演奏をしてると、観客はそこからエネルギーを放出してくれる。それはただただ素晴らしいものだから、僕たちとしてはその火をずっと燃やし続けたいんだ。

ートゥールのライブでいつも圧倒されるのが、メンバーの動きと映像、照明、ビジュアルが同期しているように見えることなんです。あれは用意されているのですか、それとも偶然ですか?

アダム 基本的なアウトラインは決まってるよ。でも良いディレクターというのは、そこで自由にさせてくれるんだ。僕たちとしては、そのディレクターを起用した理由があるわけだから、彼のやってることに細かく指図をしたくはないんだ。コンセプトもあるし、たくさんのスタッフが関わってデザインもしてるし、これはグループの共同作業になるんだ。バンドをやってるのと同じようなことなんだよ。

ー演出の中で同期しているように見えた時、本当に美しいと感じると同時に、少し居心地の悪さを感じることもあります。良いのか悪いのかという判断の前に、ただただ圧倒される感じがあるんですよね。

アダム 万人向けのものじゃないからね。
「Oh my god!!」ってなってくれるたった一人の人間のためのものなんだ。でも、それでいいんだよ。僕たちがやりたいことをできる限り共有して、どこまで行けるのかということだから。

ーライブのセットリストはいつもどのように決めていますか?

アダム 僕たちが次にどういうセットリストでやるのかはまだわからない。セットリストを決めるのは僕たちのシンガー、メイナードの役割だ。昔の彼はライブで大声で叫びまくってたけど、今や61歳だからもう叫びまくることはできない。ショーとショーの間で、彼の声で何ができるのかが課題なんだ。僕の方は、昔やった曲はどんな曲でも演奏できる。高熱が出ても、吐き気がしても、休みが足りてなくても演奏できる。でもシンガーの場合、声帯がめちゃくちゃになったり、炎症を起こしたり、精神状態に影響を及ぼしたりもする。だから大部分は彼に決めさせてるよ。時々「この曲やれるか? これも入れられるか?」ってやるけど、それが仕事だし、そこは上手くやってるよ。

ー最近ではライブで全曲が終わった後に、ABBAの「Dancing Queen」を会場で流すんですね。

アダム あの曲はいつもかけてる。バンドの演奏が終わると、通常は会場が音楽を流すだろ? アメリカでもヨーロッパでも、会場が普通にやってることだけど、早く観客を帰したいから、ただただひどい曲を流すんだよね。あれは本当に失礼だと思うし、ショーの流れを台無しにしてしまう。でも同時に、笑えるんだ。「Dancing Queen」はクルーも含めて全員が好きから、二重の意味で「よし、会場から出て行け。でも出て行く時も楽しんでくれ」って感じで流してる。今ではそれがおなじみの伝統になってきたよ。

ーアメリカのコンサートだと、よく終演後に安っぽいディスコの曲が流れますけど、「Dancing Queen」はあの時代の最高のディスコソングですからね。

アダム 子どもの頃はディスコを聴いて育ったからね。ディスコには愛憎入り混じる気持ちを持ってたけど、ビージーズとかドナ・サマーとかヒット曲は大好きだった。僕の音楽に大きな影響を与えたとは思わないけれどね。でも、さっきも話した通り、音楽に代わるものなんて存在しないんだ。それが僕たちのバンドの本質になってる。このバンドが上手く回ってる理由は、メンバー全員が非常に多彩な趣味を持ってるからで、みんな本当に音楽を理解して愛してるというのが大きい。時々何かを聴いて、「うーん、俺の好みじゃないけど、背後にある才能は本当に評価できる」ってなることも多いんだ。

ー今回の日本ツアーのポスターのアートワークは、スカルの千手観音のように見えますが、これのクリエイティブには関わったのですか?

アダム アートを担当してるアレックス・グレイとはよく仕事をしてるんだ。前のアルバム『Fear Inoculum』で、彼は「The Great Turn」というコンセプトに没頭していた。基本的には陰陽みたいなもので、どの文化にもあるもので、一方が他方をどう駆り立てるのかという探求だ。それで、「The Great Turn」の内部にあるコンセプトは、この二面性を持つ力を示す、さらに深い概念になる。皮膚の層、筋肉の層、骨格の層、そして精神的な層があって、それらの層を表現するためにいくつもの腕がある。これは一部がコンセプトで、一部はただただ見た目のカッコ良さなんだ。The Great Turnの暗黒面を表してるから、僕たちはただ名前をつけるために、「Destroyer(破壊者)」って呼んでいる。人々はこれを見て、君が言うように、「おお、これは仏教から来てるのか」とか、どんな宗教でもかまわないけど、神秘的なレベルで何かを感じることになるんだと思う。

トゥールの「視覚」の正体 アダムが紡ぐビジュアル宇宙


ルールは自分で作れ ギタリストへの処方箋

ートゥールが新曲の制作に入ったという話をいろいろ聞きますが、話せる範囲で教えてもらえますか?

アダム 新しい曲はないね。何も出来ていないんだ。リフやアレンジがあって、それをもとにジャムセッションをしてるという段階だよ。これまでもずっとそういうプロセスでやってきた。ジャスティンが何か新しいものを持ってくることもあれば、僕が10年前に作ったものもある。リハーサルとジャムセッションを全部録音して、通常はそれを僕が家に帰って、それぞれのベストな部分をサンプリングして、分類していく。そういう感じで間違いなく進めてはいるよ。15年前に書いた曲で当時は上手くいかなかったものでも、より現代的なアプローチで演奏し始めたら、「わあ、これならハマるじゃん」ってなることもある。これはアーティストとして、本当にやりがいのあるプロセスになるね。時にはこのプロセスを呪うこともあるけど、最終結果が出た時には報われるし、それはスゴく大きい。もし明日死んだとしても、成し遂げたことと今いる場所を考えれば、幸せなまま死ねるよ。いつもハッとして、これは夢なのかって思わされるくらいだから(笑)。

ーでも、生きている間に新しいアルバムを出してほしいです(笑)。

アダム いやいや、Rolling Stone Japanにはこう書いてほしいな。「彼はとても満足し、とても幸運を感じていた。この旅が彼をどこに連れて行くのだろう」って。

ートゥールはアルバムを出すたびに進化していますが、クリエイティビティに関してはどのように維持しているのですか?

アダム さっきも話したように、メンバー同士お互いのプロセスを尊重するというのが大前提だ。そこからは、どうやって音楽にアプローチするのか、どれくらいの速さでアプローチするのかになる。でも大切なのは最終結果なんだよ。面白いのは、僕たち3人がジャムセッションを始めると、バンドを始めた頃のように、エゴを真剣に押し殺そうとする感じが出てくる。バンドを始めた頃の僕たちは成功しようなんて思わなかったし、有名になろうともしなかった。全員仕事を持ってたし、僕はメイクアップ効果の仕事で本当に良いキャリアを歩んでた。音楽はどちらかと言えば趣味だったんだ。だから、その時の感覚がもう一度よみがえるんだよ。他人がどう思うかは気にしない、ほとんど自分勝手で自分のペース、自分のスタイルでやる。そこに僕たちは没頭してきたんだ。例えば、レーナード・スキナードにしても、彼らは1日8時間も練習してたんだよね。彼らは自分たちのやることをさらにタイトにするために没頭して、それが形になってるんだ。僕たちがやってることも、ガラスを噛むくらい大変なことだけど、スゴく報われるんだよね。

ー今年7月5日にバーミンガムで行われたオジー・オズボーンの最後のコンサート、Back to the Beginningに出演しましたが、オジー以上にギタリストのトニー・アイオミが好きですよね。トニー・アイオミ、ブラック・サバスへの愛についても聞かせてください。

アダム ブラック・サバスはホラー映画からバンド名を考えたくらいだからね(笑)。あれは良い映画だ。トニーに関しては最高だと思う。子どもの時、スケートボードをして、あの音楽を聴いて、ポットを吸って、友達と一緒に演奏をしてたんだ。彼の曲はスゴく知的で才能に溢れてるけど、同時に再現可能だった。初めてヴァン・ヘイレンを聴いた時、ギターで「よし、やってみよう」とは思わなかったよ。「こいつは魔法使いだ、俺には手が届かない」って思ったくらいだ。でもトニーの場合は、正しいチューニングがわからなくても、何とか理解して演奏できたんだ。トニーはダウンチューニングで、DとかC#とかにギター全体の音を下げてる。A=440Hz(基準ピッチ)でやってると、「何だこれは?」ってなるんだけど、理解しようとすればだんだんわかってくるんだ。Back to the Beginningでは、トム・モレロ、ルディ・サーゾ、ビリー・コーガンたちと「Snowblind」を演奏したんだけど、他の連中はギターのチューニングをめちゃくちゃ下げるんだ。だから僕はD、C#に下げてやってみた。そうするとちょっと違う音になったし、実際に少し演奏しやすくなって、ある種うねるような感じが出てきて面白かった。要はアプローチの仕方なんだよ。ギタリストを目指してる読者に向けて言うなら、テクニックはある程度必要だけど、同時にルールに縛られるなって言いたい。ルールなんて存在しないんだ。ルールは自分で作るものだから。もしチューニングを上げて演奏したかったら、そうすればいい。オープンコードにしてスライドギターで演奏したかったら、そうすればいい。つまり自由っていうのは、自分の快適さのレベルにあって、自分が望む結果を得られてると感じるレベルがどこにあるかの問題なんだ。

ーこれまで何度も来日していますが、一番思い出深いライブとか、日本の印象はありますか?

アダム ただそこにいて、買い物に没頭して、食事をして、ただただ文化を感じていたね。駅で相撲の力士を見かけた時はスゴく興奮したよ。何かのフェスの時、友人の運転で車に乗ってたんだけど、彼はスゴく疲れてて。「運転、代わってくれる?」って言われて、生まれて初めて左側通行の道路で運転をしたんだ。スゴく不安だったから今でも覚えてるね。今回の日本ツアーは本当に上手くいくことを願ってるし、次もまた戻って来られたらと思ってる。日本ではこれまでに素晴らしい食に何度も夢中にさせられたね。僕は食通だと思うんだけど、今までで最高のインド料理は東京だったから、信じられなかったよ。さっきも言ったように、日本人はいつだって一歩先を行ってると思うんだ。何がクールなのかわかってるし、アメリカで手に入らないものもたくさんある。僕はソフビ・フィギュアが大好きだから、ゴジラの店にも行きたい。それからコレクターズアイテムのレコードとかギターのエフェクターとか、僕がハマってるすべてのガラクタを手に入れたい。久しぶりの日本だからとても楽しみにしてるよ。

トゥールの「視覚」の正体 アダムが紡ぐビジュアル宇宙

Photo by Travis Shinn

TOOL
TOUR IN JAPAN 2025
 
神奈川:12月11日(木)Kアリーナ横浜
OPEN 17:30 / START 19:00
TICKETS
PLATINUM指定席¥35,000 GOLD指定席¥28,000 GOLDバルコニー指定席¥28,000 SS指定席¥20,000 S指定席¥15,000(各税込/全席指定)
クリエイティブマン:03-3499-6669
 
兵庫:12月13日(土)GLION ARENA KOBE
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKETS
GOLDアリーナ指定席¥28,000 GOLDスタンド指定席¥28,000 GOLDスタンド指定席(着席指定)¥28,000 SS指定席¥20,000 SS席指定席(着席指定)¥20,000 S指定席¥15,000 (各税込/全席指定)
キョードーインフォメーション:0570-200-888
 
企画・制作:クリエイティブマンプロダクション 
協力:SONY MUSIC JAPAN INTERNATIONAL
 
※公演の延期、中止以外での払い戻しはいたしません。※未就学児(6歳未満)のご入場はお断りいたします。
 
公演HP:https://www.creativeman.co.jp/artist/2025/12tool/
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