暗転した会場、ステージにもライトが当たらず、その暗がりのなかで、アコースティックのウクレレが静かに奏でられていく。聞こえてきたのは慈しみに満ちたシューベルトの「アヴェ・マリア」。コンサート直前にリリースされたアルバム『ティズ・ザ・シーズン』からの曲だ。演奏の途中で彼の後方からライトが当たると、聖なる雰囲気に包まれる。10月17日にRoppongi EX Theaterで行われたジェイク・シマブクロの公演は、予想外ではあったけれど、とても印象的なオープニングからスタートした。
その余韻のなか、「オーバー・ザ・レインボー」と「GOLDEN」がソロで演奏される。後者は、大人気アニメ映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』からの全米NO.1ヒット曲だ。なぜこの選曲?と疑問に思ったけれど、そう言えば、インタビューで「配信のプレイリストを聴くことで、最新ヒットの情報を仕入れている」と話していたのを思い出した。この曲もきっとそのひとつだろう。
ジェイクが日本のレーベルと契約してから約25年、その間にさまざまな交流が行われてきたけれど、今回初めてのサプライズが用意されていた。ジェイクに紹介されて登場したのは、制服を着た玉川学園のウクレレチームの生徒6名。
ここからパフォーマンスは、一気に熱を帯びていく。「143 Kellys Song」につづいて、ジェイクのハワイアンというジャンルに収まりきれないウクレレの魅力が広く知られるきっかけとなった「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を弾くが、アレンジが大きく進化している。オリジナル・アルバムとも、これまでのライヴ・レコーディングとも異なり、ルーパーで演奏がどんどん重ねられていく。そのパフォーマンスは、目の前で繰り広げられているにも関わらず、異次元すぎて、自分の目を疑いたくなってきた。
まさにゾーンに入ったような気迫のパフォーマンス。7曲目の「Cause Weve Ended As Lovers」は、ジェイクが一番好きなギタリストだというジェフ・ベックのカヴァーだ。もともとはスティーヴィー・ワンダーがオリジナルだけれど、この曲をジェイクは、ミック・フリートウッドとのコラボが実現したアルバム『Blues Experience』でレコーディング。
ハワイ生まれ京都育ちのジャクソンは、日本語が話せるのだけれど、その言葉にはリスペクトの気持ちが込められていた。同時にジェイクの演奏が彼の刺激になっていることも伝わってきた。思い返せば、2022年同会場でのコンサートで、彼はプロのベーシストとしてジェイクとステージに立っている感動を初々しく語っていた。それから3年、ジャクソンのベースも大きく進化している。
つづく「Kula Blues」も『Blues Experience』からの曲で、ジェイクが初めて書いたブルースナンバー。ボディを打楽器のように叩いた音がループで響き、エレキギターのごとくウクレレを弾くジェイクの顔は、まるでブルースマン。熟年のギタリストがギターと一体化したような演奏の時に見せるあの表情だ。会場から手拍子が自然に湧きおこる。
ジェイクは日系5世のハワイアン。9曲目の「一期一会」は、大好きな日本語をタイトルにしたオリジナル楽曲だけれど、他に好きな言葉は、「おかげさまで」と「負けて勝つ」で、ともにおばあちゃんに教わったと話す。
次なるフェイズに突入
次の曲から終盤に向けて圧巻の演奏がまだまだ続く。グレイトフル・デッドの「Friend Of The Devil」の速弾きと、流麗に左手を左右に動かすグリッサンド奏法。しかも絶好調のハイテンションで、左右にステップを踏みながら踊るように演奏している。さらに「Orange World」では速弾きの上をいく速さで、右手も左手も線でつながっているように見えるほど。その熱量に観客もどんどんヒートアップしていくし、ジェイクは、演奏後笑顔でステージに倒れこむ。こんな姿って見たことがない。
そして、「ドラゴン」を挟んで、ジェイクのコンサートに欠かせなくなっているクイーンの「Bohemian Rhapsody」と、メドレーで弾く「We Will Rock You」が続く。観客の期待感は半端ないし、それに応えるルーパーを駆使した演奏は、会場を大いに興奮させて、全米ツアーのような大合唱にはならなかったけれど、客席から歌が聴こえてくる。
最後は、「The Legend of Joseph Kekuku」という新曲だが、タイトルになったジョセフ・ケククは、ハワイアン・ラップ・スティール・ギターを生み出した伝説の人。そんなプレイヤーに捧げる演奏は、スライドバーを用いてのスライド奏法。
8月のインタビューで、「今は演奏テクニックよりも音色の探求にこだわっている」と語っていたけれど、それにより以前にも増して真摯に曲に対峙していることが伝わってきた。より理想とする音を求めて、アレンジを進化させた曲は、ルーパーと共にまるで冒険の旅をするかのように弾きまくり、最後に本来のアコースティックの演奏で戻ってくるという感じだった。だから、観客も異次元に連れていかれても、置き去りにされることなく、「そうだ、ウクレレだった」という感覚を取り戻すことができる。抽象的な表現になってしまうけれど、その繰り返しだったと思う。
しかもギタリストのように曲に合わせてギターを何本も持ち替えることなく、たった1本のウクレレで成し遂げているのだ。今回のコンサートで、ジェイク・シマブクロというアーティストが完全に次なるフェイズに突入していることを実感させられた。
2025年のジャパン・ツアーは、10月28日までの韓国、中国ツアーを挟んで、30日から再開されて、11月2日の福岡公演まで続く予定だ。
2025年10月 服部のり子
ジェイク・シマブクロ セットリストプレイリスト
https://sonymusicjapan.lnk.to/JakeJPTour2024RS
『ティズ・ザ・シーズン』
発売中
再生・購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/JakeShimabukuro_TisTheSeasonRS
〈収録曲〉
1. 恋人たちのクリスマス with ジャスティン・カヴィカ・ヤング
2. さやかに星はきらめき with ジャスティン・カヴィカ・ヤング
3. われらはきたりぬ
4. アット・クリスマス・タイム with ピュア・ハート
5. ハッピー・クリスマス(戦争は終った) with ヨーヨー・マ
6. メレ・カリキマカ withジミー・バフェット
7. 御使いうたいて
8. ディス・クリスマス with ジャスティン・カヴィカ・ヤング
9. ホワイト・クリスマス
10.赤鼻のトナカイ
11.ジングル・ベル(withキミエ・マイナー、ポーラ・フーガ、アナ・ヴィー)
12.ウィンター・ワンダーランド(withマイケル・マクドナルド)
13.アヴェ・マリア
JAKE SHIMABUKURO ASIA TOUR 2025
2025年10月30日(木)名古屋・DIAMOND HALL
2025年10月31日(金)大阪・なんばHatch
2025年11月1日(土)広島・BLUE LIVE HIROSHIMA
2025年11月2日(日)福岡・トヨタホール スカラエスパシオ
公演詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4462


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